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レアアース資源大国グリーンランド、10年超のプロジェクトが遅延し続ける理由

[更新]2026年1月27日

レアアース資源大国グリーンランド、10年超のプロジェクトが遅延し続ける理由

Wood Mackenzieが2026年1月22日に発表した分析によると、グリーンランドは世界第8位のレアアース埋蔵量を持つが、稼働中の鉱山は存在しない。

European Commissionは同地域が34種類の鉱物のうち27種類を生産する潜在力があると推定している。Energy Transition MetalsのKvanefjeldプロジェクトは2007年に開始されたが、ウラン含有量が300ppmを超え、2021年12月に設定された100ppm制限を上回るため2022年初頭から停滞している。

Critical MetalsのTanbreezプロジェクトはUS Export-Import Bankから1億2,000万米ドルのLetter of Interestを受け取り、2026年半ばにパイロット施設を計画している。中国のShenghe Resources Holding CoはEnergy Transition Metalsの6.5%を保有する。

Wood Mackenzieのシニア・リサーチ・アナリスト、デビッド・ライリーは、インフラ欠如、低い労働力プール、高い資本要件が開発への主な障壁であると指摘している。

From: 文献リンクWood Mackenzie finds Greenland’s rare earth sector faces multi-year development delays despite eighth-place global reserve ranking

【編集部解説】

このニュースが今、特別な意味を持つのは、トランプ大統領が2025年1月の就任前後から繰り返しグリーンランドの取得を主張し、2026年1月にはデンマークへの関税脅迫まで行っているという地政学的文脈があるためです。レアアース資源の確保が国家安全保障の問題として認識される中、世界第8位の埋蔵量150万トンを持つグリーンランドは、中国依存からの脱却を目指す西側諸国にとって極めて重要な存在となっています。

しかし、数字が示す潜在力と現実には大きなギャップがあります。Kvanefjeldプロジェクトは世界第3位の陸上レアアース鉱床で1,100万トン以上の埋蔵量を持ち、Tanbreezプロジェクトは2,820万トンと世界最大規模の可能性を秘めていますが、どちらも商業生産には至っていません。

最大の障壁は環境保護と経済開発のジレンマです。Kvanefjeldプロジェクトのウラン濃度は約300ppmで、2021年に設定された100ppm制限を大きく上回ります。開発企業Energy Transition Mineralsは、グリーンランドのGDPの約4倍に相当する115億ドルの補償を求めて仲裁中です。この訴訟は、資源開発における先住民の自己決定権と国際投資保護のバランスという、より大きな問いを投げかけています。

インフラ面の課題も深刻です。グリーンランドの人口は小規模で、確立された鉱業部門が存在しないため、企業は輸送・エネルギーインフラを独自に構築する必要があります。南西部のNuuk以外に近代的な港湾施設はなく、極地気候による操業制限も大きな制約となります。

今後の展望として、2025年に民間部門の資源利用を支持するDemocratsが最大政党となりましたが、産業大臣はInuit Ataqatigiitに所属しており、政策転換は不透明です。グリーンランドの鉱物資源大臣は2025年、米国とEUの躊躇が続けば中国投資家の検討を余儀なくされると警告しており、この資源をめぐる地政学的綱引きは今後も続くでしょう。

【用語解説】

レアアース(希土類)
17種類の元素の総称で、スマートフォン、電気自動車のモーター、風力発電機などハイテク製品に不可欠な材料である。中国が世界生産量の約60%を占め、供給網の多様化が国際的な課題となっている。

REO(Rare Earth Oxide:レアアース酸化物)
レアアース元素を酸化物の形で表した単位。鉱床の品位や生産量を示す際に使用される標準的な指標である。TREOは全レアアース酸化物(Total Rare Earth Oxide)を意味する。

Letter of Interest
金融機関が潜在的な融資や投資に対して示す関心表明書。正式な融資契約ではないが、プロジェクトの実現可能性を評価する初期段階での重要な指標となる。

Critical Raw Materials Act
EUが2023年に制定した法律で、戦略的に重要な34種類の鉱物資源の確保と供給網の多様化を目指す。加盟国内での採掘促進と中国依存からの脱却が主な目的である。

Inuit Ataqatigiit
グリーンランドの政党で、環境保護と先住民族の権利を重視する立場を取る。2021年の選挙でKvanefjeldプロジェクトへの反対を掲げて最多議席を獲得し、ウラン採掘禁止法の成立につながった。

【参考リンク】

Wood Mackenzie(外部)
エネルギー・金属・鉱物市場の調査分析を専門とする英国企業。グリーンランドのレアアース部門に関する詳細な分析レポートを発表。

US Export-Import Bank(外部)
米国政府の公式輸出信用機関。Tanbreezプロジェクトに1億2,000万ドルの関心表明を行った。

CSIS (Center for Strategic and International Studies)(外部)
米国の超党派シンクタンク。グリーンランドのレアアース資源と北極圏の安全保障に関する分析を提供。

【参考記事】

Greenland, Rare Earths, and Arctic Security(外部)
2026年1月7日公開。グリーンランドの150万トンのレアアース埋蔵量、Kvanefjeldの1,100万トン以上、Tanbreezの2,800万トンなど具体的数値を提示。Energy Transition Mineralsが115億ドルの補償を求めている仲裁の詳細を解説。

Trump’s push for Greenland mineral rights could block China’s rare earth dominance(外部)
2026年1月23日公開。トランプ大統領のグリーンランド取得発言と中国のレアアース市場支配への対抗という地政学的背景を分析。

Greenland: What natural resources does the island have?(外部)
2026年1月23日公開。BBCによるグリーンランドの天然資源の包括的解説。レアアース、石油、天然ガス、金、ダイヤモンド、ウランなど多様な鉱物資源の存在と開発状況を報じる。

Greenland’s critical minerals require patient statecraft(外部)
2026年1月13日公開。Atlantic Councilの分析で、グリーンランドの重要鉱物開発には長期的で慎重な外交戦略が必要と指摘。環境保護と経済開発のバランス、先住民の自己決定権尊重の重要性を強調。

【編集部後記】

私たちが日常使うスマートフォンや電気自動車に欠かせないレアアース。その確保をめぐる国際競争の最前線が、グリーンランドという氷に覆われた島で静かに繰り広げられています。豊富な資源がありながら一つも鉱山が稼働していない現実は、技術の進歩と環境保護、そして先住民の自己決定権という難しい問いを私たちに投げかけています。

便利な未来のために、私たちはどこまで地球に負荷をかけるべきなのでしょうか。一緒に考えていきたいテーマです。

投稿者アバター
TaTsu
『デジタルの窓口』代表。名前の通り、テクノロジーに関するあらゆる相談の”最初の窓口”になることが私の役割です。未来技術がもたらす「期待」と、情報セキュリティという「不安」の両方に寄り添い、誰もが安心して新しい一歩を踏み出せるような道しるべを発信します。 ブロックチェーンやスペーステクノロジーといったワクワクする未来の話から、サイバー攻撃から身を守る実践的な知識まで、幅広くカバー。ハイブリッド異業種交流会『クロストーク』のファウンダーとしての顔も持つ。未来を語り合う場を創っていきたいです。

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