Anthropic「Claude Agent SDK」が長時間稼働AIエージェント問題に挑む

[更新]2025年12月1日

Anthropic「Claude Agent SDK」が長時間稼働AIエージェント問題に挑む - innovaTopia - (イノベトピア)

AIエージェントが「長時間稼働で指示を忘れる」課題を抱える中、AnthropicがClaude Agent SDK向けに画期的な解決策を公開しました。
マルチセッションを橋渡しする二段エージェント設計とは? 開発現場の未来を変える可能性を探ります。


Anthropicは2025年11月、Claude Agent SDK向けに長時間稼働AIエージェントのメモリ問題へ対処するための新しいハーネス設計を公表した。

エージェントはコンテキストウィンドウの制約により、長時間のタスクで指示や会話の一部を忘れ、挙動が不安定になる課題があった。Anthropicはこの問題に対し、イニシャライザエージェントとコーディングエージェントから成る二段構成のアプローチを提示し、マルチセッションを前提にした設計で長時間タスクの継続実行を目指している。

Claude Opus 4.5を用いた「claude.aiのクローン」開発のようなタスクでは、単一エージェントが高レベルな指示のみではプロダクション品質のWebアプリを構築しきれない事例が確認されており、この設計はそうした失敗パターンの分析から導かれている。

From: 文献リンクAnthropic says it solved the long-running AI agent problem with a new multi-session Claude SDK

【編集部解説】

Anthropicが今回打ち出したのは、LLMそのものの性能向上というより「長時間走らせるためのハーネス設計」です。どれだけ高性能なClaudeであっても、コンテキストウィンドウという物理的な制約を超えることはできません。そこでAnthropicは、Claude Agent SDKの上に「タスクをどう刻み、どのように記録を残し、次のセッションへどう橋渡しするか」という運用レイヤーのベストプラクティスを具体的に示したと言えます。

多くの企業では、PoCレベルならエージェントを動かせても、「数時間から数十時間動かし続けても破綻しない設計」に苦戦している、という声が上がっています。Anthropicが示した「一度にやりすぎて途中で文脈が破綻する」「中途半端な状態でタスク完了と判断してしまう」という失敗パターンは、OpenAI Agents SDKやLangChainベースのエージェント構築でしばしば指摘される失敗例とも重なります。ここから見えてくるのは、エージェントの“知能”だけでなく、人間側のタスク設計やワークフロー設計が同じくらい重要だという視点です。

今回の二段構成(イニシャライザエージェント+コーディングエージェント)は、ソフトウェアエンジニアの日常的な開発プロセスをかなり意識した設計になっています。最初のエージェントがプロジェクトの土台やファイル構成、これまで行った操作を整理・記録し、次に呼ばれるコーディングエージェントは「一回のセッションでやることを小さく区切り、差分だけを残していく」役割に特化します。ここにテストツールを組み込むことで、バグ検出まで含めた“エージェント用CIパイプライン”のような運用を狙っていると捉えられます。

一方で、長時間稼働するエージェントのメモリ設計は、LangMemやMemobaseといった長期メモリ基盤や、Swarmのようなマルチエージェントフレームワークなど、関連研究とプロダクトが急増した領域です。それぞれ設計思想やアーキテクチャが異なり、「どれが最適解か」はまだ見えていません。Anthropic自身も、単一の汎用コーディングエージェントで十分なのか、あえてマルチエージェント構成にするべきなのかなど、最適な構成は今後の実験で検証するとしています。今回のハーネスも「ひとつの候補解」として位置づけている点が印象的です。

一番のインパクトは「エージェントを長距離ランナーとして扱う設計図が、かなり具体的な形で共有され始めた」という部分ではないでしょうか。デモはフルスタックWebアプリ開発にフォーカスしていますが、Anthropicは科学研究や金融モデリングなど、長期的で反復的なタスクへの応用可能性にも触れています。これは、チャットボット的な単発利用から、「継続的に仕事を任せるAIの同僚」へのシフトを後押しする一歩と捉えられます。

ただし、長時間動き続けるエージェントには、リスクや監査性の課題も付きまといます。Claude 4やOpenAIのエージェント機能を巡る議論では、「権限を持つエージェントが誤った判断を積み重ねた場合、どの時点で介入すべきか」「その責任を誰が持つのか」といった論点がすでに浮上しています。Anthropicのようにハーネスの設計思想を公開していく動きは、エージェントの行動を説明・再現しやすくし、規制やガバナンスの側からも議論しやすくするための重要な一歩と感じます。

モデル性能の競争だけでなく、その周辺にある「エージェントアーキテクチャ」「メモリ設計」「テストと監査の仕組み」といった工学の部分にこそ、これから数年のプロダクト差別化の余地が生まれていきそうです。今回のAnthropicの発表は、まさにその方向への流れを象徴するニュースだと言えると思います。

【用語解説】

コンテキストウィンドウ
LLMが一度に保持・処理できるテキストの範囲を指す。範囲を超えると古い情報が失われるため、長時間タスクでは設計上のボトルネックになる。

エージェントメモリ
AIエージェントが過去の指示や会話、タスクの進捗などを保持し、次のステップに活用するための仕組み全般を指す。

ハーネス(agent harness)
長時間稼働エージェントのために設計された実行環境やタスク分割、ログの取り方、テスト手法などを含む構造的な枠組みを指す。

フルスタックWebアプリ開発
フロントエンド、バックエンド、データベースなど、Webアプリケーションの全レイヤーを一貫して開発することを指す。

エージェント的タスク(agentic tasks)
自律的な判断や計画立案、外部ツールの利用を伴う連続的・長期的なAIタスク全般を指す用語である。

【参考リンク】

Anthropic(Claude / Claude Agent SDK)(外部)
安全性と一貫性を重視したLLM「Claude」シリーズやClaude Agent SDKを提供するAI企業の公式サイトである。

Claude(公式プロダクトサイト)(外部)
Anthropicが提供する対話型AIサービスの公式サイトであり、Claudeモデルをブラウザから利用できるインターフェースを提供している。

Anthropic Multi-agent research system(外部)
Anthropicが公開するマルチエージェント研究システムの解説ページであり、複数エージェント協調の設計思想や実験結果を紹介している。

LangChain(外部)
LLMを使ったアプリケーションやエージェントを構築するためのオープンソースフレームワークの公式サイトであり、多様な連携機能を提供している。

Memobase(外部)
LLMエージェント向け長期メモリ基盤を提供するサービスの公式サイトであり、ドキュメント検索や知識ストア機能を備えている。

OpenAI Swarm(GitHub)(外部)
OpenAIが公開しているエージェント協調フレームワーク「Swarm」のリポジトリであり、マルチエージェント実装の具体例やコードが掲載されている。

Google Research – AI(外部)
GoogleのAI研究全般を紹介する公式サイトであり、エージェントメモリや継続学習に関する論文やプロジェクト概要が公開されている。

【参考記事】

Effective harnesses for long-running agents – Anthropic(外部)
長時間稼働エージェントのハーネス設計について、失敗事例やタスク分割、成果物引き継ぎ、テスト統合などの指針と実験結果を詳述した技術ブログである。

How we built our multi-agent research system – Anthropic(外部)
複数エージェントが協調してタスクを進める研究システムの構成や原則、評価方法、今後の課題をまとめた技術記事であり、マルチエージェント構成の理解に役立つ。

Enhancing AI agents with long-term memory – VentureBeat(外部)
LangMem SDKやMemobase、A-Memなどのメモリフレームワークを比較し、長期メモリがエージェントの信頼性やビジネス適用に与える影響を整理した記事である。

Beyond single-model AI – VentureBeat(外部)
単一モデル中心の設計から複数モデル・複数エージェント前提のアーキテクチャへの移行を、オーケストレーションと信頼性の観点から論じている。

When your LLM calls the cops – VentureBeat(外部)
Claude 4の事例を通じて、エージェント的AIが持つ権限やリスク、監査性、ガバナンスの課題を解説し、新しいリスクスタックの考え方を提示している。

Anthropic’s new Claude can code for 30 hours – VentureBeat(外部)
Claudeが最大30時間にわたりコードを書き続けられることを紹介し、長時間タスクにおけるエージェント活用の実例と制約、ビジネスでの応用シナリオを解説している。

【編集部後記】

AIエージェントを長時間稼働させることで起こる問題について、みなさんはご存じでしたでしょうか?すでにご自身の身の回りでこうした事例を経験している、という方もおられるかもしれません。

そういった場合は、今まではどのような対策を取られていたでしょうか。また、今回のClaudeのようなエージェントを取り入れたいと思われますか?それは、どのような業務でしょうか。あるいは、どの程度の業務であれば、長時間AIに任せきりにすることが出来ると思われますか?AIと生きるこれからの未来について、一緒に考えていけたらうれしいです。

投稿者アバター
omote
デザイン、ライティング、Web制作を行っています。AI分野と、ワクワクするような進化を遂げるロボティクス分野について関心を持っています。AIについては私自身子を持つ親として、技術や芸術、または精神面におけるAIと人との共存について、読者の皆さんと共に学び、考えていけたらと思っています。

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