JAXAは2026年3月14日から15日にかけて、H3ロケット6号機(30形態試験機)の打ち上げに向けた開発試験の一環として、第2回1段実機型タンクステージ燃焼試験(CFT)を種子島宇宙センターで実施した。
試験は計画通りに終了した。現在は安全を確保しながら、特別検証とその後の後処置作業を進めている。
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H3ロケット6号機(30形態試験機)第2回1段実機型タンクステージ燃焼試験(CFT)の実施結果
【編集部解説】
まず「30形態」とは何かを整理します。H3ロケットには打ち上げ能力の異なる複数の形態があります。「30形態」とは、1段目の液体燃料エンジン「LE-9」を3基搭載し、固体ロケットブースター(SRB-3)を使用しない構成です。固体ブースターを排除することで製造コストを大きく削減できるため、日本の宇宙輸送の競争力強化に直結する形態として位置づけられています。ただし、この形態はこれまで一度も飛行実績がなく、今回の6号機が初飛行となります。
「CFT(Captive Firing Test)」という試験の意味も理解しておく価値があります。機体を発射台に固縛し、実際には飛ばない状態でエンジンを燃焼させることで、機体とエンジンを組み合わせたシステム全体が打ち上げに必要な機能を適切に発揮できるかを確認する、打ち上げ前の最終検証段階に位置する試験です。言わば「本番直前の総合リハーサル」にあたります。
第1回CFTは2025年7月23〜24日に実施済みでしたが、燃焼25秒の後半において液体水素・液体酸素タンクの圧力が制御圧まで上昇しないという問題が確認されました。この原因は30形態特有の構成にあると特定され、対策を施したうえで今回の第2回CFTが行われました。
今回の第2回CFTの結果について、H3プロジェクトマネージャーの有田誠氏は「効果があったのではないかと手ごたえを得ている。30形態試験機のフライトに向けて大きな関門を越えられた可能性が高い」とコメントしています。プレスリリースの「計画通り終了」という表現は公式発表として最大限の成功を意味するもので、現在は特別検証と後処置作業が進められています。
一方で、打ち上げ時期については不確定要素も残ります。2025年12月に失敗したH3ロケット8号機の原因究明と対策の結果次第で、6号機の打ち上げ時期が左右されるとされており、目標は2026年度中とされています。
長期的な視点から見ると、この30形態の実用化は日本の宇宙ビジネスに大きなインパクトをもたらします。近年の世界のロケット打ち上げでは米国と中国が大きな存在感を示す一方、日本の打ち上げ件数はなお限られています。政府は2030年代前半までに、基幹ロケットと民間ロケットを合わせた国内打ち上げ能力を年間30件程度へ高める目標を掲げており、低コストな30形態の確立はその重要な一手となります。
打ち上げコストの低減は、商業衛星サービスや小型衛星コンステレーションの需要増加を追い風に、日本の宇宙産業が国際競争に参入するための土台でもあります。CFT成功という今日のニュースは、その土台づくりの節目として記憶されるべき出来事と言えるでしょう。
【用語解説】
CFT(Captive Firing Test/タンクステージ燃焼試験)
ロケット機体を発射台に固縛したまま実際にエンジンを燃焼させる試験。飛行させない状態で、機体・エンジン・地上設備の総合動作を確認する。打ち上げ直前の最終関門にあたり、「計画通り終了」はそのまま打ち上げ準備の完了を意味する。
30形態
H3ロケットの形態(コンフィギュレーション)のひとつ。LE-9エンジンを3基搭載し、固体ロケットブースター(SRB-3)を使用しない構成を指す。ブースターを省くことでコスト削減と打ち上げ頻度向上を狙った新設計で、H3-30とも表記される。
SRB-3(固体ロケットブースター)
H3ロケットの1段目に取り付ける補助推進装置。固体燃料を使用して打ち上げ初期の推力を補う役割を担う。30形態ではこれを装備しない。
特別検証
CFT実施後に燃焼データや機体状態を詳細に解析・確認する作業。この検証結果をもとに打ち上げへの最終判断がくだされる。今回のCFTでは「後処置作業」と合わせて実施されている。
LE-9エンジン
H3ロケット1段目に搭載する液体燃料エンジン。推進剤に液体水素・液体酸素を使用し、第1段用としては世界初のエキスパンダーブリードサイクルを採用。部品点数の削減により低コスト化を実現しており、30形態では3基搭載される。
【参考リンク】
JAXA(国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構)(外部)
H3ロケットを開発する国立研究開発法人。宇宙輸送・科学・有人活動まで手がけ、公式プレスリリースも随時更新。
JAXA Global|H3 Launch Vehicle(英語)(外部)
H3ロケットの英語版公式ページ。仕様・開発経緯・英語プレスリリースが閲覧でき、国際情報発信の窓口となっている。
H3ロケット6号機(30形態試験機)特設サイト|ファン!ファン!JAXA!(外部)
6号機専用のJAXA公式特設ページ。CFTの意義・開発スタッフの紹介など打ち上げに向けた情報を掲載している。
H3ロケット プロジェクトトピックス|JAXA(外部)
H3のプレスリリース・試験結果・技術情報が時系列で一覧できるJAXA公式情報まとめページ。
三菱重工業|打上げ製品ラインアップ(外部)
H3ロケットの製造・打ち上げを担う三菱重工業の公式サービスページ。打ち上げサービスの概要を確認できる。
【参考動画】
H3ロケット6号機(30形態試験機)第2回CFT ライブ中継(JAXA公式)
H3ロケット6号機 機体移動(ロールアウト)(NVS)
第2回CFT準備状況 記者説明会(JAXA公式)
H3 -LE-9エンジン 技術との闘い-(JAXA公式)
【参考記事】
JAXA H3-30 Captive Firing Test 2 — Space Launch Now(外部)
海外の宇宙打ち上げ情報サイトによるイベントページ。打ち上げ見込み時期を国際視点で記録、2026年6月TBDと掲載。
JAXA Reports No Problems in H3 Engine Firing Test — The Japan News(外部)
第1回CFT後の英語報道。ブースターなし30形態の特異性と意義を英語圏向けに解説した信頼性の高い記事。
The 6th H3 Launch Vehicle (Type 30): Captive Firing Test — JAXA Global(外部)
第1回CFT実施告知のJAXA英語公式プレスリリース。第2回CFTとの比較における基準となる公式一次資料。
Japan’s H3 Rocket Unable to Launch Due to Booster-related Issue — The Japan News(外部)
H3初号機打ち上げ中止を報じた読売英語記事。開発コスト約50億円(H2Aの半額)の数値が記載された一次資料。
2024年ロケット打ち上げ国別ランキング(外部)
2024年の国別ロケット打ち上げ回数をまとめた統計ページ。日本の打ち上げ実績の国際比較に使用した参照データ。
「宇宙科学強国」を目指す中国の宇宙開発 — JST調査資料(外部)
科学技術振興機構(JST)発行の調査資料。世界の打ち上げ回数258回・米国142回・中国68回の数値の根拠となった。
【関連記事】
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【編集部後記】
「計画通り終了」——この短い一言の裏に、何年もの試行錯誤が詰まっています。
H3の30形態が本当に空へ飛んだとき、日本の宇宙輸送はまた新しいフェーズに入るはずです。その瞬間を、ぜひ一緒に見届けませんか。







































