ChatGPT・Gemini・Copilotが選ぶ「史上最もキャッチーな曲」──AIと脳科学が解明するヒットの法則

 - innovaTopia - (イノベトピア)

12月4日、CNETはAIチャットボットと人間の専門家に対し「最もキャッチーな曲」に関する調査を行った。2014年に英国マンチェスター科学産業博物館が12,000人以上を対象に実施した調査では、Spice Girlsの「Wannabe」が最も認識されやすく、Lou Begaの「Mambo No. 5」がで2位だった。今回、ChatGPT、Gemini、Copilotにリスト作成を求めたところ、3つのAI全てが「Wannabe」を選出し、リストの一部が重複した。ChatGPTはBPM100から120のテンポが人間に適していると分析した。一方、ニュージャージーで35年のキャリアを持つDJのMark PomeroyはBon Joviの「Livin’ on a Prayer」を、アトランタのSloan LeeはTikTokで再流行したFleetwood Macの「Dreams」などを挙げ、現場での反応を重視した。

From: 文献リンクAI Has Officially Solved the Debate Over the Catchiest Songs Ever

【編集部解説】

今回のニュースは、一見すると「AIが選ぶプレイリスト」というエンターテインメントの話題に見えますが、これを「感性の数値化」および「計算論的音楽学(Computational Musicology)」の進化という文脈で捉えるべきだと考えます。2014年のマンチェスター科学産業博物館による研究は、単に人間が楽曲を「認知する速度」を測定したものでしたが、生成AIが行っているのは、膨大な楽曲データからの「ヒットの法則」の逆算です。

AIが「キャッチーさ」を定義する際、主にBPM(テンポ)、音響的な明るさ、歌詞の繰り返し頻度、そしてコード進行の予測可能性といったパラメータを解析しています。Spotifyなどのストリーミングサービスですでに実装されているように、AIは私たちの聴取履歴から「次に聴きたくなる曲」を予測する精度を極めて高いレベルまで引き上げています。これは、人間の脳が音楽を聴いた際に分泌するドーパミンのトリガーを、アルゴリズムが特定しつつあることを意味します。

しかし、この記事で興味深いのは、AIと人間のDJとの間に依然として存在する「乖離」です。AIはデータ上の「正解」であるスパイス・ガールズの『Wannabe』を導き出せますが、現場の「空気感(Vibe)」や、その瞬間のソーシャルメディアのトレンド(例えばTikTokでの流行)という動的なコンテキストを完全には理解しきれていません。記事内で紹介された人間のDJが語るように、音楽の魅力は「記憶」や「体験」と深く結びついており、単なる波形の分析だけでは捉えきれない部分が残されています。

また、権利関係の課題も忘れてはなりません。元記事内でも触れられていますが、2025年4月にCNETの親会社であるZiff DavisがOpenAIを著作権侵害で提訴したように、AIの学習データの正当性は、2025年末現在においても議論の中心にあります。AIが「キャッチーな曲」を学習し、それを模倣して新たなヒット曲を自動生成するようになったとき、その創造性の源泉となる権利は誰に帰属するのでしょうか。

私たち人間が「不意打ち」で心を奪われる体験には、データには表れない「ノイズ」や「意外性」が含まれています。テクノロジーが進化するほど、逆説的に「計算不可能な熱狂」の価値が再認識されるのかもしれません。このニュースは、AIが芸術の領域に踏み込む中で、私たちが「感動」の主導権をどう維持していくかという問いを投げかけています。

【用語解説】

イヤーワーム (Earworm):音楽が頭の中で勝手に反復再生される現象。「認知のかゆみ(Cognitive Itch)」とも呼ばれ、単純なメロディや繰り返しが多い曲で発生しやすい。

計算論的音楽学 (Computational Musicology):音楽学と情報科学の学際分野。コンピュータを用いて音楽の構造、認知、歴史的変遷などを定量的に分析する研究領域。

BPM (Beats Per Minute):音楽のテンポを示す単位で、1分間の拍数。人間の心拍数(60-100 BPM)や歩行リズム(100-120 BPM)に近い曲は親和性が高いとされる。

【参考リンク】

Psychologists Identify Key Characteristics of Earworms(外部)

アメリカ心理学会によるイヤーワームの科学的特性に関する研究発表。どのような曲が頭に残りやすいかの分析。

MIT OpenCourseWare: Computational Music Theory(外部)

マサチューセッツ工科大学による計算論的音楽理論の講義資料。音楽をデータとして扱うための基礎知識。

The Science of Earworms – UNSW Sydney(外部)

なぜ特定の曲が頭に残るのか、脳科学的なメカニズムと反復の重要性について解説しているシドニー大学の記事。

【参考動画】

【参考記事】

OpenAI sued by Ziff Davis over copyright infringement(外部)

2025年に発生したZiff DavisによるOpenAI提訴に関するThe Vergeの報道。

【編集部後記】

 AIが分析するヒットの法則も興味深いですが、あなたの人生のワンシーンを彩った、理屈抜きの「あの一曲」のエピソードも、データには代えがたい大切な宝物です。あなたにとっての「最強のキャッチーソング」と、それにまつわる思い出。AIにはまだ解析できない「人間の心」の不思議を分析できる日もそう遠くはないであろうと思われます。

投稿者アバター
shimizu
ここまで読んでいただいた読者の皆様へアイリスの花束を。 「希望」「吉報」そして「知恵」

読み込み中…
advertisements
読み込み中…