Appleは新たに7つのサードパーティ製Apple Immersive VideoタイトルとApple制作の新エピソード2本を発表した。Apple Immersive Videoは180度立体3D映像で片目あたり4K解像度、90FPS、HDR、空間オーディオに対応し、Apple TVアプリで配信される。
サードパーティ作品として、Red Bullの「World of Red Bull」シリーズではブリティッシュコロンビア州レベルストークでのバックカントリースキーを2025年12月に配信し、タヒチのテアフポーオでのビッグウェーブサーフィンを2026年に配信する。BBC Promsではピアニストのルーカス・シュテルナートがBBC交響楽団、首席指揮者サカリ・オラモと共演するエドヴァルド・グリーグのピアノ協奏曲イ短調をロイヤル・アルバート・ホールで収録した作品を今秋配信する。CNNのビル・ワイアーが南極のスノーヒル島でコウテイペンギンを撮影した作品は2026年配信予定である。
オーストラリアのデイントリー熱帯雨林で東部ククヤラニ族を描いた「Julaymba」は10月配信、The Explorersによる「Experience Paris」とBIGHIT MUSICのK-popグループCORTIS (Color Outside The Lines)の作品は今秋配信される。Audiも2026年のF1参戦に関連する作品を制作中である。Apple制作では「Wild Life」シリーズのボルネオのオランウータンを描いた第4エピソードと、ティム・ロビンスが案内する「Elevated」シリーズのメイン州を描いた第2エピソードが追加される。
From: New Apple Immersive Video Coming From Red Bull, Audi, BBC Proms, CNN & More
【編集部解説】
Apple Vision Pro向けのApple Immersive Videoコンテンツが大幅に拡充されることになりました。これは単なるコンテンツの追加ではなく、Apple Vision Pro のエコシステム全体にとって重要な転換点となります。
最も注目すべきは、初のサードパーティ制作によるApple Immersive Videoコンテンツが登場したことです。CANAL+とMotoGPが制作した「Tour De Force」が9月22日にリリースされ、BlackmagicのURSA Cine Immersiveカメラで撮影された作品としては記念すべき第一号となりました。この成功は、Apple独自のカメラシステムに頼らない制作体制の確立を意味します。
BlackmagicのURSA Cine Immersiveカメラは、片目あたり8160×7200という驚異的な解像度で90fps撮影が可能で、16ストップのダイナミックレンジを実現しています。価格は29,995ドルと高額ですが、これまでAppleのみが独占していたApple Immersive Video制作の門戸を広く開く技術革新といえるでしょう。DaVinci Resolve Studioとの統合により、撮影から編集まで一貫したワークフローが構築されています。
今回発表された7つのサードパーティ作品およびApple制作の新エピソード2本の多様性も印象的です。Red Bullのアクションスポーツ、BBC Promsのクラシックコンサート、CNNの環境ドキュメンタリー、K-popグループCORTIS (Color Outside The Lines)のエンターテイメントコンテンツなど、ジャンルの広がりはApple Immersive Videoの可能性を示しています。特にBBC Promsでのクラシック音楽コンサートは、ピアニストの手から数インチの距離で演奏を体験できるという、従来の映像体験では不可能だった没入感を提供します。
一方で、Apple Immersive Videoのエコシステム拡大には課題も存在します。現在、Apple Vision Proの普及台数は限定的で、高価格帯のデバイスのため市場規模も制約があります。コンテンツ制作者にとっては、投資回収の観点から慎重な判断が必要でしょう。また、180度の視野角という特殊な撮影・編集技術への習熟も求められます。
長期的な視点では、この動きは空間コンピューティング産業の成熟化を示唆しています。Appleがサードパーティへのツール提供を本格化することで、コンテンツエコシステムの自律的な成長が期待できます。今後、Vision Proの価格低下や後継機種の登場により市場が拡大すれば、現在投資している制作会社が先行者利益を得る可能性があります。
【用語解説】
Apple Immersive Video
Appleが開発した180度立体3D映像フォーマット。片目あたり4K解像度、90fps、HDR、空間オーディオに対応し、視聴者を映像の中心に配置する没入感の高い体験を提供する。Apple Vision ProのApple TVアプリで独占配信される。
Blackmagic RAW
Blackmagic Designが開発した映像記録フォーマット。カメラのセンサーデータを高品質で保持し、メタデータや色情報を含む。URSA Cine Immersiveでは立体映像用に拡張されたBlackmagic RAW Immersiveとして使用される。
空間オーディオ(Spatial Audio)
3次元音響技術。音源の位置や距離を立体的に再現し、視聴者の頭の動きに連動して音の方向性が変化する。Apple Immersive Videoの重要な構成要素の一つ。
DaVinci Resolve Studio
Blackmagic Designの業務用映像編集・カラーグレーディングソフトウェア。Apple Immersive Video専用の編集機能を搭載し、URSA Cine Immersiveで撮影した映像の編集に対応する。
BIGHIT MUSIC
韓国の大手音楽制作会社。BTSやTOMORROW X TOGETHERなどの世界的なK-popグループを擁する。HYBE傘下のレーベルとして活動している。
【参考リンク】
【参考記事】
【編集部後記】
Apple Vision Proをお持ちの方は、ぜひ「Tour De Force」を体験してみてください。従来の映像体験とは全く異なる没入感に驚かれるはずです。まだVision Proに触れたことがない方も、Apple Storeで体験できる機会があれば、ぜひお試しいただきたいと思います。
今回のニュースで最も興味深いのは、サードパーティによるコンテンツ制作が本格化したことです。これまでApple独占だった制作環境が開放されることで、どのような新しい映像表現が生まれるでしょうか。特にクラシック音楽やスポーツといった分野での活用に、大きな期待を寄せています。