NTT e-Drone TechnologyとNTT東日本は、千葉県と連携し2025年10月中旬以降、忌避レーザー搭載ドローンを活用した高病原性鳥インフルエンザ対策を県内の養鶏場で実施する。
2025年1月から2月にかけて千葉県内では330万羽以上が殺処分となる事態が発生しており、全国では2025年2月時点で14道府県・51例の罹患が報告されている。NTTイードローンが開発した鳥獣害対策ドローン「BB102」に、一般社団法人地域総研が開発した鳥獣害忌避装置「クルナムーブ」を搭載し、赤色と緑色のレーザー光を照射することで野鳥の侵入を防ぐ。
千葉県は2025年7月より「家畜伝染病対策緊急強化事業」を開始し、導入費用の3分の1を上限とする補助金として総額2,000万円の予算を確保している。
From: 【PRTIMES】「忌避レーザー搭載ドローン」を活用した高病原性鳥インフルエンザ対策を実施します
【編集部解説】
2024-2025年シーズンの鳥インフルエンザは、過去に例を見ない深刻な事態となりました。2025年2月までに14道府県51事例が発生し、約932万羽が殺処分の対象となっています。特に千葉県では15事例が集中発生し、約330万羽が処分されました。千葉県は採卵鶏の飼養羽数が全国1位(令和4年時点で1,048万羽)を誇る鶏卵生産の一大拠点であり、この被害は食料安全保障の観点からも看過できない規模です。
従来の防疫対策は、防鳥ネットや消毒といった物理的な遮断が中心でした。しかし、鳥インフルエンザウイルスの侵入経路は複雑です。渡り鳥が持ち込んだウイルスが、カラスなどの留鳥、ネズミ、さらには人の衣服や靴を介して鶏舎内に侵入すると考えられています。防鳥ネットだけでは、こうした多様な侵入経路をすべて防ぐことは困難でした。

今回の取り組みで注目すべきは、レーザー技術による新しいアプローチです。クルナムーブは、赤色と緑色のレーザー光をランダムに照射し、鳥類が本能的に不快感を覚える刺激を与えます。さらにスペックルノイズ(ちらつき)を加えることで、鳥が光に慣れにくくなり、忌避効果が持続するという科学的な設計がなされています。神奈川県の実証実験でも養鶏場でのカラス忌避に成功しており、実効性が確認されています。


ドローン搭載の利点は、広範囲を効率的にカバーできる点にあります。BB102は最大25分間のホバリングが可能で、自動航行機能により設定した範囲を自律飛行します。地上設置型のレーザー装置では対応が難しかった屋上や高所、複雑な地形にも柔軟に対応できるため、養鶏場全体を包括的に保護することが可能になりました。
一方で、導入には一定のコストが想定されます。ただし、千葉県が開始した「家畜伝染病対策緊急強化事業」では導入費用の3分の1を補助する制度が設けられており、総額2,000万円の予算が確保されています。一度の発生で数十万羽規模の殺処分が必要になることを考えれば、予防的な投資として十分に合理性があるでしょう。
この技術が普及すれば、養鶏業だけでなく他の畜産業や農業分野への応用も期待されます。年間約200億円にのぼる鳥獣害による農作物被害の抑制にも貢献できる可能性があります。環境負荷が少なく、化学物質や騒音を伴わない持続可能な対策として、今後の展開が注目されます。
【用語解説】
高病原性鳥インフルエンザ
A型インフルエンザウイルスの一種で、家禽類に高い致死率をもたらす感染症である。渡り鳥などの野鳥が自然宿主となり、糞便や接触を通じて養鶏場に侵入する。発生すると半径3km以内の家禽を殺処分する必要があり、養鶏業に甚大な経済的損失をもたらす。
忌避レーザー
鳥獣が本能的に不快感を覚える波長の光を照射し、対象エリアへの侵入を防ぐ技術である。赤色と緑色のレーザーをランダムに動かし、スペックルノイズ(ちらつき)を加えることで、鳥類が慣れにくい刺激を与える。化学物質や騒音を使わないため環境負荷が少ない。
殺処分
家畜伝染病の感染拡大を防ぐため、感染または感染の疑いがある家畜を処分する防疫措置である。鳥インフルエンザの場合、発生農場およびその周辺地域の家禽が対象となり、短期間で数十万羽から数百万羽規模の処分が行われることもある。
防鳥ネット
養鶏場の鶏舎周辺に設置する網状の遮蔽物で、野鳥の侵入を物理的に防ぐ従来型の防疫対策である。しかし、ネットの破損箇所からの侵入や、ネズミなどの小動物、人の衣服に付着したウイルスの持ち込みは防げないという限界があった。
【参考リンク】
NTT e-Drone Technology 公式サイト(外部)
NTT東日本グループの企業。鳥獣害対策ドローン「BB102」やインフラ点検、測量など多様なソリューションを提供する
鳥獣害対策ドローン「BB102」製品ページ(外部)
レーザー忌避装置「クルナムーブ」を搭載した国内初の鳥獣害対策専用ドローン。最大25分間のホバリング、自動航行機能を備える
農林水産省 鳥インフルエンザに関する情報(外部)
高病原性鳥インフルエンザの国内発生状況、防疫措置、養鶏事業者向けの対策ガイドラインなど最新の公式情報を提供
千葉県の畜産の概要(外部)
千葉県の畜産業の統計データや施策情報。採卵鶏飼養羽数は全国1位の約1,048万羽(令和4年時点)を誇る鶏卵生産拠点
神奈川県 鳥獣害被害対策ドローン商品化の発表(外部)
神奈川県の実証実験プロジェクトで開発された鳥獣害対策ドローンが商品化された経緯を紹介。養鶏場でのカラス忌避に成功
【参考動画】
NTT e-Drone Technology公式チャンネルによる製品紹介動画。BB102の機能、レーザー忌避装置の仕組み、実際の飛行シーンなどが解説されている。
【参考記事】
鳥インフルエンザ発生が急増:処分対象は1月だけで約540万羽超える(外部)
2025年1月の鳥インフルエンザ発生状況を詳細なデータとともに解説。過去最多ペースで被害が拡大していることを報告
2024年~2025年シーズンにおける高病原性鳥インフルエンザの発生状況(外部)
農林水産省の公式資料。2025年2月時点で14道府県51事例、約932万羽が殺処分対象。千葉県の被害も詳述
NTTイードローン、鳥獣害対策ドローン「BB102」を発売(外部)
BB102の技術仕様、神奈川県での実証実験の成果を紹介。レーザー忌避装置の科学的な仕組みとドローン搭載による利点を解説
高病原性鳥インフルエンザについて(農林水産省パンフレット)(外部)
鳥インフルエンザのウイルス侵入経路、感染メカニズム、防疫対策の基礎知識をまとめた公式資料。多様な侵入経路を図解
千葉県の畜産の概要(千葉県公式)(外部)
千葉県が採卵鶏飼養羽数全国1位を誇る鶏卵生産拠点であることを示すデータを掲載。鳥インフルエンザ対策の重要性を理解する資料
鶏卵|旬鮮図鑑 – 千葉県(外部)
千葉県の採卵養鶏の詳細データを掲載。千葉県が全国有数の鶏卵生産地であることを示す公式情報源
【編集部後記】
養鶏場での鳥インフルエンザ対策は、実は私たちの食卓と直結している課題です。レーザー技術とドローンの組み合わせは、農業分野での新しいテクノロジー活用の可能性を示していますが、こうした技術が他の分野、たとえば空港での鳥衝突防止や都市部の害鳥対策にも応用できるのではないかと考えています。
みなさんの身近な場所でも、鳥獣害の課題に直面していることはありませんか。テクノロジーが地域の困りごとをどう解決できるのか、一緒に考えていけたら嬉しいです。