イタリアの防衛企業Leonardoが、AI搭載の防空システム「Michelangelo Dome」を発表した。
これは都市や重要インフラを守るために設計され、ミサイルやドローンスウォームなど多様な脅威に対する多層防空と、既存システムとの統合を特徴としている。システムはオープンアーキテクチャを採用し、各国が保有するレーダーや迎撃システム、指揮統制機能などと連携できるよう構想されている。背景には、欧州各国による防衛費の増額や、米国依存からの脱却を見据えた「主権的防衛力」強化の流れがある。
また、HelsingやQuantum Systemsといったディフェンステック系スタートアップがAIドローンや自律防衛技術で大型資金調達を行い、伝統的な防衛企業と競合・協業の関係を築き始めている点も、このプロジェクトの重要な文脈となっている。
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Leonardo unveils ‘Michelangelo Dome’ AI-powered shield system
【編集部解説】
Leonardoの「Michelangelo Dome」は、アイアンドームのような単一の迎撃システムというより、「欧州全体の防衛ネットワークのOS」を狙う構想として見たほうが理解しやすいです。多様なセンサーと既存兵器をAIで束ね、海上から空、さらにはサイバー領域まで含めて一つの意思決定サイクルに統合しようとしているからです。
技術面で鍵になるのが、オープンアーキテクチャという考え方です。特定ベンダーに閉じない構造をとることで、NATO内外のさまざまな防衛システムを後からつなぎ込める余地を残しつつ、「ネットワーク層の主導権」はLeonardoが握ることを目指しているように見えます。これは、ハードウェアよりもソフトウェアと指揮統制が価値の中心になる現代の戦い方を、そのまま体現した動きと言えそうです。
この構想の背景には、欧州が米国の安全保障コミットメントに全面的に依存し続けられるのか、という不安定な前提があります。EUによる防衛向け融資プログラムやNATOの支出目標引き上げは、「予算の話」というよりも、「誰が欧州の防衛データとインフラの標準を握るのか」という権力の問題としても重要です。
ポジティブな側面として、都市や重要インフラに対するミサイル攻撃やドローンスウォームの脅威に対し、より早く、より的確に対応できる可能性が高まります。膨大なセンサーデータをAIで統合することで、人間だけでは処理しきれないタイミングやパターンを検知し、迎撃の優先度や手段を提案できるからです。
一方で、ネットワーク化と自動化が進むほど、サイバー攻撃やシステム障害が「一点突破」で広範囲に影響しうるリスクも増えます。AIの判断をどこまで自律させるのか、人間の関与をどのようなレベルで残すのかは、技術的な課題であると同時に倫理と規制のテーマでもあります。
興味深いのは、この領域が大企業だけのものではなくなってきていることです。HelsingのAIストライクドローンHX-2や、Quantum Systemsの長時間飛行ドローンなど、スタートアップが「空のエッジデバイス」とAIソフトウェアの両方で存在感を高めています。こうした企業がMichelangelo Domeのようなネットワークとどう接続されていくのかは、「欧州の防衛OS」をめぐるパワーバランスに大きく関わっていくはずです。
「AIが戦場を変える」という表層的な話にとどまらず、「誰がアルゴリズムとデータを管理するのか」「都市を守るAIに、どこまでの判断を任せたいのか」といった問いを、読者のみなさんと一緒に考えていきたいと感じています。
【用語解説】
Iron Dome(アイアンドーム)
Israelが運用する短距離ミサイル防衛システムで、ロケット弾や迫撃砲弾を迎撃し、都市や重要施設を防護する目的で配備されている。
digital battlefield(デジタル・バトルフィールド)
戦場に存在する部隊やセンサー、プラットフォームをネットワークで結び、リアルタイムのデータ共有と指揮統制を行うための概念およびシステム群である。
drone swarm(ドローンスウォーム)
多数のドローンがネットワークを通じて協調し、自律的に編隊・分散・攻撃などを行う運用形態であり、防衛側にとって対処が難しい新しいタイプの脅威となっている。
【参考リンク】
Leonardo公式サイト(外部)
イタリアの防衛・航空宇宙・セキュリティ企業で、防空システムやレーダーなど多様な製品と統合ソリューションを提供している。
Helsing公式サイト(外部)
ヨーロッパ拠点のディフェンスAI企業で、戦場の状況認識や自律システム、ストライクドローン向けのソフトウェアとAIプラットフォームを開発している。
Quantum Systems公式サイト(外部)
eVTOL型固定翼ドローンやミッションソフトウェアを提供し、防衛・セキュリティや測量などで航空インテリジェンスとデータ収集ソリューションを展開している。
【参考記事】
Michelangelo Dome: Italy plans air defense shield to protect Europe(外部)
Leonardoが発表したMichelangelo Domeを、多層防空とマルチドメイン統合という観点から紹介し、極超音速ミサイルを含む脅威への欧州シールド構想として解説している。
Leonardo introduces Michelangelo Dome defence system(外部)
Michelangelo Domeの技術的特徴に焦点を当て、センサー統合、指揮統制、AIによるデータ融合や予測アルゴリズムなどを含むモジュラー防空アーキテクチャとして詳しく説明している。
Leonardo unveils “Michelangelo Dome,” a bid to stitch together Europe’s fragmented defence systems(外部)
欧州各国に分散した防衛システムをつなぐ「ステッチャー」としてのMichelangelo Domeの役割に注目し、防衛産業構造や政治的背景も含めて分析している。
What is Italy’s new ‘Michelangelo Dome’ air defence system?(外部)
イタリアと欧州の防衛費拡大やNATO目標、米国との関係など地政学的背景を整理しつつ、Michelangelo Domeの目的と想定運用シナリオを解説している。
【編集部後記】
防衛とAIというテーマは、どうしても「遠い世界の話」に感じやすいのですが、Michelangelo Domeのような構想は、都市インフラや生活圏そのものと直結しているのだと改めて感じました。
もし自分が暮らす街の上空に、AIが制御する“見えないシールド”が張られるとしたら、それを心強いと感じるのか、それとも少し怖いと感じるのか。そんな想像をしてみると、技術への向き合い方が少しクリアになるかもしれません。あなたは、AIが関わる防衛や安全保障に、どこまでの役割を任せたいと感じるでしょうか?






























