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東急・東急電鉄・イッツコム・東急建設の4社が都市型データセンター実証を開始へ

[更新]2026年3月25日

毎朝あなたが乗り込む電車の高架下に、生成AIを支えるデータセンターが静かに息づく——そんな未来が、2026年6月に動き出す。東急グループが仕掛ける「街のインフラをデジタルインフラへ」という実験は、都市とテクノロジーの関係を根本から問い直す試みだ。


東急株式会社、東急電鉄株式会社、イッツ・コミュニケーションズ株式会社、東急建設株式会社の4社は、2026年3月23日、鉄道高架下における都市型データセンターの導入検討に関する実証実験を2026年6月から開始すると発表した。

実証実験は大井町線高架下で実施し、モジュール型小規模データセンターを設置する。測定項目は、鉄道高架下特有の環境下でのサーバーへの影響、および筐体の遮音・断熱・免振・冷却性能である。東急線沿線に既設の大容量光ファイバーネットワークを活用し、将来的には渋谷を含む東急線沿線へのデータセンター設置を視野に入れる。

筐体部の技術サポートに日東工業株式会社、断熱建材の技術サポートにタイガー魔法瓶株式会社が参画する予定だ。

From: 文献リンク都市型データセンターの導入検討に関する実証実験を開始します|東急株式会社

【編集部解説】

生成AIやIoT、5Gの普及が加速するなか、データを処理するインフラへの需要は世界規模で急膨張しています。国際エネルギー機関(IEA)の試算によれば、世界のデータセンターの電力消費量は2026年には2022年比で2倍以上に増加する見込みです。日本も例外ではなく、資源エネルギー庁は2034年度にかけて電力需要が増加すると予測を上方修正しており、その主因のひとつがまさにデータセンターの新増設です。

問題は、需要が爆発する一方で「どこに建てるか」が深刻な課題になっている点です。都市部では用地確保が課題となりやすく、郊外・地方では電力・通信インフラ整備に時間を要する場合があります。加えて日本では、新規の系統接続申請から電力供給承諾まで時間を要するケースも報告されており、インフラ整備のスピードがビジネスの速度に追いつけていない状況です。

そこに東急グループが打ち出したのが、「すでに都市に存在する空間と回線」を組み合わせるという発想です。鉄道高架下という一見すると特殊な立地ですが、イッツ・コミュニケーションズが東急線沿線に既設する大容量光ファイバー網を直接使えるという点は、東急グループ固有の強みと言えるでしょう。土地を取得せず、既存インフラを活かしてデータ処理拠点を都市の中に分散配置する——この発想は、世界的に注目されているエッジデータセンターの考え方と親和性があります。

エッジデータセンターとは、データが生まれる場所の近くに小規模な処理拠点を置く考え方です。大規模な集中型センターに比べ、ネットワークの遅延低減が期待できます。AIを使ったリアルタイム処理——たとえば店舗の来客分析、交通信号の最適制御、スマートビルの自動管理——は、このわずかな遅延の差が品質を左右すると言っても過言ではありません。渋谷エリアを含む東急線沿線に処理拠点が分散されれば、沿線の商業施設や再開発エリアでそうした次世代サービスの基盤となり得るでしょう。

一方で、今回はあくまで「実証実験」の段階です。鉄道高架下という環境は、列車の通過による振動・騒音・温度変化など、一般的なデータセンター立地とは異なる条件があります。遮音・断熱・免振・冷却性能の測定が実験の主眼とされているのは、今後の実用化検討における重要な評価項目と考えられているからでしょう。実証が予定どおり進んだとしても、本格展開までには相応の時間と検証が必要であり、現時点での過度な期待は禁物でしょう。

また、データセンターは電力を大量消費する施設でもあります。都市型・分散型のアプローチは、送電ロスの低減や再生可能エネルギーとの地産地消の観点でポテンシャルを持ちますが、今回の発表にはエネルギー調達の方針や環境負荷への言及がありません。今後の展開において、脱炭素との両立をどう示していくかは重要な論点になるはずです。

規制面でも目が離せません。データセンターの系統接続や立地誘導については、経済産業省を中心に議論が進んでおり、「ウェルカムゾーンマップ」による電力供給可能エリアの可視化も進んでいます。都市型・分散型のデータセンターは、こうした政策議論と一定の接点があり、行政との連携が進むことで実証から実装への道筋が開ける可能性もあります。

鉄道事業者がまちづくりの延長としてデジタルインフラを担うという構造は、日本独自の沿線開発モデルとグローバルなエッジコンピューティングのトレンドが交差した事例と言えるでしょう。この実証が成功すれば、他の鉄道事業者や不動産事業者が類似モデルを追う可能性もあり、都市のデジタル基盤のあり方そのものに一石を投じる取り組みとして注目されます。

【用語解説】

エッジデータセンター
データが生成・消費される場所の近くに設置する小規模な処理拠点。大規模な集中型センターにデータを送らず現地で処理するため、通信の遅延を低減できる。スマートシティや自動運転、リアルタイムAI処理のインフラとして注目されている。

AI推論(インファレンス)
学習済みのAIモデルを使い、実際のデータに対して判断・予測を行うプロセス。AIの「学習」は大規模な集中型センターで行われるが、「推論」はリアルタイム性が求められるため、エッジに近い場所での処理が求められるケースが増えている。

【参考リンク】

東急株式会社 公式サイト(外部)
鉄道・不動産・ホテルなど多岐にわたる事業を展開する東急グループの中核企業。渋谷エリアの都市開発を主導する。

東急建設株式会社 公式サイト(外部)
東急グループの総合建設会社。鉄道関連工事に独自技術を持ち、今回の実証実験の主体的な実施者を担う。

イッツ・コミュニケーションズ株式会社 コーポレートサイト(外部)
東急グループの放送・通信企業。東急線沿線に大容量光ファイバー網を保有し、今回の通信インフラを担当する。

日東工業株式会社 公式サイト(外部)
キャビネット・分電盤・システムラックなどを手がける電気機器メーカー。筐体部の技術サポートを提供する。

タイガー魔法瓶株式会社 公式サイト(外部)
「真空断熱技術」を住宅・医療・宇宙など産業用途にも展開する総合メーカー。断熱建材の技術サポートを担当する。

【参考記事】

Japan’s Data Center Market Surges Despite Hurdles(外部)
EYレポートを引用し、日本のDC市場が2026年に$30 billion(CAGR 6.5%)に達すると予測。Ares Managementによる$2.4 billionの大型調達事例なども紹介する。

IEA『Electricity 2025』徹底解説 電力爆増時代とデータセンターという本丸(外部)
世界のDC・AI・暗号資産の電力消費量が2026年に最大1,050 TWhへ倍増以上になるとのIEA試算と、日本の送電網課題を詳述する。

データセンター市場動向2025 ~電力問題と、社会基盤としてのデータセンターの今後(外部)
Equinixの売上高22億2,500万ドル(前年同期比5%増)など大手の業績を軸に、AIファクトリー構想の広がりを分析する。

AI Edge Data Centers: Powering Real-Time AI(外部)
CBREの2025年レポートを引用し、建設中の全容量の74.3%が事前リース済みであるなど、エッジDC市場の転換を解説する。

How AI is Reshaping Japan’s Data Center Industry(外部)
EdgeConneXが大阪・神戸地区に200MW超のモジュール型DCを投入した事例など、日本のエッジAIインフラの最前線を伝える。

【関連記事】

ProEnergy、退役航空機エンジンをAIデータセンター電源に転用
データセンターの電力不足という、今回の記事と根底でつながる課題を扱った記事です。アプローチは異なりますが、「AIインフラをどう支えるか」という問いを共有しており、あわせて読むことで課題の全体像がより立体的に見えてきます。

【編集部後記】

毎朝乗っている電車の高架下が、データセンターになる。この発想の面白さは「どこに建てるか」という問いを根本から変えたところにあります。

ふと思うのですが、日本全国で老朽化が叫ばれる下水道やガス管、電線といったインフラも、共同溝として地下空間にまとめて整備しつつ、その余剰空間をデータセンターとして活用する——そこから得られる収益をインフラ維持費に充てる、なんてモデルは夢想が過ぎるでしょうか。「デジタルインフラの収益で物理インフラを支える」という逆転の発想、どこかで誰かがすでに考えていそうで気になっています。

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omote
デザイン、ライティング、Web制作を行っています。AI分野と、ワクワクするような進化を遂げるロボティクス分野について関心を持っています。AIについては私自身子を持つ親として、技術や芸術、または精神面におけるAIと人との共存について、読者の皆さんと共に学び、考えていけたらと思っています。

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