宇宙デブリ問題に日本発の解決策——SpicyCompanyがレーザーアブレーション技術の研究開発を開始

[更新]2025年12月9日

宇宙デブリ問題に日本発の解決策——SpicyCompanyがレーザーアブレーション技術の研究開発を開始 - innovaTopia - (イノベトピア)

秒速7〜8kmで飛び交う「宇宙ゴミ」を、光だけでどこまでコントロールできるのか。
衛星コンステレーション時代のインフラを守る鍵として、日本発のレーザー宇宙デブリ技術が静かに動き始めています。


株式会社SpicyCompany(所在地:東京都渋谷区、代表取締役:小宮 久)は、2025年12月5日、高出力レーザービームを利用した宇宙デブリ軌道調整技術の研究開発開始を発表した。

この技術は、宇宙デブリ表面にレーザーを照射し、ごく小さな範囲を瞬間的に蒸発させ、その反作用を推力として利用する非接触型のデブリ回避システムである。燃料を使用せずに軌道を変えることができ、小型デブリにも適用可能とされている。

プロジェクトでは、高出力・短パルスレーザーの最適化、光学系の高精度追尾アルゴリズム、推力効果のリアルタイム解析AI、衛星搭載用レーザーモジュールの小型化などを研究対象としている。

同社は海外拠点を米国・中東・アジアの3拠点に有している。

From: 文献リンクSpicyCompany レーザービームによる宇宙デブリ軌道調整技術の研究開発を開始

 - innovaTopia - (イノベトピア)
株式会社SpicyCompany PRTIMESより引用
 - innovaTopia - (イノベトピア)
株式会社SpicyCompany PRTIMESより引用

【編集部解説】

宇宙デブリは、いまや理論上の問題ではなく、現実に迫る危機となっています。欧州宇宙機関(ESA)の2025年版報告書によれば、地球軌道上には10cm以上の物体が約54,000個、1〜10cmのものが約120万個、1mm〜1cmのものが約1億3,000万個存在しており、2024年だけで3,000個以上の新たなデブリ断片が発生しました。衛星の破砕は年間10.5回のペースで起きており、デブリは運用中の衛星数を一貫して上回っています。

このような状況下で、SpicyCompanyが発表したレーザーアブレーション技術は、非接触かつ燃料不要という2つの利点を持っています。従来のロボットアームやワイヤー式の除去手法は、高速回転するデブリへの物理的接触が困難であり、実用化に至っていません。一方、レーザー方式は秒速7.5kmで移動する回転中のデブリにも適用でき、光速でのアクセスが可能なため機動性に優れています。

この技術が実用化されれば、衛星オペレーター自身がデブリ回避機能を搭載できるようになります。0.5〜3kg級の超小型衛星にも搭載可能なレーザーモジュールの開発は、衛星コンステレーション時代における「アクティブ防御」の実現を意味します。従来の「衛星が避ける」受動的回避に加え、「デブリ側の軌道を変える」能動的防御レイヤーが生まれることで、ケスラーシンドローム(衝突の連鎖反応)のリスクを低減できる可能性があります。

ただし、レーザー技術には課題も残されています。地上からレーザーを照射する場合、大気による減衰や散乱が発生するため、高出力が必要となります。SpicyCompanyは衛星搭載型を想定しているため大気の影響は受けませんが、高速回転・不規則な姿勢のデブリに対する高精度追尾や、照射後の軌道変化をリアルタイムで予測するAI技術が求められます。また、意図しない方向への軌道変更や、レーザーの軍事転用といった懸念も今後議論される必要があるでしょう。

なお、日本ではSKY Perfect JSATと理化学研究所が2020年からレーザーデブリ除去技術を研究しており、2024年にOrbital Lasers社を設立して2027年の軌道上実証、2029年のサービス開始を目指しています。SpicyCompanyの今回の発表は、この領域における日本企業の技術開発競争が加速していることを示すものと言えます。

【用語解説】

宇宙デブリ(スペースデブリ)
地球周回軌道上に存在する、運用を終えた人工衛星、ロケットの破片、衝突によって発生した微小な断片などの総称である。秒速7〜8kmで移動しており、数cm程度のデブリでも運用中の衛星に深刻な損傷を与える可能性がある。

ケスラーシンドローム(Kessler Syndrome)
1978年にNASAの科学者ドナルド・ケスラーが提唱した理論で、軌道上のデブリ同士が衝突して新たなデブリを生み出し、それがさらなる衝突を引き起こす連鎖反応のことである。この状態に陥ると、特定の軌道帯が利用不可能になる恐れがある。

レーザーアブレーション(Laser Ablation)
レーザー光を物体の表面に照射し、その部分を瞬間的に蒸発・気化させる技術である。宇宙デブリ除去においては、デブリ表面を蒸発させた際の反作用を推力として利用し、軌道を変更させる手法として研究されている。

低軌道(LEO:Low Earth Orbit)
地表から約160km〜2,000km程度の高度の軌道を指す。国際宇宙ステーションや地球観測衛星、通信衛星コンステレーションの多くがこの軌道帯を利用しており、デブリの密集度が最も高い領域である。

衛星コンステレーション
複数の人工衛星を組み合わせて運用するシステムである。SpaceXのStarlinkやAmazonのKuiperなど、低軌道に数千〜数万機の衛星を配置する計画が進行中で、デブリリスクの増加要因となっている。

【参考リンク】

株式会社SpicyCompany(外部)
ダイヤモンド半導体、希少金属の製造輸出入販売などを手がける企業。今回、宇宙デブリ軌道調整技術の研究開発を発表。

Orbital Lasers株式会社(外部)
SKY Perfect JSATと理化学研究所が設立した宇宙デブリ除去専門企業。2027年軌道上実証、2029年サービス開始予定。

ESA宇宙環境報告2025(外部)
地球軌道上のデブリ状況に関する最新統計。10cm以上の物体が約54,000個存在すると報告している。

【参考記事】

ESA’s 2025 Report and What It Means for Your Business(外部)
ESAの2025年版報告書を解説。2024年に3,000個以上の新デブリ断片が発生し、衛星破砕は年間10.5回のペース。

The Growing Threat of Low Earth Orbit Debris(外部)
低軌道デブリの脅威を包括的に解説。追跡可能な物体は27,000個以上、1cm以下のデブリは推定1億3,000万個に達する。

【編集部後記】

夜空を見上げたとき、そこには無数の人工衛星と、それ以上の数のデブリが秒速8kmで飛び交っています。私たちが当たり前に使っているGPS、気象予報、インターネット通信——これらすべてが、目に見えない軌道上の「交通整理」に支えられているんです。

レーザー技術によるデブリ除去は、SFのような響きがありますが、実は宇宙インフラを守るための現実的な選択肢として動き始めています。もし衛星が使えなくなったら、あなたの暮らしはどう変わるでしょうか。そんな視点で、この技術の意味を一緒に考えてみませんか。

投稿者アバター
Ami
テクノロジーは、もっと私たちの感性に寄り添えるはず。デザイナーとしての経験を活かし、テクノロジーが「美」と「暮らし」をどう豊かにデザインしていくのか、未来のシナリオを描きます。 2児の母として、家族の時間を豊かにするスマートホーム技術に注目する傍ら、実家の美容室のDXを考えるのが密かな楽しみ。読者の皆さんの毎日が、お気に入りのガジェットやサービスで、もっと心ときめくものになるような情報を届けたいです。もちろんMac派!

読み込み中…
advertisements
読み込み中…