日本発の純国産ヒューマノイドは、本当に世界の主戦場に戻ってこられるのか――。京都に大学とメーカーが集い、「日本のロボット大国としての再起」に向けて、次の一歩を踏み出しました。
早稲田大学、株式会社テムザック、株式会社村田製作所、SREホールディングス株式会社の4者が設立した一般社団法人「KyoHA(京都ヒューマノイドアソシエーション)」は、2025年10月2日に純国産ヒューマノイドロボット開発に向けた進捗状況を発表した。
新たに沖縄科学技術大学院大学(OIST)、マブチモーター株式会社、カヤバ株式会社、NOK株式会社およびヒーハイスト株式会社が参画する。
製作するロボットは初期プロトタイプを経て、災害現場や建築・土木向けのパワー重視モデルと、成人サイズで俊敏性や機能性を備えたモデルの2系統を開発する。スケジュールは2025年末にスペック確定、2026年3月に初期プロトタイプ製作予定、2026年末に2ndプロトタイプ製作予定である。
理事長は早稲田大学創造理工学部教授の高西淳夫が務める。団体は2025年8月に一般社団法人として設立を完了している。
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「KyoHA(京都ヒューマノイドアソシエーション)」~日本発・純国産ヒューマノイドロボット開発に向けたモノづくり体制と製作ロボット内容を発表~


【編集部解説】
このニュースが示すのは、日本のロボティクス産業における危機感と再起への決意です。米国ではテスラが目標価格2万ドル台でOptimusの量産を目指し、Figure AIは10億ドル超の資金調達に成功して4年間で10万台の出荷を計画しています。一方、中国のUnitreeは2025年7月に新型ヒューマノイドR1を約5,900ドルという破格の価格で発表し、製造コストの劇的な低減を実現しました。
こうした状況下で、かつてロボット大国だった日本は明らかに出遅れています。KyoHAの設立は、この現実に対する産学連携の答えと言えるでしょう。注目すべきは、2系統のロボット開発という戦略です。災害現場や建設現場向けの「パワー重視モデル」は、日本特有の社会課題である自然災害対応と労働力不足の双方に応える設計になっています。
もう一方の「俊敏性・機能性重視モデル」には、より長期的な視点が込められています。このモデルを国内研究者が使える日本製プラットフォームとして提供し、将来的にロボカップへも供給する計画は、研究開発のエコシステム構築を意図したものです。海外製ロボットに依存せず、日本独自の研究基盤を持つことの重要性を物語っています。
参画企業の顔ぶれも戦略的です。村田製作所の電子部品技術、マブチモーターの小型モーター、カヤバの油圧制御、NOKのシール技術、ヒーハイストの球面軸受など、日本の製造業が培ってきた「要素技術」を結集する体制が整いつつあります。これは中国の統合型製造力や米国のソフトウェア優位とは異なる、日本らしいアプローチと言えるでしょう。
ただし課題も明確です。2026年3月の初期プロトタイプという開発スピードは、月単位で進化を見せる海外勢と比較すると慎重すぎる印象も受けます。また、価格競争力についての言及がない点も気になります。実用化への道のりでは、技術的完成度だけでなく、量産体制とコスト構造の確立が不可欠だからです。
【用語解説】
ヒューマノイドロボット
人間の姿形や動作を模倣した二足歩行型のロボット。人間が活動する環境で作業することを前提に設計されており、階段の昇降や狭い空間での作業など、既存の産業用ロボットでは困難な作業が可能である。
RoboCup(ロボカップ)
自律型ロボットによるサッカー競技を中心とした国際的なロボット競技会。1997年に始まり、ロボット工学と人工知能の研究開発を促進する目的で開催されている。ヒューマノイドリーグでは二足歩行ロボットが競技を行う。
汎用部品
特定の用途に限定されず、様々な製品や機器に使用できる標準化された部品。初期プロトタイプで汎用部品を活用することで、開発コストと期間を抑制し、基本的な技術課題の把握に集中できる。
【参考リンク】
株式会社テムザック(外部)
人とロボットの共存社会を目指すサービスロボットメーカー。医療、建築、災害レスキューなど多様な実用ロボット「WORKROID(ワークロイド)」を開発。
早稲田大学ヒューマノイド研究所(外部)
理事長を務める高西淳夫教授が所長を務める研究機関。二足歩行ヒューマノイドの研究開発で世界的に知られ、多数の社会実装例を持つ。
SREホールディングス株式会社(外部)
AIテクノロジーの実装を通じてヘルスケア・IT・不動産領域にソリューションを提供。「テクノロジーを用いて暮らしと医療をアップデートする」をスローガンに展開。
マブチモーター株式会社(外部)
小型直流モーターのリーディングカンパニー。自動車電装、家電・工具など様々な用途に対応するモーターを展開し、「モビリティ」「マシーナリー」「メディカル」分野に注力。
カヤバ株式会社(外部)
振動制御とパワー制御をコア技術とし、自動車用緩衝器や産業用油圧機器の製造・販売を行う。精緻な品質と確かな技術を基盤に安全性や快適性を追求。
NOK株式会社(外部)
界面制御技術を活かし、シール製品やフレキシブルプリント基板を核に事業を展開。モビリティ、電子機器、医療・ヘルスケア、産業用ロボットなど多様な分野に技術・製品を提供。
【参考記事】
Figure AI Secures Over $1B to Accelerate Humanoid Robot Rollout(外部)
Figure AIが10億ドル超の資金調達に成功し、4年間で10万台のヒューマノイドロボット出荷を計画していることを報じる記事。
Figure AI passes $1B with Series C funding toward humanoid robot development(外部)
Figure AIのシリーズC資金調達の詳細と、同社のヒューマノイドロボット開発戦略について解説。大手投資家の参画状況も報告。
China’s Unitree prices new humanoid robot at deep discount – Reuters(外部)
中国のUnitree社が2025年7月に新型ヒューマノイドロボットR1を約5,900ドルで発表。中国の製造コスト優位性を示している。
Industry Insights: Unitree’s New $6,000 Humanoid Robot is Ultra-Light(外部)
Unitreeの6,000ドル台ヒューマノイドロボットの技術仕様を詳述。重量25kg、側転やバク転も可能な機動性を持ち低価格と高性能を両立。
Tesla robot price in 2025: Everything you need to know(外部)
テスラのOptimusロボットの目標価格が2万ドル台であることや、2026年までに限定生産を開始する計画について解説。
US and China battle to build world’s most advanced humanoids – CNA(外部)
米中間のヒューマノイドロボット開発競争を詳細に分析。中国が製造コストとスピードで優位に立ち、米国がAIとソフトウェアで対抗する構図を描く。
【編集部後記】
新しい技術が世の中にどう影響していくのか、一緒に想像してみませんか。ヒューマノイドロボットは、災害現場や建設現場、そして研究開発の現場など、さまざまな場所で活躍する可能性を秘めています。もし、あなたの生活や仕事の中で「ロボットにこんなことを担ってもらえたら…」と思う場面があれば、ぜひ感じたことや意見をシェアしていただけるとうれしいです。
最先端のロボット技術が私たちの社会や未来の暮らしをどんなふうに変えていくのか、これからも読者のみなさんと一緒に考えていきたいです。






























