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ダニー・ボイル×iPhone|『28年後…』20台リグ撮影が切り開くハリウッドの新時代

 - innovaTopia - (イノベトピア)

Last Updated on 2025-07-29 17:06 by 乗杉 海

ダニー・ボイル監督の新作ホラー映画『28年後…』が、iPhone 15 Pro Maxを主要カメラとして撮影される、予算7500万ドル規模の大型ブロックバスター映画となることが明らかになった。

ソニーが5月30日(現地時間、日本時間5月31日)にIGN経由で発表した情報によると、予算7500万ドルの『28年後…』は2024年夏にiPhone 15 Pro Maxを主要カメラとして撮影された。同作品は『28日後…』(2002年)と『28週後…』(2007年)の続編である。撮影には最大20台のiPhoneが同時に使用され、「バレットタイム」に似た撮影技法が採用された。制作陣はアップルから直接技術支援を受けており、カスタムリグ、アルミニウムケージ、レンズアタッチメントなどの追加機材も使用された。

映画は通常IMAXやウルトラパナビジョン70mmに使用される2.76:1のフルワイドスクリーン形式で制作されている。ボイル監督は20台のiPhoneリグにより180度の視野を得られ、編集時に従来の1カメラ視点から瞬時に現実を回り込む視点まで様々な選択肢から選べると説明している。過去にダニー・ボイル監督作品でアカデミー撮影賞を受賞したアンソニー・ドド・マントルが、オリジナル作品に続き本作でも撮影監督として復帰している。

過去にはショーン・ベイカーの『タンジェリン』(2015年)やスティーヴン・ソダーバーグの『アンセイン』(2018年)などがiPhoneで撮影されているが、これらは比較的小規模な公開の低予算作品であった。『28年後…』はアレックス・ガーランド脚本による新三部作の第一作となる予定で、キリアン・マーフィーの復帰も予定されている。出演者にはジョディ・カマー、アーロン・テイラー=ジョンソン、ラルフ・ファインズが含まれる。公開日は2025年6月20日である。

from:文献リンクFilmmakers Used 20 iPhones at Once to Shoot ’28 Years Later’ | MacRumors

【編集部解説】

『28年後…』におけるiPhone撮影の採用は、映画制作技術の重要な転換点となる可能性を秘めています。この映画の成功によって映像業界に大きな影響を与えるかもしれません。

iPhone撮影の最大のメリットは機動性と効率性です。iPhone 15 Pro Maxは4K撮影、ProRes録画、優れた手ぶれ補正機能を搭載し、プロ用カメラに近い画質を実現します。特に重要なのは設置時間の大幅な短縮で、従来の大型カメラでは準備に長時間を要する複雑なシーンも、iPhoneなら迅速にセットアップできます。これにより撮影効率が向上し、演技者により多くの練習時間を提供できるのです。

20台のiPhone同時撮影システムは技術的に革新的です。180度の視野を確保し、編集時に多様な視点から最適なカットを選択できるため、従来の「バレットタイム」効果を大幅に低コストで実現できます。また、iPhoneの軽量性により、演技者の至近距離での撮影や、従来のカメラでは物理的に困難な角度からの撮影が可能になります。

最新シネマカメラではなくiPhoneを選択した理由は多面的です。まず、シリーズの一貫性への配慮があります。オリジナル作品『28日後…』がキヤノンXL-1というコンシューマー向けカムコーダーで撮影された歴史を踏まえ、現代のコンシューマー技術であるiPhoneを使用することで、シリーズの美学を継承しながら技術的進歩を示しています。

ホラー映画における臨場感の創出も重要な要因です。iPhone撮影により得られる機動性は、観客をアクションの中に引き込む没入感を生み出すのに適しています。さらに、7500万ドルという予算内で最大限の効果を実現するには、効率的な撮影手法が必要でした。

今後の映像業界での普及については、段階的な展開が予想されます。これまでのスティーヴン・ソダーバーグやショーン・ベイカーによるiPhone映画は低予算のインディペンデント作品でしたが、『28年後…』が商業的に成功すれば、メジャースタジオがスマートフォン撮影を本格検討する契機となるでしょう。

ただし、技術的制約も認識する必要があります。低照度環境での性能、色彩の深度、レンズの交換性などは、依然として従来のシネマカメラが優位性を保持しています。また、大画面上映時には画質の差が顕著になる可能性もあります。現段階では、特定の作品コンセプトや撮影条件に適した選択肢としてiPhoneが位置づけられると考えられます。

最も重要な意義は映画制作の民主化促進です。高額機材への依存度を下げることで、より多くのクリエイターが質の高い映像作品を制作できる環境が整備されつつあります。しかし、音響収録、照明設計、編集技術などの他の制作要素では従来通りのプロフェッショナルなアプローチが必要であり、機材の進歩だけでは映画の質は決まらないという事実も同時に示されています。

『28年後…』の興行成績と批評的評価によっては、映像制作業界における機材選択の基準が根本的に変化する可能性があり、業界全体の注目が集まっています。

【用語解説】

ProRes
アップルが開発したプロフェッショナル向け動画コーデック。高品質な映像データを効率的に圧縮し、編集時の画質劣化を最小限に抑える。映画やテレビ制作で広く使用されている業界標準規格の一つ。

バレットタイム
映画『マトリックス』で有名になった撮影技法。被写体の周囲に複数のカメラを配置し、時間を止めたような状態で視点を移動させる視覚効果を生み出す。通常は高額な専用機材が必要だが、iPhone複数台での実現が可能になった。

2.76:1ワイドスクリーン
映画の画面比率の一種。通常のテレビ画面(16:9)よりもさらに横長で、IMAX映画館やウルトラパナビジョン70mmフィルムで使用される。臨場感と没入感を高める効果がある。

MiniDV
2000年代初頭に普及したデジタルビデオテープ規格。小型カセットテープにデジタル映像を記録する方式で、当時のコンシューマー向けカムコーダーで広く使用された。

480p標準画質
解像度が720×480ピクセルの映像規格。現在の4K(3840×2160)やフルHD(1920×1080)と比較すると大幅に低解像度だが、2000年代初頭のデジタル映像の標準的な品質だった。

【参考リンク】

Apple公式サイト(外部)
アップル製品の最新情報、技術仕様、機能説明を提供。iPhone 15 Pro Maxの映像撮影機能やProRes対応についても詳細な情報が掲載されている。

Sony Pictures公式サイト(外部)
映画製作・配給を手がける大手エンターテインメント企業。『28年後…』の配給権を獲得し、製作・宣伝活動を担当している。

IGN(外部)
ゲーム・映画・エンターテインメント分野の大手メディア。今回のニュースの原典となるダニー・ボイル監督へのインタビューを実施し、詳細な撮影技法について最初に報道した。

MacRumors(外部)
アップル製品専門の情報サイト。アップル関連の最新ニュース、製品情報を幅広くカバーし、技術的な解説記事も充実している。本記事の主要な情報源。

【参考動画】

【参考記事】

’28 Years Later’ used 20 iPhones in tandem for some wild shots | Engadget
3種類のiPhoneリグ(8台、10台、20台構成)の具体的な使用方法と、ダニー・ボイル監督の「貧者のバレットタイム」というコメントについて詳報。

’28 Years Later’ Was Filmed Using 20 iPhones at Once | PetaPixel
オリジナル作品との撮影手法の比較と、iPhone撮影による臨場感創出の技術的側面、専用リグや追加機材の詳細について解説。

Here’s Why Danny Boyle Shot ’28 Years Later’ on an iPhone 15 | No Film School
iPhone 15 Pro Maxを選択した技術的背景、カスタムリグの仕様、従来のスマートフォン映画制作との違いについて専門的な視点から分析。

Danny Boyle’s 28 Years Later Was Shot on an iPhone—Here’s How They Did It | SimplyMac
映画祭でのスマートフォン撮影作品の評価動向と、業界専門家による今後10年間の技術発展予測について詳細に論述。

【編集部後記】

あの悪夢が帰ってきます。全力疾走で襲いかかる感染者の恐怖を覚えていますか?私は「28日後…」も「28週後…」も大好きな映画なのですが、血走った目で走ってくるゾンビの姿は、トラウマ級の恐怖体験として今でもハッキリ覚えています。そんな「走るゾンビ」というジャンルを確立した伝説的作品が、なんと約20年ぶりに復活。
しかも今回の撮影機材は、私たちが普段持ち歩いているiPhone。ハリウッド級の映像がスマートフォンで生み出される時代の到来を、この作品が証明しようとしています。果たしてiPhoneのカメラは、あの息詰まる緊張感と絶望的な恐怖を再現できるのか?最新技術と伝統的な恐怖演出の融合に、期待と不安が入り混じります。日本公開は6月20日。懐かしさと最新技術への好奇心を胸に、映画館に足を運んでみませんか?

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まお
おしゃべり好きなライターです。趣味は知識をためること。

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