Last Updated on 2025-08-13 06:33 by TaTsu
innovaTopiaの記事「Midjourney動画生成モデル発表|Disney訴訟リスクとワールドモデル構想」(2025年6月19日公開)では、V1のリリース事実、最大21秒への延長、月額$10の価格、そしてDisney/Universalの提訴という外縁を整理しました。
今回はその先へ進み、CNETの実機レビュー(2025年8月11日)を起点に、実際の生成体験から見えた「良い点/悪い点」、プロンプト遵守や物理挙動の課題、音声未対応といった仕様上の限界、そしてVeo 3やSoraとの使い勝手と価格のリアルな差分を検証します。初報で描いた戦略と法務リスクの俯瞰に、現場の可用性という解像度を重ね、導入判断に必要な具体を提示していきます。
これはMidjourneyのAI動画生成機能V1 video modelをCNETの記者が実際にテストしてレビューした記事である。
Midjourneyは月額10ドルから利用可能で、Google Veo 3およびOpenAI Soraのエントリープランの月額20ドル、Adobe Fireflyの月額10ドルと比較して価格競争力がある。このサービスは画像から動画への生成機能を提供し、最大5秒の動画を生成可能(最大4回の延長により最長21秒まで対応可能)で、ウォーターマークや音声は含まれない。また通常1回の指示で4つのバリエーションが生成される。動画の寸法調整や奇妙さを増加させるスライダーなどの設定オプションがある。
一方で、プロンプト遵守の困難さ、オブジェクトの永続性の問題、テキスト生成の品質の低さ、音声生成機能の欠如などの課題が指摘されている。プライバシーポリシーでは、提供された情報を機械学習アルゴリズムの訓練に使用でき、月額60ドルのProプランまたは月額120ドルのMegaプランのステルスモード機能を利用しない限り、全ての画像と動画がパブリックギャラリーで共有される。
また、ディズニーとユニバーサルから著作権侵害で訴訟を起こされており、保護されたキャラクターの超リアルな画像生成を可能にしたとして「盗作の底なし穴」と呼ばれている。
From: I Tried Midjourney’s AI Video Generator, and It’s Hard to Beat the Value for the Price
【編集部解説】
MidjourneyのAI動画生成機能の登場は、AI動画生成市場における価格破壊の始まりを象徴する重要な出来事です。月額10ドルという価格設定は、同じ分野でGoogle Veo 3やOpenAI Soraがエントリープランを月額20ドルで提供していることを考えると、大幅な価格優位性を示しています。これにはAI動画生成市場自体が急速に成長している背景があります。
Midjourneyの技術的特徴で注目すべきは、画像から動画への変換に特化していることです。これは他の競合サービスがテキストから直接動画を生成する機能を重視している中で、独自の位置づけを確立しています。1〜2分で4つのバリエーションを生成できる処理速度は、クリエイターにとって重要な利便性を提供します。
しかし、技術的な課題も明確に存在します。プロンプト遵守の困難さ、オブジェクトの永続性の問題、そして音声生成機能の欠如は、プロフェッショナル用途での活用を制限する要因となっています。特に音声機能の欠如は、Veo 3やAdobe Fireflyと比較した際の明確な劣位点として認識されています。
著作権問題については、2025年6月にディズニーとユニバーサルがMidjourneyを「盗作の底なし穴」として訴訟を起こしたことが業界に大きな波紋を広げています。この110ページに及ぶ訴状は、ハリウッドスタジオがAI企業を相手取った初の大規模な法的対立として位置づけられ、AI業界全体の将来に影響を与える可能性があります。
興味深いのは、Midjourneyが8月に反訴で「フェアユース」を主張し、ディズニーとユニバーサル自身もAIツールを利用して利益を得ているとして「二重基準」を指摘していることです。実際に、両スタジオの従業員らがMidjourneyを利用していることを示すメールアドレスが「数十件」確認されているという指摘もあります。
長期的な視点では、この価格帯での参入により、AI動画生成がアマチュアクリエイターやスモールビジネスにとってより身近な選択肢となることが予想されます。ただし、現在の技術的制約を考慮すると、プロフェッショナル市場での本格的な競争にはさらなる技術的進歩が必要でしょう。
規制面では、著作権問題の行方がAI業界全体のルールメイキングに大きな影響を与える可能性があり、innovaTopiaの読者である技術系アーリーアダプターにとって、この動向は注視すべき重要なポイントとなっています。
【用語解説】
V1 video model(V1動画モデル):
MidjourneyのAI動画生成機能の初期バージョン。画像から動画への変換に特化しており、最大5秒の動画を生成することができる初期段階の技術である。
フェアユース(Fair use):
著作権法において、教育や批評、パロディなどの目的で著作物を許可なく使用することが認められる例外的な権利。AI企業が著作権訴訟で主張する法的根拠の一つである。
【参考リンク】
Midjourney(外部)
AI画像生成サービスの老舗企業で、2025年6月から動画生成機能を提供開始。
Adobe Firefly(外部)
アドビ社が提供する生成AIプラットフォームで、画像、動画、音声、ベクターグラフィックスの作成が可能。
Google DeepMind Veo(外部)
Googleが開発するAI動画生成モデル。音声効果や環境音、対話音声をネイティブ生成できる。
OpenAI Sora(外部)
OpenAIの動画生成AIモデルで、最上位プランで最大1080p解像度、最大20秒の動画生成が可能。
【参考動画】
【参考記事】
Disney and Universal team up to sue AI photo generator Midjourney(外部)
ディズニーとユニバーサルがMidjourneyを相手取った著作権侵害訴訟の詳細。
Midjourney Fires Back in Copyright Clash With Disney and Universal(外部)
Midjourneyの反訴の詳細を報じた記事。43ページに及ぶ反駁書面でフェアユースを主張。
OpenAIの動画生成AI「Sora」が一般利用可能に!料金や使い方(外部)
OpenAI Soraの一般提供開始に関する詳細記事。2024年12月10日の一般提供開始。
Adobe Firefly overview(外部)
Adobe Fireflyの機能概要と料金体系に関する公式情報。月額クリエイティブクレジット制での提供。
【編集部後記】
6月19日に公開した「Midjourney動画生成モデル発表|Disney訴訟リスクとワールドモデル構想」では、新機能の登場とそれを巡る法的リスクを速報的にお伝えしました。あれから約2か月、実際の利用体験が出揃い、机上のスペックや企業戦略だけでは見えなかった“現場のリアル”が浮かび上がってきました。
今回のCNETレビューからは、月額10ドルという価格が持つインパクトと同時に、プロンプト遵守や物理挙動の乱れ、音声非対応といった制約も明確になっています。それでも、既存画像を手軽にアニメーション化できる強みは、アマチュアからスモールビジネスまで幅広い層にとって創作のきっかけとなるでしょう。
もし6月の記事を読んで「興味はあるが、実用性は未知数」と感じていた方は、このレビューを踏まえて改めて判断してみてください。あなたにとって必要なのは価格の安さか、それとも完成度か。私たちは今後も、この“成長途上の技術”がどこまで進化し、創作の可能性を広げていくのかを追いかけていきます。