電気自動車の価格の高さは、普及を阻む壁として長く語られてきました。そうした中でフォードは何年も前から「3万ドルを切る電気トラック」を公約に掲げ続けてきましたが、具体的な姿はなかなか見えてきませんでした。その公約に、ついに名前と価格という具体的な答えが示されています。ファゾムの登場です。
2026年8月6日に明らかになったフォードの新型EVピックアップは、車名を「ファゾム」とし、価格は28,350ドル。フォードが長年公約してきた「3万ドル以下」という目標を下回る価格設定である。
同車はフォードの新型「ユニバーサルEVプラットフォーム」を採用する第一弾モデルで、双方向充電とデジタルキーを標準装備し、全モデルがハンズフリー運転支援システム「BlueCruise」に対応するハードウェアを備える。車内にはCarPlayとAndroid Autoに加えApple Mapsの統合機能も搭載される。競合として登場が見込まれる「スレート・トラック」は26,400ドルからだが、航続距離は205マイル(約330km)にとどまる。予約受付は翌2027年初頭に始まり、生産はケンタッキー州のルイビル組立工場で行われる予定だ。
From:
Ford finally pulls off the sub-$30K electric truck it promised years ago
アイキャッチ画像はYoutube公式動画より参照
【編集部解説】
フォードが手頃な価格の電気トラックを本気で狙うのは、実は今回が初めてではありません。同社は2022年モデルとして「F-150ライトニング」を投入し、当初は年間15万台の生産を計画していましたが、実際の生産台数は一度も年間4万台を超えることがありませんでした。需要の伸び悩みとコスト増を受け、フォードは2025年12月に195億ドルの評価損を計上し、電動ピックアップの生産を大幅に縮小してハイブリッドやEREV(航続距離延長型EV)へ軸足を移すと発表しています。同じ12月には、テネシー州「BlueOval City」で計画していた次世代電気ピックアップの生産も撤回され、跡地は名称も「Tennessee Truck Plant」に変え、ガソリン車の生産拠点として2029年から稼働する方針が示されました。
こうした撤退の記憶が残る中での発表です。もっとも、ファゾムの土台となる「ユニバーサルEVプラットフォーム」は、2025年8月にケンタッキー州で「モデルTモーメント」と銘打って発表された際から、ライトニングとは異なる設計思想が強調されてきました。安価なLFP電池の採用や、部品点数を大幅に減らす一体成形(メガキャスティング)技術により、既存モデルのマーベリックで146点必要だった部品を2点にまで削減するとされています。ガソリン車「エスケープ」を生産していたルイビル工場そのものを転換してまで進められているこの計画は、「値引き」ではなく「作り方の再設計」によって採算を確保しようとする試みだと言えます。
設計思想が変わったことと、実際に利益の出る価格で量産を続けられることは、別の問題です。ライトニングも登場時は大きな期待を集めていました。ファゾムが同じ轍を踏まずに済むかどうかは、今後始まる量産と、その後の販売実績で分かってくるでしょう。
【関連記事】
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フォードにとって電気トラックへの挑戦は今回が初めてではありません。2022年に投入されたF-150ライトニングが失速した経緯を報じています。
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EVの低価格化はトラックに限りません。テスラも同様の戦略転換を進めています。
【編集部後記】
「3万ドルを切るEVトラック」という数字だけを見ると、分かりやすい達成に見えます。ですがその裏にあるのは、値引きではなく作り方そのものを変えるという大きな賭けです。同じような約束を掲げながら計画が縮小してきた例もある中で、この挑戦がどう転ぶのかはまだ分かりません。予約が始まる来年初頭の世間の評価にも注目していきたいです。
【用語解説】
ユニバーサルEVプラットフォーム(Universal EV Platform, UEV)
フォードが開発した新しいEV専用車台。安価な電池と製造工程の簡素化により、低価格帯のEVを複数車種にわたって展開することを狙う。
LFP電池(Lithium Iron Phosphate Battery)
コバルト等の高価な希少金属を使わない電池方式。従来主流のニッケル系電池よりコストを抑えられる一方、エネルギー密度はやや低め。
メガキャスティング(Megacasting)
車体の複数パーツを一体成形で鋳造する製造技術。部品点数と溶接工程を大幅に削減し、製造・修理コストの低減につながる。
双方向充電(バイダイレクショナル充電 / Bidirectional Charging)
EVのバッテリーから住宅や外部機器へ電力を供給できる機能。停電時の非常用電源としての活用が想定される。
BlueCruise
フォードのハンズフリー運転支援システム。指定された高速道路区間でハンドルから手を離した走行が可能。
BlueOval City/Tennessee Truck Plant
フォードがテネシー州に建設した工場。当初は次世代EVピックアップと電池の生産拠点として計画されたが、2025年12月にガソリン車生産拠点へ計画変更、名称も変更された。
EREV(Extended Range Electric Vehicle、航続距離延長型EV)
バッテリーとエンジン(発電専用)を組み合わせた電動車。基本はモーターで走行し、バッテリー残量が減るとエンジンが発電機として作動する。
【参考リンク】
Ford Fathom公式ページ(Ford.com)(外部)
フォード公式による「ファゾム」紹介ページ。価格・標準装備・予約開始時期などメーカー発表の一次情報を確認できる。
Slate(スレート・トラック公式サイト)(外部)
ファゾムの競合として名前が挙がる低価格EVトラック「スレート」のメーカー公式サイト。仕様や予約状況を確認できる。
Ford「Betting on America」ユニバーサルEVプラットフォーム解説記事(外部)
フォード公式メディアによる、投資規模やプラットフォームの技術的位置づけの解説記事。
【参考記事】
Ford Lightning EV Is Being Discontinued — CarsDirect(外部)
F-150ライトニングの生産終了の経緯。当初計画(年15万台)と実際の生産実績(年4万台未満)のギャップを報じる。
Ford cuts electric F-150 Lightning production, takes $19.5B charge — Fox Business(外部)
2025年12月発表の195億ドル評価損と、ハイブリッド・EREVへの戦略転換の詳細を報じる。
Ford scraps plans for electric pickup at BlueOval City — Tennessee Lookout(外部)
BlueOval Cityでの次世代EVピックアップ計画の撤回とTennessee Truck Plantへの転換を報じる地元紙の一次報道。
Ford reveals its ‘Model T’ EV moment — Tom’s Guide(外部)
2025年8月11日のユニバーサルEVプラットフォーム正式発表の詳細とファーリーCEOの発言を収録。
Ford’s $30,000 EV pickup is getting closer — Electrek(外部)
メガキャスティング技術による部品点数削減など、プラットフォームの製造面の詳細を報じる。
Ford CEO Says $30,000 Electric Truck Hits Prototype Stage — InsideEVs(外部)
ルイビル工場でのエスケープ生産終了とメガキャスティング設備の稼働について、ファーリーCEOへのインタビューを基に報じる。


















