スイスのロボティクス企業Rivrは、AI搭載配達ロボットRIVR ONEを2026年初頭にペンシルベニア州ピッツバーグで商業配達に使用すると発表した。
RIVR ONEは車輪と脚を組み合わせた四足歩行ロボットで、階段や荒れた地面などの困難な地形を乗り越えて玄関先まで配達できる。オンボードカメラとLiDAR技術を使用してルートをナビゲートする。
Rivrは2025年5月にテキサス州オースティンでバンと住宅間の小包配達テストを実施し、スイスのチューリッヒでも食品配達をテストした。
同社CEOのMarko Bjelonicは、RIVR ONEは人々が住む場所で動作するよう設計されており、複雑な住宅レイアウトでも配達可能だと述べた。
Rivrはこのロボットが配達ドライバーを置き換えるのではなく協働することで、配達を高速化しドライバーの疲労を軽減すると考えている。
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This cool delivery robot is coming soon to a U.S. city – Digital Trends
【編集部解説】
配達ロボットの世界で、ゲームチェンジャーが登場しました。スイスのRivrが開発したRIVR ONEは、これまでの車輪型ロボットが抱えていた根本的な問題を解決する画期的な技術を持っています。
Rivrは2023年4月にSwiss-Mileとして設立され、2025年に現在の社名にリブランドしたETHチューリッヒ発のスタートアップです。2024年8月にはJeff Bezos率いるBezos Expeditionsと中国のHongShanが主導するシードラウンドで2200万ドルを調達し、企業価値は1億ドルに達しました。Amazon Industrial Innovation FundやArmada Investmentも出資しており、物流業界の巨人たちがこの技術に注目している様子が伺えます。
ラストマイル配達は物流業界における最大の課題の一つです。市場調査会社の報告によれば、2024年時点でグローバル市場は1600億ドルを超え、2033年までに3700億ドル規模に成長すると予測されています。しかし、このラストマイル配達は総配送コストの実に45〜50%を占める最も高コストなセグメントなのです。
従来の配達ロボットは小型で車輪のみを備えた設計が主流でした。Starship TechnologiesやServe Roboticsといった企業が展開するロボットは歩道を走行し、一定の成功を収めています。しかし、階段、玄関への段差、荒れた地面など、実際の住宅環境には多くの障害物があり、これらのロボットは玄関先まで到達できないことが多いのです。
RIVR ONEはこの問題を「車輪と脚の組み合わせ」という独創的なアプローチで解決しました。平坦な道では車輪で効率的に移動し、階段や段差に遭遇すると脚を使って乗り越えます。まさに「ローラースケートを履いた犬」とCEOのMarko Bjelonicが表現する通り、柔軟性と機動性を兼ね備えています。
技術的な核心は「Physical AI」と呼ばれるアプローチにあります。これは強化学習と教師あり学習を統合したフレームワークで、ロボットがゼロから自律的に学習し、実世界での配備に基づいて適応していきます。オンボードカメラとLiDAR技術を使用して周囲を感知し、変化する地形に適応しながら、複雑な住宅レイアウトでも玄関先まで直接配達できるのです。
特筆すべきは、Rivrが「ドライバーの置き換え」ではなく「協働」を明確に打ち出している点です。配達員がバンから複数の荷物を運ぶ際、RIVR ONEが一部の配達を並行して処理することで、配達全体のスピードを上げ、ドライバーの身体的負担を軽減します。配達員は次の配達場所へ移動しながら、RIVR ONEが別の住所へ配達を完了する——この並行処理により、密集した都市部での配達効率が劇的に向上します。
2025年5月のテキサス州オースティンでのVehoとの試験では、「ラスト100ヤード」——バンから玄関までの最後の数十メートル——に焦点を当てました。この区間は物流チェーンの中で最もコストがかかり、最も非効率な部分です。スイスのチューリッヒではJust Eat Takeaway.comと提携して食品配達をテストし、英国ではEvriとパートナーシップを結んでいます。
そして今回発表されたピッツバーグでの商業展開は、米国での本格的な市場投入を意味します。ピッツバーグは冬の厳しい気候、坂道、多様な住宅環境を持つ都市で、Physical AIの真価を試す「完璧な実験場」とRivrは位置づけています。2026年初頭にパートナー企業(小包または食事配達会社)との協業で開始される予定で、詳細は近日公開されます。
Rivrの野心的な目標は、2026年までに100台、2027年までに数千台、そして最終的には100万台の配達ロボットをグローバルに展開することです。この規模は物流業界全体を変革する可能性を秘めています。
ただし、課題も存在します。配達ロボット全般への社会的受容性の問題です。シカゴでは2025年11月に配達ロボットを禁止する請願が立ち上がり、1200以上の署名を集めました。歩道は人間のためのものだという主張や、プライバシーへの懸念、事故のリスクなど、都市部での受け入れには慎重な対応が必要です。
また、自律配達ロボット市場全体の初期投資と運用コストの高さも障壁となっています。LiDAR、GPS、AI駆動ソフトウェア、センサー統合などの先端技術には多額の資金が必要で、規制への適合も含めると、完全な運用までには相当な費用がかかります。
それでも、労働力不足が深刻化する中、配達ロボットの需要は高まり続けています。世界的な労働力不足は10兆ドルの経済的負担になると試算されており、Physical AIを活用したロボットはこの課題への重要な解決策となり得ます。
RivrのRIVR ONEは、単なる配達ロボットではありません。これは人間とAIロボットが協働する未来の物流インフラの先駆けであり、都市環境における自律システムの可能性を示す実験でもあります。Jeff Bezosが投資する理由も、ここにあるのでしょう。
【用語解説】
Rivr(旧Swiss-Mile)
スイス・チューリッヒに拠点を置くロボティクス企業。2023年4月に設立され、2025年にSwiss-MileからRivrにリブランド。ETHチューリッヒ発のスタートアップで、車輪と脚を組み合わせた配達ロボットRIVR ONEを開発している。
Physical AI(物理AI)
現実世界の物理的環境で動作するAIシステムの総称。Rivrは強化学習と教師あり学習を統合したフレームワークを用いて、ロボットが実環境での配備に基づいて自律的に学習・適応する技術を開発している。
ラストマイル配達
物流における最終工程で、配送センターや倉庫から顧客の玄関先までの配達を指す。物流コスト全体の45〜50%を占める最もコストのかかるセグメントであり、同時に顧客体験に直結する重要な工程である。
LiDAR(ライダー)
Light Detection and Rangingの略。レーザー光を用いて対象物までの距離を測定するセンサー技術。自動運転車やロボットが周囲の環境を3次元的に認識するために使用される。
Bezos Expeditions
Amazon創業者Jeff Bezosの個人投資会社。ベンチャー企業への投資を管理しており、Rivrの2024年シードラウンドを主導した。
【参考リンク】
RIVR公式サイト(外部)
スイスのロボティクス企業Rivrの公式サイト。配達ロボットRIVR ONEの技術仕様や実証実験の詳細を掲載
TechCrunch – Rivr’s dog-like robots join Veho vans(外部)
2025年5月のオースティン実証実験を詳細に報じた記事。ラスト100ヤード問題への取り組みを解説
Digital Commerce 360 – RIVR and Veho launch robot-powered parcel delivery(外部)
RivrとVehoのパートナーシップを物流業界の視点から分析した記事
SWI swissinfo.ch – Bezos-Led Funding Round(外部)
Jeff Bezos主導の資金調達で企業価値1億ドルに達したことを報じる記事
ETH Zurich(スイス連邦工科大学チューリッヒ校)(外部)
Rivrの母体となったスイスの名門工科大学。ロボティクス研究の世界的拠点の一つ
【参考記事】
Rivr’s dog-like robots join Veho vans to solve ‘last-100-yards’ parcel delivery in Austin(外部)
2025年5月27日のオースティン実証実験開始を報じる記事。CEOインタビュー含む
Bezos-Led Funding Round Values Swiss Robot Maker at $100 Million(外部)
2024年8月のシードラウンドで企業価値1億ドル、調達額2200万ドルと報じる
RIVR and Veho launch robot-powered parcel delivery(外部)
Veho CEOコメント引用し配達ロボットのビジネス価値を分析する記事
Last Mile Delivery Market Size & Outlook, 2025-2033(外部)
ラストマイル配達市場が2024年1612億ドルから2033年3739億ドルへ成長予測
Swiss-Mile Secures $22M in Seed Funding(外部)
Rivr公式の資金調達プレスリリース。投資家の詳細とコメントを掲載
Autonomous Last Mile Delivery Market Size, Share – 2033(外部)
自律配達ロボット市場が2023年187億ドルから2033年1442億ドルへ成長予測
Veho and RIVR partner to improve e-commerce delivery(外部)
VehoとRivrのパートナーシップについて技術的詳細と配備計画を報じる
【編集部後記】
玄関先に配達ロボットが現れる日が、本当にすぐそこまで来ています。RIVR ONEのような「脚を持つロボット」は、私たちが当たり前だと思っていた「人間が歩いて配達する」という行為を、根本から問い直しているのではないでしょうか。物流の効率化という実利的な側面だけでなく、都市空間における人間とロボットの共存というテーマは、これから私たちが向き合うべき大きな問いです。みなさんは、配達ロボットが階段を登って玄関先に荷物を置いていく未来をどう受け止めますか。この変化を一緒に見守っていきましょう。






























