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欧州最大の防衛テックHelsingが直面した現実──戦場が暴いたAIドローンの限界と命中率の真実

[更新]2026年1月21日

欧州最大の防衛テックHelsingが直面した現実──戦場が暴いたAIドローンの限界と命中率の真実

Bloombergの報道によると、ウクライナは戦場で発見された重大な欠陥により、ドイツのスタートアップHelsingが製造したHX-2攻撃ドローンの新規発注を拒否した。HX-2はテスト中に離陸問題を経験し、自律運用を支援する人工知能コンポーネントの一部が欠けていた。前線付近では電子戦妨害の影響を受け、オペレーターとの通信が繰り返し途絶えた。

機密プレゼンテーション資料によると、前線テスト中にHX-2ドローンのわずか25%しか発射できなかった。HX-2は固定翼とクワッドコプター型プロペラを組み合わせたモデルで、2024年12月に発表され、最大100キロメートル離れた目標を攻撃できる。2024年、Helsingはウクライナ企業と共同生産した攻撃ドローン4,000機を供給する契約を締結しており、さらに6,000機を供給する計画がある。ドイツは、ウクライナからの関心が再び高まるまで追加発注を計画していない。

From: 文献リンクUkraine’s military rejects German Helsing drones over critical flaw – Bloomberg

【編集部解説】

ウクライナ戦争は「AI搭載ドローンの実戦場」となっています。この文脈で理解すべきは、Helsingの失敗が単なる一企業の技術的挫折ではなく、戦場における過酷な現実と、欧州防衛産業の構造的課題を浮き彫りにしているという点です。

Helsingは2021年設立のドイツ防衛テックスタートアップで、SpotifyのCEOダニエル・エクが主要投資家です。2025年6月には6億ユーロを調達し、評価額は120億ユーロ(約1兆8,000億円)に達しました。欧州で最も価値のある防衛テック企業として、「民主主義国家のみに販売する」という理念を掲げ、AI技術で欧州の防衛産業を革新すると期待されていました。

HX-2は同社初の自社開発ハードウェアであり、2024年12月に発表されたばかりの最新モデルです。固定翼とクワッドコプター型プロペラを組み合わせた設計で、射程100kmを誇ります。本来は終末誘導、中間軌道誘導、視覚的目標捕捉という3つのAI機能を搭載するはずでした。

しかし、前線テストで露呈したのは、理論と実戦の大きな乖離でした。離陸成功率わずか25%という数字は、基本的な機械的信頼性の欠如を示しています。さらに深刻なのは、ロシアの電子戦による通信遮断です。

ウクライナ戦争では、ロシア軍が極めて強力な電子戦能力を展開しています。GPS妨害と通信遮断により、ウクライナは月間約10,000機のドローンを失っています。この環境下では、オペレーターとの通信に依存するドローンは致命的な弱点を抱えます。

だからこそ、AI搭載による自律航法が決定的に重要なのです。米国のAuterion社などが提供する「終末誘導」システムでは、ドローンが目標をロックオンした後、通信が遮断されても最後の数百メートルを自律的に飛行して命中します。この技術により、命中率は通常の10-20%から70-80%へと3-4倍に向上します。

ロシアのLancetドローンは、NVIDIA製Jetson TX2やOrinチップ(制裁を回避して入手)を搭載し、自律目標認識・追跡機能を実現しています。

対するHelsingのHX-2は、約束されたAI機能の一部が欠如していたと報じられています。つまり、最も必要とされる能力を提供できなかったのです。

この失敗は、防衛テック企業が直面するジレンマを示しています。開発サイクルの速さと実戦での検証。スタートアップ的な機動性と、軍用装備に求められる信頼性。華やかな資金調達と、戦場での過酷な現実。

興味深いのは、ウクライナが2024年に契約した約200万機のドローンのうち、96%が国内製造であり、AI搭載はわずか10,000機(0.5%未満)だったという事実です。しかし、その効果の高さから、ウクライナは2025年には契約ドローンの50%をAI搭載にする計画とされます。

つまり、AI搭載ドローン市場は爆発的に拡大しようとしているのです。Helsingが競合するのは、ドイツのStark Defence、米国のShield AI、Andurilといった新興企業だけでなく、Rheinmetall AGのような防衛産業の巨人も含まれます。

欧州の防衛支出が急増する中、Helsingには再起のチャンスは残されています。同社はすでにドイツ政府からEurofighter戦闘機へのAI統合契約などを獲得しており、HX-2の失敗が即座に致命傷となるわけではありません。

しかし、この事例が示すのは、防衛テックにおいては評価額や資金調達額ではなく、実戦での性能こそが最終的な評価基準だということです。戦場は、投資家向けプレゼンテーションの華やかさを容赦なく剥ぎ取ります。

【用語解説】

電子戦(Electronic Warfare)
無線通信やレーダー、GPSなどの電磁波を利用したシステムを妨害・無力化する戦術。ドローン戦争においては、オペレーターとドローン間の通信を遮断したり、GPS信号を妨害して航法を不能にする攻撃が主流となっている。

自律航法(Autonomous Navigation)
GPSや外部からの操縦信号に依存せず、AI搭載のカメラやセンサーで周囲を認識しながら自律的に飛行する技術。電子戦環境下でも機能するため、現代の戦場では不可欠な能力とされる。

終末誘導(Terminal Guidance)
目標に接近する最終段階(通常、数百メートル)で、ドローンが自律的に目標を追跡・命中する技術。オペレーターが最初に目標を指定した後は、通信が遮断されても自動で攻撃を完遂できる。

クワッドコプター
4つのプロペラを持つ回転翼機。垂直離着陸が可能で、ホバリングや精密な移動制御ができる。HX-2はこれと固定翼を組み合わせたハイブリッド設計を採用している。

命中率
発射または出撃したドローンのうち、実際に目標を破壊または損傷させた割合。従来の手動操縦ドローンは10-20%程度だが、AI自律誘導により70-80%まで向上するとされる。

【参考リンク】

Helsing(外部)
ドイツの防衛テックスタートアップ。評価額120億ユーロで欧州最大の防衛テック企業。民主主義国家のみに製品販売。

Auterion(外部)
スイスの自律飛行システム開発企業。ウクライナに終末誘導システムを提供し実戦投入。

Shield AI(外部)
米国の防衛AI企業。AI戦闘機パイロット「Hivemind」開発。評価額53億ドル。

Anduril Industries(外部)
米国の防衛テック企業。自律システムとAI防衛ソリューション提供。急成長中。

Rheinmetall AG(外部)
ドイツの大手防衛メーカー。1889年創業。戦車、装甲車、弾薬製造の老舗企業。

NVIDIA(外部)
米国の半導体メーカー。AI処理GPU世界的リーダー。Jetsonシリーズはドローンに広く使用。

【参考記事】

Ukraine Holds Off on New Helsing Drone Orders After Setbacks – Bloomberg(外部)
2024年11月20日付ドイツ国防省内部資料で離陸成功率25%、AI機能欠如を報告。

Ukraine’s Future Vision and Current Capabilities for Waging AI-Enabled Autonomous Warfare – CSIS(外部)
AI自律航法で命中率が10-20%から70-80%へ向上。2024年200万機中AI搭載0.5%未満。

The future of autonomous warfare is unfolding in Europe – MIT Technology Review(外部)
Helsingの2025年6月資金調達で評価額120億ユーロ到達。欧州防衛投資約1兆ドル見通し。

Helsing Raises €600M Series D to Accelerate AI-Driven Defense Innovation Across Europe – GINC(外部)
SpotifyのCEOダニエル・エク主導の6億ユーロ調達詳細。全領域でAI技術展開計画。

Trained on classified battlefield data, AI multiplies effectiveness of Ukraine’s drones – Breaking Defense(外部)
実戦データでAI再訓練し効果3-4倍向上。命中必要数8-9機から1-2機に削減。

Ukraine’s Autonomous Killer Drones Defeat Electronic Warfare – IEEE Spectrum(外部)
神経ネットワーク光学航法開発。月間約10,000機損失、大半が電子戦妨害原因。

AI Drones Transform Ukraine War As Tech Arms Race Escalates – Grand Pinnacle Tribune(外部)
ロシアLancetがNVIDIA Jetson TX2・Orin搭載。

【編集部後記】

AI技術の華やかな資金調達のニュースと、戦場での過酷な現実。このギャップは、私たちが普段触れるテクノロジーニュースではなかなか見えてこない部分かもしれません。ウクライナ戦争は、AIが本当に「使える技術」なのかを試す、人類史上初の大規模な実験場となっています。

月間10,000機ものドローンが失われる消耗戦の中で、命中率を10%から70%に高めるAI技術は、文字通り生死を分ける差となります。みなさんは、この「実戦で検証される技術」という視点から、他のAI活用事例をどう見直しますか?

投稿者アバター
Ami
テクノロジーは、もっと私たちの感性に寄り添えるはず。デザイナーとしての経験を活かし、テクノロジーが「美」と「暮らし」をどう豊かにデザインしていくのか、未来のシナリオを描きます。 2児の母として、家族の時間を豊かにするスマートホーム技術に注目する傍ら、実家の美容室のDXを考えるのが密かな楽しみ。読者の皆さんの毎日が、お気に入りのガジェットやサービスで、もっと心ときめくものになるような情報を届けたいです。もちろんMac派!

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