北京を拠点とするHighlander Digital Technologyが、上海沖で水中データセンターを2025年10月後半に展開する予定だ。
同社は海南島沖で世界初となる商用の水中データセンターを先行して展開しており、2025年2月から一部が稼働している。最新施設はChina Telecomや国有AI計算企業などにサービスを提供する。水中運用では海流によって熱が放散されるため、冷却に必要なエネルギー消費を約90パーセント削減できる。施設の電力は主に近隣の洋上風力発電所から供給され、使用エネルギーの約95パーセントが再生可能エネルギー源から得られる見込みだ。
Microsoftは2015年から2020年にかけてProject Natickとして水中データセンターの試験を実施し、スコットランドのオークニー諸島沖に施設を展開したが、2020年に引き揚げ後は商業化を進めなかった。日本の商船三井は2027年までに稼働予定の浮遊データセンターを計画している。
From: China planning underwater datacenter deployment
【編集部解説】
中国が水中データセンターの実用化に向けて大きく前進しています。この技術は決して新しいものではありません。Microsoftが2015年から2020年にかけて実施したProject Natickでは、水中環境でのサーバー故障率が陸上施設の8分の1という驚異的な結果を示しました。しかし同社は商業化を見送っています。
その理由として考えられるのが、AI技術の急速な進化です。データセンターのハードウェアは頻繁なアップグレードが必要とされる時代において、海底からの機器の引き揚げや保守作業は現実的ではありません。この点が水中データセンターの最大の課題といえるでしょう。
一方で、エネルギー効率の観点からは極めて魅力的な選択肢です。Highlander Digital Technologyが主張する冷却エネルギー90パーセント削減という数値は、データセンター業界全体のカーボンフットプリント削減に大きく貢献する可能性があります。特に中国政府がデータセンター事業者に対して環境負荷低減を求めている現状において、この技術は政策的な後押しを受けやすい立場にあります。
注目すべきは、施設の電力源として洋上風力発電を活用する点です。再生可能エネルギー比率95パーセントという目標は、データセンター運営における持続可能性の新しい基準となる可能性があります。
ただし、研究者が指摘する音波攻撃への脆弱性や、海洋環境への影響といった懸念材料も存在します。商船三井が2027年稼働を目指す浮遊型データセンターなど、様々なアプローチが並行して進められている状況は、最適解がまだ見えていないことを示しています。
【用語解説】
Project Natick
Microsoftが2015年から2020年にかけて実施した水中データセンターの実証実験プロジェクト。カリフォルニア沖での小規模試験の後、スコットランドのオークニー諸島沖の海底に大型施設を設置し、陸上施設と比較して故障率が8分の1という成果を得たが、商業化には至らなかった。
カーボンフットプリント
企業や個人の活動によって排出される温室効果ガスの総量を二酸化炭素換算で示した指標。データセンター業界では膨大な電力消費が課題となっており、各国政府が削減目標を設定している。
洋上風力発電
海上に設置された風力発電設備。陸上と比較して安定した強い風が得られるため、発電効率が高い。中国は洋上風力発電の設置容量で世界最大規模を誇る。
【参考リンク】
Highlander Digital Technology(海兰信)(外部)
中国・北京を拠点とする海洋通信およびデータセンター技術専門企業。上海沖水中データセンタープロジェクトを主導している。
商船三井(Mitsui O.S.K. Lines)(外部)
日本の大手海運会社。2027年までに船舶を浮遊データセンターとして装備し、移動可能なサービス提供を計画中。
【参考記事】
【編集部後記】
データセンターが海の底に沈む時代が、本当にやってくるのでしょうか。Microsoftが一度は成功を収めながらも商業化を見送った技術に、中国が本格的に挑んでいます。環境負荷の大幅な削減という魅力的なメリットがある一方で、メンテナンスの難しさやセキュリティの懸念も存在します。
皆さんは、自分が利用するクラウドサービスのデータが海底で管理されていることを想像できますか。AI時代のデータセンターはどこへ向かうのか、一緒に考えていきたいと思います。