SpaceXはテキサス州ボカチカおよびフロリダ州ケネディ宇宙センター近郊で、それぞれ同規模の「Gigabay」建設を進めており、最終的にスターシップを年間365機体制へと引き上げる計画を掲げている。
フロリダGigabayは既存のMegabayと比較し、床面積11倍・ワークセル19セル多い設計。
2025年1月31日公開のFAA文書およびSpaceXの2025年3月3日発表によれば、フロリダGigabayも同様の寸法と構成で計画され、2026年末完成を目指す。
2025年5月30日(現地時間、日本時間5月31日)には、イーロン・マスクがGigabayを年間1,000機級のスターシップ格納・生産施設とする構想を語り、将来的な大規模量産ビジョンが示された。
Gigabay完成後の生産ロードマップとして、2026年末には年間20~50機体制、同年後半には単独で週1機ペースを見込み、2027年には「3~4日に1機」相当の90~120機、2028年には200~300機体制へと段階的に増強する計画である。また、スーパーヘビー・ブースター生産は2026年に5~10基、2027年に10~15基、2028年に15~25基を想定している。
from:SpaceX Gigabay Will Help Increase Starship Production to Goal of 365 Ships Per Year | Nextbigfuture
【編集部解説】
Gigabay計画はテキサスとフロリダの両拠点で進行しており、公式アップデートでフロリダ版の寸法が先行公開された点が注目されます。テキサス版と同数値が並行して報じられていることから、SpaceXは両地域で同一設計の大規模垂直統合施設を展開し、量産性を飛躍的に高める戦略と考えられます。
一方、イーロン・マスクが示した「年間1,000機規模」の構想には、2028年に目指す「200~300機」体制を大きく上回る数値が見られます。これは最終的な技術成熟と追加Gigabay建設を見据えた中長期ビジョンであり、現行のロードマップとは別の理想値として理解すべきでしょう。
生産効率化の鍵を握る垂直統合工法は、搬入から最終検査までを一貫実施できるため、従来工法に比べて組立時間とコストの削減効果が期待されます。加えて、FAAの環境影響評価や米魚類野生生物局との協議が並行して進行しており、許認可プロセスの完了が今後の稼働スケジュールに影響を与える点は押さえておくべきです。
長期的には、Gigabay群の稼働によってスターシップを活用したスターリンク衛星打ち上げやアルテミス計画、火星ミッションといった複数プロジェクトに即応可能な量産体制が整う見込みです。これによりロケット打ち上げのコスト低減と打ち上げ頻度の増加が実現し、宇宙産業全体への波及効果が一層高まるでしょう。
【用語解説】
垂直統合施設:部材搬入から最終組立・検査・整備までを一カ所で行う製造方式。搬送を減らし、一貫生産で効率を高める。
ワークセル:製造ライン内の個別作業ステーション。組立、溶接、整備などを行い、同時並行処理能力を示す。
スーパーヘビー・ブースター:スターシップの第1段ロケット。液メタン/液酸エンジンを最大33基搭載し、再着陸・再利用が可能。
【参考リンク】
SpaceX Updates(外部)SpaceX公式の最新ニュースや開発進捗を掲載するアップデートページ。
NASA Artemis Program(外部)月面着陸再挑戦「アルテミス」計画の概要と進捗をまとめた公式情報。
【参考動画】
【参考記事】
SpaceX Announces Major Expansion In Florida | Florida Media Now
ケネディ宇宙センター近隣への1.8億ドル規模Gigabay建設計画とフロリダ拠点展開を報じる。
SpaceX works to expand rocket facilities along Florida’s Space Coast | FoxWeather
FAAの環境影響評価プロセスやフロリダGigabay計画の詳細を詳述。
SpaceX scales up Starfactory, aiming to build a Starship a day | New Atlas
スターファクトリーの自動化ラインやVersion 2設計改善点を解説。
【編集部後記】
SpaceXのGigabay計画を調査していて最も印象的だったのは、「1日1機」という数字の持つ意味の大きさでした。全長120メートル級の巨大ロケットを毎日1機ずつ完成させるという発想は、まさに「常識の再定義」と言えるでしょう。特に興味深いのは、SpaceXが単なる「大量生産」ではなく「垂直統合」にこだわっている点です。部品調達から最終組立まで一貫して自社で手がけることで、品質管理と納期短縮を両立させる——これは日本の製造業が長年培ってきた「モノづくり哲学」と通じるものがあります。年間365機という数字が現実になった時、打ち上げコストの劇的な低下により、これまで夢物語だった宇宙ビジネスが身近になり、私たちの生活にも直接的な変化をもたらすはずです。Gigabayは単なる工場ではなく、人類の宇宙進出を加速させる「未来への扉」なのかもしれません。