AMDは2025年12月9日、AMD EPYC Embedded 2005シリーズプロセッサを発表した。本製品は、ネットワーク、ストレージ、産業システム向けの組み込みプロセッサで、24時間365日の運用に対応する。
40mm × 40mmのBGAパッケージを採用し、Intel Xeon 6500P-Bソリューションと比較して2.4倍小型である。Zen 5アーキテクチャを搭載し、最大16個のx86コアと64MBの共有L3キャッシュを備える。TDPは45Wから75Wの範囲で構成可能だ。
Intel Xeon 6503P-Bと比較して、TDPが半分でありながら、ブーストCPU周波数は最大28パーセント高く、ベースCPU周波数は35パーセント高い。最大10年間の継続的なフィールド運用をサポートし、10年間のコンポーネント発注と技術支援、15年間のソフトウェアメンテナンスを提供する。
28レーンのPCIe Gen5とDDR5メモリをサポートする。
【編集部解説】
今回AMDが発表したEPYC Embedded 2005シリーズは、組み込み市場において約7年ぶりとなるBGAパッケージ版EPYCの刷新です。前回のBGA版EPYC Embedded(3001シリーズ)は2018年リリースのZen 1アーキテクチャベースでしたから、その間の技術進化を一気に取り込んだ製品となっています。
注目すべきは、このプロセッサが狙う市場セグメントです。ネットワークスイッチ、ルーター、ストレージシステム、産業用機器など、データセンターほど潤沢な電力や冷却を使えない「エッジ」と呼ばれる環境が主戦場となります。こうした環境では、性能と消費電力のバランスが極めて重要で、40mm × 40mmという小型パッケージに16コアを収めた設計は、基板面積が限られた機器への搭載を容易にします。
製品ラインナップは3モデルで、8コア、12コア、16コアを用意し、すべて45Wまでの低TDP動作が可能です。特に12コアのEPYC Embedded 2655モデルは、Intel Xeon 6503P-Bと比較してベースCPU周波数が35パーセント高く、TDPは半分という効率性を実現しています。
長期サポート体制も特筆すべき点です。10年間のフィールド運用保証、10年間の部品供給と技術支援、15年間のソフトウェアメンテナンスという手厚いサポートは、一度設計した製品を長期間販売し続ける必要がある産業機器メーカーにとって大きな安心材料となります。
AMDは2024年10月にデータセンター向け第5世代EPYC 9005シリーズを発表しています。その後2025年3月には同アーキテクチャを採用した組み込み向け「EPYC Embedded 9005」シリーズも投入し、Zen 5アーキテクチャを軸に製品ラインナップを拡充する戦略を着実に進めています。
【用語解説】
BGA(ボールグリッドアレイ)
半導体パッケージの一種で、チップの裏面に格子状にはんだボールを配置し、基板に直接実装する方式である。従来のピン型と比べて小型化が可能で、電気的特性や熱伝導性に優れる。
Zen 5アーキテクチャ
AMDが2024年に発表した最新のx86プロセッサアーキテクチャである。前世代のZen 4から性能と電力効率が向上しており、サーバー、デスクトップ、組み込み用途に展開されている。
TDP(熱設計電力)
プロセッサが通常動作時に発生する熱量を電力で表した指標である。システム設計時の冷却機構を決定する重要な数値で、TDPが低いほど冷却要件が緩和される。
エッジコンピューティング
データセンターではなく、データが生成される場所の近くで処理を行う分散コンピューティングの形態である。ネットワーク遅延の削減やプライバシー保護に有効とされる。
【参考リンク】
AMD EPYC Embedded 2005シリーズ製品ページ(外部)
AMD公式の製品情報ページ。EPYC Embedded 2005シリーズの技術仕様、機能、用途などの詳細情報を提供している。
AMD Embedded Solutions(外部)
AMDの組み込み向けソリューション全体を紹介する公式ページ。プロセッサ、GPU、アダプティブSoCなどの製品ラインナップを掲載している。
Intel Xeon製品ページ(外部)
Intel公式のXeonプロセッサ製品情報ページ。本記事で比較対象として言及されているXeon 6500シリーズなどの情報を確認できる。
【参考動画】
【参考記事】
AMD Announces BGA Form Factor EPYC Embedded 2005 Series(外部)
ServeTheHomeによる詳細な技術分析記事。EPYC Embedded 2005シリーズが約7年ぶりのBGA版EPYC刷新であることなどが報じられている。
AMD EPYC EMBEDDED 2005 SERIES PROCESSOR Product Brief(外部)
AMD公式の製品概要資料。40mm × 40mmのBGAパッケージ、Zen 5アーキテクチャ、最大16コアなどの技術仕様が記載されている。
AMD debuts embedded EPYC and Ryzen processors(外部)
ZDNetによる2018年のEPYC Embedded 3001シリーズ発表時の記事。前世代のBGA版EPYCがZen 1アーキテクチャベースであったことを確認できる。
【編集部後記】
エッジデバイスの進化は、私たちの生活インフラを静かに、しかし確実に変えています。ネットワーク機器や産業システムが高性能化すれば、5Gの基地局はより多くのデバイスを同時接続でき、工場の自動化はさらに精緻になるでしょう。
一方で、10年以上の長期サポートという設計思想は、持続可能性の観点からも興味深い選択です。みなさんは、目に見えないインフラの進化と、それが生み出す体験の変化について、どのようにお考えでしょうか。






























