2026年1月21日、Microsoftがロボティクス分野に投じた一石が波紋を広げている。発表されたRho-alphaは、視覚・言語に加えて触覚までも統合した初のVLA+モデルとして、AIが物理世界で「感じて、考えて、動く」新時代の幕開けを告げた。
Microsoftは、同社のPhiシリーズのビジョン・ランゲージ・モデルから派生した初のロボティクスモデル「Rho-alpha(ρα)」を発表した。Rho-alphaは自然言語コマンドを両手操作タスクを実行するロボットシステムの制御信号に変換するVLA+モデルである。
従来のVLAモデルに触覚センシングを追加し、力などのモダリティへの対応も進めている。トレーニングには物理的なデモンストレーションとシミュレートされたタスクからの軌道データ、Webスケールの視覚的質問応答データを使用する。シミュレーションにはオープンなNVIDIA Isaac Simフレームワークを活用している。現在、デュアルアームセットアップとヒューマノイドロボットで評価中である。
Rho-alpha Research Early Access Programへの参加組織を募集しており、後日Microsoft Foundry経由でも利用可能になる予定である。
From:
Introducing Rho-alpha, the new robotics model from Microsoft
【編集部解説】
このニュースは、ロボティクス分野における重要な転換点を示しています。Microsoftが2026年1月21日に発表したRho-alphaは、単なる新製品の発表ではなく、AIがデジタル空間から物理世界へと本格的に進出する「Physical AI」時代の幕開けを象徴する出来事です。
VLA(Vision-Language-Action)モデルとは、視覚・言語・行動という3つのモダリティを統合したマルチモーダルAIの一種で、ロボットが人間の自然言語指示を理解し、視覚情報を処理して、適切な行動を実行できるようにする技術です。従来のロボットは特定のタスクごとにプログラムする必要がありましたが、VLAモデルは多様なタスクに汎化できる能力を持ちます。
Rho-alphaが革新的なのは、従来のVLAに触覚センシングを追加した「VLA+」として設計されている点です。人間が物を掴む際に視覚だけでなく触覚も使うように、ロボットにも触覚フィードバックを与えることで、より繊細で適応的な操作が可能になります。プラグ挿入のような精密作業では、視覚だけでは不十分で、接触の感触が成功の鍵となるのです。
訓練手法も注目に値します。実世界のロボットデータは収集コストが高く、特に触覚データは入手困難です。そこでMicrosoftは、NVIDIA Isaac SimというシミュレーションフレームワークをAzure上で活用し、大規模な合成データを生成しています。実データとシミュレーションデータを組み合わせることで、データ不足という長年の課題を克服しようとしています。
さらに重要なのは、Rho-alphaが展開中に人間のフィードバックから継続的に学習できる設計になっている点です。ロボットがミスをした際、オペレーターが3Dマウスなどで修正すると、その修正から学習して次回以降の性能を向上させます。これは、ロボットが静的な存在ではなく、使用環境で成長し続けるシステムへと進化することを意味します。
ポジティブな側面として、この技術は製造業、物流、医療など幅広い分野での自動化を促進し、人手不足の解消や危険作業からの人間の解放につながる可能性があります。また、Microsoft Foundryを通じた提供により、中小企業でも自社のロボットに適用できるようになれば、ロボティクス技術の民主化が進むでしょう。
一方で、潜在的なリスクも存在します。物理世界で動作するAIは、予期せぬ動作が人間の安全に直結します。触覚フィードバックを活用するとはいえ、複雑な環境での誤判断は事故につながる可能性があります。また、継続学習機能は、意図しない動作パターンを学習してしまうリスクも孕んでいます。
規制面では、Physical AIの普及に伴い、ロボットの安全基準や責任の所在に関する法整備が求められるでしょう。特に人間と協働する環境では、ISO 10218などの既存のロボット安全規格に加え、AI特有のリスクに対応した新たな枠組みが必要になると考えられます。
長期的には、Rho-alphaのような基盤モデルが、ロボティクス分野におけるGPTのような存在になる可能性があります。つまり、各企業が自社データでファインチューニングするベースモデルとして機能し、ロボット開発のコストと時間を大幅に削減できるかもしれません。それは、汎用ロボットの実現へ向けた重要な一歩となるでしょう。
【用語解説】
VLA(Vision-Language-Action)モデル
視覚、言語、行動という3つのモダリティを統合したマルチモーダルAIモデル。ロボットが人間の自然言語指示を理解し、カメラなどの視覚情報を処理して、適切な物理的行動を実行できるようにする技術である。
VLA+
従来のVLAモデルに触覚センシングや力覚などの追加のモダリティを組み込んだ拡張版。Rho-alphaはこのVLA+モデルとして設計されており、視覚と言語に加えて触覚フィードバックを活用できる。
Physical AI
AIと物理システムが融合した領域。デジタル空間で動作する従来のAIとは異なり、ロボットなど実世界で物理的に動作するシステムにAI技術を適用したものを指す。
触覚センシング
ロボットが物体との接触を感知する技術。圧力、テクスチャ、温度などを検出し、視覚情報だけでは得られない物体の特性を把握することで、より繊細な操作が可能になる。
両手操作タスク(バイマニュアル・マニピュレーション)
2本のロボットアームを協調させて行う作業。人間が両手を使って物を掴んだり組み立てたりするように、ロボットも複数のアームを同時に制御して複雑なタスクを実行する。
デュアルアームセットアップ
2本のロボットアームを装備したロボットシステム。両手操作タスクを実行するための物理的な構成を指す。
ヒューマノイドロボット
人間の身体構造を模倣した形状のロボット。頭部、胴体、両腕、両脚などを持ち、人間の作業環境で人間と同様のタスクを実行できるよう設計されている。
強化学習
AIがトライアンドエラーを通じて学習する機械学習の手法。報酬を最大化するように行動を学習し、シミュレーション環境でロボットの動作を訓練する際に広く使われる。
【参考リンク】
Microsoft Azure Phi Models(外部)
Rho-alphaのベースとなったPhiシリーズの小型言語モデルに関する情報を提供する公式ページ。
NVIDIA Cosmos – Physical AI with World Foundation Models(外部)
ロボティクスのシミュレーションに使用されるNVIDIAのフレームワークに関する情報を掲載。
University of Washington(外部)
Microsoft Researchと協力してロボティクスデータセットの拡充に取り組む大学の公式サイト。
【参考記事】
Microsoft Research reveals Rho-alpha vision-language-action model for robots(外部)
The Robot ReportによるRho-alphaの技術的特徴とロボティクス業界への影響に関する詳細な分析記事。
Microsoft Unveils Rho-alpha to Bridge Language, Vision and Touch in Robotics(外部)
触覚センシングの統合がもたらす革新性とPhysical AI時代の到来について解説するRemix Realityの記事。
Vision-Language-Action Models for Robotics(外部)
VLAモデルに関する学術的なレビュー論文。ロボティクスにおけるVLA技術の包括的な調査を提供。
Robotic Foundation Models and Physical AI Models(外部)
ロボティクス基盤モデルとPhysical AIの革新、応用、倫理的課題について論じた記事。
【編集部後記】
ロボットが人間の言葉を理解し、触覚を使って繊細に作業する――SFで描かれてきた未来が、いよいよ現実のものとなりつつあります。Rho-alphaのような技術は、皆さんの働く現場や日常生活にどのような変化をもたらすでしょうか。
製造業、物流、医療、介護など、あらゆる場面で人間とロボットが協働する時代が近づいています。一方で、安全性や倫理的な課題も無視できません。この技術が社会に実装されるとき、私たちはどのような準備が必要でしょうか。皆さんの業界では、Physical AIがどのように活用できそうか、ぜひ一緒に考えてみませんか。



































