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カイト推進トリマラン「SP80」、時速108km達成で2025年夏の世界記録更新目指す

 - innovaTopia - (イノベトピア)

スイスEPFL発のSP80チームが開発したカイト推進トリマラン「SP80」が、2025年5月に58.261ノット(時速108キロメートル)の最高速度を記録し、世界で2番目に速いセイルボートとなった。現在の世界セーリング速度記録は2012年にポール・ラーセンがナミビア沖でVestas Sailrocket 2により樹立した65.45ノット(時速121キロメートル)である。なお、同艇は瞬間最高速度として68.01ノット(時速126キロメートル)も記録している。

SP80は全長10.5メートル、全幅7.5メートルの3胴船で、巨大なカイトによって推進される。2人のパイロット、ブノワ・ゴーディオとマイユール・ファン・デン・ブルークが操縦し、1人が操舵、もう1人がカイト制御を担当する。世界記録認定には500メートル区間での平均速度が必要で、SP80は2025年2月に41.358ノット(時速76.6キロメートル)の500メートル平均速度を記録した。チームは最終的に80ノット(時速150キロメートル)突破を目標とし、2025年夏までの世界記録更新を目指している。テスト航行は南フランスのルカート沖で実施されている。
From:
Meet the Kite-Powered Sailboat Aiming to Be World’s Fastest

【編集部解説】

SP80プロジェクトが示すのは、従来の限界を突破する革新的アプローチの重要性です。セーリング界では長らく「キャビテーション障壁」と呼ばれる物理的な壁が存在し、多くのセイルボートが55ノット前後で速度の頭打ちに直面してきました。これは航空機の音の壁に似た現象で、水中翼周辺に気泡が発生することで推進力が急激に低下する現象です。

SP80チームは、この問題をスーパーベンチレーティングフォイルという革新的な水中翼設計で解決しました。従来の涙滴型ではなく楔形の断面を持つこのフォイルは、意図的に通気現象を利用して安定した気泡層を作り出し、キャビテーション障壁を回避します。

カイト推進システムの採用も注目すべき点です。従来のセイルと異なり、カイトは3次元空間で風を捉えることができ、より効率的な推進力を生み出します。SP80では最大150平方メートルのカイトを使用し、理論上は150キロメートル毎時での航行が可能とされています。

技術的な側面では、AI技術の活用も見逃せません。スイスのNeural Concept社と協力し、フォイル形状の最適化にディープラーニングを活用しています。これにより、従来の経験則や風洞実験だけでは到達できない最適解を見つけ出しています。

現在の58.261ノットという記録は、世界記録の65.45ノットまであと7ノット程度の差まで迫っています。しかし、世界記録認定には500メートル区間での平均速度が必要で、SP80の現在の500メートル平均は41.358ノットと、まだ24ノットの差があります。

単なる記録更新ではなく、海洋工学、材料科学、AI技術の融合により、人類の移動手段の可能性を拡張する取り組みといえるでしょう。

【用語解説】

キャビテーション
水中で圧力低下により水が沸騰する物理現象。セイルボートでは約55ノット(時速100キロメートル)で発生し、フォイルに気泡が蓄積してボートの加速を阻害する。航空機の音の壁に似た現象とされる。

スーパーベンチレーティングフォイル
従来の涙滴型ではなく楔形の断面を持つ水中翼。キャビテーションを防ぐためにベンチレーション(通気)現象を利用し、フォイル周辺に安定した気泡を作り出すことで55ノット以上での航行を可能にする技術。

トリマラン
3つの船体を持つ多胴船。中央の主船体と両側の浮体(アウトリガー)で構成され、単胴船より安定性が高く、抗力が少ない特徴を持つ。

ノット
海上での速度単位。1ノット=1海里/時=約1.852キロメートル/時。航空・海事分野で標準的に使用される。

【参考リンク】

SP80公式サイト(外部)スイスEPFL発のSP80チームが運営する公式サイト。プロジェクトの詳細、技術解説、最新の記録更新情報を掲載

Neural Concept(外部)スイスの人工知能企業。SP80チームと協力してフォイル最適化にAI技術を活用している

【参考記事】

SP80 breaks the 50-knot barrier(外部)2025年3月の51ノット達成時の詳細レポート。パイロットのコメントと技術的分析を含む

SP80 breaks the mythical 50-knots barrier(外部)50ノット突破の意義と世界記録挑戦への道筋について詳述した専門記事

【編集部後記】

SP80の挑戦を見ていると、「速さの限界」について改めて考えさせられませんか。キャビテーション障壁という物理的な壁を、スーパーベンチレーティングフォイルという発想の転換で突破する姿勢は、私たちが日常で直面する「できない理由」にどう向き合うかのヒントになりそうです。皆さんの仕事や趣味で、「これ以上は無理」と思っていることはありますか。もしかすると、SP80のように全く違うアプローチで解決策が見つかるかもしれませんね。

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乗杉 海
新しいものが大好きなゲーマー系ライターです!

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