フィナンシャル・タイムズは16日、中国税関当局がNVIDIAのAI半導体H200の通関を阻止し、部品供給企業が生産を一時停止したと報じた。深圳の物流会社に対しH200チップの通関申請を受け付けないよう通知があり、すでに香港に到着していた貨物があるタイミングで決定された。
NVIDIAはトランプ大統領が先月H200の中国販売を許可したことを受け、中国顧客から100万台以上の注文を期待し、サプライヤーは3月の納品開始を見込んで24時間体制の生産を開始していた。半導体分析会社セミ・アナリシスのチョウ・ウェイジアは、H200用PCBは専用部品で他製品に転用できないと指摘した。アジア・グループのジョージ・チュンは、国家発展改革委員会、工業情報化部、国家インターネット情報弁公室の間での見解の相違により政策が不明確になっていると述べた。
中国の顧客はH200注文をキャンセルし、米国輸出規制で禁止されているB200やB300チップへ需要がシフトしている。
【編集部解説】
このニュースを理解するには、まず時系列を整理する必要があります。トランプ大統領が2025年12月8日にH200の中国輸出を許可し、米国商務省が2026年1月13日に正式承認しました。ところが、その翌日の1月14日に中国税関が輸入を許可しないよう指示を出したのです。わずか24時間での方針転換という異常事態が発生しました。
規制の背景には、中国政府内部の複雑な権力構造があります。記事で指摘されているように、国家発展改革委員会、工業情報化部、国家インターネット情報弁公室という3つの機関がAI・半導体政策をめぐって異なる立場を取っています。税関当局が独自の判断で輸入を阻止したことは、中央政府の統一見解が存在しないことを示唆しているでしょう。
需給バランスにも注目すべき点があります。複数の報道によれば、中国企業は200万台以上のH200チップを注文していましたが、NVIDIAの在庫はわずか70万台程度でした。元記事では「100万台以上」とされていますが、実際の需要はそれをはるかに上回っていたことになります。
さらに深刻なのは、闇市場への需要シフトです。H200が入手できなくなった中国企業は、米国の輸出規制で禁止されているB200やB300チップへと関心を移しています。B200はH200と比較して約2.5倍の性能を持ち、メモリ容量も192GBと141GBの差があります。闇市場ではB200搭載ラックが42万ドルから49万ドルで取引されており、これは米国価格の約50%増しです。
この事態が示唆する長期的な影響も見逃せません。中国は2026年から2030年までの第15次5カ年計画において、半導体とAIの自立を重点目標に掲げています。今回の通関阻止は、中国が米国製チップへの依存を減らし、国産技術の育成を加速させる口実となる可能性があります。
トランプ政権は当初、H200販売の売上の25%を米国政府が徴収する方針を示していましたが、中国側の対応により、この収益計画は頓挫しかねない状況です。AI半導体という戦略的技術をめぐる米中の駆け引きは、単なる貿易問題を超えて、技術覇権をめぐる長期的な対立構造へと発展していくことになるでしょう。
【用語解説】
AI半導体(GPUチップ)
画像処理装置(GPU)を応用した半導体で、大規模言語モデルの学習や推論など、AI計算に特化した処理能力を持つ。並列演算に優れ、従来のCPUと比較して数十倍から数百倍の高速処理が可能である。
PCB(プリント基板)
Printed Circuit Boardの略。電子部品を搭載し、配線を印刷した基板のこと。半導体チップごとに専用設計されるため、H200用PCBを他の製品に転用することは技術的に困難である。
国家発展改革委員会(NDRC)
中国国務院の第三位に位置する行政機関で、経済・社会発展政策の策定、経済バランスの維持、経済体制改革を担当する。中国の5カ年計画を策定する最高組織であり、「ミニ国務院」とも呼ばれる。
工業情報化部(MIIT)
中国の工業、情報通信業、ソフトウェア産業を管轄する国務院直属の部門。半導体産業の育成と規制を担当し、技術標準の策定や産業政策の実行を行う。
国家インターネット情報弁公室(CAC)
中国のサイバースペースとインターネット情報を管理する政府機関。AI技術の規制やデータセキュリティに関する政策立案を担当し、国内外のIT企業に対する監督権限を持つ。
【参考リンク】
NVIDIA公式サイト(外部)
1993年創業のアメリカの半導体企業。GPU市場で92%のシェアを持ち、AI計算用チップのグローバルリーダー
NVIDIA H200製品ページ(外部)
H200 GPU の公式製品情報。141GBのHBM3eメモリと4.8TB/秒の帯域幅を持つ次世代AIチップ
Financial Times(外部)
1888年創立のイギリスの経済紙。グローバルビジネスニュースの権威として国際的に認知されている
SemiAnalysis(外部)
半導体産業に特化した調査・分析企業。ビジネスと半導体産業の架け橋となる詳細な技術分析を提供
The Asia Group(外部)
インド太平洋地域に特化したビジネスコンサルティング企業。市場参入から規制対応まで幅広く支援
【参考記事】
China’s customs agents told Nvidia’s H200 chips are not permitted(外部)
2026年1月14日、中国税関がH200輸入を許可しないと通知。米国承認翌日の措置を報道
Trump greenlights exports of Nvidia H200 chips to China(外部)
トランプ大統領が2025年12月8日にH200の中国輸出を許可。売上25%徴収方針も明示
Trump administration greenlights Nvidia AI chip exports to China(外部)
2026年1月13日の正式承認を報道。中国からの注文200万台以上、在庫70万台と明記
B200 vs H200: Best GPU for LLMs(外部)
B200がH200の約2.5倍の性能を持ち、メモリ容量192GB対141GBと大幅に上回ることを解説
Chinese companies allegedly smuggled in $1bn worth(外部)
中国企業が10億ドル相当のチップを密輸。B200搭載ラック闇市場価格42万~49万ドルと報道
Nvidia H200 chip parts suppliers halt output(外部)
部品メーカーがH200専用PCB生産ラインを停止。専用部品の他製品への転用困難と報道
【編集部後記】
AI半導体をめぐる米中の駆け引きは、許可と禁止が24時間で入れ替わるほど複雑化しています。技術覇権という大きな構図の中で、こうした政策の不確実性が企業活動にどのような影響を与えるのか、皆さんはどう感じられるでしょうか。
闇市場で禁止されたB200チップが取引され始めているという事実も見逃せません。規制が厳しくなればなるほど、地下経済が活性化するという皮肉な現実があります。テクノロジーと地政学が交錯するこの状況を、私たちはどう理解していけばよいのか。ぜひ皆さんのご意見もお聞かせください。



































