子どもの視力低下が過去最高を更新し続ける中、2025年4月、日本で初めて近視の進行を抑える目薬が承認・発売され、子どもの視力を守る新時代が始まった。
参天製薬が開発した子ども向けの近視進行抑制目薬「リジュセアミニ点眼液0.025%」が2024年12月に厚生労働省の承認を取得し、2025年4月に日本初の近視進行抑制薬として発売された。寝る前に1日1回点眼するだけで、2年間で約38%近視の進行を抑える効果が確認されている。5歳から15歳が対象で、防腐剤を含まない使い切りタイプのため長期使用でも安全性が高い。保険適用外で月額約4,000円となる。
近視を抑える方法としては、夜間に特殊なコンタクトレンズをつけて寝るオルソケラトロジーも普及している。日本眼科学会は2017年にガイドラインを改訂し、子どもへの処方も可能にした。複数の研究で通常の眼鏡と比べて30〜50%近視の進行を抑える効果が報告されており、特に7〜8歳の早い時期から始めると効果的とされる。ほかにも多焦点ソフトコンタクトレンズや赤色光を照射するレッドライト治療など、新しい選択肢が登場している。
文部科学省の2024年度調査では、視力1.0未満の子どもが小学校で37%、中学校で61%、高校で71%と過去最高を記録した。世界的に近視人口は増加しており、2050年には世界人口の半数が近視になると予測されている。強度近視は将来、網膜剝離や緑内障など深刻な目の病気のリスクを高めるため、子どものうちから進行を抑える治療が重要視されている。
From:
日本近視学会 世界近視サミットステートメント / 日本眼科学会 オルソケラトロジーガイドライン第2版 / Wiley: Orthokeratology and Low-Intensity Laser Therapy for Slowing the Progression of Myopia in Children / PMDA 医薬品医療機器総合機構
【編集部解説】
2024年12月27日、日本の近視治療に歴史的な転換点が訪れました。参天製薬が開発した「リジュセアミニ点眼液0.025%」が厚生労働省の承認を取得し、2025年4月21日に発売開始されたのです。これは日本で初めて近視の進行抑制を効能・効果として承認された医薬品となります。
近視は今や世界的な公衆衛生上の課題です。文部科学省の2024年度調査では、裸眼視力1.0未満の子どもの割合が小学校36.8%、中学校60.6%、高校71.1%と過去最高を更新しました。特に東アジアの都市部では深刻で、若年成人の80%以上が近視という驚異的な数字が報告されています。これは単なる視力の問題ではありません。強度近視は網膜剝離、緑内障、白内障といった深刻な眼疾患のリスクを大幅に高めるのです。
リジュセアミニの登場は、こうした状況への重要な対応策となります。この目薬は0.025%という低濃度のアトロピンを含んでおり、就寝前に1日1回点眼するだけという手軽さが特徴です。臨床試験では2年間で約38%の近視進行抑制効果が確認されました。
特筆すべきは防腐剤フリーの1回使い切りタイプである点です。近視進行予防は4歳から15歳までの長期使用が想定されるため、防腐剤による角膜への長期的影響を考慮した設計となっています。これは眼科製薬会社としての参天製薬の技術力を示すものといえるでしょう。
ただし、保険適用外で月額約4,000円という費用負担があります。当局との交渉の結果、薬価が設定されなかったため、自由診療での提供となりました。それでも、すでに一部の医療機関で個人輸入されていた海外製アトロピン製剤と比較すれば、国内承認品という安心感と品質の保証があります。
一方、オルソケラトロジーという選択肢も着実に進化しています。2017年のガイドライン第2版改訂により、未成年者への処方が慎重処方という形で可能になりました。就寝中に特殊なハードコンタクトレンズを装用することで角膜の形状を一時的に変化させ、日中は裸眼で過ごせるようにする方法です。
オルソケラトロジーの魅力は、レーシック手術のように角膜を削るわけではないため、レンズの装用を中止すれば元の状態に戻るという可逆性にあります。実際、複数の臨床研究がその近視進行抑制効果を実証しており、単焦点眼鏡と比較して30〜50%の抑制効果が報告されています。特に7〜8歳という早期に開始した場合により高い効果が得られることが分かってきました。
2021年に発表されたWileyの学術論文では、オルソケラトロジーと低強度レーザー療法という新しい治療法の比較研究が報告されています。6ヶ月間の観察で、通常の眼鏡を使用した小児の眼軸長が0.23mm伸びたのに対し、オルソケラトロジー群では0.06mm、レーザー療法群では逆に0.06mm短縮するという結果が得られました。
眼軸長の伸びは近視の進行を示す重要な指標です。眼球が前後に伸びることで焦点が網膜の手前で結ばれ、遠くのものがぼやけて見えるようになります。オルソケラトロジーがこの眼軸伸長を抑制するメカニズムとして、角膜中央部の平坦化と周辺部の膨隆によって生じる「周辺近視性デフォーカス」が関与していると考えられています。
さらに、多焦点ソフトコンタクトレンズという選択肢も注目を集めています。一般的には老眼用の遠近両用レンズとして知られていますが、子どもの近視進行抑制にも有効であることが複数報告されています。特にSEED 1Day Pure EDOFは、海外で近視進行抑制効果が認定されているMYLO®と全く同じ光学デザインを持ち、2年間で25〜32%の抑制効果が示されています。
多焦点ソフトコンタクトレンズの最大の利点は、オルソケラトロジーの適応範囲を超えた-4D以上の強度近視の子どもにも使用できる点です。また、ソフトレンズなので装用時の刺激が少なく、1日使い捨てタイプなので衛生管理も比較的容易です。
さらに新しい治療法として、レッドライト治療(RLRL療法)が登場しています。これは650nmの赤色光を1日2回、1回3分間照射する方法で、中国での研究では約90%という驚異的な近視進行抑制効果が報告されています。デバイス「Eyerising」を自宅で使用するため、通院の手間が少ないのも特徴です。ただし、まだ長期的な検討が必要な段階にあり、日本では東京医科歯科大学病院が臨床実験を行っています。
これらの治療法は併用も可能です。実際、低濃度アトロピン点眼とオルソケラトロジーの併用、あるいはアトロピン点眼と多焦点ソフトコンタクトレンズの併用によって、相乗効果が得られることが報告されています。ただし、レッドライト治療とアトロピン点眼の併用はできないため、治療法の選択には専門医との相談が必要です。
ただし、すべてがバラ色というわけではありません。日本眼科医会の2019年調査では、オルソケラトロジー処方施設の約7%が角膜感染症を経験していると報告されています。コンタクトレンズである以上、適切なケアを怠れば感染症のリスクが生じます。ガイドライン第2版では、界面活性剤による擦り洗いとポピドンヨード剤による消毒、レンズケースの定期的な交換など、感染症予防の重要性が強調されています。
オルソケラトロジーは眼科専門医による慎重な管理のもとで行われる必要があります。処方には日本眼科学会が指定する講習会の受講が義務付けられており、3ヶ月ごとのフォローアップが必須とされています。
近視治療の選択肢は確実に広がりつつあります。リジュセアミニという国内承認の点眼薬、オルソケラトロジー、多焦点ソフトコンタクトレンズ、そしてレッドライト治療。それぞれに特徴があり、子どもの年齢、近視の度数、ライフスタイル、経済的な事情などに応じて最適な方法を選択することができます。
2050年には世界人口の半数が近視になるという予測を前に、私たちは近視を単なる「メガネをかければいい」という問題ではなく、将来の視力喪失リスクを内包した疾患として捉え直す必要があります。幸いなことに、科学の進歩により、近視の進行を効果的に抑制するための選択肢が揃いつつあるのです。
両親が近視の場合、その子どもは5倍近視になりやすいという遺伝性が知られています。さらに、現代の子どもたちは就学前からYouTubeやゲームに親しむライフスタイルで、親世代よりも強い近視進行圧力がかかっています。だからこそ、早期からの介入が重要なのです。
近視治療は、子どもたちの未来の視力を守るための投資といえるでしょう。適切な時期に適切な治療を開始することで、将来の強度近視を予防し、視力喪失のリスクを大幅に低減できる可能性があるのです。
【用語解説】
オルソケラトロジー(オルソK)
特殊な形状のハードコンタクトレンズを就寝時に装用することで、角膜の形状を一時的に変化させ、日中の裸眼視力を向上させる屈折矯正法。レンズの装用を中止すれば元の状態に戻る可逆性が特徴。日本では2009年に厚生労働省の承認を受けた医療機器として認可されている。
眼軸長
眼球の前後方向の長さ。角膜の表面から網膜までの距離を指す。近視の人は眼軸長が正常より長く、眼球が前後に伸びることで焦点が網膜の手前で結ばれるため、遠くのものがぼやけて見える。眼軸長の伸びは近視進行の重要な指標となる。
周辺近視性デフォーカス
網膜の中心部では焦点が合っているが、周辺部では網膜の手前で焦点が合う状態。オルソケラトロジーや多焦点レンズによって意図的に作り出され、眼軸の伸長を抑制する効果があると考えられている。
アトロピン
瞳孔を広げる作用を持つ薬剤。高濃度(1%)では斜視や弱視の診断・治療に使用されてきたが、低濃度(0.01〜0.025%)では近視進行抑制効果があることが確認されている。
強度近視
等価球面屈折異常が-6.0D以下の近視。日本近視学会の分類による。網膜剝離、近視性黄斑変性、緑内障などの視力障害を伴う眼合併症の発症リスクが高くなる。
脈絡膜
眼球内部の血管が豊富な組織。網膜と強膜の間に位置し、網膜に栄養を供給する役割を持つ。近視進行に伴い薄くなる傾向があり、オルソケラトロジーでは逆に厚くなることが観察されている。
多焦点ソフトコンタクトレンズ
遠方・中間・近方の度数が複雑に組み合わされた光学デザインのソフトコンタクトレンズ。一般的には老眼矯正用として知られるが、子どもの近視進行抑制にも有効であることが報告されている。
EDOF(焦点深度拡張型)
Extended Depth of Focusの略。焦点深度を拡張することで、遠方から近方まで連続的に見えやすくする光学デザイン。近視進行抑制効果が確認されている。
【参考リンク】
参天製薬株式会社 公式サイト(外部)
リジュセアミニ点眼液を開発した眼科領域に特化した製薬会社。130年以上の歴史を持つ。
日本近視学会(外部)
近視および病的近視の発症機序や治療に関する学術研究を推進する学会。近視予防に関する情報を発信。
日本眼科学会(外部)
眼科医療の発展を目的とする学会。オルソケラトロジーガイドラインなどを策定している。
親子で学ぶ近視予防サイト(外部)
日本近視学会監修による近視予防サイト。子どもの近視に関する正しい知識を提供している。
独立行政法人 医薬品医療機器総合機構(PMDA)(外部)
医薬品・医療機器の承認審査や安全対策を行う機関。医療機器や医薬品の情報を検索できる。
【参考記事】
日本初の近視抑制目薬、参天製薬が発売へ 小児期が対象(外部)
参天製薬がシンガポールアイリサーチインスティテュートと共同開発したリジュセアミニ点眼液について詳しく解説。
近視の進行にブレーキをかける目薬が国内で承認!(外部)
リジュセアミニの特徴である防腐剤フリー設計の重要性や低濃度アトロピンの効果に関する研究データを詳述。
日本初の近視進行抑制点眼薬が登場、小児で有効性示す(外部)
リジュセアミニの臨床試験データと近視進行メカニズムに関する最新の知見を解説。
Orthokeratology and Low-Intensity Laser Therapy for Slowing the Progression of Myopia in Children(外部)
オルソケラトロジーと低強度レーザー療法の比較研究。6ヶ月間で眼軸長変化がオルソK群0.06mm、LLLT群-0.06mmという結果を報告。
オルソケラトロジーの近視進行抑制効果について(外部)
日本国内外の複数の研究をレビューし、オルソケラトロジーが単焦点眼鏡と比較して30〜50%の近視進行抑制効果を持つことを報告。
Control of myopia using orthokeratology lenses in Scandinavian children(外部)
デンマークで行われた18ヶ月間のランダム化臨床試験。オルソケラトロジーが眼軸長伸長を59%抑制したことを報告。
The synergistic efficacy and safety of combined low-concentration atropine and orthokeratology(外部)
低濃度アトロピンとオルソケラトロジーの併用療法に関するメタアナリシス。併用により眼軸成長が0.12mm抑制されることを示した。
【編集部後記】
お子さんが「黒板の字が見えない」と言い始めたとき、私たち親はどう向き合うべきでしょうか。かつては「メガネをかければ済む話」と考えられていましたが、今は違います。近視は進行性の疾患であり、将来の視力喪失リスクを内包しています。
幸いなことに、科学の進歩により選択肢は確実に増えています。2025年に承認されたリジュセアミニ、夜間装用のオルソケラトロジー、多焦点ソフトコンタクトレンズ、そして新しいレッドライト治療。それぞれに特徴があり、お子さんの年齢や生活スタイルに合わせて選べる時代になりました。
大切なのは、早期の介入です。特に両親が近視の場合、お子さんは5倍近視になりやすいという遺伝性があります。「様子を見よう」と先延ばしにするのではなく、眼科専門医に相談してみませんか。子どもたちの未来の視力を守るために、今できることがあるのです。



































