New York TimesがPerplexity AIを提訴──数百万記事の無断コピーで著作権侵害を主張

 - innovaTopia - (イノベトピア)

New York Timesは12月5日、AIスタートアップPerplexity AIを提訴した。数百万件の記事を無許可で違法にコピーし配信・表示したと主張している。

タイムズはランハム法に基づく商標侵害も指摘し、Perplexityの生成AI製品が捏造コンテンツを作成し、タイムズの登録商標と並べて表示することで虚偽の帰属をしていると述べた。

サンフランシスコを拠点とするPerplexityは、過去3年間で複数の資金調達ラウンドを通じて約$15億を調達しており、9月には$2億のラウンドを完了し評価額は$200億となった。投資家にはNvidiaやJeff Bezosが含まれる。

同社はダウ・ジョーンズとNew York Postからも訴訟に直面している。

ForbesやWiredを含む複数メディアが盗用を告発し、Chicago Tribune、Merriam-Webster辞典、Encyclopedia Britannicaも著作権侵害で提訴した。10月にはRedditが、先月にはAmazonも訴訟を起こしている。

From: 文献リンクNew York Times sues AI startup for ‘illegal’ copying of millions of articles – The Guardian

【編集部解説】

New York TimesによるPerplexity AI提訴は、AI業界と出版業界の緊張関係が新たな局面を迎えたことを示しています。この訴訟の背景には、生成AIの急速な普及と、それに伴うコンテンツ創作者の権利保護という根本的な問題が存在します。

タイムズは18ヶ月にわたりPerplexityとの交渉を試みましたが、同社がコンテンツの無許可使用を続けたため、法的手段に訴えることを決断しました。訴訟では、Perplexityが数百万件の記事を無許可でスクレイピングし、ペイウォールで保護されたコンテンツまで含めて自社のAI製品の訓練とRAG(検索拡張生成)システムに使用していると主張しています。

さらに深刻なのは、Perplexityの生成AI製品がタイムズの記事をほぼそのまま再現した回答を生成し、しかもAIが作り出した虚偽情報(ハルシネーション)をタイムズの名前と商標と共に表示することで、同紙の評判を傷つけているという点です。これは著作権侵害だけでなく、商標権の侵害にも該当すると訴えられています。

Perplexityは2022年設立のサンフランシスコを拠点とするスタートアップで、過去3年間で約$15億を調達し、9月には$2億の資金調達を完了して評価額$200億に達しました。NvidiaやJeff Bezosなど著名な投資家を惹きつけ、AI検索エンジン市場で急成長を遂げています。

しかし、その成長の裏には多くの法的問題が潜んでいます。Perplexityは現在、複数の戦線で訴訟に直面しています。2024年にはRupert Murdoch所有のDow JonesとNew York Postが同様の著作権侵害で提訴し、2025年にはEncyclopedia Britannica、Merriam-Webster辞典、Chicago Tribune、日本の日経新聞や朝日新聞なども訴訟を起こしました。

10月にはRedditが、Perplexityと3つのデータスクレイピング企業を「産業規模での違法なデータ窃取」で訴えています。Redditは、これらの企業が自社の技術的保護措置を回避し、Googleの検索結果からRedditのコンテンツを大量に取得して転売する「データロンダリング」を行っていると主張しています。

11月には、AmazonがPerplexityのCometブラウザのAIエージェント機能について、ユーザーアカウントに密かにアクセスし、AIの活動を人間のブラウジングのように偽装していると非難し、訴訟を起こしました。この事案は、AIエージェントが電子商取引プラットフォームとどう関わるべきかという新しい問題を提起しています。

Perplexityは出版社への収益分配プログラムを開始し、Gannett、Time、Fortune、Los Angeles Timesなどと提携していますが、多くの主要メディアはこれを不十分だと考えています。同社の広報担当者は「出版社は100年間、新技術企業を訴えてきたが、それはうまくいったことがない」とコメントしていますが、実際には過去の訴訟が和解、ライセンス体制、法的先例につながってきた歴史があります。

この一連の訴訟は、AI業界全体にとって重要な転換点となる可能性があります。2025年9月、AnthropicがAuthors Guildなどの作家グループと$15億の和解に合意したことは、AI企業が著作権侵害に対して実際に支払いを行う意思があることを示しました。この和解は、約50万冊の書籍に対して1冊あたり約$3,000を支払うもので、米国史上最大の著作権侵害和解となりました。

Anthropicの和解は、AI企業が海賊版サイトから違法にコンテンツを取得した場合、膨大な賠償金を支払う必要があることを明確にしました。一方で、合法的に取得したコンテンツでAIを訓練することはフェアユースとして認められる可能性があるという判決も出ています。

今後、AI企業はコンテンツ創作者との正式なライセンス契約を結ぶ方向に向かうと予想されます。実際、OpenAIはAssociated Press、Axel Springer、Vox Media、The Atlanticなどと契約を結んでおり、タイムズ自身もAmazonと年間最大$2,500万の契約を結んでいます。

この問題は、技術革新と知的財産権のバランスをどう取るかという古くて新しい課題を提起しています。AI技術の発展は人類に多大な恩恵をもたらす可能性がありますが、それがコンテンツ創作者の生計や、質の高いジャーナリズムの持続可能性を脅かすものであってはなりません。

出版業界にとって、AIによる要約が検索エンジンのクリック数を減少させ、広告収入や購読収入を直接脅かすという懸念は切実です。タイムズは訴状の中で、Perplexityの行為が「自由な報道機関が情報に基づいた市民と健全な民主主義を支える役割を果たし続ける能力を阻害する」と主張しています。

この訴訟の行方は、AI検索エンジンの未来だけでなく、デジタル時代におけるコンテンツの価値と所有権の定義に大きな影響を与えることになるでしょう。

【用語解説】

RAG(Retrieval-Augmented Generation / 検索拡張生成)
大規模言語モデルの出力精度を向上させる技術。モデルが回答を生成する際に、外部のデータベースや検索エンジンから関連情報を取得し、それを基に回答を構成する。これにより、AIのハルシネーション(虚偽の情報生成)を減らし、より正確で最新の情報を提供できる。

ハルシネーション(Hallucination)
AIが事実に基づかない虚偽の情報を生成する現象。日本語では「幻覚」とも訳される。生成AIが自信を持って誤った情報や存在しない事実を出力することを指す。

ランハム法(Lanham Act)
1946年に制定された米国の連邦商標法。商標の登録、保護、侵害に関する規定を定めている。虚偽広告や不正競争も規制対象となる。

ペイウォール(Paywall)
オンラインコンテンツへのアクセスを有料購読者に限定する仕組み。新聞社やメディアが収益を確保するために設置する。

スクレイピング(Scraping / Web Scraping)
ウェブサイトから自動的にデータを抽出する技術。合法的な用途もあるが、サイト運営者の許可なく大量のデータを収集することは法的問題を引き起こす可能性がある。

AIエージェント(AI Agent)
ユーザーの代わりに自律的にタスクを実行するAIシステム。商品検索、購入、予約など、従来人間が行っていた作業を代行する。

フェアユース(Fair Use)
米国著作権法における例外規定。批評、解説、ニュース報道、教育などの目的で、著作権者の許可なく著作物を限定的に使用できる。ただし、用途、性質、使用量、市場への影響などが考慮される。

データロンダリング(Data Laundering)
違法に取得したデータを合法的に見せかけるプロセス。Redditの訴訟で使われた用語で、第三者を介してデータを取得・転売することで、データの出所を隠蔽する行為を指す。

【参考リンク】

Perplexity AI(外部)
AI検索エンジンPerplexityの公式サイト。リアルタイム検索と引用機能を備えたAI回答エンジンを提供している。

The New York Times Company(外部)
New York Times社の公式企業サイト。同社のジャーナリズムへの取り組みや事業内容を紹介している。

Anthropic(外部)
AI安全性研究企業Anthropicの公式サイト。ChatGPTの競合となるClaudeを開発している。2025年9月に著作権侵害で$15億の和解を行った。

The Authors Guild(外部)
米国の作家団体。AI企業による著作権侵害に対する訴訟で中心的な役割を果たしている。Anthropic和解に関する詳細情報を提供。

Reddit(外部)
ソーシャルメディアプラットフォームRedditの公式サイト。2025年10月にPerplexityをデータスクレイピングで提訴した。

【参考記事】

The New York Times sues Perplexity, alleging copyright infringement(外部)
タイムズの訴訟内容とPerplexityの反応を詳細に報道。Chicago Tribuneも同様の訴訟を起こしたことを伝えている。

The New York Times is suing Perplexity for copyright infringement(外部)
訴訟の戦略的背景を分析。出版社がAI企業との交渉材料として訴訟を活用している実態を解説。

Anthropic pays authors $1.5 billion to settle copyright infringement lawsuit(外部)
Anthropicの$15億和解について詳細に報道。AI業界における史上最大の著作権和解の意義を解説している。

Reddit accuses Perplexity of stealing user posts(外部)
Redditによる訴訟の詳細。データロンダリング経済の実態とAI企業のデータ取得方法の問題点を指摘。

Amazon Sues to Stop Perplexity From Using AI Tool to Buy Stuff(外部)
AmazonによるPerplexity提訴の詳細。AIエージェントと電子商取引プラットフォームの対立を報じている。

Perplexity reportedly raised $200M at $20B valuation(外部)
Perplexityの最新資金調達を報道。評価額$200億に達し年間経常収益$2億に迫る成長を遂げている。

Key Updates on the $1.5 Billion Anthropic Settlement(外部)
Anthropic和解の詳細情報。約50万冊の書籍に対し1冊あたり$3,000が支払われる史上最大の著作権和解。

【編集部後記】

私たちが日々便利に使っているAI検索エンジンの裏側で、こうした激しい法廷闘争が繰り広げられていることに、皆さんはどう感じられるでしょうか。技術の進歩は確かに私たちの生活を豊かにしますが、同時にコンテンツを生み出す人々の権利や、質の高い情報を生み出すエコシステムを守ることも大切です。AI企業と出版社の対立は、単なる法的問題ではなく、私たち自身がどのような未来を望むのかという問いかけでもあります。便利さと公平性、革新と権利保護──このバランスをどう取るべきか、皆さんと一緒に考えていきたいと思います。innovaTopia編集部も、この問題の行方を注視し続けます。

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Satsuki
テクノロジーと民主主義、自由、人権の交差点で記事を執筆しています。 データドリブンな分析が信条。具体的な数字と事実で、技術の影響を可視化します。 しかし、データだけでは語りません。技術開発者の倫理的ジレンマ、被害者の痛み、政策決定者の責任——それぞれの立場への想像力を持ちながら、常に「人間の尊厳」を軸に据えて執筆しています。 日々勉強中です。謙虚に学び続けながら、皆さんと一緒に、テクノロジーと人間の共進化の道を探っていきたいと思います。

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