自動車工場が戦闘ドローンを量産する――。そんなSF映画のような光景が、いま欧州で現実のものとなろうとしている。米メディアInteresting Engineeringが1月21日に報じたところによると、フランスの自動車メーカーRenaultが防衛産業への本格参入を発表し、月産600機という驚異的なペースで軍用ドローンの製造を開始する。
フランスの自動車メーカーRenaultは、防衛請負業者Turgis Gaillardと提携し、長距離攻撃ドローンの製造を開始すると発表した。このドローンはイランのShahedドローンに類似した設計となる。プロジェクトはフランス国防装備庁との契約に基づき実施され、契約額は10年間で最大10億ユーロ(12億米ドル)に達する可能性がある。
ドローンの翼幅は10メートルとなる予定だ。Renaultの最高成長責任者ファブリス・カンボリブ氏は、数ヶ月前にフランス軍省から接触を受けたと述べた。RenaultとTurgis Gaillardは製造開始1年目の終わりまでに月産600機の生産率を目指している。マクロン大統領は世界的な緊張の高まりを理由に防衛産業の「戦時経済」への移行を呼びかけている。
From:
Renault to build long‑range surveillance and strike drones for France
【編集部解説】
このニュースは、欧州の防衛産業が大きな転換点を迎えていることを示しています。自動車メーカーが軍用ドローンの生産に乗り出すという事実は、単なる事業多角化ではなく、マクロン大統領が繰り返し強調する「戦時経済」への移行が現実のものとなりつつあることを物語っています。
特に注目すべきは、Renaultが持つ大量生産のノウハウです。従来の防衛産業は少量生産・高付加価値モデルでしたが、ウクライナ戦争が示したのは「数の重要性」でした。月産600機という目標は、防衛装備品としては異例の生産規模であり、消耗品としてのドローンの性質を反映しています。
マクロン大統領は2026年1月15日の演説で、フランスの防衛産業に対して厳しい警告を発しました。「もし我々が戦争状態にあったら、今のような生産はしていないはずだ」という発言は、従来の防衛産業の生産ペースでは地政学的な緊張に対応できないという危機感の表れです。
この動きは欧州全体に広がっています。ドイツのRheinmetallも2025年に自動車部品工場を軍事生産に転用しており、自動車部品サプライヤーのValeoも約100社による「防衛ドローン協定」に参加しています。民生産業の持つ効率的な生産システムと品質管理が、防衛分野で求められているのです。
Renaultのパートナー企業Turgis Gaillardは2011年設立の比較的新しい企業で、従業員約400名、年間売上約8000万ユーロという中規模の防衛企業です。大手自動車メーカーと中小防衛企業の組み合わせは、技術力と生産力の効果的な融合を狙ったものと言えます。
一方で、このプロジェクトには複雑な側面もあります。開発されるドローンがイランのShahedに類似しているという指摘は、皮肉にも敵対勢力の設計を参考にせざるを得ない現実を示唆しています。また、一部報道ではこれらのドローンがウクライナ向けである可能性も示唆されていますが、公式には確認されていません。
フランスの防衛予算は2026年に571億ユーロ(2025年の505億ユーロから増加)、2027年には634億ユーロに達する予定です。マクロン大統領は2030年までにさらに360億ユーロの追加予算を約束しており、この資金が防衛産業の体質転換を後押しすることになります。
【用語解説】
徘徊型弾薬(loitering munition)
目標上空を旋回しながら待機し、標的が確認された時点で突入する無人兵器。カミカゼドローンや自爆ドローンとも呼ばれる。従来のミサイルと異なり、発射後も攻撃目標の変更や任務の中止が可能である。ウクライナ戦争で広く使用され、安価に大量生産できることから現代戦における重要な戦術兵器となっている。
Shahedドローン
イランが開発した低コストの徘徊型弾薬。航続距離は150kmから2,200kmまで多様なモデルが存在し、30kgから50kgの弾頭を搭載する。GPS誘導システムを使用し、操作が比較的簡単であることから、ロシアがウクライナでの攻撃に広範に使用している。米国もリバースエンジニアリングを実施している。
戦時経済(war economy)
平時の経済活動から、軍事生産を優先する経済体制への転換。マクロン大統領が繰り返し使用している概念で、防衛産業に対してより迅速かつ効率的な生産体制を求めている。フランスでは2026年の防衛予算が571億ユーロ(前年比505億ユーロから増額)、2027年には634億ユーロに達する予定である。
フランス国防装備庁(Direction Générale de l’Armament)
フランス国防省傘下の装備調達機関。略称はDGA。フランス軍の装備品の開発、調達、維持管理を担当する。今回のRenaultとの契約も同機関が締結している。
【参考リンク】
Renault Group(外部)
フランスの多国籍自動車メーカー。今回、防衛請負業者Turgis Gaillardと提携し、軍用ドローンの生産に参入する。
Turgis Gaillard(外部)
フランスの防衛・航空宇宙製造企業。フランス軍とその同盟国向けに軍事システムの設計と生産を行う。
Valeo(外部)
フランスの自動車部品サプライヤー。約100社で構成される「防衛ドローン協定」に参加している。
【参考記事】
French carmaker Renault to produce long-range drones for French forces(外部)
月産600機という防衛装備品としては異例の生産規模と、10年間で10億ユーロに達する契約について報じている。
Macron issues stern warning to French defense industry(外部)
マクロン大統領の演説内容と、フランスの防衛予算が2026年に571億ユーロ、2027年に634億ユーロに達することを報じている。
Renault partners with Turgis Gaillard on military drones(外部)
欧州各国政府が自動車産業に軍事技術の大量生産支援を求めている状況と、月産600機の生産目標を報じている。
French companies Renault and Turgis Gaillard partner to produce military drones(外部)
Turgis Gaillardが2011年設立で従業員約400名、年間売上約8000万ユーロの中規模防衛企業であることを紹介している。
Renault to start long-range military drone production at two plants(外部)
ドイツのRheinmetallの事例を紹介し、欧州全体で自動車産業の防衛転換が進んでいる状況を報じている。
【編集部後記】
自動車工場でドローンが作られる時代が来るとは、数年前には想像もしていませんでした。民生技術と軍事技術の境界がこれほど曖昧になっていく世界で、私たちは何を考えるべきなのでしょうか。大量生産の効率性が平和を守るための抑止力となるのか、それとも新たな軍拡競争を加速させるのか。
みなさんは、日常で使う製品を作る企業が防衛産業に参入することについて、どう感じますか?テクノロジーが人類の進化に貢献するという私たちのテーマを考えるとき、この「進化」の方向性について一緒に考えていきたいと思います。



































