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米政府の公式アカウントがディープフェイク投稿、ICE抗議デモ逮捕者の顔を改変

[更新]2026年1月23日

ホワイトハウスは1月22日、ICE抗議デモで逮捕された女性Nekima Levy Armstrongの画像をデジタル加工して投稿した。

Guardian紙の分析により、国土安全保障長官Kristi Noemが午前10時21分に投稿した元画像では落ち着いた表情だったArmstrongが、30分後にホワイトハウスが投稿した画像では泣いているように加工され、肌の色も濃く見えることが判明した。

Armstrongはミネソタ州セントポールで日曜日に教会礼拝を妨害したデモに関連し、木曜日に逮捕された3人のうちの1人である。

Guardian紙が両画像を重ね合わせたところ、法執行官の位置が完全に一致し、同一画像であることが確認された。

ホワイトハウス副コミュニケーションディレクターKaelan Dorrは「法の執行は継続される。ミームは継続される」と述べた。

Poynterによれば、ホワイトハウスXアカウントはトランプ第2期開始以来、少なくとも14件のAI投稿を行っている。

From: 文献リンクWhite House posts digitally altered image of woman arrested after ICE protest

【編集部解説】

今回の事案は、政府機関による公式情報発信におけるデジタル加工の使用という、テクノロジーと民主主義の交差点で起きた重大な出来事です。

この事件の背景には、1月7日にミネアポリスで発生したRenee Goodさん(37歳)の射殺事件があります。GoodさんはICE(移民税関執行局)職員による強制送還作戦を監視していた際、ICE職員Jonathan Rossに射殺された米国市民です。この事件は2025年9月以降、ICE職員による9件目の発砲事件であり、4人目の死者となりました。Goodさんの死は大規模な抗議活動を引き起こし、その中で起きた教会でのデモで、公民権弁護士で元Minneapolis NAACP会長のNekima Levy Armstrongさんが逮捕されたのです。

最も深刻なのは、ホワイトハウスが公式アカウントで投稿した加工画像に、透かしや加工を示す表示が一切なかったという点です。Guardian紙が両画像を重ね合わせたところ、法執行官の位置、背景の人物、カーテンから差し込む光の位置まで完全に一致し、同一画像であることが確認されました。つまり、この加工は非常に巧妙で、元画像を知らなければ見抜くことは極めて困難だったということです。

ホワイトハウスの対応も注目に値します。副コミュニケーションディレクターKaelan Dorrは「法の執行は継続される。ミームは継続される」とだけ述べ、加工の事実を認めつつも問題視しない姿勢を示しました。しかし、法律専門メディアLawfareの編集者Anna Bowerは、政府が刑事被告人の侮辱的な偽画像を投稿することは「偏見的な裁判外声明」にあたり、公正な裁判を受ける権利を侵害する可能性があると指摘しています。

さらに懸念すべきは、副大統領JD Vanceもこの加工画像をリツイートしており、政権の最高レベルで偽情報の拡散に加担していたことです。ホワイトハウスの公式Xアカウントは約290万人のフォロワーを持ち、Poynterによればトランプ第2期開始以来、少なくとも14件のAI投稿を行っています。

デジタル加工技術が民主主義に与える影響について、複数の研究が警鐘を鳴らしています。人々はディープフェイクを約50%の確率でしか見抜けず、これはランダムな推測と変わらない精度です。特に、圧縮によるぼやけや歪みがある場合(ソーシャルメディアでは一般的)、検出はさらに困難になります。UNESCOは「認識論的危機」として、真実と知識を確立する人類の基本的能力が根本から揺らいでいると指摘しています。

政府機関による加工画像の使用は、単なる「ミーム」の問題ではありません。公式情報への信頼、法の執行の公正性、そして民主主義の基盤そのものを揺るがす行為です。特に刑事事件の容疑者の画像を加工することは、無罪推定の原則や公正な裁判を受ける権利という、法治国家の根幹に関わる問題です。

この事案は、テクノロジーの進化が政治権力と結びついたとき、いかに危険な結果をもたらしうるかを示す具体例として、長く記憶されることになるでしょう。

【用語解説】

ICE(Immigration and Customs Enforcement / 移民税関執行局)
米国国土安全保障省の下部組織で、不法移民の取締りや強制送還を担当する連邦法執行機関である。2003年に設立され、約2万人の職員を擁する。トランプ政権下では移民取締りが強化され、2026年1月にはミネアポリス・セントポール地域に2,000人の捜査官を派遣する史上最大規模の作戦が実施された。

ディープフェイク(Deepfake)
AI技術を用いて作成される、本物と見分けがつかないほど精巧な偽の画像、音声、動画のことである。敵対的生成ネットワーク(GAN)などの深層学習技術により、人物の顔や表情を別の画像に合成したり、実際には発言していない言葉を喋らせたりすることが可能になった。政治的プロパガンダ、詐欺、名誉毀損などへの悪用が懸念されている。

敵対的生成ネットワーク(GAN / Generative Adversarial Network)
2つのニューラルネットワーク(生成器と識別器)を競わせることで、本物に近い合成データを生成するAI技術である。生成器が偽のデータを作り、識別器がそれを見破ろうとする過程を繰り返すことで、最終的に人間の目では判別困難なレベルの合成コンテンツが生成される。

18 USC 241(合衆国法典第18編第241条)
他者の憲法上の権利行使を妨害または脅迫することを禁じる連邦法である。2人以上が共謀して他者の権利を侵害した場合、最大10年の懲役刑が科される。今回の事件では、教会での礼拝という宗教の自由を妨害したとして、この法律が適用された。

X(旧Twitter)のコミュニティノート
ユーザーが投稿に追加のコンテキストや訂正情報を付加できる機能である。誤情報や文脈が欠けている投稿に対して、複数のユーザーによる評価を経て、「デジタル加工された画像」などの注釈が表示される。今回のホワイトハウスの投稿にも後に「Digitally altered image(デジタル加工された画像)」という注釈が追加された。

【参考リンク】

U.S. Immigration and Customs Enforcement (ICE)(外部)
米国移民税関執行局の公式サイト。組織の使命、活動内容、統計データなどを提供している。

The Guardian(外部)
今回の画像加工問題を最初に報じた英国の独立系報道機関。調査報道に定評がある。

MPR News(Minnesota Public Radio)(外部)
Renee Good射殺事件を詳細に報じているミネソタ州の公共ラジオ局。地域密着型の報道を展開。

Poynter Institute(外部)
ジャーナリズムとメディアリテラシーの非営利研究機関。ファクトチェックやメディア倫理の研究を行う。

Coalition for Content Provenance and Authenticity (C2PA)(外部)
Adobe、Microsoft、BBCなどが参加するデジタルコンテンツの真正性を保証する技術標準を開発する団体。

【参考記事】

White House posts an altered photo of Minnesota protester’s arrest to make it look like she was crying(外部)
CBS Newsによる詳細な検証記事。副大統領JD Vanceのリツイート、専門家のコメントを掲載。

White House Admits to Sharing a Fake Photo of Minnesota Activist After Her Arrest(外部)
ホワイトハウスが画像を「ミーム」と呼んで正当化した経緯と、規制の実態を報告。

White House posts altered photo of civil rights activist’s arrest on social media(外部)
カナダ公共放送による国際的視点からの報道。両画像の比較検証と法律専門家の分析を含む。

Killing of Renée Good – Wikipedia(外部)
事件の背景となったRenee Good射殺事件の詳細な経緯。2025年9月以降の9件目のICE発砲事件。

‘Dark, Bizarre Stuff’: White House Posts Deepfake Image of Arrested ICE Protester Crying(外部)
法律専門メディアLawfareの編集者による「偏見的な裁判外声明」の指摘など法的分析。

Deepfakes and Democracy: How Synthetic Media Threaten Core Democratic Functions(外部)
ディープフェイクが民主主義に与える影響についての学術的な文献レビュー。

Deepfakes and the crisis of knowing(外部)
UNESCOによる「認識論的危機」の警告。人々がディープフェイクを50%の確率でしか見抜けない実態を報告。

【編集部後記】

今回の事件で最も衝撃的なのは、加工画像を投稿したのが個人や民間企業ではなく、米国政府の公式アカウントだったという事実です。しかも透かしや加工表示は一切なく、元画像を知らなければ見抜くことは困難でした。

私たちinnovaTopia編集部も、この事件を通じて改めて考えさせられています。生成AIやディープフェイク技術は、すでに「未来の脅威」ではなく「現在の現実」となっているのです。公的機関でさえこうした技術を躊躇なく使用する時代において、私たち一人ひとりが情報の真偽を見極める力を高めていく必要があります。

皆さんは、ニュースや政府発表の画像をどこまで信頼できると考えますか?また、このような加工が「ミーム」として正当化される社会をどう思われますか?ぜひSNSで、皆さんの率直なご意見をお聞かせください。

投稿者アバター
Satsuki
テクノロジーと民主主義、自由、人権の交差点で記事を執筆しています。 データドリブンな分析が信条。具体的な数字と事実で、技術の影響を可視化します。 しかし、データだけでは語りません。技術開発者の倫理的ジレンマ、被害者の痛み、政策決定者の責任——それぞれの立場への想像力を持ちながら、常に「人間の尊厳」を軸に据えて執筆しています。 日々勉強中です。謙虚に学び続けながら、皆さんと一緒に、テクノロジーと人間の共進化の道を探っていきたいと思います。

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