ミシガン大学の研究チームが、ブラックアイスバーンを事前に検知する新しいデュアルセンサーシステムを開発した。このシステムは、マイクロ波ベースのセンサーとレーザーベースの光学センサーを組み合わせている。
マイクロ波センサーは航空機や車両の表面にフラットに配置され、水が氷に変わる瞬間を検出する。光学センサーは3つの赤外線ビームを前方に発射し、固体の氷の結晶と危険な過冷却液滴を区別する。
米国では天候関連の衝突事故の約20パーセントにブラックアイスバーンが関与し、航空事故の約10パーセントに氷の蓄積が関連している。研究チームはすでに航空機でセンサーをテストしており、現在は車両用に小型化と改良を進めている。
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New sensor tech may help cars and planes detect black ice before it’s too late
【編集部解説】
冬の運転や航空機の運航において、目に見えないブラックアイスバーンや機体への氷の付着は、最も危険な要因の一つです。ミシガン大学の研究チームが開発したこの新しいデュアルセンサーシステムは、従来の検知技術とは一線を画す革新的なアプローチを採用しています。
このシステムの最大の特徴は、2つの異なる検知技術を組み合わせている点にあります。マイクロ波ベースのセンサーは航空機や車両の表面に埋め込まれ、水が氷に変わる瞬間をリアルタイムで検知します。従来の航空機用センサーは機体から突き出た形状をしていましたが、この新しいセンサーはフラットに配置されるため、空気抵抗に影響を与えません。
もう一つのレーザーベースの光学センサーは、3つの異なる波長の赤外線ビーム(1635nm、1525nm、905nm)を前方に発射し、大気中の氷の結晶と過冷却液滴を識別します。過冷却液滴は接触すると即座に凍結するため、固体の氷よりもはるかに危険です。パイロットにとって、無害な霧と凍結の危険を伴う雲を区別できることは、命を守る重要な情報となります。
この技術が特に重要な理由は、その影響の大きさにあります。米国では天候関連の衝突事故の約20%にブラックアイスバーンが関与しており、航空事故では氷の蓄積が致命的な事故の約10%に関連しています。2024年8月にはブラジルでVoepass航空のATR 72-500型機が墜落し62人が死亡した事故も、氷の蓄積が原因とされています。
開発を主導したNilton Renno教授は、気候宇宙科学工学と航空宇宙工学の両方を専門とし、自身もパイロットです。この技術の起源は興味深く、NASAの火星探査機Phoenix着陸機のミッションから発展しました。Renno教授は火星の土壌中の水分を測定する技術を開発していましたが、ある冬の日、自分の飛行機が氷に覆われているのを発見し、この技術を航空機の氷検知に応用することを思いついたのです。
研究チームはすでに航空機でセンサーをテストし、有望な結果を得ています。2026年1月26日には、この研究成果がNature Scientific Reportsに掲載されました。現在は、車両用に技術を小型化し改良を進めており、2016年に設立されたスタートアップ企業Intelligent Vision Systemsが商業化を進めています。
自動車への応用が実現すれば、車両は滑り始めてから反応するのではなく、前方のブラックアイスバーンを検知して自動的にトラクションコントロールを調整したり、ドライバーが気付く前にブレーキを穏やかにパルスさせたりできるようになります。これは予防的な安全システムであり、事故が起きてからではなく、起きる前に対処する点で画期的です。
航空業界では、この技術はFAA(米国連邦航空局)の新しい規制要件に対応するものとして注目されています。従来の氷検知システムは単純な突起型プローブでしたが、新しい規制では、通常の着氷条件(Appendix C)とより危険な過冷却大粒液滴(SLD)着氷条件(Appendix O)を区別できるシステムが求められています。ミシガン大学のシステムは、この両方を識別できる数少ない技術の一つです。
ヨーロッパのSENS4ICEコンソーシアムが支援した飛行試験キャンペーンでは、10種類の新しい氷検知技術が評価されました。その中でも、ミシガン大学のシステムとCollins Aerospaceのシステムが、Appendix CとAppendix Oの着氷条件を一貫して区別できる唯一の技術として評価されました。
ただし、この技術にはまだ課題も残されています。光学センサーの内部温度を制御するヒーターの設置、マイクロ波センサーのRFノイズの低減、さらには氷風洞での完全なテストと認証が必要です。しかし、飛行試験の結果は、この技術が次世代の輸送手段の標準機能となる可能性を示しています。
【用語解説】
過冷却液滴(Supercooled Liquid Droplets)
0℃以下の温度でも凍結せずに液体状態を保っている水滴。航空機や物体に接触すると即座に凍結するため、通常の氷の結晶よりも危険である。特に直径が大きい過冷却大粒液滴(SLD)は、航空機の防氷システムで保護されていない部分にも氷を形成させる可能性がある。
マイクロ波共振器(Microwave Resonator)
特定の周波数でマイクロ波を共振させる装置。表面に接触する物質の誘電率によって共振周波数が変化する特性を利用し、水や氷の存在を検知する。この技術は元々、火星探査機で土壌中の水分を測定するために開発された。
Appendix C条件とAppendix O条件
米国連邦航空規則(FAR)で定義される着氷条件の分類。Appendix Cは通常の着氷条件で、比較的小さな水滴(平均直径40μm以下)を想定。Appendix Oはより危険な着氷条件で、過冷却大粒液滴(直径100μm以上)や着氷雨を含む。
【参考リンク】
Intelligent Vision Systems(外部)
ミシガン大学の技術を商業化するスタートアップ企業。航空機と自動車向けの氷検知技術を開発している。
A new type of aircraft icing detection system – Nature Scientific Reports(外部)
ミシガン大学の研究チームによる新しい航空機氷検知システムに関する論文(2026年1月26日公開)。
Cars and planes could avoid hazardous ice, freezing rain with new sensors – EurekAlert!(外部)
ミシガン大学による公式プレスリリース。センサー技術の詳細と実証試験の結果を解説している。
【参考記事】
A new type of aircraft icing detection system – Nature Scientific Reports(外部)
ミシガン大学のNilton Renno教授らによる論文。マイクロ波共振器ユニットと光学式氷検知ユニットを組み合わせた新しい航空機氷検知システムの開発と飛行試験結果を報告。
Cars and planes could avoid hazardous ice, freezing rain with new sensors – EurekAlert!(外部)
ミシガン大学の公式プレスリリース。道路上の氷は年間天候関連の衝突事故の約20%の原因であることを指摘。2024年8月のVoepass航空墜落事故など具体例を紹介。
Intelligent Vision Systems: State-of-the-Art Ice Detection Technology – University of Michigan(外部)
2016年にNilton Renno教授が設立したIntelligent Vision Systemsの紹介記事。火星探査から着想を得た技術の商業化について説明。
【編集部後記】
北海道出身の私にとって、ブラックアイスバーンの恐ろしさは身をもって知っています。見た目は濡れた路面なのに、一瞬でコントロールを失う、あの感覚は何度経験しても慣れません。この技術が実用化されれば、そうした恐怖から多くの人を守れる可能性があります。火星探査から生まれた技術が地球上の安全に貢献する――科学技術の進化は時に思いもよらない形で私たちの暮らしを守ってくれるのですね。みなさんは、冬の運転でどのような安全技術があれば安心できると思いますか。






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