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ダボス会議2026、ステーブルコイン利回り論争が勃発。金融インフラ化が加速

ダボス会議2026、ステーブルコイン利回り論争が勃発。金融インフラ化が加速

2026年1月19日~23日にスイスのダボスで開催された世界経済フォーラム年次総会で、ステーブルコインとトークン化をめぐる議論が主要テーマの一つとして取り上げられた。

同総会では、ステーブルコイン専用セッションに加え、「Is Tokenization the Future?(トークン化は未来か?)」と題したパネルが開催され、Coinbaseのブライアン・アームストロングCEOやRippleのブラッド・ガーリングハウスCEO、Standard Charteredの関係者らが登壇した。

パネルでは、トークン化された実世界資産(RWA)やステーブルコインの役割をめぐって議論が展開された。その中で、アームストロングとフランス中央銀行総裁フランソワ・ヴィルロワ・ド・ガローの間で、ステーブルコイン保有者への利回り(イールド)提供の是非が主要論点となり、両者の主張の違いが注目を集めた。また、バミューダ政府はCircleとCoinbaseとのパートナーシップで世界初の完全オンチェーン国家経済化を発表した。

Zerohashの「2026 Stablecoin Momentum Report」は前年比690%の取引量増加、取引顧客数146%増、非米国ユーザー422%増を報告し、世界で14億のステーブルコイン対応アカウントが存在することを明らかにした。ビットコインが一時90,000ドルを下回る中、USDCは前年比108%成長を記録したと複数の市場レポートが伝えている。

From: 文献リンクStablecoins in Davos 2026: What Went Down

【編集部解説】

ダボス会議2026でステーブルコインが専門的なハイレベルセッションで取り上げられたことは、デジタル資産が「投機の対象」から「金融インフラ」へと位置づけが変化したことを象徴しています。2025年のダボスでは暗号資産関連のセッションが1つだけで、タイトルも「岐路に立つ暗号資産」という不確実性を強調したものでした。それがわずか1年で、2つの専門セッションが設けられ、中央銀行総裁や大手金融機関のCEOが同席する場になった変化は注目に値します。

議論の中心となったのが、ステーブルコイン保有者への利回り提供をめぐる論争です。CoinbaseのCEOブライアン・アームストロングは、利回りが消費者にとっての利益であり、米国の競争力を維持するために必要だと主張しました。一方、フランス中央銀行総裁フランソワ・ヴィルロワ・ド・ガローは、利回り付きステーブルコインが銀行システムから預金を奪い、金融安定性を損なうリスクがあると警告しています。

この対立は、単なる技術論争ではなく、金融システムの未来像をめぐる根本的な価値観の衝突を示しています。従来の銀行システムでは、預金者への利息支払いは銀行が融資やその他の金融サービスを提供することで得た収益の一部を還元する仕組みでした。しかし、ステーブルコインの発行者は準備金を米国債などで運用し、その利息収入を得ています。この収益を保有者に分配するかどうかは、ステーブルコインが「決済手段」なのか「金融商品」なのかという本質的な問いに関わります。

バミューダ政府による世界初の完全オンチェーン国家経済化の発表は、小規模経済における実験として重要な意味を持ちます。人口約6万5000人のバミューダは、カリブ海の島嶼国が直面する高額な決済手数料と限られた金融アクセスという構造的課題を抱えています。グローバル銀行によるデリスキング(リスク回避のための取引制限)により、これらの地域は従来の金融システムで不利な立場に置かれてきました。

バミューダの取り組みは2025年5月のパイロットプログラムから段階的に進められています。フォーラム参加者全員に100USDCをエアドロップし、地元加盟店で使用可能にした実験は、住民が実際にデジタル通貨を体験する機会を提供しました。Circleの発表によれば、2026年5月に開催予定の次回フォーラムでは、対象分野や参加規模を拡大する計画とされています。

国連機関へのステーブルコインベースの援助配布も、技術の実用性を示す重要な事例です。世界の人道支援システムは年間380億ドルを動かしていますが、従来の銀行システムに依存しているため、遅延やコスト、透明性の欠如といった問題を抱えています。UNHCRが2022年にウクライナの避難民へUSDCで援助を届けたパイロットプログラムでは、最大20%のコスト削減が実現されました。1月21日に発表されたCircle FoundationによるUN Digital Hub of Treasury Solutions(DHoTS)への助成金は、この取り組みを15の国連機関に拡大するものです。

Zerohashの「2026 Stablecoin Momentum Report」が示す数字は、実務レベルでの採用加速を裏付けています。取引量の前年比690%増、非米国ユーザーの422%増は、ステーブルコインが新興国や国境を越えた決済で実際に使われていることを示します。特に注目すべきは、取引回数が208%増加し、平均取引額が157%増加している点です。これは一時的なトレーディング需要ではなく、給与支払いや企業間決済といった日常的な金融業務での利用が増えていることを意味します。

しかし、楽観論だけではリスクを見落とします。ステーブルコインの急速な成長は、いくつかの潜在的な課題を伴います。

第一に、規制の不確実性です。米国のGENIUS Actや欧州のMiCAR規制は進展していますが、各国・地域で異なる規制が並立する状況は、グローバルな相互運用性を阻害する可能性があります。アームストロングがCLARITY Act草案への支持を撤回した背景には、銀行業界のロビー活動により暗号資産企業に不利な条件が盛り込まれたという認識があります。

第二に、準備金の透明性とペッグ維持の信頼性です。ステーブルコインは発行者が100%の準備金を保持していることが前提ですが、過去には一部のステーブルコインで準備金の不透明性が問題となった事例もあります。規制の強化によりこの点は改善されていますが、市場のストレス時にペッグが維持されるかは常に注視が必要です。

第三に、中央集権化のリスクです。主要なステーブルコインは特定の企業が発行しており、その企業の経営判断や規制当局の介入により、資金が凍結される可能性があります。実際、Tetherは過去に特定のウォレットを凍結した実績があります。これは検閲耐性を重視する暗号資産の理念と矛盾する側面です。

第四に、金融システムへの影響です。ヴィルロワ総裁が懸念するように、ステーブルコインが広く普及すれば、銀行システムから預金が流出し、金融仲介機能が弱まる可能性があります。特に金融危機時には、銀行預金からステーブルコインへの大規模な資金移動が起こり、銀行の流動性危機を引き起こすリスクがあります。

それでも、ステーブルコインが金融包摂と効率性において果たせる役割は無視できません。世界で約14億人が銀行口座を持たない中、スマートフォンさえあればアクセスできるステーブルコインは、金融サービスへの入り口となり得ます。国際送金の平均コストは送金額の約6%と言われていますが、ステーブルコインを使えばこれを大幅に削減できます。

ダボス2026は、ステーブルコインが「使われるかどうか」の議論から「どう使うか、どう規制するか」の議論へと移行した転換点として記憶されるでしょう。トークン化された実世界資産(RWA)の市場規模は、データトラッカーによれば約200〜230億ドル規模に達しており、McKinseyが2030年までに2兆〜4兆ドル市場になると予測する中、ステーブルコインはその基盤レイヤーとしての役割を担います。

今後数年間は、規制の明確化、技術的な相互運用性の向上、そしてユーザー体験の改善が進むと予想されます。しかし、金融システムの根幹に関わるイノベーションだけに、慎重な監視と柔軟な対応が求められる局面が続くでしょう。

【用語解説】

USDC(USD Coin)
Circleが発行し、Coinbaseが主要パートナーとして推進する米ドル連動型ステーブルコイン。1USDC=1米ドルの価値を維持するよう設計され、準備金は現金と米国債で100%裏付けられている。2025年Q3末時点で流通額は約737億ドルと報告されている。

ペッグ
ステーブルコインの価値を特定の法定通貨(通常は米ドル)に固定すること。1対1の交換比率を維持するため、発行者は同額の準備金を保有し、需給バランスを調整する。

総ロックバリュー(TVL / Total Value Locked)
特定のブロックチェーンプロトコルやアプリケーションにロックされている資産の総額。DeFi(分散型金融)やトークン化プラットフォームの規模を測る指標として使われる。

GENIUS Act
米国のステーブルコイン規制として2025年に成立した法律。完全準備金の裏付けと定期的な監査を義務付け、ステーブルコイン発行者に対する明確な規制枠組みを提供することを目的としている。

MiCAR(Markets in Crypto-Assets Regulation)
欧州連合が2023年に採択した暗号資産市場規制。ステーブルコインの発行、運用、保管に関する統一的な規制枠組みを提供し、2024年から段階的に施行されている。

CLARITY Act
米国で提案されている暗号資産の市場構造に関する法案。デジタル資産の分類、証券規制の適用範囲、DeFiの扱いなどを明確化することを目的としているが、業界内で議論が続いている。

【参考リンク】

Circle(外部)
USDCとEURCを発行する世界的な金融テクノロジー企業。ステーブルコイン、決済ネットワーク、ブロックチェーンインフラを提供する。

Zerohash(外部)
規制された金融機関向けにステーブルコインとデジタル資産インフラを提供するプラットフォーム。190カ国以上で展開。

世界経済フォーラム(World Economic Forum)(外部)
スイスに本部を置く国際機関。毎年1月にダボスで年次総会を開催し、グローバルな課題について議論する。

UNHCR(国連難民高等弁務官事務所)(外部)
国連の難民支援機関。2022年からUSDCを使った人道支援のパイロットプログラムを開始した。

Ripple(外部)
国際送金ソリューションを提供するブロックチェーン企業。銀行や金融機関向けに高速・低コストの決済サービスを提供。

Standard Chartered(外部)
英国に本拠を置く多国籍銀行。アジア、アフリカ、中東を中心に事業を展開し、デジタル資産に積極的。

【参考記事】

zerohash Releases The 2026 Stablecoin Momentum Report(外部)
取引量前年比690%増、顧客数146%増、非米国ユーザー422%増。106カ国で利用され14億アカウント存在。

Circle Foundation and United Nations Aid Agencies Partner(外部)
DHoTSへの助成を発表。年間380億ドルの人道支援を効率化。最大20%のコスト削減実現。

Bermuda Plans to be the First Fully Onchain National Economy(外部)
世界初の完全オンチェーン国家経済化を発表。2025年5月に100USDCエアドロップ実施。

Davos debate turns heated as Coinbase’s Armstrong defends stablecoin yield(外部)
アームストロングCEOと仏中銀総裁が利回り付きステーブルコインをめぐって激論を展開。

Davos 2026: Crypto Debate Shifts from ‘If’ to ‘How’(外部)
2025年は1セッション「岐路に立つ暗号資産」のみ。2026年は2つの専門セッション開催。

Is Tokenization the Future? | World Economic Forum(外部)
パネル詳細記録。RWAのTVL210億ドル超。McKinseyは2030年に2〜4兆ドル市場と予測。

【編集部後記】

ステーブルコインをめぐる議論が「使えるか」から「どう使うか」へ移行した今、私たち一人ひとりがこの変化とどう向き合うかが問われているように思います。利回り付きステーブルコインは便利な金融商品でしょうか、それとも銀行システムを揺るがすリスクでしょうか。

バミューダの実験は、私たちの暮らす社会にどんな示唆を与えるのでしょうか。答えは一つではないはずです。みなさんは、デジタル通貨が日常の決済手段になる未来をどう感じますか。ぜひご自身の視点で考えてみてください。

投稿者アバター
TaTsu
『デジタルの窓口』代表。名前の通り、テクノロジーに関するあらゆる相談の”最初の窓口”になることが私の役割です。未来技術がもたらす「期待」と、情報セキュリティという「不安」の両方に寄り添い、誰もが安心して新しい一歩を踏み出せるような道しるべを発信します。 ブロックチェーンやスペーステクノロジーといったワクワクする未来の話から、サイバー攻撃から身を守る実践的な知識まで、幅広くカバー。ハイブリッド異業種交流会『クロストーク』のファウンダーとしての顔も持つ。未来を語り合う場を創っていきたいです。

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