なぜGMOがロボット代理店になったのか|プレスリリースの奥にある”信頼設計”の論理

[更新]2026年6月22日

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ロボットを売る会社のイメージは、たいていメーカーです——設計し、製造し、技術を磨く会社。ところが2026年6月、GMOインターネットグループが、世界シェアトップのヒューマノイドメーカーの国内正規代理店に就きました。プレスリリースには「セキュリティ」「金融」「AIの知見」という三つの答えが並んでいますが、私たちはもう少し深いところを掘ってみたいと思います。GMOがロボットをやる意味は、ロボットそのものの話ではないかもしれません。


GMOインターネットグループ傘下のGMO AI&ロボティクス商事(GMO AIR)は、2026年6月19日に、中国・杭州を拠点とするHangzhou Unitree Robotics Co., Ltd.の国内正規代理店契約を締結した。

Unitree Roboticsは2025年の二足歩行人型ロボット出荷台数で世界No.1を記録するメーカーで(同社調べ)、アクロバティックな動作でSNSにも広く拡散してきた存在だ。GMO AIRは同日より人型ロボット「G1」「H1」、四足歩行ロボット「Go2」「B2」の販売を開始し、機体の販売から導入支援・ソフトウェア開発・保守運用までをワンストップで提供する。

GMOインターネットグループのセキュリティ技術による通信の安全性担保も合わせて提供するとしている。すでにJALグランドサービスとの羽田空港での実証実験や、東京・渋谷への研究開発拠点「GMOヒューマノイド・ラボ」の開設など、2024年6月18日の会社設立以来、段階的な実績を積んできた。

From: 文献リンクGMO AI&ロボティクス商事、世界No.1の人型ロボット(ヒューマノイド)メーカーUnitree Roboticsの国内正規代理店に|GMOインターネットグループ

【編集部解説】

GMOの30年に流れる「一本の論理」

GMOは、多くの人にとって「インターネットの会社」です。ドメインの登録から始まり、レンタルサーバー、SSL証明書——インターネットを安全に使うための土台を30年売り続けてきました。その会社が今度、中国製のヒューマノイドロボットの国内正規代理店になるのです。

振り返ると、GMOは1995年のインターネット事業開始以来、一貫してある種の事業しか手がけていません。コンテンツではなく、コンテンツが安全に流通するための構造です。

インターネット接続(interQ)は「ネットという世界への入口を誰にでも開く」という基盤。ドメインは「この場所があなたのものだ」という証明。SSLは「この通信は暗号化されている」という保証。どれも、インターネットの中に置かれる「信頼のインフラ」です。GMOはずっとこれを売ってきた、と言い換えることができます。

この文脈でロボット事業を見ると、プレスリリースとは少し違う絵が見えてきます。GMOがやろうとしているのは「ヒューマノイドを普及させること」だけではなく、「ヒューマノイドが社会に組み込まれる際に必要な信頼構造を提供すること」ではないでしょうか。

日本社会が中国製ロボットを使うとき

ここで構造的な問いを考えてみましょう。

Unitree Roboticsは中国の企業です。高い運動性能とコストパフォーマンスを武器に広く普及しています。ITmediaの報道によれば、2025年の売上高は392億円(前年比435%)、二足歩行ロボット市場シェアは約4割に達しており、2026年内の株式上場も控えているという急成長企業です。GMO AIRがこのタイミングで国内独占代理店の地位を確保した背景には、Unitreeの上場前だからこそポジションを押さえる意味があるという判断もあるかもしれません。

ところが、この機体が羽田空港で手荷物を運び、物流倉庫で荷物を仕分けし、ビルの警備に使われるとなると、企業の調達担当者は必ずぶつかる問いがあります。

「このロボットが収集したデータは、どこに送られているのか」
「セキュリティに問題はないか」
「障害が起きたとき、責任を問える相手はどこにいるのか」

これらは技術の問いではなく、ガバナンスと信頼の問いです。機体がどれだけ高性能でも、この問いに答えられなければ企業の現場には入れません。特に国内主要インフラとなる空港での運用を目指すとなれば、その重さは別次元です。

GMOグループは、この問いへの「答えのセット」をグループとしてすでに持っています。

一つ目は通信の認証。GMOグローバルサインは世界的な電子認証局として機能しており、ロボットの機体IDの証明と通信の暗号化は技術的に自然な延長線上にあります。
二つ目は脆弱性診断。GMOサイバーセキュリティ byイエラエは現在、IoT機器と自動車の脆弱性診断をすでに事業として展開しています。ロボット機体の診断への転用は技術的に最も近い領域です。
三つ目は上場日本企業としての所在。何かがあったとき、法的に問える相手が日本に存在する——これはシンプルですが、企業調達において決定的に重要な条件です。

GMOが「信頼の翻訳者」として機能するとは、こういうことです。中国製の高性能ハードウェアを、日本の社会的受容性を持つ形に変換する——それはソフトウェアの開発でも物流でもなく、信頼の構造設計です。

かつて日本の総合商社は、欧米や新興国の技術・製品を日本市場に合わせて「翻訳」する役割を担いました。GMO AIRが「人型ロボット(ヒューマノイド)社会実装における日本最大級の商社となること」を目指すという表現は、このアナロジーと重なります。ただし扱うのは物理的な商品ではなく、デジタルインフラと信頼の仕組みです。

この信頼設計の価値は、民間の現場だけに留まらない。GMOグループは陸上自衛隊の「警備用ロボット(四足歩行型)システム導入検証業務」を受託しており、国産四足歩行ロボットによる駐屯地警備の実証も進めている(今回のUnitree製品とは別事業)。商業施設や物流倉庫から防衛インフラまで、ロボットが社会に入り込もうとしているあらゆる場面にGMOグループが関与しようとしている。求められる信頼の水準が高い現場であるほど、信頼設計を担う事業者の存在意義は大きくなる。

想像の射程として——グループ内に広がる可能性の地図

この論理は、GMO単体にとどまりません。グループ全体を見渡すと、それぞれが、同じ「安心の設計」という論理で事業を持っていることがわかります。バラバラに見えて、一本の哲学がある。ここからは、その資産の地図を描いてみます。

GMOグループには130社(2025年12月末時点)の会社が存在します。プレスリリースが明示した「セキュリティ・金融・インフラ」を超えて、ロボット事業と接続しうるグループ資産を整理すると、以下のような絵が見えてきます。

この表はGMOの公式戦略として確定したものではなく、グループの事業一覧から想像できる接続可能性を示したものです。各社の実際の展開方針はGMO AIRとは別個に決定されます。

グループ会社現在の主な事業ロボット事業との接続イメージ
GMOサイバーセキュリティ byイエラエIoT・自動車脆弱性診断、ペネトレーションテストロボット機体・通信プロトコルの脆弱性診断サービス
GMOグローバルサインSSL証明書・電子認証(世界展開)ロボット機体IDの証明・通信暗号化
GMOあおぞらネット銀行インターネット銀行ロボット購入向けリース・割賦ローンの組成
GMOリザーブプラス医療予約システム+ロボット・AIの開発・運営医療現場ロボットの開発・グループ内AI開発連携
GMOタウンWiFiWiFi自動接続アプリ(TownWiFi)の開発・運営ロボット稼働環境のWiFi安定接続技術への応用可能性
GMO少額短期保険少額短期保険事業ロボット損害・誤作動・事故対応の保険商品開発
GMO天秤AI複数LLMを横断するAIプラットフォームロボット制御AIの評価・モデル最適化基盤
GMOランシステム・RUNSYSTEM(ベトナム)オフショア開発・ビッグデータ解析動作開発・強化学習のコスト最適化
GMOコネクトHR人材派遣・有料職業紹介人材→ロボットへの段階的移行管理、混在派遣モデル
GMO ReTech不動産テック(建物・入居管理DX)施設管理ロボットと建物運用システムの統合
GMOアダムNFTマーケットプレイス・ブロックチェーンロボット行動ログの改ざん防止記録・機体ID管理
GMO AI & CryptoAI・暗号資産スタートアップ特化CVCロボットソフトウェア・センサー分野スタートアップへの投資

この中で注目したいのが「GMOリザーブプラス」です。同社の事業内容には医療予約システムと並んで「ロボット・AIの開発・運営」が明記されています。医療予約システム企業がロボット開発を行っているという組み合わせはやや意外ですが、受付補助・院内案内ロボットのユースケースと考えれば一本の線が通ります。グループ内でGMO AIRともっとも近い位置にある可能性がある会社です。

また「GMO少額短期保険」が示唆する「ロボット保険」は、現時点でほぼ存在しない商品領域です。ロボットが現場で引き起こした事故・損傷・サイバー攻撃による誤作動——これらをカバーする保険の需要は、普及が進むほど確実に高まります。保険商品として成立させるには事故事例の蓄積が先に必要ですが、GMO AIRが「ヒューマノイド派遣サービス」で現場ノウハウを積みながらこの種のデータを集めているとすれば、いつか繋がる道として見ておく価値はあります。

同じグループに「人材派遣会社」がある——矛盾か、設計か

グループ構造をもう少し見ていくと、緊張点が一つ浮かびます。

GMOグループには「GMOコネクトHR」という人材派遣・有料職業紹介会社があります。そしてGMO AIRは「ヒューマノイド派遣サービス」として、人の代わりにロボットを現場に送り込む事業を展開しようとしています。同じグループが、人間の派遣事業とロボットの派遣事業を同時に持つ——これは矛盾でしょうか。

一つの読み方として、人材派遣事業が蓄積してきたノウハウ——現場管理、シフト設計、稼働記録、トラブル対応——はそのままロボット派遣の運用管理に転用できる、という発想があります。別の読み方は「グループが大きくなりすぎて内部の整合性を気にしていない」というものです。それは正直な見方かもしれません。

さらに想像を伸ばすなら、「人とロボットの混在派遣」というモデルがありえます。短期的には人間が現場に入り補助をロボットが担う。中期的に比率が逆転していく。この移行プロセス全体を一つのグループが管理できるとしたら、それは「ロボットを売る会社」でも「人を派遣する会社」でもない、新しい何かです。

ただし繰り返しになりますが、これは現時点での私たちの想像であり、GMOが公式に語っている戦略ではありません。

語られていない問い:ロボットが集めるデータは誰のものか

最後に、どのメディアもまだ正面から取り上げていない問いを置いておきたいと思います。

空港でロボットが手荷物を運ぶ。物流倉庫で仕分けをする。ビルを巡回する。このとき、ロボットは絶え間なく「物理世界のデータ」を収集しています。カメラ映像、空間の三次元マップ、物体の重さや質感、人の動線、設備の状態。インターネット上のクリックやページ閲覧とは種類の異なる「身体的行動の記録」です。

このデータを誰が保有し、どこで管理し、何のために使うのか——このルールを最初に設計した者が、AIが身体を得て物理世界で働く「フィジカルAI時代」のデータ資産を握ります。

GMOグループは30年以上、インターネット上のデータ流通を支えてきました。広告事業でユーザー行動データを扱い、リサーチ事業で消費者データを扱い、金融事業で取引データを扱ってきた。そこに「物理空間の行動データ」が加わるとしたら、それはまったく新しいカテゴリです。

GMO AIRのプレスリリースはGMOグループのセキュリティ技術を活用することで通信の安全性を担保した導入環境を提供すると述べています。しかしこれはデータ保護の文脈であり、データをどう利活用するかについては何も語られていません。これが「語られていない問い」として残ります。

ロボットが収集したデータをどう扱うかのポリシー——これがGMO AIRというビジネスの長期的な価値を左右するかもしれない。私たちはそこを注視し続けたいと思います。

【用語解説】

フィジカルAI(Physical AI)
生成AIのように画面上で動くのではなく、身体(ロボットなど物理的な機体)を持ち、現実世界で自律的に動くAIのこと。GMO AIRはこの概念を、ヒューマノイドロボット事業の核心的な文脈として使っている。熊谷正寿・GMOインターネットグループCEOが今回のプレスリリースで使用した表現。

ヒューマノイドロボット(Humanoid Robot)
人間に似た二足歩行の身体構造を持つロボット。「なぜ人型なのか」という問いに対するGMO AIRの答えは、「社会インフラのほぼすべてが人間を前提に設計されているから」——つまり、ドアも階段も机も人間サイズであり、既存環境を改修せず使えるロボットとして人型に優位性があるという理論。

脆弱性診断(IoT・自動車)
デジタル機器やシステムの弱点(サイバー攻撃の侵入口となりうる箇所)を専門家が事前に発見・報告するサービス。GMOサイバーセキュリティ byイエラエは、これをIoT機器と自動車に対してすでに実施している。ロボットの診断への転用は技術的に近い領域にある。

正規代理店(国内)
メーカーと契約し、国内での正規販売・サポートの権限を得た企業。非正規の並行輸入品と異なり、メーカーの技術サポート・保証が受けられ、企業が導入する際の信頼性の根拠になる。

【参考リンク】

GMO AI&ロボティクス商事(GMO AIR)(外部)
ロボット・AIの導入支援を行うGMOインターネットグループのAI・ロボティクス事業会社。ヒューマノイド派遣サービス・GMOヒューマノイド・ラボを運営。

Unitree Robotics 公式サイト(外部)
2016年に中国・杭州で設立。G1・H1(ヒューマノイド)、Go2・B2(四足歩行)を主力製品として展開する世界最大のヒューマノイドメーカー(出荷台数ベース、同社調べ)。

GMOヒューマノイド・ラボ(外部)
東京・渋谷に開設されたGMO AIRのフィジカルAI研究開発拠点。複数メーカーの機体を比較検証し、業種別の動作プログラムを開発している。

GMOグループ主要会社一覧(外部)
GMOインターネットグループのグループ会社130社(2025年12月末時点)の事業内容・所在地を一覧できる公式ページ。本記事の「可能性の地図」の出典。

GMOサイバーセキュリティ byイエラエ(外部)
IoT脆弱性診断・自動車脆弱性診断・ペネトレーションテストを手がけるGMOグループのサイバーセキュリティ会社。

【参考記事】

GMO AI&ロボティクス商事、世界No.1のヒューマノイドメーカーUnitree Roboticsの国内正規代理店に — PR TIMES(外部)
GMOインターネットグループのプレスリリース配信版。「武bot」「中華ロボット」等のキーワード設定にPR戦略の意図が読める。

アクロバットで話題の人型ロボ「H1」「G1」、GMO子会社が国内販売へ — ITmedia NEWS(外部)
Unitreeの2025年売上高392億円(前年比435%)・市場シェア約4割・2026年内IPO計画を含む独自財務情報を掲載。SNS話題性を入口にしつつ、他媒体にない数字を含む。

GMO/中国のヒューマノイドメーカー「Unitree」国内正規代理店に — LNEWS(外部)
物流専門メディアによる報道。「フィジカルAI」タグ付きで物流現場への活用文脈として位置づけている。


【編集部後記】

この記事を書きながら私たちが気になったのは、ロボットが生み出す「身体的なデータ」のことです。画面の中で完結していたAIが身体を得て物理世界に入るとき、そこには新種の記録が生まれます。誰がそれを保有し、どう管理するか——まだ誰も答えを持っていないこの問いが、フィジカルAI時代の大きな設計課題になるのではないかと感じています。GMO AIRが今後この問いにどう向き合っていくか、私たちはゆっくりと追いかけていきたいと思っています。