JALは2025年12月15日から、東京国際空港(羽田)および成田国際空港の2空港において、自動運転レベル4(特定条件下での完全無人運転)に対応したトーイングトラクターの実用化を開始する。羽田・成田の主要2空港で同時にレベル4の実用化を行うのは国内初の取り組みとなる。これまで運転者が常時監視し危険回避操作を行うレベル3相当での運用を重ねてきたが、運転者を必要としない完全無人運転へと移行する。
羽田空港ではAiRO製トーイングトラクターを使用し、東貨物地区と西貨物地区間で貨物コンテナを搬送する。成田空港ではTractEasy製トーイングトラクターを使用し、第2旅客ターミナル本館とサテライト間で受託手荷物を搬送する。JALは2018年から国土交通省航空局が主導する航空イノベーション推進の一環として先端技術の導入に取り組んできた。
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国内初、東京(羽田・成田)2空港同時に「自動運転レベル4」実用化を開始|プレスリリース|JAL企業サイト


【編集部解説】
今回のJALによる自動運転レベル4の実用化は、日本の空港オペレーションにおける大きな転換点となります。特に注目すべきは、羽田・成田という日本最大規模の2空港で「同時に」実用化されたという点です。
自動運転レベル4とは「特定条件下での完全無人運転」を意味します。これまでのレベル3では運転者が常時監視し、必要に応じて危険回避操作を行う必要がありましたが、レベル4では完全に人間の監視から解放されます。JALは2018年から国土交通省航空局の「航空イノベーション」推進の一環として、段階的に実証を重ねてきました。この約7年間の積み重ねが、今回の完全無人化実現につながっています。
空港制限区域という環境の特殊性も理解しておく必要があります。滑走路、誘導路、エプロンなどが含まれるこのエリアには、航空機、特殊車両、地上作業員が混在し、一般道路とは比較にならないほど複雑な交通状況が展開されています。こうした環境下での完全無人運転の実現は、技術的にも規制面でも高いハードルを越えたことを意味します。
興味深いのは、ANAも同日に豊田自動織機と共同で羽田空港でレベル4の実用化を開始している点です。つまり、JALとANAという日本の2大航空会社が歩調を揃えて次世代の空港オペレーションへ移行したということです。これは単なる競争ではなく、業界全体が直面する人手不足という構造的課題への対応であり、持続可能な航空輸送システム構築に向けた協調的な動きと捉えることができます。
グローバルな視点で見ると、空港での自動運転レベル4の実用化は決して日本だけの動きではありません。フランスのトゥールーズ・ブラニャック空港では2022年からTractEasy製の自動運転トーイングトラクターがレベル4で運用されており、シンガポールのチャンギ空港でも複数台が稼働しています。ただし、日本のケースが特筆すべきなのは、主要2空港での同時実用化という規模感と、国家主導の航空イノベーション政策の一環として推進されている点です。
環境面での意義も見逃せません。導入される車両はすべて電動化されており、CO2排出量の削減に直結します。JALが2030年に50台規模の展開を目指していることを考えると、その環境負荷低減効果は相当なものになるでしょう。
技術的な側面では、両空港で異なるメーカーの車両を採用している点が興味深いです。羽田ではAiRO製、成田ではTractEasy製と、それぞれの空港特性や運用ニーズに最適化された選択がなされています。これは技術の多様性を保ちながら、ベストソリューションを追求する姿勢の表れといえます。
将来的な展開として、JALはリモコン式航空機牽引機、自動機体洗浄機、ワンマン除雪車など、さまざまな自動化技術の組み合わせを視野に入れています。トーイングトラクターの無人化は、空港グランドハンドリング全体の自動化における第一歩に過ぎません。今後5年から10年の間に、空港という巨大な物流ハブがどのように変貌していくのか、その起点となる重要なマイルストーンが今回の発表なのです。
【用語解説】
自動運転レベル4
SAE(米国自動車技術会)が定義する自動運転の6段階分類のうち、レベル4に相当する段階。特定条件下(限定領域内)においてシステムがすべての運転タスクを実施し、人間の介入を必要としない完全自動運転を指す。レベル3では運転者の監視と緊急時の対応が必要だが、レベル4ではそれらが不要となる。
トーイングトラクター
空港の制限区域内で、手荷物や貨物を積載したコンテナ、台車(ドーリー)を牽引する専用車両。グランドハンドリング業務において頻繁に使用される重要な地上支援機材で、航空機と貨物上屋、手荷物荷捌場などを結ぶ物流の要となっている。
空港制限区域(ランプエリア)
空港内で滑走路、誘導路、エプロン(駐機場)、管制塔など、立ち入りが厳しく制限されたエリア。航空機や特殊車両、地上作業員が混在する複雑な交通環境であり、一般道路とは異なる高度な安全管理が求められる。
グランドハンドリング
航空機の地上支援業務全般を指す。手荷物・貨物の搭降載、航空機の誘導や牽引、機体の洗浄、給油、機内清掃など多岐にわたる作業が含まれる。労働集約型の業務であり、人手不足が深刻化している分野である。
航空イノベーション
国土交通省航空局が2018年から主導する、航空分野への先端技術導入を推進する政策。自動運転技術、AI、ロボティクスなどを活用し、空港業務の効率化、省人化、安全性向上を目指している。2025年をレベル4自動運転の実用化目標年としていた。
LiDAR(ライダー)
Light Detection and Rangingの略。レーザー光を照射し、反射光から対象物までの距離や形状を高精度で測定するセンサー技術。自動運転車両の周囲環境認識に不可欠な技術で、障害物検知や自己位置推定に使用される。
GNSS(全球測位衛星システム)
Global Navigation Satellite Systemの略。GPS(米国)、GLONASS(ロシア)、Galileo(EU)、みちびき(日本)などの衛星測位システムの総称。高精度な位置情報取得により、自動運転車両の自己位置推定を支援する。
【参考リンク】
日本航空株式会社(JAL)(外部)
日本を代表する航空会社で、羽田・成田を主要拠点とし、グランドハンドリング業務の自動化に積極的に取り組んでいる。
全日本空輸株式会社(ANA)(外部)
日本の大手航空会社。豊田自動織機と共同で2025年12月15日に羽田空港でレベル4の実用化を開始した。
株式会社豊田自動織機(外部)
トヨタグループの中核企業で産業車両の世界的メーカー。ANAと協業し空港向け自動運転トーイングトラクターを開発。
TractEasy(外部)
TLDとEasyMileの合弁会社。世界各地の空港で採用される自動運転トーイングトラクターを製造し成田空港で運用中。
国土交通省航空局(外部)
日本の航空行政を担当する政府機関。航空イノベーション推進の一環として自動運転技術の実用化を支援している。
【参考記事】
国内初、羽田・成田空港で完全無人自動運転の運用開始 – トラベル Watch(外部)
JALとANAの両社による同日実用化開始の詳細を報道。2030年には両社で50台規模への展開を目指すとの情報も掲載。
豊田自動織機、ANAとともに羽田空港でレベル4実用化 – Car Watch(外部)
ANAと豊田自動織機による羽田空港でのレベル4実用化を詳報。路面パターンマッチング、GNSS、3D LiDARなどの技術を紹介。
ANA・JAL、自動運転「レベル4」で空港貨物輸送 – 日本経済新聞(外部)
日本経済新聞による報道。訪日外国人客増加による受け入れ体制拡充が課題となる中での無人運転導入の意義を解説。
Level 4 autonomous tow tractor at Toulouse-Blagnac Airport – EasyMile(外部)
フランスの空港での自動運転トーイングトラクター運用事例。成田国際空港やシンガポールのチャンギ空港での展開も紹介。
Level 4 Self‑Driving Towing Tractor Trial Operation – Marubeni(外部)
丸紅とAiROによる羽田空港での試験運用完了を報告。国土交通省が2025年までのレベル4実装を推進していた経緯を説明。
「空港×自動運転」のこれまでと今後 – 自動運転ラボ(外部)
国土交通省の検討委員会資料を基に、JAL、ANA、成田空港などの実証実験を詳細に解説する記事。
【編集部後記】
空港で飛行機を待つ間、窓の外で忙しく動き回る地上車両を眺めたことはありませんか?あのトーイングトラクターが、もう無人で走っている時代が始まりました。羽田や成田を利用する際、ぜひ注目してみてください。
ただ、完全自動化が進む一方で気になるのは、これまでその仕事に携わってきた人たちの働き方がどう変わっていくのかという点です。省人化は効率化の一方で、新たな役割や雇用創出につながるのでしょうか。みなさんは自動化と雇用のバランスについて、どうお考えですか?































