日本通運が、物流Webアプリ「DCX」に生成AIとの対話機能を載せました。目を引くのは機能そのものより、2か月前の出展告知で「開発中」と自ら書いていたことです。予測を出し、現場を見せ、予測を磨き、そこに話しかける口をつける。2025年4月から約16か月、積まれてきたものの一番上が今回の発表です。
NIPPON EXPRESSホールディングスは2026年8月19日、グループ会社の日本通運が、物流Webアプリ「DCX」のデータ分析オプションサービス「Business Insight」で、生成AI(大規模言語モデル:LLM)を活用した新機能「BI LLM Chat」の提供を開始したと発表した。
DCX上に蓄積された顧客固有の物流データを、セキュアな環境下でAIが参照・解析し、自然言語での質問に回答を提示する。現場の実績データと外部情報を統合するため、内部データと外部要因を掛け合わせた問いにも示唆を示せるという。対話形式のため専門的なITスキルやデータ集計の知識を必要とせず、数日を要していたレポート作成や要因分析の工数を削減する。入力データや対話内容が外部のAI学習に使われることはないとする。
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日本通運、物流Webアプリ「DCX」で AIと対話できる新機能「BI LLM Chat」の提供を開始

【編集部解説】
約16か月の積み上げ
DCXが動き始めたのは2023年4月でした。ShopifyとAPI連携する在庫管理のWebアプリで、AIによる需要予測も公式サイトでは早くから機能として紹介されています。ただ、AIまわりの発表が続けざまに出るようになったのは2025年の春からです。
2025年4月、過去の出荷データからアイテムごとの月別出荷数量を予測するサービス。同年12月、倉庫の作業ログを1時間ごとに自動集計して可視化する「Operation Insight」。そして2026年5月、出荷予測そのものの刷新です。1アイテムあたり1〜2時間かかっていた算出が約5分になり、日別・週別・月別で最大半年先まで、統計的な確率にもとづく10段階の予測値から選べるようになりました。利用にはDCXを通した一定以上の出荷実績データが必要です。
6月には、日本通運が自ら手の内を明かしています。AWS Summit Japan 2026の出展告知で、出荷予測にはAWSの時系列予測モデル「Chronos-2」を使い、学習なしで予測を出していること。そして、Amazon Bedrockを活用した対話型AI機能を開発中であること。
その2か月後が、今回の発表です。
予測を出し、現場を見えるようにし、予測を磨き、そこに話しかける口をつける。2025年4月から約16か月。一つひとつは大きく扱われる類の発表ではありませんが、並べると順序に迷いがありません。手元のデータが増えるたびに一段ずつ上へ足していく。物流のように現場が動き続けている領域では、この積み方でしか届かない場所があります。
何が変わるのか
自社の出荷実績と、市況や需給などの外部情報を突き合わせて需要や在庫を判断する。これ自体は以前からサプライチェーンの運営で行われてきたことです。担い手は企業によって違い、需給計画、営業、調達、商品部門、委託先の3PLと、役割の置き方もさまざまです。
今回の焦点は、その分析を自然言語で行えるようにした点にあります。専門的なITスキルやデータ集計の知識がなくても結果を得られ、これまで数日を要していたレポート作成や要因分析の工数を削減できると発表は説明しています。
この差は、組織の形に効いてくるかもしれません。分析の依頼が特定の担当者に集まっているあいだ、問いを立てられる人はどうしても限られます。特定地域の市況を踏まえて、いまの在庫で納期を維持できるか。発表が例に挙げるこの問いは、本来なら現場の責任者が真っ先に抱くものです。それを誰かの手を借りずに投げられる場面が増えるなら、意思決定が速くなるより先に、問いを立てる人の数のほうが動きます。
外部から隔離する、という設計
3つ目の特徴として挙げられた情報セキュリティは、地味ですが今回の要でしょう。
物流データには、取引先、時期、品目、数量が並びます。事業の輪郭がそのまま出る種類の情報です。生成AIに業務データを扱わせるとき、その情報管理が導入判断の重い論点になるのは、どの業界でも変わりません。
発表は、外部から隔離された環境で構築し、入力されたデータや対話内容を外部のAI学習には利用しないと明記しています。機能の説明より先にこの一文が要る。その順番を、荷主のデータを預かる側として理解している書き方です。
6月の告知にAmazon Bedrockの名前が出ていたことも、ここで効いてきます。モデル名そのものは今回まだ明かされていませんが、どの基盤の上で動くのかは、6月の段階で公の場に置かれていました。安全だと言うだけでなく、確かめる手がかりを先に出しておく。導入を検討する側にとって、この順番は小さくありません。
決めるのは、人
AIが何をするのかについて、発表がいちばん慎重に語を選んでいるのは、意思決定にまつわる部分です。示唆を提示する。意思決定を支援する。決めるところまでは踏み込んでいません。
外部の情報も取り込む以上、返ってきた答えとその根拠を人が確かめる手順は要ります。最後に責任を持つ人が手元に残っている。いまの生成AIの置き方として、これは自然な線でしょう。
39ドルの隣にある
もっとも、この話を大企業の内輪の効率化として読むと、たぶん半分を取り落とします。
DCXにはアウトソーシングとクラウドの2つのサービスがあります。クラウドのベーシックプランは月額39ドルに、発送済オーダー1件あたり0.33ドルの従量課金が加わる形で、Shopifyアプリストアから使い始められます。世界1,000カ所以上の物流拠点を持つNXグループの基盤と、小規模ストア向けのプランが、同じサービスブランドの中に並んでいる。日本の物流DXでいちばん見落とされているのは、この幅かもしれません。
ただし、39ドルのプランでBI LLM Chatまで使えると読むのは早そうです。Business Insightは在庫管理を委託する顧客向けの説明の中で紹介されてきたもので、クラウドプランの機能表とは別に案内されているオプションサービスです。料金体系も、提供地域も、利用対象も、これから明らかになっていく部分です。気になるなら問い合わせるのが早いでしょう。
現場の言葉で、在庫に問う
在庫という言葉には、いつも「間に合うのか」という不安が貼り付いています。数字は見えているのに、いまの状況でそれが足りているのかがわからない。物流の現場でくり返されてきたのは、たぶんその一種類の不安です。
その不安を、自然言語のまま投げられる場所ができました。答えの精度がどこまで上がるかはこれからですが、問いを預けられる先があることは、それだけで現場の負担を軽くします。2025年4月から積まれてきたものの、いまのところの一番上が、このチャット画面です。次に何が載るのかを、静かに見ていたいと思います。
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【編集部後記】
6月に出たリリースは、AWS Summitの出展告知でした。ブース番号まで並んだ事務的な文書のなかに、まだ世に出ていない対話型AI機能と、その基盤の名前が置かれています。
発表前の機能を先に見せておくと、実際に出たときの受け取られ方が変わります。驚きは減りますが、代わりに、言ったことをやる会社だという印象が残る。約束の履行そのものが商品である業界らしい順番です。
【用語解説】
生成AI(大規模言語モデル、LLM)
大量のテキストを学習し、文章で入力された指示に文章で応答するAI。今回の機能は、この仕組みを社内データの分析に接続したものだ。
BI LLM Chat
DCXのデータ分析オプション「Business Insight」に追加された対話機能の名称。BIはBusiness Insightを指すと読める。
Chronos-2
AWSが提供する時系列予測モデル。過去の数値の並びからその先を予測する。個別の学習を必要としない点が特徴で、DCXの出荷予測に使われている。
Amazon Bedrock
複数の企業が開発した生成AIモデルを、共通のAPI経由で利用できるAWSのサービス。自社でモデルを持たずに生成AI機能を組み込める。
3PL(サードパーティ・ロジスティクス)
荷主でも運送業者でもない第三者が、物流業務全体を設計・運営する形態。倉庫の運用や在庫管理を包括的に請け負う。
API連携
異なるシステム同士を決められた手順でつなぎ、データを自動でやり取りさせること。DCXはこの方式でShopifyの注文や在庫と同期する。
従量課金
使った量に応じて料金が加算される仕組み。DCXのクラウドサービスでは、月額基本料金とは別に、発送済オーダー1件ごとに加算される。
【参考リンク】
DCX(日本通運)(外部)
日本通運が提供する物流Webアプリの公式サイト。アウトソーシングとクラウド、2種類のサービスの内容と導入の流れを確認できる。
DCX クラウドサービス(外部)
クラウドサービスの料金ページ。3つのプランの月額と、発送済オーダーごとの従量課金、無料トライアルの条件が掲載されている。
NIPPON EXPRESSホールディングス(外部)
NIPPON EXPRESSホールディングスの公式サイト。今回の発表を含む一連のニュースリリースがここに公開されている。
Amazon Bedrock(外部)
AWSが提供する生成AIの基盤サービス。6月の出展告知で、開発中だった対話型AI機能に活用すると日本通運が説明していた。
AWS Summit Japan(外部)
アマゾン ウェブ サービス ジャパンが主催する国内最大級のクラウドイベント。日本通運は2026年6月にDCXを出展している。
【参考記事】
日本通運、AI搭載型物流Webアプリ「DCX」を「AWS Summit Japan 2026」に出展(外部)
本記事の柱を支えた発表。出荷予測にChronos-2、開発中の対話型AI機能にAmazon Bedrockを使うと明記している。
日本通運、必要な出荷量をAIでスピード予測 物流アプリの機能刷新(外部)
2026年5月の機能強化を報じたもの。算出時間が1アイテムあたり1〜2時間程度から約5分に短縮された点を、数値を挙げて伝える。
日本通運/物流WebアプリのAI出荷予測機能を強化、算出時間は5分に短縮(外部)
同じ機能強化を物流業界紙の視点から報じたもの。10段階の予測値の選択と、欠品リスク重視か在庫抑制かの使い分けに触れている。
日本通運、物流Webアプリ「DCX」のAI出荷予測機能を強化(外部)
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日本通運、物流Webアプリ「DCX」で、AIを活用した出荷予測サービスを開始(外部)
一連の発表の起点。DCXが2023年4月から提供され、Business Insightが定額課金のオプションであることも記す。
日本通運/物流Webアプリ「DCX」のデータ分析オプションサービスで生成AI活用の新機能提供開始(外部)
今回の発表を物流業界紙が報じたもの。転記元とは別の切り口で、新機能の要点と提供の枠組みが簡潔に整理されている記事になる。


















