復旦大学の研究チームが髪の毛より細いファイバー内に高密度集積回路を構築する「ファイバーベースチップ」を開発し、2026年1月21日にNatureに発表した。
高分子科学科および先端材料研究所のPeng HuishengとChen Peiningが率いるチームによる成果である。
このチップは従来型商用チップに匹敵する情報処理能力を持ちながら、高い柔軟性と伸縮・ねじれなどの複雑な変形への適応性、織り込み可能性を備える。
1ミリメートル長のファイバーに10,000個のトランジスタを集積可能で、1メートル長では従来型コンピュータのCPUレベルに達する。
脳コンピュータインターフェース、電子テキスタイル、バーチャルリアリティへの応用が期待される。
【編集部解説】
復旦大学の研究チームが達成したファイバーベースチップは、ウェアラブル電子デバイスの分野における重大なブレークスルーです。このチップが革新的である理由は、髪の毛よりも細いファイバーの中に、1センチメートルあたり10万個ものトランジスタを集積できる点にあります。
従来のチップ技術は平面的なシリコンウェーハ上で発展してきました。しかし、この「シリコンウェーハ上でしかチップを製造できない」という常識を、研究チームはプラズマエッチング技術により打ち破りました。表面粗さを1ナノメートル以下に低減することで、商用リソグラフィ要件を満たすことに成功したのです。
空間的制約という大きな課題に対しては、らせん状多層回路という独創的な手法で対応しています。ファイバーの内部空間を最大限活用することで、1メートルのファイバーでは従来型コンピュータのCPUレベルのトランジスタ集積容量に達する可能性があります。
このチップの真価は、その柔軟性と耐久性にあります。30%の伸縮、180度のねじれ、10,000サイクルの曲げと摩耗、さらには15.6トンのトラックで押されても機能を維持します。高密度ポリマー膜を回路に堆積させることで、「頑丈な鎧」のような保護を実現しているのです。
脳コンピュータインターフェースへの応用において、このチップは既存技術の限界を突破する可能性を秘めています。現在のBCI技術では、神経電極は通常、剛性のある外部信号処理モジュールに接続する必要があります。しかしファイバーチップは脳組織に匹敵する柔軟性を持ち、「検出-処理-フィードバック」のクローズドループ機能をファイバー単体で確立できます。これにより、より効率的な信号検出とリアルタイム介入が実現可能になります。
電子テキスタイルやバーチャルリアリティへの展開も期待されています。このチップは織り込み可能であり、衣服に統合することで、日常生活の中で情報処理機能を持つスマートファブリックの実現に近づきます。
Nature誌への掲載は、この研究の学術的価値の高さを示しています。復旦大学は近年、2Dフラッシュチップなど次世代半導体技術で相次いで成果を上げており、今回のファイバーチップも中国の半導体技術革新の一環として位置づけられます。
【用語解説】
ファイバーベースチップ(Fiber-based chip)
髪の毛より細いファイバー内に集積回路を構築したチップ。従来の平面的なシリコンウェーハとは異なり、柔軟性と織り込み可能性を持つ。
トランジスタ(Transistor)
電子信号を増幅したりスイッチングしたりする半導体素子。集積回路の基本構成要素であり、その集積密度がチップの性能を左右する。
リソグラフィ(Lithography)
半導体製造において、回路パターンを基板に転写する技術。微細な回路を形成するための重要なプロセス。
プラズマエッチング(Plasma etching)
プラズマを用いて材料表面を削る加工技術。高精度な表面処理が可能。
脳コンピュータインターフェース(Brain-Computer Interface, BCI)
脳の電気的活動と外部デバイスを直接結びつける技術。神経信号を読み取り、コンピュータや義肢などを制御する。
クローズドループ(Closed-loop)
検出、処理、フィードバックが循環的に行われる制御システム。リアルタイムで状態を監視し、適切な応答を返す。
【参考リンク】
Fibre integrated circuits by a multilayered spiral architecture | Nature(外部)
復旦大学の研究チームによる原著論文。ファイバー集積回路の技術詳細と実験結果が記載されている。
Fudan University(外部)
復旦大学の公式サイト。上海に拠点を置く中国のトップ研究大学の一つ。
Flexible brain–computer interfaces | Nature Electronics(外部)
柔軟な脳コンピュータインターフェースに関するパースペクティブ論文。この分野の課題と展望を概説。
【参考記事】
Fibre integrated circuits by a multilayered spiral architecture(外部)
1センチメートルあたり10万個のトランジスタという高密度集積を達成したファイバー集積回路の原著論文。デジタル・アナログ信号処理とニューラルコンピューティングが可能で、極端な条件下でも安定動作する。
Flexible brain electronic sensors advance wearable brain-computer interface(外部)
ウェアラブル脳コンピュータインターフェース技術の最新動向をレビュー。柔軟な脳電子センサーの開発が健康モニタリングと疾患治療の分野を形作っている。
Scientists reveal a tiny brain chip that streams thoughts in real time(外部)
コロンビア大学などが開発した超薄型神経インプラントBISCに関する記事。65,536個の電極を持ち、100Mbpsのワイヤレス通信を実現している。
【編集部後記】
髪の毛より細いファイバーの中に、従来のコンピュータCPU並みの処理能力を詰め込む——この技術が実現されたとき、私たちの身の回りはどう変わるでしょうか。
衣服が単なる布ではなく、健康状態をモニタリングし、脳からの信号を読み取り、周囲の環境と対話する「知的なパートナー」になる未来が、もう遠くないところまで来ています。復旦大学のファイバーチップは、15.6トンのトラックに踏まれても動作を続けるほどの耐久性を持ちながら、脳組織と同等の柔軟性を実現しました。
この技術は、身体障害を持つ方々の生活を大きく変える可能性を秘めています。同時に、私たち全員が日常的に使えるスマートウェアの実現にも近づきます。柔軟なエレクトロニクスと人工知能が融合する時代に、みなさんはどんな未来を思い描きますか。



































