1月20日、Distance Technologiesは、軽量ユーティリティプラットフォームから主力戦車まで、さまざまな軍用車両向けに設計されたAI強化ARシステム「Field Operator HUD(FOH)」を発表した。同システムは独自の光学技術とAI支援データ処理を組み合わせ、陸上戦闘環境における状況認識と生存性を向上させる。
FOHはsensor fusion(センサーフュージョン)、自動検出、サーマルやナイトビジョンなど複数のセンサーデータを統合し、最も重要な情報のみを提示する。各眼に独立したlightfield(ライトフィールド)を作成する技術により、仮想要素を現実と1対1でマッチングさせる。英国とフィンランド軍での実地試験を経て、2026年第1四半期末までにNATOおよび同盟国の試験に利用可能となり、2027年から本格展開が予定されている。2024年設立の同社は、フィンランドのXRスタートアップVarjoの卒業生らが創業した。
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Distance Technologies Reveals Military AR Goggles for Defense Industry
【編集部解説】
FOHが注目される背景には、軍事分野におけるAR技術の急速な進化があります。米軍のIVAS(Integrated Visual Augmentation System)プログラムには220億ドル規模の予算が投じられており、AR技術が防衛産業の中核技術として位置づけられていることがわかります。Distance Technologiesのアプローチは、情報過多による認知的負荷を軽減することに重点を置いている点が特徴的です。
技術的な観点では、FOHはドローンからのライブ映像フィード、車両搭載カメラ、その他の外部ソースを統合する機能を持ちます。これにより、オペレーターは車両の外に出ることなく周辺状況を360度把握できるようになります。また、既存のナイトビジョンゴーグルとの統合も可能で、低光量環境や夜間任務でもデジタル情報を視認できる設計となっています。
同社の創業チームの経歴も重要な要素でしょう。CEOのUrho Konttoriは、Varjoで業務用VR/XR機器の開発を主導した人物であり、Thomas M. Carlssonは光学トラッキングシステムの開発で25年以上の経験を持ちます。創業メンバーにはVarjo出身のXRベテランが複数名参加しており、軍事分野への本格参入に向けた基盤を構築しています。
一方で、軍事用AR技術には倫理的な課題も存在します。AIによる自動検出と追跡機能は、戦場での意思決定を高速化する一方、誤認識や誤爆のリスクも内包しています。また、このような技術が将来的に民間領域へ転用される可能性も考慮すべきでしょう。NATO加盟国での実地試験が2026年第1四半期末に開始される予定ですが、実戦配備までには安全性と信頼性の徹底的な検証が求められます。
【用語解説】
Field Operator HUD(FOH)
Distance Technologiesが開発した軍用車両向けのAI強化ARシステム。複数のセンサー情報を統合し、戦闘環境での状況認識と意思決定を支援するヘッドアップディスプレイ。
Sensor fusion(センサーフュージョン)
複数の異なるセンサーからのデータを統合し、より正確で包括的な情報を生成する技術。サーマル、ナイトビジョン、ドローン映像などを一つの視覚情報にまとめる。
Lightfield(ライトフィールド)
光の方向と強度を記録・再現する技術。各ピクセルの光線の方向を制御することで、自然な3D映像を生成し、仮想要素を現実空間に正確に重ね合わせることができる。
Anduril EagleEye
米国防衛企業Andurilが2025年10月に発表した軍用ARヘルメットシステム。透明バイザーまたはパススルーカメラを使用し、マップ、ターゲット、味方の位置情報をリアルタイムで表示する。
防衛プライムコントラクター
国防省や軍との大型契約を主導する大手防衛企業。米国ではLockheed Martin、RTX、General Dynamics等が該当し、下請け企業を統合してシステムを納入する。
コマンド・アンド・コントロール(C2)
軍事作戦における指揮統制機能。部隊の状況把握、命令伝達、資源配分などを統合的に管理するシステムで、ARシステムとの統合により迅速な意思決定が可能になる。
【参考リンク】
Distance Technologies 公式サイト(外部)
フィンランド発のXR企業で、メガネ不要のMR技術を防衛・航空宇宙・自動車分野に提供。AI駆動の光学技術とコンピュータビジョンを組み合わせ、人間の知覚能力を拡張するソリューションを開発している。
Distance Technologies – Defence(外部)
同社の防衛分野向けソリューション紹介ページ。Field Operator HUDの技術詳細や、ドローン映像統合、360度状況認識機能などの軍事応用について解説している。
Varjo 公式サイト(外部)
フィンランドの業務用XRヘッドセットメーカー。軍事級のVR/XR技術を提供し、空・陸・海の訓練・シミュレーション分野で実績を持つ。Distance Technologiesの創業メンバーの多くが元Varjo社員。
【参考記事】
Finnish AR tech revolutionizes battlefield vision for military vehicle operators – Caliber.az(外部)
Distance TechnologiesのFOHが情報過多による認知負荷の軽減に焦点を当てていること、ドローンや車載カメラの映像を統合して360度の状況認識を実現する機能について詳述している。
NATO Gains Battlefield Visual Boost With AI-Driven AR System – Next Gen Defense(外部)
FOHのNATO加盟国における実地試験の予定と、既存ナイトビジョンゴーグルとの統合機能について報じている。2026年第1四半期末から試験開始予定。
Defence Tech x Spatial Computing – FOV Ventures(外部)
米軍のIVASプログラムに220億ドルが投じられていることなど、軍事分野におけるAR技術の市場規模と戦略的重要性について分析している。
Finnish startup Distance Technologies secures €10M – Vestbee(外部)
Distance Technologiesが2024年にFOV VenturesとMaki.vc主導で270万ユーロの資金調達を完了したことを報じている。
Varjo Opens Secure Manufacturing Facility in Finland – Varjo(外部)
Varjoが2024年8月にフィンランドに高セキュリティ製造施設を開設し、防衛分野のXR訓練シミュレーション市場が2027年までに約9億ドルに達すると予測されていることを報じている。
AUSA 25 – Eagle Eye by Anduril – Soldier Systems(外部)
AndurilのEagleEyeシステムについて詳述。同社のLattice AIプラットフォームが米陸軍の次世代指揮統制システムの基盤となっている点を指摘している。
【編集部後記】
軍事技術の民間転用は歴史的にインターネットやGPSを生み出してきましたが、FOHのライトフィールド技術が将来どのような形で私たちの生活に影響するのでしょうか。Varjoの卒業生が立ち上げた企業という点も興味深く、業務用XR市場で培われた技術が防衛分野へと展開される流れが加速しています。一方で、AIによる自動検出と追跡機能は戦場での判断速度を劇的に向上させますが、誤認識のリスクや倫理的な課題も無視できません。NATOでの実地試験が数ヶ月後に迫る中、この技術がどのような検証を経て実戦配備へと進むのか、注目していきたいと思います。






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