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牛の起立困難をAIが予防—「BUJIDAS(ブジダス)」、60年の老舗・近江牛牧場で導入スタート

[更新]2026年3月17日

2026年3月15日、NTTテクノクロス株式会社(本社:東京都港区)と株式会社ベルシステム24(本社:東京都港区)が共同提供する牛の起立困難予防サービス「BUJIDAS」が、滋賀県蒲生郡竜王町の有限会社岡喜牧場に導入されたことが発表された。

BUJIDASは、AIカメラで牛舎を24時間365日監視し、起立困難につながる危険な姿勢を検知すると音を発報することで姿勢変更を促す、日本初の非接触型サービスである(特許出願済)。センサーの装着は不要で、複雑な設定も必要としない。岡喜牧場は滋賀県竜王町で約60年にわたり黒毛和牛の肥育を行い、地域ブランド「岡喜和牛」を展開する。

起立困難とは、牛の体内で異常発生したガスが横隔膜を圧迫し、呼吸困難・起立不能になる事故である。

From: 文献リンク近江牛を厳選飼育する「岡喜牧場」、牛の起立困難予防声かけAIサービス「BUJIDAS」を導入

【編集部解説】

「BUJIDAS(ブジダス)」という名前はご存知でしょうか。NTTテクノクロスとベルシステム24が2024年4月に提供を開始した、日本初の牛の起立困難予防AIサービスです。今回のニュースは、その導入事例として新たに滋賀県の岡喜牧場が加わったことを伝えるものですが、この技術が持つ意味はひとつの牧場の話に留まりません。

「起立困難」は、牛の体内で異常発生したガスが横隔膜を圧迫し、呼吸困難・起立不能に陥る事故です。特に出荷前の5ヶ月間に多く発生しやすいという特性があり、発見が遅れると死亡につながる深刻な事故です。従来は人の目による夜間を含む定期見回りで対応するしかなかったため、農家の肉体的・精神的な負荷は相当なものでした。

BUJIDASが採用したアプローチは「音で牛を起こす」という、シンプルかつ非接触な発想です。AIカメラが危険な姿勢を検知すると特殊音を発報し、牛が自ら姿勢を直すよう促します。センサーを装着する必要がなく、牛にも人にもストレスを最小化できる点が、現場から高く評価されている最大の理由です。実際に先行導入牧場「きたやつファーム」では、導入後に起立困難による死亡事故がゼロになったという報告もあります。

技術の仕組みをもう少し深掘りすると、AIは導入時に「その牧場の牛の危険な姿勢映像」をアノテーション(データ注釈)によって個別チューニングされます。牛の体型や牛舎の環境は農場ごとに異なるため、汎用モデルではなく個別最適化されたAIとして機能する点が精度向上のカギです。さらにベルシステム24の人的サポートセンターが24時間365日バックアップする「人とAIのハイブリッド監視」体制が取られています。

アニマルウェルフェア(動物福祉)の観点からも、このサービスは時代の要請に応えています。EUを中心に家畜の福祉規制は強まっており、日本でも畜産分野における動物への配慮が問われ始めています。非接触・非拘束でストレスを与えずに管理できる技術は、今後の規制環境においても競争優位になり得ます。

一方で、潜在的なリスクも忘れてはなりません。プレスリリース自体が「起立困難の発生を100%防げるものではない」と明記しているように、AIによる姿勢検知に限界があることは認識が必要です。誤検知が重なれば牛が音に慣れ(脱感作)、本来の予防効果が薄れるリスクも理論上は存在します。サービス側の継続的なモデル改善と現場のフィードバック連携が、長期的な有効性を左右するでしょう。

グローバルに目を向けると、精密畜産(Precision Livestock Farming)市場は2025年時点で約79.4億ドル規模と推計されており、2025〜2030年のCAGRは8.8%と予測されています。さらにAIに特化した精密畜産分野に限れば、2025年の市場規模は約27億ドルで、2026年には約34.5億ドル(CAGR 27.9%)へ急成長するとの試算もあります。BUJIDASが切り開こうとしている「AIが現場を支える畜産経営」は、日本国内の文脈だけでなく、世界規模のスマート農業トレンドのど真ん中に位置します。

日本の畜産業は深刻な担い手不足に直面しており、高齢化が進む農村では「24時間見回れる人材」の確保はほぼ不可能に近い状態です。BUJIDASのような技術は、単なる効率化ツールではなく日本の畜産業を存続させるためのインフラとして捉え直す必要があります。今後、AI解析データを活用した疾病予兆検知や飼育環境の最適化へと機能が拡張されていけば、「牛舎の主治医」としてのAIが現実のものとなるでしょう。

【用語解説】

起立困難
牛の体内で異常発生したガスが横隔膜を圧迫し、呼吸困難・起立不能に陥る事故のこと。出荷前の5ヶ月間に多く発生しやすく、発見が遅れると死亡に直結する深刻な事故である。

アノテーション(データ注釈)
AIに「何が正解か」を教え込む作業のこと。BUJIDASでは、導入する牧場固有の牛の危険な姿勢映像を人の手でラベリングし、その環境に合わせてAIの判定精度を個別チューニングするために使用される。

アニマルウェルフェア(動物福祉)
家畜に対してストレスや痛みを最小限に抑え、動物本来の行動欲求を満たす飼育管理の考え方。EUを中心に規制が強化されており、日本の畜産分野でも対応が求められ始めている概念である。

脱感作
繰り返し同じ刺激を受け続けることで、生体がその刺激に反応しなくなる現象。BUJIDASが発する音に牛が慣れてしまうと予防効果が薄れるリスクとして挙げられる。

【参考リンク】

NTTテクノクロス株式会社(外部)
NTTの研究所技術を軸に先端技術を組み合わせ、コンサルティングから開発・運用保守まで一貫提供するソフトウェア企業。

株式会社ベルシステム24(外部)
1982年創業の日本初コールセンター企業。高度な人材力と技術を融合し、BUJIDASの24時間監視業務を担当するBPO企業。

BUJIDAS(ブジダス)公式サービスページ(外部)
日本初・特許出願済みの牛の起立困難予防AIサービスの公式ページ。導入フロー・事例・問い合わせ先を掲載している。

ベルシステム24|BUJIDAS導入事例(きたやつファーム)(外部)
ベルシステム24公式のBUJIDAS導入事例ページ。先行導入後に起立困難による死亡事故がゼロになった実績を紹介。

株式会社アイ・オー・データ機器(外部)
1976年創業の石川県金沢市の電子機器メーカー。BUJIDAS採用の防塵・防水対応カメラ「TS-NA230WP」の製造元。

【参考動画】

【参考記事】

AI In Precision Livestock Farming Market 2026(The Business Research Company)(外部)
AI精密畜産市場を分析。2025年に27億ドル・2030年に80億ドル超、CAGR27.9%の急成長を予測したレポート。

Precision Livestock Farming Market Size, Share, Trends(MarketsandMarkets)(外部)
精密畜産市場全体を分析。2025年に79.4億ドル、2030年まで年平均8.8%成長を予測した市場調査レポートのページ。

AI for Livestock Monitoring: Enhancing Animal Welfare and Farm Productivity(Picsellia)(外部)
AIカメラによる家畜モニタリングを解説する技術記事。姿勢検知・疾病予兆などBUJIDASと共通するアプローチを紹介。

CattleEye | Autonomous Livestock Monitoring(外部)
英国発の自律型AI家畜モニタリングサービス。ウェアラブル不要のカメラAI方式で世界25万頭超に導入されている。

Artificial Intelligence (AI) in Precision Livestock Farming Market(Yahoo Finance UK)(外部)
AI精密畜産市場の成長予測を報告する2026年1月掲載の調査レポート。疾病検知・繁殖管理など活用領域を詳細に分析。 

【編集部後記】

AIが牛を「見守る」時代が、静かにやってきています。深夜に一人で牛舎を見回る酪農家の姿を想像すると、この技術が単なる効率化ではなく、人の不安や孤独にも寄り添うものだと感じます。

「動物の福祉」と「人の働き方」が同時に問われるこの分野に、テクノロジーはどこまで応えられるのでしょうか。私たちも一緒に、この問いを抱えながら追いかけていきたいと思っています。

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TaTsu
『デジタルの窓口』代表。名前の通り、テクノロジーに関するあらゆる相談の”最初の窓口”になることが私の役割です。未来技術がもたらす「期待」と、情報セキュリティという「不安」の両方に寄り添い、誰もが安心して新しい一歩を踏み出せるような道しるべを発信します。 ブロックチェーンやスペーステクノロジーといったワクワクする未来の話から、サイバー攻撃から身を守る実践的な知識まで、幅広くカバー。ハイブリッド異業種交流会『クロストーク』のファウンダーとしての顔も持つ。未来を語り合う場を創っていきたいです。

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