GoogleとNextEra Energyは、2020年のデレチョ(直線状暴風雨)により閉鎖されたアイオワ州Duane Arnold Energy Centerを2029年に再開する計画を発表した。
時速130マイルの風により6本の送電線が切断され45年間稼働した同発電所は緊急停止、12基の冷却塔が倒壊した。連邦原子力規制委員会(NRC)は炉心損傷の確率を1,000分の1と推定し、2015年から2024年における米国の重大事故の「重要な前兆」2件のうちの1つと位置づけた。
Googleは25年間にわたり同発電所の600MWを超えるエネルギー生産量の大部分を購入する契約を締結した。NextEraは追加のバックアップディーゼル発電機と耐風性の高い冷却塔を設置する計画だ。
アイオワ州は2024年に記録的な125個の竜巻を経験し、気候変動による極端な気象現象の増加が懸念されている。
From:
Google Data Centers Will Bring Nuclear Power Back To Tornado Country – Inside Climate News
【編集部解説】
テクノロジー大手による原子力発電所の再稼働——この一見逆説的な動きは、AI時代が迎えるエネルギー革命の前触れです。Googleが2029年の再開を目指すDuane Arnold Energy Centerは、2020年のデレチョにより閉鎖された施設ですが、その復活は単なる電源確保以上の意味を持っています。
2020年8月10日、時速130マイル(約209km)の暴風を伴うデレチョがアイオワ州を直撃した際、Duane Arnoldでは外部電源が完全に失われ、12基の冷却塔が倒壊しました。NRCの分析によれば、炉心損傷の確率は1,000分の1とされ、2015年から2024年の間に米国で発生した「重要な前兆」(重大事故の前兆として2番目に高いリスクレベル)2件のうちの1つに分類されました。幸いにも放射線漏れには至りませんでしたが、この事象は原子力施設が直面する気候リスクを如実に示すものでした。
しかし、GoogleとNextEra Energyはこの教訓を活かし、より強靭な施設への改修を計画しています。追加のバックアップディーゼル発電機、より高い耐風性を持つ冷却塔の設置など、安全対策の強化が図られます。同発電所は615MWの出力を持ち、Googleが25年間にわたり電力の大部分を購入する契約を結んでいます。
この動きの背景には、AIが牽引するデータセンターの爆発的なエネルギー需要があります。国際エネルギー機関(IEA)の予測では、世界のデータセンター電力消費は2024年の460TWhから2030年には1,000TWh超へと倍増します。米国だけでも2024年の183TWhから2030年には426TWhへと133%増加する見込みです。特にAI訓練や推論処理は24時間365日稼働する必要があり、太陽光や風力といった間欠的な再生可能エネルギーだけでは対応できません。
原子力発電が選ばれる理由は明確です。天候に左右されず、カーボンフリーで、24時間安定した電力を供給できる唯一のエネルギー源だからです。現在、米国のデータセンター電力の約20%を原子力が担っており、この割合は2030年以降、小型モジュール炉(SMR)の商用化とともに増加する見通しです。
Duane Arnoldの再稼働は、米国で進行する原子力ルネサンスの一部です。MicrosoftはConstellation Energyと提携し、ペンシルベニア州のThree Mile Island 1号機を2027年に再開する計画で、トランプ政権から10億ドルの融資支援を受けています。また、ミシガン州のPalisades原子力発電所は2025年内の再稼働を目指しており、米エネルギー省から15億ドルの融資を得ています。これら3つの施設は、いずれも経済的理由で閉鎖された後、テクノロジー企業との電力購入契約により復活を遂げる点で共通しています。
一方で、竜巻多発地域での原子力施設運営には懸念も残ります。アイオワ州は2024年に記録的な125個の竜巻を経験し、わずか3年前の2021年に記録した数を上回りました。メキシコ湾の温暖化により、より多くの湿気がアイオワの大気に流入し、豪雨、暴風、竜巻、雹などの気象現象の頻度と深刻度が増しています。NOAAの追跡によれば、1980年から2024年の間、アイオワ州では10億ドルを超える損失を伴う気象災害が年平均2回未満でしたが、直近5年間の平均は年5.4回に増加しています。
原子力規制委員会は、原子炉建屋が「竜巻ミサイル」(高速で衝突する大型物体)に耐えられるよう設計することを義務付けており、Breakthrough Instituteの専門家も「これらの施設は文字通り、このような事象に安全に耐えるよう設計されている」と指摘します。しかし、気候変動による極端な気象現象の激化が続く中、設計基準を超える事象が発生するリスクは否定できません。
経済的側面も見逃せません。Duane Arnold再稼働プロジェクトは、約1,600の建設関連雇用と400の常勤職を創出し、年間3.4億ドルの経済効果をアイオワ州にもたらすと予測されています。また、プロジェクト全体で90億ドル以上の経済効果が見込まれています。
この動きが示すのは、テクノロジーの進化とエネルギーインフラの相互依存性です。AI開発競争に勝つためには、安定した大規模電力供給が不可欠であり、それが半世紀前の技術を再び呼び起こしています。同時に、気候変動がもたらす新たなリスクに対し、どのようにレジリエンスを構築するかという課題も浮上しています。
Googleの決断は、クリーンエネルギー目標とAI開発の両立という難題への一つの解答です。しかし、竜巻地帯での原子力施設運営という賭けが、長期的に持続可能かどうかは、今後の気候パターンと安全対策の有効性によって決まるでしょう。人類の技術的進化を支えるエネルギーシステムが、同時に気候変動という自らが生み出した課題に立ち向かう——Duane Arnoldの再稼働は、この矛盾に満ちた現代の象徴なのかもしれません。
【用語解説】
デレチョ(Derecho)
数百マイルにわたって高速の直線状突風を伴う雷雨システム。竜巻とは異なり、回転を伴わない直線状の風による被害が特徴である。2020年8月にアイオワ州を襲ったデレチョは時速130マイルの風を記録し、広範囲に壊滅的な被害をもたらした。
NRC(Nuclear Regulatory Commission/原子力規制委員会)
米国の原子力施設の安全性と運用を監督する連邦機関。原子炉の建設、運転、廃炉に関する許認可権限を持ち、安全基準の策定と遵守の監視を行う。
BWR(Boiling Water Reactor/沸騰水型原子炉)
原子炉内で直接水を沸騰させて蒸気を発生させ、その蒸気でタービンを回す方式の原子炉。Duane Arnold Energy Centerが採用しているGeneral Electric製のBWR-4型は、福島第一原発と同型である。
SMR(Small Modular Reactor/小型モジュール炉)
従来の大型原子炉よりも小規模で、工場で製造して現地で組み立てることが可能な次世代原子炉。建設期間の短縮とコスト削減が期待されており、データセンター向けの電源として注目されている。
PPA(Power Purchase Agreement/電力購入契約)
電力の売り手と買い手の間で結ばれる長期契約。価格、供給量、期間などを定め、発電事業者に安定した収益を保証することで、プロジェクトへの投資を可能にする。
炉心損傷
原子炉の燃料棒が冷却不足により過熱し、溶融または損傷する事象。最悪の場合、放射性物質の放出やメルトダウンにつながる可能性がある。
全電源喪失(Station Blackout)
原子力発電所において、外部電源とバックアップ電源の両方が失われる事態。冷却システムが停止し、炉心損傷のリスクが高まる最も危険な状況の一つである。
二次格納システム(Secondary Containment)
原子炉建屋の外側に設置される追加の格納構造。一次格納容器が破損した場合の放射性物質放出を防ぐ第二の防護層として機能する。
竜巻ミサイル(Tornado Missiles)
竜巻によって高速で飛ばされる大型物体のこと。NRCの安全基準では、原子炉建屋がこのような物体の衝突に耐えられるよう設計することが義務付けられている。
TWh(Terawatt-hour/テラワット時)
電力量の単位で、1TWh=10億kWh。データセンターのエネルギー消費量などを表す際に使用される。
【参考リンク】
NextEra Energy(外部)
米国最大級のクリーンエネルギー企業でDuane Arnold Energy Centerを所有し、Googleとの提携により2029年の再稼働を目指す
Google Cloud(外部)
Googleのクラウドコンピューティングサービスで、アイオワ州で大規模データセンター群を運営している
NRC(米国原子力規制委員会)(外部)
米国の原子力施設を監督する連邦機関で、Duane Arnold再稼働の承認プロセスを担当する
Constellation Energy(外部)
米国最大の原子力発電事業者で、Microsoftとの契約によりThree Mile Island 1号機を2027年に再稼働予定
IEA(国際エネルギー機関)(外部)
データセンターとAIのエネルギー消費動向を分析し、2030年までの予測データを提供する国際機関
NOAA(米国海洋大気庁)(外部)
アイオワ州の竜巻発生記録や10億ドル規模の気象災害データを追跡する米国の連邦機関
Breakthrough Institute(外部)
原子力エネルギー革新プログラムを通じて次世代原子力技術の推進を行う超党派の研究機関
【参考記事】
NextEra Energy and Google Announce New Collaboration to Accelerate Nuclear Energy Deployment in the U.S.(外部)
2029年第1四半期の稼働開始、400の常勤職創出、90億ドル超の経済効果などの具体的数値を含む公式プレスリリース
Energy supply for AI – Energy and AI – Analysis – IEA(外部)
世界のデータセンター電力消費が2024年の460TWhから2030年に1,000TWh超、2035年に1,300TWhへ増加する予測を提示
What we know about energy use at U.S. data centers amid the AI boom – Pew Research(外部)
米国のデータセンターが2024年に183TWhの電力を消費し、2030年までに133%増加して426TWhに達する見込みを報告
Nuclear Power Emerging as a Clean AI Data Center Energy Source(外部)
データセンター電力容量が2024年の33GWから2025年に41GW、2030年に120GW、2035年に176GWへ拡大するDeloitteの予測を紹介
Constellation to restart Three Mile Island unit, powering Microsoft – World Nuclear News(外部)
Three Mile Island 1号機の2027年再稼働計画。20年間の電力購入契約、16億ドルの投資額、3,400の雇用創出を報告
Duane Arnold Energy Center – Wikipedia(外部)
615MWの出力、1975年の商用運転開始、2020年のデレチョ被害、2029年の再稼働計画などの基本情報を網羅
Can nuclear power really fuel the rise of AI? | MIT Technology Review(外部)
米国のデータセンターエネルギー需要が2020年の100TWh未満から2030年に400TWhに達する可能性を分析し、テック企業の原子力投資を検証
【編集部後記】
AIの未来を支えるために、私たちは半世紀前の技術を再び呼び起こそうとしています。しかし、その施設が立つのは、気候変動によって年々激しさを増す竜巻の脅威にさらされる地域です。技術の進化が過去の遺産に依存し、同時に自らが引き起こした気候危機と向き合う——この矛盾に満ちた構図をどう捉えるべきでしょうか。皆さんは、テクノロジー企業が原子力発電所を復活させるこの動きを、革新と見ますか、それともリスクと見ますか。AIが描く未来の代償について、ぜひご一緒に考えてみませんか。































