空飛ぶタクシーの開発は、機体が浮くだけでは終わりません。垂直飛行から翼の揚力を使う巡航飛行へ、どれだけ安全に切り替えられるかが大きな課題です。Eve 100の部分遷移飛行は、実用化までのどこまで進んだのでしょうか。
Eve Air Mobilityは2026年8月3日、電動垂直離着陸機「Eve 100」のエンジニアリング試作機が、初の部分遷移飛行を完了したと発表した。飛行中に後部の推進用プロペラを初めて作動させ、垂直飛行から翼の揚力を使う飛行へ移る初期段階を検証した。
試験ではプロペラを最大1,200rpmで作動させ、安定速度27ノット、最大対地速度30ノットを記録した。飛行時間は3分9秒、飛行距離は約0.84海里、最大高度は地上約90フィートだった。Eveは今後、速度域を段階的に拡大し、より複雑な遷移飛行の試験を進める方針である。
【編集部解説】
今回の試験で重要なのは、Eve Air MobilityのeVTOL「Eve 100」が長時間飛行したことではありません。垂直飛行中の機体で後部の推進用プロペラを作動させ、前進飛行へ移るための動作を初めて実機で確認したことです。
試験では、後部プロペラを最大1,200rpmで作動させ、安定速度27ノット、最大対地速度30ノットを記録しました。ただし、Eve自身が「部分遷移飛行」と表現している通り、機体が完全に翼の揚力を使って巡航する段階まで到達したわけではありません。今回確認されたのは、垂直飛行から前進飛行へ切り替える初期段階です。
eVTOLは、垂直に離陸するときと、高速で前進するときでは、機体に働く空気の流れや必要な推力が異なります。その切り替え時には、垂直方向の揚力を生むシステムと、前進させる推進システムを連動させなければなりません。今回の飛行は、Eve 100の後部プロペラを飛行中に作動させても機体を制御できることを、実機データで確認する最初の段階だったと整理できます。
Eveは2026年5月までに、ホバリングと低速飛行の試験区間を完了していました。この段階では59回の飛行を実施し、低速時の操縦特性、機体に加わる荷重、推進装置、バッテリー、制御システムなどを検証しています。飛行速度は約20ノットまで拡大され、自動着陸と簡易的なフライ・バイ・ワイヤ制御も試験されました。
今回の部分遷移飛行は、その低速試験から次の段階へ進んだことを意味します。Eveは今後、後部プロペラを使用した試験を重ねながら速度域を広げ、より複雑な遷移飛行を検証する計画です。また、無線通信性能を確認するデータリンク試験では、最大50ノットでの運用を想定しています。
つまり、今回の成果は完成機の性能を示す記録ではなく、試作機が次の試験区間へ進めるだけのデータを得たという位置付けです。航続距離や巡航速度、搭載人数といった商用機としての能力を、今回の約3分間の飛行だけで評価することはできません。
飛行試験が順調に進んでも、そのまま乗客を運べるわけではありません。Eve 100は、ブラジル国家民間航空庁のANACを中心に型式証明の手続きを進めています。Eveは2022年にANACへ型式証明を申請し、2023年には米連邦航空局との認証検証手続きを開始しました。2026年には欧州航空安全機関にも型式証明の検証を申請しています。
ANACはEve 100に適用する耐空性基準と騒音認証基準の整備を進めています。特に都市部で運航するeVTOLでは、機体の安全性だけでなく、離着陸や上空通過時の騒音をどのように測定し、どの水準まで許容するかが社会実装の条件になります。
日本でも国土交通省と経済産業省が「空の移動革命に向けたロードマップ」を2026年3月に改訂し、大阪・関西万博後の社会実装に向けて、機体、運航、離着陸場、空域などの制度整備を続けています。
一方、今回確認したEveの公式発表では、日本での認証申請、導入事業者、運航開始時期は示されていません。Eve 100が日本の都市交通や地域交通に加わるかを判断するには、機体開発だけでなく、日本での認証方針や運航事業者との具体的な計画を待つ必要があります。
今回の部分遷移飛行は、Eve 100がホバリング中心の試験から、翼の揚力を使った巡航飛行へ向かい始めたことを示しています。しかし、まだ「空飛ぶタクシーが完成した」段階ではありません。今後は完全な遷移飛行、高速域での安定性、認証用機体による試験、耐空性と騒音の認証をどこまで積み上げられるかが焦点になります。
【関連記事】
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Eveの実物大eVTOL試作機が、約1分間のホバリングによる初飛行を実施した段階を扱った記事。今回の記事は、その後の低速飛行試験を経て、推進用プロペラを使用した部分遷移飛行まで進んだ点が異なる。
空飛ぶクルマ実現へ前進|米FAA、Joby・Archer参加の早期試験プログラム開始
米国で正式な型式証明の前に、規制当局の監督下でeVTOLの試験運航を進める制度を扱った記事。Eveの機体開発に対し、こちらは米国の運航制度と規制面から商用化を扱っている。
JAL・住友商事・Soracle、東京都「空飛ぶクルマ」2030年市街地実装に挑む
東京都内でのeVTOL実装を目指し、実証飛行や運航環境の整備を進める日本のプロジェクトを扱った記事。Eve 100の導入計画ではないものの、日本で必要となる制度、飛行経路、運航体制を知るための参考事例。
【編集部後記】
今回のニュースを見て、大阪・関西万博で展示されていた空飛ぶクルマを思い出しました。当時は未来の乗り物という印象が強かったですが、飛行試験が進む様子を見ると、実用化が少しずつ近づいているように感じます。安全性や騒音、運航ルールなど、解決しなければならない課題はまだ多く残っています。
それでも、地上の渋滞を避けて空を移動できる体験には、大きな魅力があります。
実際にサービスとして利用できる段階まで進んだら、私も一度は乗ってみたいと思います。
【用語解説】
eVTOL(イーブイトール)
Electric Vertical Take-Off and Landingの略。電動モーターを利用し、滑走路を使わず垂直に離着陸できる航空機。
遷移飛行
機体がローターなどを使った垂直飛行から、前進速度と翼の揚力を利用する巡航飛行へ切り替わる過程。今回の試験は、その初期段階に当たる部分遷移飛行。
翼支持飛行(wing-borne flight)
主に機体の翼が生み出す揚力によって飛行する状態。ローターの力を中心に浮上するホバリングとは異なる飛行形態。
リフト・アンド・クルーズ方式
垂直離着陸用のローターと、前進飛行用のプロペラを分けて搭載する機体構成。Eve 100は、垂直飛行用のリフターと後部の推進用プロペラを使用する設計。
フライ・バイ・ワイヤ
操縦者や地上システムからの入力を電気信号としてコンピューターへ送り、飛行制御装置を通じて機体を動かす仕組み。
飛行領域(フライトエンベロープ)
航空機が安全に飛行できる速度、高度、機体姿勢などの範囲。飛行試験では低速域から段階的に検証範囲を広げる。
型式証明
航空機の設計が、規制当局の定める安全性や耐空性の基準を満たしていることを証明する認証。商用運航には、機体だけでなく運航や製造などに関する複数の承認が必要。
ANAC
Agência Nacional de Aviação Civilの略称。ブラジルの民間航空当局で、Eve 100の型式証明における主要な認証機関。
【参考リンク】
Eve Air Mobility(外部)
Eve 100の開発に加え、運航支援や低高度空域の交通管理システムなどを手掛けるEve Air Mobilityの公式サイト。
Embraer(外部)
Eve Air Mobilityを支援するブラジルの航空機メーカー。航空機事業や技術開発、企業情報を掲載する公式サイト。
ANAC:Certification and Products(外部)
ブラジル国家民間航空庁による航空機の型式証明、製造承認、安全関連情報の案内ページ。
国土交通省:空の移動革命に向けた官民協議会(外部)
日本における空飛ぶクルマの制度整備、運用構想、社会実装ロードマップなどを掲載する公式ページ。
【参考動画】
Eve Air Mobility Aims for Eve-100 eVTOL Entry into Service in 2027|AIN FutureFlight
2026年の航空展示会で公開されたEve 100の機体と、認証や商用運航に向けた開発状況を紹介する英語動画。
【参考記事】
Eve Completes Hover & Low-Speed Flights Block, Advancing eVTOL Toward Transition Flight Testing|Embraer(外部)
59回のホバリング・低速飛行を完了し、遷移飛行試験へ進むまでの検証内容をまとめた公式発表。
Eve Advances Global Certification Path for Eve 100|Eve Air Mobility(外部)
ANACによる耐空性基準の意見募集と、EASAへの型式証明検証申請について説明した公式発表。
ANAC Publishes Proposed Noise Certification Criteria for Eve 100|Eve Air Mobility(外部)
飛行段階ごとの騒音特性を評価するため、ANACが提案したEve 100向け騒音認証基準の概要。
空の移動革命に向けたロードマップを改訂しました|国土交通省(外部)
大阪・関西万博後の社会実装に向けて、空飛ぶクルマの制度整備やユースケースを整理した2026年版ロードマップ。



















