【解説】アドフラウド対策が進まない理由|総務省が書いた指標悪化のジレンマ

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クリック数は前年より1割増えたのに、売上は横ばい。増えた分の正体は、自動化プログラムのbotでした。対策をすれば見かけの数字は下がりますが、それを成果の悪化と受け取られてしまうと、現場の担当者は動けません。このジレンマについて、総務省はすでに文書で触れています。


広告の数字は伸びているのに、売上などの事業成果が動かない。こうした乖離の一因になり得るのが広告不正です。BADBOX 2.0、SlopAds、Low5、Trapdoor、NewsJunkie。いずれも米HUMAN Securityの脅威調査チームが2025年3月から2026年7月にかけて公表し、無力化を進めてきたオペレーションで、手口は端末の乗っ取りからCTVのなりすましまで幅があります。

侵入の手口はそれぞれ違いますが、このうち4件では、稼いだ広告費を回収する「出口」に共通のパターンが確認されています。HTML5のゲーム・ニュース系ドメインを換金の層として使うという形です。2025年、日本のインターネット広告費は4兆459億円となり、総広告費の過半数を初めて超えました。

複数の広告不正をつなぐ、HTML5の「換金レイヤー」

2025年3月、HUMAN Securityの脅威調査チーム「Satori」が、BADBOX 2.0というオペレーションを公表しました。安価なAndroid端末やテレビ受像機など100万台を超える機器に、利用者の知らないうちにバックドアが仕込まれていたという内容です。2025年6月には米FBIのIC3も注意喚起(PSA I-060525-PSA)を出し、HUMAN Securityやグーグル、トレンドマイクロなどを情報提供・協力組織として挙げています。

このとき同社が記していた一節は、その後に相次ぐ公表を予告するような内容でした。BADBOX 2.0の攻撃者は、広告がぎっしり並ぶゲームサイトを約1,000サイト運営し、そこを換金の場にしていた、というものです。

以後の公表を並べると、輪郭がはっきりします。

2025年3月のBADBOX 2.0は、100万台超の端末に加え、正規アプリになりすました24本の「悪性の双子」アプリを使い、ピーク時には週50億件の不正な入札リクエストを発生させていました。2025年のSlopAdsは224本のAndroidアプリで、Google Playからのダウンロードは3,800万回を超え、228の国と地域に広がっていました。画像の中にコードを潜ませるステガノグラフィと、画面に見えないWebViewを組み合わせる手口です。

2026年3月のLow5は、3,000を超えるドメインと63本のアプリで構成され、ピーク時には1日およそ20億件の入札リクエストを生んでいました。最大4,000万の広告IDが関与した可能性があるとされます。この「device」は広告用の匿名IDであって実機の台数ではない、と同社は注記しています。2026年5月のTrapdoorは455本のアプリと183のドメイン、ダウンロードは2,400万回超。そして2026年7月のNewsJunkieは、CTV(インターネットに接続されたテレビ)の端末になりすまし、1事業者あたりピーク時に1日最大20億件近い無効な入札リクエストを送っていました。

侵入の経路は、プリインストール、アプリストア、マルバタイジング、端末なりすましと、毎回作り替えられています。それでも換金の側には反復があります。HUMAN SecurityはTrapdoorの発表で、SlopAds、Low5、BADBOX 2.0も同様にHTML5のゲーム・ニュース系ドメインを換金の層として使っていたとし、技術ブログでは複数の事案で換金インフラが共有・再利用されていたと説明しています。5件のうち4件で、出口の作りが重なっていたことになります。

なお、NewsJunkieはこの列挙に含まれていません。CTVの販売事業者や供給網を悪用した端末なりすましであり、同じHTML5の換金機構を使ったとは公表されていません。また、Low5やBADBOX 2.0が使ったサイトには実際にゲームなどのコンテンツが置かれています。中身が空とは限らず、広告主がすぐには精査しない程度に体裁を整えたサイトだと考えるほうが実態に近いでしょう。

侵入経路は攻撃者ごとに変えられますが、広告費を現金に変えるには、広告取引に参加できる形を整える必要があります。HUMAN Securityが確認した複数の事案では、その換金レイヤーに共通性があり、同じ換金ドメインが別の攻撃者に再利用される場合もありました。同社は、アプリや端末だけでなく、この共有された換金インフラも対処の対象にする必要があるとしています。ここは、複数のオペレーションを横断して対処できる防御点のひとつです。ただし、広告不正の収益化経路がHTML5サイトだけに限られるわけではありません。

Trapdoor|アプリが自分で不正の資金を稼ぐ

2026年5月19日に公表されたTrapdoorは、この構造がどこまで洗練されたかを示す例です。名前は「隠し扉」を意味します。

流れはこうです。利用者はまず、PDFビューアや端末クリーナーのような実用系のアプリを手に入れます。このアプリ自体は不正を働きません。次に、そのアプリが広告を表示し、「アプリが古い」といった文言で別のアプリの導入へ誘導します。導入された二次アプリは、マーケティングの効果測定に使われるアトリビューション情報を参照し、攻撃者の広告経由で導入された場合など条件を満たしたときに、画面に見えないWebViewや自動操作を伴う不正のワークフローを起動します。難読化と解析妨害が施され、収益はHTML5の換金ドメインで回収されます。

規模は、悪性アプリ455本、攻撃者が持つドメイン183件、累計ダウンロード2,400万回超。ピーク時の入札リクエストは1日あたり4億8,000万件から6億5,900万件と、同社の発表資料のあいだで幅があります。

グーグルは特定された悪性アプリをGoogle Playから削除し、Google Play Protectが該当する挙動を自動的に保護する状態になっています。HUMAN Securityはアプリとドメインの全リストをグーグルに共有しました。手口の公表と、プラットフォーム側の対処が同時に動いた事例です。

このオペレーションで注目したいのは、規模ではなく循環のしかたです。広告不正で得た収益を、次のアプリを配布するための広告費へ再投入できる。広告不正が次の拡大資金を生む、自己資金化の循環です。同社のCISOであるゲイビン・リード氏は、日常的なアプリのインストールが、不正を自己資金でまかなうパイプラインに変えられていると説明しています。

もうひとつは、正規のツールを流用している点です。アトリビューションの仕組みは本来、広告主が自分の広告の効果を測るためのものです。脅威インテリジェンス担当のリンゼイ・ケイ氏は、正規のSDKを装って紛れ込むなど、脅威がもはや単一のカテゴリーにきれいに収まらなくなっていると述べています。広告不正、マルバタイジング、マルウェア配布が、ひとつの流れの中に同居しているということです。

なぜ意図しないサイトに、自社の広告が出るのか

ここで、多くの広告主が最初に抱く疑問に向き合っておきます。見たこともないサイトに、なぜ自社の広告が出てしまうのか。

運用型広告では、広告主が掲載先を1件ずつ選ぶわけではありません。予算とターゲットと目標を設定し、あとは配信プラットフォームに任せる形が多くを占めます。RTB(リアルタイム入札)では、媒体側で広告表示の機会が生じると、SSPやアドエクスチェンジといった供給側のシステムが、DSPなどへ入札リクエストを送ります。攻撃者が媒体やアプリ、販売事業者といった供給側の一部を握れば、偽のインプレッションやクリックを広告収益に変える余地が生まれます。

総務省のガイダンスも、この点を流通経路の構造として説明しています。4マス媒体では広告主・広告会社・媒体に主体が限られ、どの媒体のどの枠に広告が出るかを把握しやすかった。一方デジタル媒体は経路が複雑で掲載先が無数にあり、悪意ある主体が紛れ込んでも気づきにくく、海外からでも流通経路に入り込める、という整理です。

隣接する概念として、MFA(Made for Advertising)サイトがあります。広告収益や広告の裁定取引を主目的に、テンプレート化された低品質なコンテンツと過剰な広告を組み合わせたサイトを指します。生成AIによって、それらしいテキストを用意するコストが下がったことも背景にあります。ただし、MFAサイトとbotによるアドフラウドの換金サイトは同義ではありません。MFAサイトの無効トラフィック率がむしろ低い場合もあります。

判定する側の用語も整理しておきます。総務省ガイダンスやJICDAQ(デジタル広告品質認証機構)の定義では、広告配信の品質の観点で広告効果の測定値に含めるべきでないトラフィックを無効トラフィック(IVT)と呼びます。アドフラウドは、そのうちbotを利用したりスパムコンテンツを大量に生成したりして無効なトラフィックを不正に発生させ、広告費を詐取する行為を指します。無効トラフィックには、検索エンジンのクローラーのような悪意のないもの(GIVT)も含まれるため、両者は同じではありません。

商流の透明性を高める仕組みも、すでに広く使われています。ads.txtは媒体側が販売を認めた事業者を宣言する仕組み、sellers.jsonはSSPなどの広告取引システムが売り手や仲介者を公開する仕組みです。ads.txtで販売権限を確認し、sellers.jsonなどで売り手や仲介者を照合することで、不正な販売経路や、実在の媒体になりすまして枠を売るドメインスプーフィングの検出に役立ちます。ただしこれらは商流を対象とするもので、掲載先のコンテンツの価値そのものを判定する仕組みではありません。ここは業界全体がこれから作法を整えていく領域です。

配信の自動化がさらに進んだことも、判断を難しくしています。Spider Labsが公表した「アドフラウド調査レポート(通年版2026)」によれば、AI最適化メニューの配信量はこの1年強で192%へ、すなわち約1.92倍に成長し、大手配信プラットフォームのAI最適化キャンペーンでは不正率が最大5.2%に達していました。無効なクリックが成果の信号として学習されると、不正なサイトへの配信がかえって強まる「逆最適化」が起きるおそれがある、と同社は説明しています。

CTVはさらに条件が厳しい領域です。デスクトップやモバイルではJavaScriptによって豊富な判定シグナルを得られますが、CTVの在庫にはJavaScriptを使えないものが相当あり、判定材料そのものが少ない。NewsJunkieが正規に見える流通経路に紛れ込めたのは、この構造的な事情によるものだとHUMAN Securityは説明しています。

つまりこれは、担当者個人の注意深さだけで防げる問題ではありません。自動化された広告流通には構造的なリスクがあります。一方で総務省のガイダンスは、だからこそ広告主側にも、経営層を含む体制の整備、取引先の確認、配信状況の継続的な確認が求められるとしています。仕組みの複雑さは、対策をしない理由にはならないという整理です。

4兆円市場になった日本は、どう見えているか

日本市場の位置を、数字で確認しておきます。

電通が2026年3月5日に発表した「2025年 日本の広告費」によれば、2025年の総広告費は8兆623億円(前年比105.1%、すなわち5.1%増)で、4年連続の過去最高でした。このうちインターネット広告費は4兆459億円(前年比110.8%、すなわち10.8%増)と、1996年の推定開始以来初めて4兆円を超え、総広告費に占める構成比は50.2%と初めて過半数に達しました。インターネット広告媒体費は3兆3,093億円(前年比111.8%、すなわち11.8%増)、ビデオ(動画)広告は1兆275億円(前年比121.8%、すなわち21.8%増)で初めて1兆円を突破しています。

市場が拡大し、動画やCTVといった新しい在庫へ広告費が流入している。そこでの広告品質を確認する重要性も、同じだけ高まっているということになります。

日本が標的になり得ることについては、総務省のガイダンスがIAS(Integral Ad Science)の調査を引いています。それによれば、2022年上半期、アドフラウド対策が適用されたキャンペーンの計測において、日本はデスクトップとモバイルウェブの双方で世界20か国中ワースト2位でした(3.3%、1.7%)。ガイダンスはこれを踏まえ、日本でもアドフラウドの標的となるリスクが発生しているとしています。ただしこれは2022年当時、特定事業者のツールが利用された範囲での計測であり、ガイダンス自身も日本市場を網羅的・代表的に調査したものではないと注記しています。IASのMedia Quality Reportは継続して公表されており、2026年7月には第21版が出ています。

被害の規模はどう見積もられているか。Spider Labsは、Spider AFで計測した2025年通年のデータをもとに、国内の推定被害額を1,591億7,733万円としています。前年から82億円増えました。ただし、同社がここで「アドフラウド」として集計する範囲には、悪意ある広告費の詐取だけでなく、広告主の意図に反して広告効果が見込めない無効なインプレッション、クリック、コンバージョンも含まれます。前段で示した総務省やJICDAQの定義とは範囲が完全には一致しない点に注意が必要です。同社は、平均発生率自体は微減した一方、広告市場の拡大によって推定被害総額が増えたと説明しています。

また読売新聞は2026年8月、同社の試算として、2025年の国内のbot起因の被害を約350億円、2023年の1.5倍と報じました。出稿量が多く広告単価が高い飲食、不動産、情報通信などが中心とされます。この数値は、Spider Labsの公開一次資料では算定根拠を確認できません。

この構造が、ひとつの企業の管理画面にどう現れたか。読売新聞オンラインの報道によれば、フラワーギフト大手の花キューピットは、2025年の母の日商戦でクリック数が数百万回に達し、例年より約1割多い水準になりました。それだけの来訪があれば5%近い売上増が見込めるはずでしたが、結果は前年から横ばい。調べたところ、同社の広告は背景が真っ白なサイトに約100社の広告とともに並んでいたといいます。同紙による報道であり、これらの数値は花キューピットやSpider Labsの公開資料では確認できません。また、HUMAN Securityが報告した換金サイトと外見上の共通点はありますが、同じインフラに属することが確認されたわけではありません。それでも、日本の広告主のもとでも、意図しない無内容・低品質な掲載先に広告が配信され得ることを具体的に示す事例です。

伸びている縦型動画広告でも、不正なコンバージョンが観測されています。Spider Labsが2026年に公表した、532アカウント・44,246,500件を対象とする同社の観測データでは、2026年1月から4月の縦型動画広告経由のコンバージョンのうち、17.01%が不正と判定されました。同社の観測範囲では、およそ6件に1件です。動画広告市場が伸びるなかで、その成果の品質も確かめる必要があることを示しています。

アドフラウド対策を止める要因のひとつは、評価のしかたにある

では、なぜ対策が広がらないのか。知識、体制、取引先の管理など要因はいくつもありますが、ここでは評価指標をめぐる問題に絞って見ます。

まず現状です。JICDAQが2025年6月3日から7月16日にかけて、広告関連6団体の加盟社417社を対象に実施した「デジタル広告課題意識調査2025」(調査機関はビデオリサーチ)によると、広告主でアドフラウド対策を行っているのは51.1%、無効トラフィック対策は47.8%で、いずれも広告会社や媒体社を下回っています。

個別の施策では、前回調査から下がっている項目があります。無効トラフィック対策を行う広告主のうち、アドベリフィケーションツールを利用しているのは23.3%で、前回の34.8%から低下しました。ブランドセーフティ対策を行う広告主では、ブロックリストの利用が33.9%で、前回の44.3%から下がっています。設問と母数はそれぞれ異なり、広告会社では上昇した対策もあります。一方で、アドフラウドという言葉を「ワードも内容も知っている」と答えた割合も、仲介・計測事業社を除くすべての業種で前回から低下しました。少なくとも広告主では、認知率と一部施策の利用率が前回から下がったことが確認できます。

職位別に見ると、輪郭がはっきりします。デジタル広告の課題を「課題も内容も知っている」と答えた割合は、経営層クラスで広告主2割、媒体社3割にとどまり、管理職クラス・一般職クラスの3割から4割を下回りました。この傾向は以前から指摘されています。総務省ガイダンスも、JAAと宣伝会議が2019年に広告業界関係者330名を対象に実施した調査を引き、ブランドセーフティの認識率が広告担当者では5割近くだったのに対し、経営層では15%を下回ったと紹介しています。なお、JICDAQの調査の対象は広告関連6団体の加盟社417社であり、日本の広告主全体を代表する無作為標本ではありません。

現場で何が起きているかは、読売新聞が匿名で紹介した証言が言い当てています。不正サイトに広告が掲載されていた不動産仲介会社の担当者は、対策によって見かけのクリック数が減ると、上層部から成果が低下したと受け取られかねないため、進言しづらいと語っています。

読売新聞の取材に対し、日本アドバタイザーズ協会デジタルメディア専門委員会の専門委員長を務める山口有希子氏は、企業に広がる「クリック至上主義」が対策の足かせになっていると指摘したうえで、自社の広告費が犯罪組織に流れているとすればコンプライアンスに関わる問題であり、経営陣が率先して対策する必要があると訴えています。

短期のKPIが下がることを、どう評価するか

この匿名の証言には、続きがあります。同じことを、国の文書が1年前に書いていました。

総務省は2025年6月9日、「デジタル広告の適正かつ効果的な配信に向けた広告主等向けガイダンス」を公表しました。ブランド毀損、アドフラウドによる広告費の流出、デジタル社会の不健全なエコシステムへの加担という3つのリスクを挙げ、体制構築・目標設定、具体的取組、配信状況確認という3段階で対策を示したものです。

このなかでガイダンスは、CTR、コンバージョン数、ROASなどを広告キャンペーンの即時的な成果を測るのに適した指標、ブランドリスクのある媒体やコンテンツへの表示回数や無効トラフィック率などを配信品質を測るのに適した指標として整理しています。そのうえで、品質指標を重視して対策を講じると、前者の即時的な成果指標が悪化することが予測されるとしています。

続く一文が重要です。ガイダンスは、指標の悪化それ自体は質的に問題のある配信や偽装されたクリックが排除された結果であると述べたうえで、指標の悪化の背景を理解していない経営層などからの指摘を恐れ、対策を実行に移しにくい側面もあるとの指摘がある、と書いています。

読売新聞が拾った不動産仲介会社の担当者の言葉は、この記述をそのままなぞっています。現場が言い出せずにいることは、個社の事情ではなく、国が1年前に類型として認識していた事態だということです。ガイダンスはこれを「ジレンマ」と呼び、解消のためには経営層・管理職層が広告配信の目的に応じて各指標を正しく理解したうえで、指標の多様化や配信品質管理のルール整備、具体的取組の選択を主導することが求められる、としています。

にもかかわらず、JICDAQの調査でこのガイダンスを「知っていて、内容も把握している」と答えた広告主は1割にとどまりました。ただし調査期間中の6月9日に公表されたため、公表前の回答も含まれており、この結果だけで公表後の浸透度を評価することはできません。

参考になる観測データもあります。DoubleVerifyが2026年5月7日に公表した年次レポート「Must-CTV」によれば、同社の保護下にあるCTVキャンペーンの不正率は1%未満だったのに対し、保護を適用しなかった環境では約9%に達しました。同レポートは、CTVの不正スキームと亜種が2026年1月から3月に前年同期比140%増となり、2025年だけで50を超えるCTVボット攻撃とその亜種が確認され、不正なCTVアプリの検出数が前年の10倍になったことも示しています。

ただしこれはCTVの不正インプレッション率の比較であり、日本の広告全般でクリックが約9%水増しされていることを示すものではありません。同社自身、不正防止の指標はパフォーマンスを直接測るものではないとしています。少なくともCTVでは、保護の有無によって観測される不正率に大きな差があった、というところまでが読み取れる内容です。

では、明日から何ができるか。ガイダンスの3段階に沿えば、入口は小さく取れます。

まず指標です。既存のKPIを捨てる必要はありません。無効トラフィック率のような品質管理指標を経営層が見る資料に併記し、成果指標と合わせて複数の指標を多角的に比較検討する。ガイダンスも、いずれかの取組を実施すれば十分ということではなく、配信状況の把握・分析に基づく継続的な見直しが望ましいとしています。

次に取引先です。JICDAQは認証を取得した事業者を公開しており、取引の際に確認できます。ガイダンスは、中小・零細企業や中央省庁・地方公共団体については、まず品質認証事業者との取引から対策を始めることが考えられる、としています。広告主側の登録アドバタイザーは無料で申し込めます。

そして配信状況の確認です。大手の広告プラットフォームの管理画面やレポート機能では、広告の配信先ドメインやクリック状況を確認できるものが多くあります。配信先の数は膨大になるため、ガイダンスは、表示数の多い順に分類するなどして悪影響の高さ順に確認していく方法を挙げています。意図しない媒体を見つけたら、そのサイトをブロックリストに設定することで、その後同じサイトへの配信を防ぐことができます。ガイダンスは、ブロックリストが既知の配信先にしか適用できず、定期的な更新が必要であることも併せて挙げています。花キューピットが異変に気づいた最初のきっかけも、クリック数と売上のグラフを並べて眺めたことでした。

不正の側は、名前を隠しながら形を変えます。HUMAN Securityの調査では、攻撃者は新しいアプリを投入し、ドメインを入れ替え、難読化を重ねながら検知を逃れようとしていました。一方で2025年3月以降には、調査チームによる手口の公表、プラットフォームによる削除・保護の措置、行政の指針、業界団体の認証といった対応も積み重なっています。換金のインフラが繰り返し再利用されているのなら、そこを狭める働きかけも積み上がっていきます。クリック数と売上のグラフを並べて眺めるところから、その輪の中に入れます。

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【編集部後記】

総務省のガイダンスには、中央省庁と地方公共団体に触れた一節があります。行政によるデジタル広告の活用は近年増えており、広報関連予算の流出は予算の適正使用に関わる問題になり得る、と書かれていました。

企業の広告費の話として読み進めていたものが、そこで自分の払った税金の話に変わりました。人手の限られた自治体の広報担当が、配信先のドメインを1件ずつ見ていく余裕は、はたしてあるのでしょうか。


【用語解説】

アドフラウド
無効トラフィックのうち、botを利用したりスパムコンテンツを大量に生成したりして、本来カウントすべきではないインプレッションやクリックを不正に発生させ、広告費を詐取する行為。

無効トラフィック(IVT)
広告配信の品質の観点から、広告効果の測定値に含めるべきではないトラフィック。検索エンジンのクローラーのような悪意のないもの(GIVT)も含むため、アドフラウドとは範囲が異なる。

運用型広告
広告主が掲載先を1件ずつ選ぶのではなく、予算・ターゲット・目標を設定し、配信プラットフォームが自動的に最適化して配信する広告手法。日本のデジタル広告市場の大部分を占める。

RTB(リアルタイム入札)
広告表示の機会が生じるたびに入札で掲載を決める仕組み。SSPやアドエクスチェンジなど供給側のシステムが、DSPなどの買い手へ送る打診を入札リクエストと呼ぶ。

換金ドメイン
不正に発生させたインプレッションやクリックを広告収益へ変えるために攻撃者が用意するサイト群。HTML5のゲームサイトやニュースサイトの体裁を取ることが多い。

MFA(Made for Advertising)サイト
広告収益や広告の裁定取引を主目的に、テンプレート化された低品質なコンテンツと過剰な広告を組み合わせたサイト。アドフラウドの換金ドメインとは同義ではない。

マルバタイジング
広告の表示枠を悪用し、閲覧者を不正なアプリの導入や有害なサイトへ誘導する手口。malicious(悪意のある)とadvertising(広告)を組み合わせた語である。

アトリビューション
広告への接触と、インストールや購入などの成果を結び付けて、どの広告が効いたのかを測定する仕組み。Trapdoorではこの情報が不正の起動条件の判定に流用された。

WebView
アプリの中でWebページを表示するための部品。画面に見えない状態で動かすこともできるため、利用者に気づかれずに広告を読み込ませる用途に悪用されることがある。

ステガノグラフィ
画像などのデータの中に別の情報を埋め込んで隠す技術。SlopAdsでは、不正なコードを画像に潜ませて検知を避ける目的で使われた。

ads.txt/sellers.json
ads.txtは媒体側が販売を認めた事業者を宣言する仕組み、sellers.jsonは広告取引システムが売り手や仲介者を公開する仕組み。いずれも商流の透明性を高める。

ドメインスプーフィング
実在する媒体になりすまして広告枠を販売する手口。広告主は有名な媒体に出稿したつもりでも、実際には別のサイトに配信されている状態になる。

CTV(Connected TV)
インターネットに接続されたテレビ受像機。JavaScriptを利用できない在庫が相当あり、不正の判定に使えるシグナルが少ないという特性がある。

端末なりすまし
実在しない端末や別の端末を装って広告のリクエストを送る手口。NewsJunkieではCTVの端末になりすまし、正規に見える流通経路へ紛れ込んでいた。

アドベリフィケーションツール
配信された広告の品質や効果を監視・検証する仕組み。ブランドセーフティ、アドフラウド、ビューアビリティなどの計測や対応に用いられる。

ブロックリスト
広告の配信を避けたい媒体や広告枠を指定するリスト。既知の配信先にしか適用できないため、定期的な更新が必要とされる。

逆最適化
無効なクリックが成果の信号として学習された結果、AIによる最適化がかえって不正なサイトへの配信を強めてしまう現象。Spider Labsが用いる呼称。

品質管理指標
無効トラフィック率や、ブランドリスクのある媒体への表示回数など、広告の配信品質を測るための指標。CTRやCPA、ROASなどの成果指標と対をなす。

【参考リンク】

HUMAN Security「Trapdoor」(外部)
2026年5月19日の公表。悪性アプリ455本と攻撃者が持つドメイン183件が、どのように結び付いていたかを説明している。

HUMAN Security Trapdoor技術ブログ(外部)
Trapdoorの技術解説。SlopAds、Low5、BADBOX 2.0と換金インフラが共有・再利用されていた経緯を記している。

HUMAN Security「Low5」(外部)
3,000超のドメインと63本のアプリが複数の広告不正を仲介していた事案。換金ドメインが別の攻撃者に再利用される点にも触れる。

HUMAN Security「BADBOX 2.0」(外部)
100万台を超える端末が関与したボットネットの公表資料。広告がぎっしり並ぶゲームサイト約1,000件を換金の場としていた。

HUMAN Security ニュースルーム(外部)
NewsJunkieを含む、同社の脅威調査チームSatoriによる公表の一覧。広告不正の最新の事案はここから追うことができる。

FBI IC3 PSA I-060525-PSA(外部)
BADBOX 2.0に関する米当局の注意喚起。HUMAN Securityやグーグルなどを情報提供・協力組織として挙げている資料。

総務省 広告主等向けガイダンス(外部)
2025年6月9日公表。3つのリスクと3段階の対策を示し、対策によって指標が悪化して見えるジレンマにも正面から触れている文書。

総務省 報道資料(外部)
ガイダンスの公表と意見募集の結果を掲載したページ。デジタル広告ワーキンググループにおける策定の経緯も、ここから確認することができる。

JICDAQ デジタル広告課題意識調査2025(外部)
広告関連6団体の加盟社417社を対象とした調査。対策の実施率と個別施策の利用状況を、業種別および職位別に分けて示している資料。

電通「2025年 日本の広告費」(外部)
2026年3月5日発表。インターネット広告費が4兆459億円となり、総広告費に占める割合が初めて過半数を超えたと推定している。

Spider Labs アドフラウド調査レポート(外部)
Spider AFの計測データに基づく年次レポート。国内の推定被害額と、AI最適化配信における不正率の推移を扱っている。

DoubleVerify「Must-CTV」(外部)
2026年5月7日公表の年次レポート。保護を適用した場合としない場合とで、CTVキャンペーンの不正率がどれだけ違うのかを示している。

IAS Media Quality Report 第21版(外部)
2026年7月公表。1日3,000億件を超える計測に基づき、媒体品質のベンチマークをまとめている継続調査シリーズの最新号である。

花キューピット(外部)
全国の生花店ネットワークを持つフラワーギフト大手。母の日商戦におけるインターネット広告の異変が報道で取り上げられた企業である。

【参考記事】

総務省、初のデジタル広告のガイダンス公表 経営問題をどう防ぐか(外部)
ガイダンスの3段階の構成を項目ごとに整理した記事。体制構築から具体的取組、配信状況の確認までの流れをつかむことができる。

総務省、「デジタル広告の適正かつ効果的な配信に向けた広告主等向けガイダンス」を発表(外部)
体制構築の5つのステップと、成果指標に偏らない目標設定という論点を扱う。生成AIが状況に与える影響についても触れている。

総務省がデジタル広告を出稿する広告主向けの指針を公表、実施が望ましい取り組みを例示(外部)
公表の事実関係を簡潔にまとめた記事。ガイダンス本体へのリンクも掲載されており、原典にあたるための入り口として使いやすい。

広告のクリック数増えたのに売り上げ伸びず、正体は「bot」だった…世にはびこる広告費詐取・日本では350億円被害か(外部)
花キューピットの母の日商戦での事例と、bot起因の被害額の試算を報じた記事。現場の担当者による匿名の証言も収められている。

IAS Released 21st Media Quality Report(外部)
1日3,000億件を超える計測に基づく第21版の概要記事。動画とソーシャルメディアへの投資意向に関する数値も併せて扱っている。

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山本 達也 代表社員
合同会社デジタルの窓口 代表。ウェブ解析士。生成AI・サイバーセキュリティ・ 宇宙開発領域を中心に執筆。

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