advertisements

東レが世界初の200℃超耐熱圧電ポリマーを開発、モビリティやロボット分野への応用に期待

[更新]2026年1月29日

200℃を超える高温環境でも動作する圧電ポリマー。東レが開発したこの新材料は、電気自動車のノイズキャンセリングから航空宇宙機の振動監視まで、幅広い応用が期待されています。

急成長する市場と厳格化する環境規制の中で、フッ素フリーという特性が新たな価値を生み出します。2028年の実用化に向けて、素材革新が切り開くモビリティの未来に注目です。


東レは1月28日、200℃以上の耐熱性を有する世界初の圧電ポリマー材料を開発したと発表した。従来の圧電ポリマーであるポリフッ化ビニリデン(PVDF)は120℃で分極構造を失い使用温度上限が80℃程度だったが、新材料は200℃以上でも圧電性能を維持する。

また無機圧電材料のチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)は硬く脆いため複雑形状や大面積での搭載が困難だったが、新材料はワニス、フィルム、不織布などの形状で提供可能で、大面積センサーにも適用できる。モビリティ、ロボット、産業機械、航空・宇宙機などでの振動検出・監視センサーへの応用が期待される。鉛やフッ素を含まずRoHS規制やPFAS規制にも適合可能で、2028年頃の実用化を目指す。

From: 文献リンク世界初1)、200℃以上の耐熱性を有する圧電ポリマーを創出

アイキャッチ画像:東レ株式会社より引用

【編集部解説】

圧電材料は、力を加えると電気を発生する材料で、マイクや振動センサーに広く使われています。しかし、従来の圧電ポリマーであるポリフッ化ビニリデン(PVDF)は120℃で分極構造を失い、実用上の使用温度上限は80℃程度でした。一方、無機圧電材料であるチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)は圧電性能が高いものの硬く脆いため、複雑形状や大面積への搭載が困難という課題を抱えていました。

東レが開発した新材料は、これらの課題を同時に解決する画期的なものです。200℃以上でも分極構造を維持できるため、モーターやエンジン周辺、航空宇宙環境、熱媒配管など、従来のPVDFでは対応できなかった高温領域での安定した振動検出が可能になります。

特に注目すべきは、この材料がワニス、フィルム、不織布など多様な形状で提供できる点です。これにより、複雑な曲面や大面積にも柔軟に対応でき、自動車のボディパネル全体や航空機の機体など、広範囲にわたる振動監視が実現します。

市場的にも、この技術が登場するタイミングは絶妙です。自動車業界では、アクティブノイズキャンセリング(ANC)システムの市場が急成長しており、2025年の約2.5億ドルから2028年には5億ドルに達すると予測されています。特に電気自動車(EV)では、エンジン音がない分、ロードノイズや風切り音が際立つため、精密な振動検出が求められています。Bose、HARMAN、Panasonicなどの大手メーカーがこの分野に注力しており、東レの新材料はこうしたシステムの性能向上に大きく貢献する可能性があります。

航空宇宙分野では、-60℃から900℃という極端な温度変化にさらされる環境で、機体の健全性を常時監視する必要があります。従来の圧電センサーでは対応できなかった領域をカバーできるため、予防保全や無人運用の高度化につながります。

さらに重要なのは、この材料が鉛やフッ素を含まない点です。欧州では2026年末までにPFAS(ペルフルオロアルキル化合物)規制の科学的評価が完了予定で、フッ素系材料に対する規制が段階的に強化されています。東レの新材料はRoHS規制やPFAS規制に適合可能であり、環境規制が厳しくなる中で、代替材料としての需要が見込まれます。

産業機械や風力発電などのインフラ設備でも、振動監視による予防保全が重要性を増しています。設備の異常を早期に検知することで、突然の故障を防ぎ、メンテナンスコストを削減できます。高温環境でも動作する圧電材料は、こうした用途においても大きな価値を持ちます。

東レは2028年頃の実用化を目指しており、現在は顧客向けサンプル提供と評価を進めています。ポリマー分子設計技術と高次構造制御技術という同社の強みを活かし、材料科学の領域で新たな可能性を切り開いています。

【用語解説】

ポリフッ化ビニリデン(PVDF)
フッ素を含む結晶性ポリマーで、最も広く使用されている圧電ポリマー。柔軟性があり大面積化が可能だが、120℃で分極構造を失うため使用温度上限は80℃程度である。

チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)
鉛、ジルコニウム、チタンの酸化物からなる無機圧電セラミック。圧電性能は非常に高いが、硬く脆いため複雑形状や大面積への適用が困難。また鉛を含むためRoHS規制の対象となる。

分極構造
材料内部で電気的な偏りが一定方向に揃った構造。圧電性の発現に不可欠で、外部から力を加えた際にこの構造の変化が電圧を発生させる。高温になると熱振動により構造が乱れ、圧電性が失われる。

高次構造
ポリマー材料内部における分子鎖の配置や配向状態。同じ化学組成でも分子鎖の並び方によって材料特性が大きく変化する。圧電ポリマーでは分極が同じ方向に揃うよう分子鎖を配置することで性能を向上させる。

【参考リンク】

東レ株式会社 – 200℃以上の耐熱性を有する圧電ポリマーの開発に関するプレスリリース(外部)
東レによる本技術の公式発表。開発の背景、技術的特徴、応用分野について詳しく説明されている。

東レ株式会社 公式サイト(外部)
繊維、機能化学品、炭素繊維複合材料など先端材料を扱う日本の大手化学メーカー。有機合成化学、高分子化学などのコア技術を保有する。

ECHA – PFAS規制に関する情報(外部)
欧州化学品庁によるPFAS規制の最新情報。2026年末までに科学的評価が完了予定。

【参考記事】

Toray develops 200°C heat resistant piezoelectric polymer(外部)
東レの200℃耐熱圧電ポリマー開発を報じる海外メディアの記事。応用分野について解説。

Piezoelectric Polymer – an overview | ScienceDirect Topics(外部)
圧電ポリマーに関する学術的概説。PVDFの特性や技術的背景を詳しく説明している。

Active noise cancelling and audio software in automotive Market Size(外部)
自動車用アクティブノイズキャンセリング市場の分析。2028年までに大幅な成長が予測される。

Exploring Innovations in Automotive Active Noise Cancellation Sound System(外部)
自動車ANCシステム市場は2025年の2.5億ドルから2028年に5億ドルへ成長予測。

ECHA publishes updated PFAS restriction proposal(外部)
2025年8月にECHAが公表した更新されたPFAS規制提案の詳細を報告。

The battle over PFAS in Europe(外部)
欧州におけるPFAS規制を巡る議論を詳報。産業界と規制当局の攻防を解説している。

【編集部後記】

圧電材料という一見地味な素材が、私たちの生活を大きく変える可能性を秘めていることに、驚かれた方も多いのではないでしょうか。自動車の静粛性向上、航空機の安全性確保、産業機械の予防保全など、目には見えないところで社会を支える技術です。特に環境規制が厳しくなる中、フッ素フリーという特性が将来の製品設計にどう影響するか、注目していきたいテーマです。2028年の実用化が今から楽しみですね。

投稿者アバター
Satsuki
テクノロジーと民主主義、自由、人権の交差点で記事を執筆しています。 データドリブンな分析が信条。具体的な数字と事実で、技術の影響を可視化します。 しかし、データだけでは語りません。技術開発者の倫理的ジレンマ、被害者の痛み、政策決定者の責任——それぞれの立場への想像力を持ちながら、常に「人間の尊厳」を軸に据えて執筆しています。 日々勉強中です。謙虚に学び続けながら、皆さんと一緒に、テクノロジーと人間の共進化の道を探っていきたいと思います。

読み込み中…

innovaTopia の記事は、紹介・引用・情報収集の一環として自由に活用していただくことを想定しています。

継続的にキャッチアップしたい場合は、以下のいずれかの方法でフォロー・購読をお願いします。