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ペロブスカイト太陽電池、ITOフリーへ—東京ガス×パワーロールが日本で共同実証開始

[更新]2026年3月27日

東京ガス株式会社とパワーロール・リミテッドは2026年3月25日、共同開発契約を締結し、低コストな次世代ペロブスカイト太陽電池の日本国内における共同実証を開始した。

英国企業であるパワーロールが開発した同太陽電池は、一般的なペロブスカイト太陽電池で材料費の40~60%を占めるTCO(透明伝導性酸化物)基板の材料となるITO(インジウムスズ酸化物)を不要とする独自構造を採用する。東京ガスはこれまでの施工技術および分散型電源の導入・運用ノウハウを組み合わせ、約1年間にわたり発電性能や耐久性をモニタリング・評価する。

あわせて、認証制度への対応や日本国内における製造・供給体制(サプライチェーン)の共同構築の可能性についても検討する。

From: 文献リンク東京ガス・パワーロールが低コスト次世代ペロブスカイト太陽電池の共同実証を開始 | ニュース | 東京ガス

【編集部解説】

「ペロブスカイト太陽電池」という言葉は、ここ数年でエネルギー業界のキーワードとして定着しつつあります。シリコン系パネルに比べて薄く、軽く、曲げられる。そして製造コストが大幅に下がる可能性がある。それがこの技術の核心です。ただし、今回の発表が単なる「次世代電池の実証開始」にとどまらない理由が、パワーロールの技術構造にあります。

ペロブスカイト太陽電池の普及拡大への大きな障壁のひとつが、透明電極材料として使われるITO(インジウムスズ酸化物)です。インジウムは産出国が中国に偏在する希少金属であり、枯渇リスクと地政学リスクを同時に抱えています。半導体や液晶パネルにも使われるため、需要が競合しやすいという構造的な問題もあります。業界全体が代替材料(FTOなど)の探索を続けてきた中で、パワーロールが選んだ解は「代替する」ではなく「構造ごと変える」という発想の転換でした。

同社が採用するのは、幅約1〜2マイクロメートルの微細な溝(マイクログルーブ)をPETフィルムに刻み込み、その溝の壁面に電極を形成するバックコンタクト構造です。この設計によりITOが構造上まったく不要となり、ロール・ツー・ロール(巻き取り式)製造との親和性も高いため、低コストかつ連続的な大量生産への道が開かれます。シェフィールド大学との共同研究では、スロットダイコーティングを用いたインジウムフリーのペロブスカイト太陽電池モジュールで最大12.8%の電力変換効率が達成されています。この数値は現在の高性能シリコンパネル(22〜25%程度)には及びませんが、技術として「実験室の成果」から「パイロット製造」の段階に移行しつつあることを示しています。

東京ガスがこの実証に加わる意義も見逃せません。同社が「ヒナタオソーラー」で培ってきたのは、耐荷重の小さい屋根への薄型パネル接着工法と、分散型電源の運用ノウハウです。つまり今回の連携は、英国の材料・製造技術と日本の施工・エネルギー運用技術の組み合わせであり、「実験室の技術を、実際の建物に貼り付けて動かすまでの全体像」を一気に検証しようとする試みです。

日本のエネルギー政策との接点も重要です。第7次エネルギー基本計画では、2040年の電源構成において太陽光発電の比率を23〜29%に引き上げる目標が掲げられています。しかし従来型の重いシリコンパネルでは、耐荷重の低い工場屋根や曲面、建物外壁といった設置困難な場所への展開には限界があります。フィルム型のペロブスカイト太陽電池は、まさにその「空白地帯」を埋める技術として位置づけられています。

一方で、直視すべき課題もあります。ペロブスカイト系材料は水分・酸素・熱・紫外線に対して脆弱であることが知られており、屋外での長期耐久性は現在も業界全体の未解決テーマです。また、鉛を含む材料が一般的であるため、廃棄・リサイクル時の環境規制への対応は今後の認証プロセスで避けて通れません。今回の実証が「約1年間にわたる発電性能や耐久性のモニタリング」を明示しているのは、まさにこの点の検証を主眼としているためです。

パワーロール自身は英国初のギガワット規模の製造工場建設を視野に入れており、技術ライセンスによる国際展開も戦略に組み込んでいます。今回の日本での実証は、そのライセンス戦略における重要な足がかりとなる可能性があります。太陽電池の「作る場所」と「使う場所」をつなぐ国内サプライチェーンの共同構築という項目が今回の合意に盛り込まれている点は、単なる技術検証を超えた産業政策的な意味合いを持ちます。

エネルギー安全保障の観点からも、インジウム依存から脱却した太陽電池が日本国内で製造できる体制は、資源リスクの低減という意味で長期的な価値を持ちます。「実証」という慎重な一歩ではありますが、その先に描かれているシナリオは、再生可能エネルギーの「設置できる場所」を根本から塗り替えるものかもしれません。

【用語解説】

ペロブスカイト太陽電池
ABX₃という特定の結晶構造(ペロブスカイト構造)を持つ有機-無機複合材料を光吸収層として使う太陽電池。薄膜化・軽量化・曲面対応が可能で、低温プロセスによる製造コストの低さが特長。一方、水分・熱・紫外線への脆弱性と、一般的に鉛を含む点が課題である。

ITO(インジウムスズ酸化物)
Indium Tin Oxideの略。透明で電気を通す薄膜として太陽電池や液晶ディスプレイなどに広く使われる材料。原料のインジウムは希少金属であり、産出が中国に大きく偏っているため、価格の高さと地政学的な供給リスクを同時に抱える。

TCO(透明伝導性酸化物)
Transparent Conductive Oxideの略。光を透過しながら電気を導く酸化物材料の総称で、太陽電池の電極層に用いられる。ITOはその代表格であり、コスト全体の40〜60%を占めることもある。

マイクログルーブ
パワーロールが特許を持つ独自技術。幅・深さとも約1〜2マイクロメートル(1ミリメートルの千分の1)の微細な溝をPETフィルムに刻み込み、その溝の壁面に電極を形成することで、ITOを使わずに光電変換を実現する。

ロール・ツー・ロール(R2R)製造
ロール状のフィルムを連続的に巻き出しながら成膜・加工し、別のロールに巻き取る製造方式。印刷業や食品包装業で確立された手法で、大量・高速・低コスト生産との親和性が高く、フィルム型ペロブスカイト太陽電池の量産化における有力な製造手段として注目されている。

バックコンタクト構造
太陽電池のプラスとマイナス両方の電極を素子の裏側(背面)にまとめて配置する構造。表面に電極を設けないため受光面積を最大化できるほか、パワーロールの場合は溝の壁面に電極を形成することでITO不要を実現している。

FTO(フッ素スズ酸化物)
Fluorine-doped Tin Oxideの略。ITOの代替として検討されているTCO材料のひとつ。インジウムを含まないためITOよりも原料リスクが低いとされるが、パワーロールのアプローチはFTOへの代替ではなく、透明電極そのものを不要とする設計である点で異なる。

分散型電源
大規模な中央発電所ではなく、需要地の近くに小規模分散して設置される電源の総称。太陽光発電や蓄電池などが代表例。送電ロスの低減や停電リスクの分散といったメリットがある。

電力変換効率(PCE)
Power Conversion Efficiencyの略。入射した光エネルギーのうち、どれだけを電気エネルギーに変換できるかを示す割合。太陽電池の性能を表す最も基本的な指標である。

第7次エネルギー基本計画
日本政府が策定するエネルギー政策の基本方針。2040年の電源構成において太陽光発電を23〜29%とする目標を掲げており、ペロブスカイト太陽電池はその達成を後押しする次世代技術として位置づけられている。

【参考リンク】

東京ガス株式会社 公式サイト(外部)
1885年創業の日本最大手の都市ガス会社。太陽光発電や分散型電源など、カーボンニュートラルに向けた新事業を積極展開している。

パワーロール(Power Roll Ltd)公式サイト(外部)
英国ダーラム州拠点の次世代太陽電池スタートアップ。マイクログルーブとペロブスカイトを組み合わせたフィルム型太陽電池を開発中。

ヒナタオソーラー(東京ガス 太陽光PPAサービス)(外部)
東京ガスが展開する法人向け自家消費型太陽光PPAサービス。初期費用ゼロで薄型軽量パネルを導入できる独自接着工法が特長。

【参考記事】

Power Roll developing 12.8%-efficient back-contact perovskite solar devices(外部)
インジウムフリーペロブスカイトモジュールで最大12.8%の変換効率を達成。スロットダイコーティングとR2R製造への道筋を報告。

Power Roll tests perovskite solar panels outdoors(外部)
パワーロールが600mm×400mmフレキシブルモジュールの屋外試験を開始。最終製品は1〜10㎡規模を想定と報告している。

Power Roll, Tokyo Gas collaborate on Japan trials of perovskite PV tech(外部)
PV Tech誌による今回の東京ガス提携報道。マイクログルーブでインジウム不要とし、コストの40〜60%削減効果を解説。

Power Roll announces Japanese perovskite PV project(外部)
化合物半導体専門誌の解説記事。東京ガスの施工ノウハウとパワーロール技術の組み合わせと国内サプライチェーンの意義を紹介。

University in new project to advance perovskite solar innovation(外部)
スウォンジー大学とパワーロールのAI-IMPACTプロジェクト発表。英国初ギガワット規模工場建設計画にも言及した記事。

【関連記事】

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【編集部後記】

あなたの身の回りにある「太陽光パネルを貼れない場所」を、一度思い浮かべてみてください。工場の屋根、マンションの外壁、曲面の庇——これまで太陽光発電とは無縁だった場所が、フィルム一枚で変わるかもしれません。

この技術が「当たり前」になった未来の街並みは、いったいどんな景色になるでしょう。

投稿者アバター
omote
デザイン、ライティング、Web制作を行っています。AI分野と、ワクワクするような進化を遂げるロボティクス分野について関心を持っています。AIについては私自身子を持つ親として、技術や芸術、または精神面におけるAIと人との共存について、読者の皆さんと共に学び、考えていけたらと思っています。

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