Starlink 1万1000機突破|そのうち定位置にいるのは9724機

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1万1000機を超えた——そう報じられた数字を、そのまま受け取ってよいものでしょうか。SpaceXは8月18日にStarlink衛星24機を打ち上げ、軌道上の総数は1万1003機になりました。ただし同じ集計表で、定位置にあたる運用シェル内にいるとされたのは9724機です。両者は、別のものを数えています。


SpaceXは2026年8月18日午後9時1分(太平洋夏時間)、ヴァンデンバーグ宇宙軍基地のSLC-4EからFalcon 9を打ち上げ、Starlink衛星24機を低軌道に投入した。ミッション名はStarlink 17-50。

マクダウェルの集計では、打ち上げ直前の8月18日18時18分59秒(協定世界時)時点で在軌1万979機、うち運用シェル内は9724機だった。今回の24機が加わり、在軌総数は1万1003機となった。この数には完全には稼働していない衛星、故障した衛星、軌道離脱の準備中の衛星が含まれる。第1段ブースターB1097は12回目の飛行を終え、太平洋上のドローン船に着陸した。同便はSpaceXの2026年100回目の打ち上げとなった。

From: 文献リンクSpaceX exceeds 11,000 satellites in low Earth orbit

【参考動画】

【編集部解説】

1万1000機。この数字だけが独り歩きしそうな打ち上げでした。

けれど元記事には、見落とされやすい一文が添えられています。この数には、完全には稼働していない衛星も、故障した衛星も、軌道離脱の準備に入った衛星も含まれる、と。ニュースの側が自ら但し書きを置いているわけです。

では、その内訳はどうなっているのか。ここからは、マクダウェルの状態別集計を見ていきます。

1989年から宇宙飛行の記録誌『Jonathan’s Space Report』を発行している天体物理学者、ジョナサン・マクダウェルの集計表が、Starlink衛星を軌道上の状態別に分類しています。今回の打ち上げの約9時間42分前、8月18日18時18分59秒(協定世界時)の断面はこうでした。

マクダウェルの分類上、運用シェル内が9724機。運用高度へ上昇中が195機。軌道面ドリフト中が166機。予備・再配置中が74機。運用シェルを離れた後も能動的に機動中が599機。廃棄に向けて降下中が205機。制御を失って降下中が16機。在軌の合計は1万979機です。

そこへ今回の24機が加わり、在軌総数は1万1003機になりました。つまり「1万1003機」は打ち上げ後の在軌総数、「9724機」は打ち上げ直前の運用シェル内数です。数えている状態区分だけでなく、集計時点も違います。

ここで注意しておきたいのは、マクダウェル自身が表の下に太字で断り書きを置いていることです。ここで述べているのは軌道上のステータスだけであり、運用シェルにいない衛星も運用サービスを提供している場合がある、と。つまり9724という数字は「実際に使える衛星の数」ではありません。位置の分類であって、稼働の判定ではないのです。

数字を小さく見せるためにこの内訳を出すのではありません。逆です。

打ち上げ直前の集計では、運用シェルの外に1255機がいました。SpaceXは2026年、この高度帯の構成そのものを組み替えている最中です。1月1日にマイケル・ニコルズが発表した計画では、高度約550kmを回る約4400機を約480kmへ、年間を通じて降ろすとしています。理由は二つ。太陽活動が極小期へ向かって大気密度が下がる条件では、推進能力を失った衛星が大気抵抗で自然に再突入するまでの時間を、550km級の4年以上から480km級の数か月へ短縮できること。そして500km未満はデブリ物体も計画中のコンステレーションも少なく、全体としての衝突可能性を下げられること。移設は他の事業者、規制当局、米宇宙コマンド(USSPACECOM)と調整しながら進められています。

1255機のうち599機は、マクダウェルの分類上「運用シェルを離れた後も能動的に機動中」にあたります。ただし、このうち何機が今回のシェル降下によるものかは、集計表だけでは分かりません。それでも、カタログの列を眺めるだけでは、事業者がいま払っているコストは見えてこない。

数え方だけでなく、集計時点と判定基準にも注意が要ります。ニコルズは1月1日時点で、9000機超の運用衛星群について「dead satelliteは2機」と述べました。一方、マクダウェルは8月18日時点で16機を「故障し、非制御で軌道減衰中」に分類しています。SpaceX側はこの投稿でdeadの判定基準を示しておらず、時点も7か月以上離れています。2機と16機を同じ定義の数字として比べることも、逆に「まったく別のものを数えている」と決めつけることも、手元の材料ではできません。

同じ構図は7月にも起きていました。Starship13号機がStarlink V3衛星20機を初めて展開した飛行です。V3は太陽電池を展開し、レーザーで既存のStarlink網との接続に成功しました。SpaceXにとっては次世代機の初実証です。一方、マクダウェルの表ではこの20機が「軌道到達せず」の欄に計上されています。ただし同じ表の凡例は、この欄を「打上げロケットが軌道到達に失敗」と説明しています。最初から準軌道飛行として計画されたFlight 13へのこの欄の適用は、少なくとも凡例の説明文とは整合しません。SpaceXは20機について、展開の約20分後の再突入で消滅したとみています。カタログのどの欄に入るかと、ミッションの成否は別の話なのです。

軌道の混雑を語る言葉は、いま急速に必要とされています。当サイトでは8月13日、コンステレーションがデブリを自己増殖させ始める「臨界サイズ」の解析モデルを紹介しました。その記事で扱ったのは、上昇中の機体も、退役して降りていく機体も、故障して漂う機体も、すべて軌道インフラの在庫だという視点でした。今回の内訳は、その在庫を衛星カタログの状態別集計として見せたものにあたります。

もう一つ、この打ち上げには別の意味もありました。SpaceXにとって2026年100回目の打ち上げです。8月19日の時点で年間100回。単純計算すると2.3日に1回のペースで、ロケットが上がり続けていることになります。数が増える速度に、数え方の語彙が追いついていない。それが今の状況だと言えます。

累計で1万2769機が打ち上げられ、1766機がすでに落ちました。残る1万1003機が、いま頭上にいます。この三つの数字を並べて初めて、軌道インフラは「積み上がるもの」ではなく「補充と廃棄を繰り返しながら維持されるもの」だと見えてきます。

節目の数字は、議論の終点ではなく入口です。1万1000という数を受け取ったあとに、それが何を数えたものかを問える読者が増えることが、これから始まる軌道環境の議論の土台になるはずです。

【関連記事】

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【編集部後記】

マクダウェルの集計表は、一つのURLで一つの数字を返してくれません。ライブ版と保存版で更新時刻が違い、同じ日に開いても値がずれます。

最初は厄介だと思いました。けれど、これが誠実さの形なのだとも思います。頭上の1万機は毎日動いています。動いているものを一枚の数字に固めた瞬間、こぼれ落ちるものがある。

Starlinkのシェル降下は年末に完了する予定です。そのとき、この内訳はどう変わっているでしょうか。


【用語解説】

低軌道(LEO)
地球表面から高度2,000km程度までの軌道。通信の遅延が小さく、打ち上げコストも抑えられるため、衛星インターネットの主戦場となっている。大気の影響を受けるため、機体は定期的に軌道を維持する必要がある。

運用シェル
コンステレーションが設計上のサービスを提供するために衛星を配置する、特定の高度と傾斜角の層。マクダウェルの集計表では「Op Shell」と表記される。ただし本人が注記しているとおり、シェル内にいるかどうかは軌道上の位置の分類であり、サービスを提供しているかどうかの判定ではない。

軌道面ドリフト
衛星を中間の高度にとどめ、地球の重力の偏りによる歳差運動を利用して、目的の軌道面までゆっくり移動させる手法。推進剤を節約できる一方、移動には時間がかかる。

軌道減衰
大気の抵抗によって衛星の高度が少しずつ下がり、最終的に大気圏へ再突入する現象。高度が低いほど大気は濃く、減衰は速い。推進能力を失った衛星が自然に落ちるまでの時間は、この減衰の速さで決まる。

太陽活動極小期
太陽活動の約11年周期のうち、活動が最も静まる時期。上層大気が冷えて密度が下がるため、同じ高度でも軌道減衰が遅くなり、故障した衛星が軌道上に留まる期間が延びる。

コンステレーション
共通の目的のために協調して動作する衛星群。数千から数万機規模のものはメガコンステレーションと呼ばれる。

臨界サイズ
コンステレーションの規模が一定の水準を超えると、衝突によって生じた破片がさらに衝突を招き、デブリが自己増殖し始めるとされる境界。基数だけでなく、軌道配置、質量、断面積、機動能力の組み合わせで決まる。

ドローン船
洋上でロケットの第1段を受け止める自律航行船。発射地点へ引き返す推進剤が足りないミッションで用いられる。Of Course I Still Love Youは太平洋側を担当する船である。

米宇宙コマンド(USSPACECOM)
アメリカ軍の統合軍の一つで、高度100km以上の軍事作戦を管轄する。軍種であるアメリカ宇宙軍(USSF)とは別の組織であり、混同を避けるため公的文書では「宇宙コマンド」と表記される。

ジョナサン・マクダウェル
天体物理学者。1988年から2026年までハーバード・スミソニアン天体物理学センターに勤務し、現在は退職。ダラム大学名誉教授。1989年1月30日の第1号以来、宇宙飛行の記録誌『Jonathan’s Space Report』を発行し続けている。その集計は報道機関や規制当局が参照する事実上の基準となっている。

【参考リンク】

Jonathan’s Space Report|Starlink Statistics(外部)
Starlink衛星を軌道上の状態別に分類した集計表。在軌数、運用シェル内、上昇中、廃棄降下中などを状態ごとに公開している。

Starlink Space Safety|Constellation Altitudes(外部)
Starlinkの運用高度に関する公式解説。500km超からのシェル降下を2026年末までに完了する計画と、その理由を示している。

SpaceX 公式サイト(外部)
Falcon 9とStarshipを開発する米国の宇宙企業。低軌道衛星インターネットStarlinkの運営主体でもある。

Starlink 公式サイト(外部)
SpaceXが運営する衛星インターネットサービス。低軌道に世界最大の衛星コンステレーションを構築し、各国でサービスを提供する。

【参考記事】

SpaceX launches its 100th mission of the year, sends Starlink satellites to orbit(外部)
同じ打ち上げを2026年通算100回目という角度から報じた記事。衛星の分離が離昇61.5分後だったことも併せて記録している。

SpaceX to lower orbits of some Starlink satellites(外部)
2026年のシェル降下計画を報じた記事。当時約9400機のうち約4400機が対象で、米宇宙コマンドと調整して進めるとした。

マイケル・ニコルズのX投稿(2026年1月1日)(外部)
シェル降下計画の一次発表。約550kmから約480kmへ移し、太陽極小期の軌道減衰時間を80%超短縮すると説明している。

Post-ignition anomaly causes abort of SpaceX’s Starship Flight 13(外部)
Flight 13の事前解説。V3衛星20機がStarshipと同じ準軌道軌跡をたどり、約20分後の再突入で消失する計画だったと記す。

Starlink Tops 11,000 in Orbit; Falcon 9 Crater Found on Moon(外部)
打ち上げ翌日の集計。累計1万2769機、在軌1万1003機、working 1万987機という数値をそれぞれ示している。

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山本 達也 代表社員
合同会社デジタルの窓口 代表。ウェブ解析士。生成AI・サイバーセキュリティ・ 宇宙開発領域を中心に執筆。

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