フィリップス Verida spectral CT|AI駆動で診断精度と省エネを両立

Philips Verida spectral CT|AI駆動で診断精度と省エネを両立 - innovaTopia - (イノベトピア)

ロイヤル フィリップス(NYSE: PHG, AEX: PHIA)は2025年11月30日、RSNA 2025において、検出器ベースのスペクトラルCTシステム「Verida」を発表した。

VeridaはCEマーキング取得済みで510(k)申請中であり、AIを画像取得から再構成まで統合し、PACSネイティブなワークフローに対応する。フィリップスのスペクトラルCTは世界で800台以上が導入され、多数の査読付き論文で報告されている。

新製品のVeridaは、従来比2倍となる145画像/秒での高速再構成を実現し、30秒未満で検査画像全体を表示可能とすることで、1日最大270検査という高スループットに対応する。技術面では、第3世代Nano-panel Preciseデュアルレイヤー検出器とSpectral Precise Image技術を採用し、線量低減および最大45%の消費電力削減を可能とする。

スペイン・マドリードのヌエストラ・セニョーラ・デル・ロサリオ病院(Hospital Nuestra Señora del Rosario)のEliseo Vañó Galván教授は、その臨床的有用性について高く評価している。Veridaは2026年から一部市場で販売開始予定であり、規制承認待ちである。

From: 文献リンクPhilips launches Verida, world’s first detector-based spectral CT powered by breakthrough AI, to advance diagnostic precision

【編集部解説】

フィリップスのVeridaは、検出器ベースのスペクトラルCTという実績ある技術に、撮影から再構成、PACS連携までAIをフルスタックで組み込んだCTプラットフォームです。いわゆる「AI搭載CT」をソフトウェアで後付けするのではなく、ハードウェアアーキテクチャとワークフロー設計そのものをAI前提で再構成している点が大きな特徴です。

スペクトラルCTは、X線のエネルギーごとの吸収差を捉えることで、造影剤やカルシウム、脂肪などを分離し、従来CTでは見分けづらかった組織を区別できる技術です。フィリップスは二層検出器方式を長年展開しており、世界各地での設置実績と多数の論文から見ても、「尖った研究機」ではなく、既にルーチン診療に組み込まれた技術の延長線上にVeridaを置いていると言えます。

今回印象的なのは、スペクトラルを一部のハイエンド検査ではなく「標準モード」に近づけようとしている点です。1秒あたり145画像の再構成、30秒未満で検査全体が表示され、1日最大270検査まで回せるという設計は、「フルスペクトラル対応にするとワークフローが止まるのでは?」という現場の不安への具体的な回答になっています。

RSNAの流れ全体を見ると、フォトンカウンティングCTとの競争が背景にあります。フォトンカウンティングは分解能などで理論的な優位性がある一方、装置コストやシステムの複雑さから、いまだに研究寄りのポジションにとどまるという指摘もあります。フィリップスは、長年の実績を持つ検出器ベース・スペクトラルCTを軸に、「現実解としてのAI+スペクトラル」で臨床と投資の両面のバランスをとりに行っている印象があります。

心臓CTのような高難度領域では、スペクトラル情報がもたらす価値はより大きくなります。Eliseo Vañó Galván教授が、全例でスペクトラルを標準化したいと語る背景には、プラーク性状評価や造影剤のダイナミクス解析などを通じて、侵襲的血管造影の一部を置き換えられる可能性があります。

一方で、AIが撮影条件や再構成の意思決定に深く入り込むほど、「なぜこの画像になったのか」をどこまで説明できるかという課題も大きくなります。アルゴリズムの頻繁なアップデートは画質や線量最適化の面でプラスですが、薬機法を含む各国規制との整合性や、再現性・検証プロセスの負荷をどうマネジメントするかは、今後の重要な論点になっていきそうです。

今回の発表で象徴的なのが、被ばく線量とエネルギー消費を同時に下げに行っている点です。CTやMRIは病院インフラの電力負荷が大きく、「グリーン・ラジオロジー」やESGの観点からも注目されています。患者の被ばく最適化と病院全体のカーボンフットプリント削減を、同じ技術スタックで狙うアプローチは、今後の医療機器選定の評価軸に確実に影響してくるはずです。

「AI搭載CTをどう見極めるか」がこれからのテーマになっていきます。Veridaは、その評価軸、どのレイヤーにAIが入り、どの臨床アウトカム(再検査率、侵襲的検査削減、被ばく・電力、読影負荷など)にどう効いているのかを考えるための、わかりやすいリファレンスケースになりそうです。

【用語解説】

スペクトラルCT(Spectral CT)
異なるX線エネルギーでの吸収を同時に計測し、物質ごとの特性を分離して画像化するCTの方式である。

検出器ベース・スペクトラルCT(Detector-based spectral CT)
X線管ではなく検出器側を二層構造などにすることで、1回の撮影で複数エネルギー情報を取得する方式のスペクトラルCTである。

フォトンカウンティングCT(Photon-counting CT)
個々のX線フォトンをエネルギー別に数える検出器を用いる新しいCT技術で、空間分解能やスペクトル分解能の向上が期待されている。

PACS(Picture Archiving and Communication System)
医用画像を保存・管理・閲覧するためのシステムで、病院内のモダリティやビューア、レポートシステムをつなぐ基盤である。

Spectral Precise Image
Philipsが提供する、スペクトラル情報を利用したディープラーニングベースの画像再構成エンジンの名称である。

Nano-panel Precise デュアルレイヤー検出器
二層構造の検出器で異なるエネルギーのX線を分離して検出するPhilips独自の検出器技術の名称である。

【参考リンク】

Royal Philips News Center(外部)
Royal Philipsの公式ニュースサイトで、新製品やRSNA関連リリースなど一次情報を網羅している。

Philips CT Solutions(外部)
PhilipsのCT製品ラインアップとスペクトラルCT、AI再構成技術の概要資料がまとまっている。

Detector-based spectral CT – Technical background(外部)
検出器ベース・スペクトラルCTの技術背景と臨床応用を解説したPhilips公式の技術資料である。

Spectral CT in practice(外部)
スペクトラルCTの実臨床での活用状況と課題を整理した総説論文であり、国際的なコンセンサスを把握できる。

Detector-based dual-energy CT background(外部)
検出器ベースのデュアルエナジーCTの技術原理と実装方法を詳しく説明したオープンアクセス論文である。

【参考動画】

【参考記事】

Verida, world’s first detector-based spectral CT powered by breakthrough AI(外部)
Verida発表のPhilips公式リリースで、145画像/秒や最大270検査/日、エネルギー消費最大45%削減など主要な数値が整理されている。

Philips launches Verida, a CT powered by AI(外部)
Veridaを「AI搭載CT」として短く紹介し、ワークフロー最適化や診断精度向上の狙いを投資家視点で整理している。

Spectral CT imaging: Technical principles and clinical applications(外部)
デュアルエナジー/スペクトラルCTの原理と臨床応用を網羅的に解説し、物質分離や仮想単色画像などVeridaの基盤技術理解に役立つ。

Photon-counting CT systems: A technical review(外部)
フォトンカウンティングCTの利点と課題を整理し、検出器ベース・スペクトラルCTとの比較や研究段階から臨床への移行状況を俯瞰している。

Application value of double-layer spectral detector CT(外部)
二層検出器スペクトラルCTの臨床的価値を検証し、物質分離や造影最適化、被ばく低減の実データを示している。

【編集部後記】

AIをフルスタックで組み込んだCTが登場した今、「自分や家族が検査を受けるとしたら、どんなCTを選びたいか?」という問いをいっしょに考えてみたくなりました。被ばくや検査時間、診断精度、そして病院の電力消費まで、1台のCTが意外なほど広い範囲に影響しているからです。

もし身近に放射線科や心臓領域の医療者がいれば、「スペクトラルCTって実際どうですか?」と聞いてみると、現場ならではの視点が返ってくるはずです。この記事が、医療機器とAIの進化を「自分ごと」としてどこまでキャッチしておきたいかを考える、小さなきっかけになればうれしいです。

投稿者アバター
omote
デザイン、ライティング、Web制作を行っています。AI分野と、ワクワクするような進化を遂げるロボティクス分野について関心を持っています。AIについては私自身子を持つ親として、技術や芸術、または精神面におけるAIと人との共存について、読者の皆さんと共に学び、考えていけたらと思っています。

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