内閣府・広島県・福山市がドローン防災訓練、レベル3.5で3km物資輸送と双方向通信を実証

[更新]2025年12月2日

 - innovaTopia - (イノベトピア)

一般社団法人日本ドローンビジネスサポート協会および株式会社MITINASは、2025年11月23日、内閣府、広島県、福山市、中条学区自主防災組織と連携し、広島県福山市中条学区でドローンを活用した大規模防災訓練を実施した。

訓練には東京、山形、茨城、兵庫、広島、岡山の6支部・本部から10名のパイロットが参加した。中条小学校から約3km離れた三谷分校へレベル3.5飛行により約20kgの支援物資を輸送し、片道約3.5km(往復7.2km)を片道約7分で飛行した。

DJI Matrice 4Tに搭載したスピーカーで3km先の避難者約70名との双方向通信を実施し、1台のPCでFlyCart30、Matrice 4E、4T、4TD + Dock3の4機を同時制御した。

事前調査では11月10日に飛行ルート上1,451地点で電波強度を測定し、平均値-58.9dBmを記録した。

From: 文献リンク【内閣府・広島県・福山市連携】ドローン4機同時運用による大規模防災訓練を実施

【編集部解説】

2024年1月の能登半島地震は、私たちに災害時の物資輸送と通信手段の課題を突きつけました。道路が寸断され、多くの集落が孤立する中、民間のドローン事業者が現地に入って支援活動を開始するまでには発災から5日を要したのです。今回の訓練は、この教訓を活かした実践的な取り組みとして注目に値します。

この訓練で最も重要なポイントは、「レベル3.5飛行」による物資輸送を実証したことでしょう。レベル3.5飛行とは、2023年12月に国土交通省が新設した制度で、従来のレベル3飛行で必要だった補助者の配置や看板設置といった立入管理措置を、ドローン搭載カメラでの確認に代替できる仕組みです。操縦者が国家資格を保有し、保険に加入していれば、道路や鉄道を横断する際の一時停止も不要になります。

今回の訓練では約3km離れた地点への往復7.2kmの飛行を、片道わずか7分で完了しました。徒歩や車両では数時間かかる山間部への物資輸送が、ドローンなら10分程度で可能になるのです。使用されたDJI FlyCart30は、デュアルバッテリー時で最大30kg、シングルバッテリー時で最大40kgの荷物を運べる大型物資輸送ドローンで、能登半島地震でも実際に活用されました。

もう一つ注目すべきは、1台のPCで4機のドローンを同時制御したことです。物資輸送、空撮、調査、遠隔自動運用という異なるミッションを並行して遂行できれば、限られた人員でも効率的な災害対応が可能になります。DJI FlightHub 2とDeliveryHubという統合管理システムを使えば、各機体の位置情報、バッテリー残量、カメラ映像をリアルタイムで監視できるため、オペレーターの負担も大幅に軽減されます。

訓練の事前準備も見逃せません。11月10日に実施した飛行ルートの調査では、LiDARセンサーを使った3D測量で地形データを取得し、1,451地点で電波強度を測定しています。平均-58.9dBmという数値は、良好な通信環境を示すものです。こうした綿密な準備があってこそ、安全な飛行が実現できるのです。

訓練に参加した約70名の住民が「救助される側」の視点を体験できたことも大きな成果でしょう。ドローンから自分たちがどう見えるのかをモニターで確認することで、明るい色の服を着る、開けた場所に集まる、大きな動作で意思表示するといった「発見されやすい行動」を体感できました。災害時、救助を待つ側の行動が救助の成否を左右することもあります。

ただし課題もあります。現在、レベル3.5飛行は個別申請が必要で、包括申請では取得できません。初回申請には3〜4ヶ月かかることもあり、緊急時の迅速な対応には制度面でのハードルが残っています。また、ドローン事業者の多くはスタートアップ企業であり、災害時の出動を善意に頼るには限界があります。自治体との事前の災害協定締結と費用負担の明確化が不可欠です。

全国130件のネットワークを持つ日本ドローンビジネスサポート協会のような組織が、全国6支部・本部から10名のパイロットを動員できたことは、広域災害時の支援体制として重要なモデルケースとなるでしょう。平時から訓練を重ね、同じ機材・手順・安全基準で運用することで、災害時に即座にチームとして機能できる体制が構築されているのです。

【用語解説】

レベル3.5飛行
2023年12月に国土交通省が新設したドローンの飛行制度。無人地帯における目視外飛行(レベル3)の要件を緩和したもので、操縦者が国家資格を保有し、保険に加入し、機上カメラで安全確認を行うことで、従来必要だった補助者の配置や看板設置が不要になる。道路や鉄道を横断する際の一時停止も不要となり、物資輸送や点検業務の効率化が期待される。

目視外飛行
操縦者が直接ドローンを目視せず、カメラやモニターを通じて遠隔操作する飛行方法。レベル3以上の飛行がこれに該当する。

RSSI(Received Signal Strength Indicator)
受信信号強度を示す指標。単位はdBm(デシベルミリワット)で表され、値が0に近いほど信号が強い。-60dBm以上が良好な電波環境とされる。

LiDAR(Light Detection and Ranging)
レーザー光を使って対象物までの距離を測定する技術。3次元の地形データを高精度で取得できるため、測量や地形把握に活用される。

RTH(Return to Home)
ドローンが通信途絶や緊急時に、離陸地点へ自動的に帰還する機能。

DJI FlightHub 2
複数のDJI製ドローンを統合管理できるクラウドベースのプラットフォーム。機体の位置情報、飛行状態、映像などをリアルタイムで監視・制御できる。

DJI DeliveryHub
ドローン配送業務に特化した管理システム。飛行ルート計画、運用状況のモニタリング、チームリソース管理、データ分析などをワンストップで提供する。

Dock3(ドローンポート)
ドローンを格納し、自動離着陸、充電、データ転送を行える無人運用施設。オペレーターが現場にいなくても遠隔地から完全自動でドローンを運用できる。

Starlink
SpaceX社が提供する衛星インターネットサービス。地上の通信インフラが整っていない場所でも高速インターネット接続が可能。

中条学区
広島県福山市の学区。山間部に位置する三谷地区が地震や豪雨時に孤立するリスクを抱えている。

【参考リンク】

一般社団法人日本ドローンビジネスサポート協会(外部)
全国43都道府県に130名超のパイロットネットワークを持つドローン事業者団体。災害対応支援や国家資格講習を実施

株式会社MITINAS(外部)
広島県福山市を拠点とするドローン事業・測量事業会社。協会広島第1支部として今回の訓練を主催

DJI FlyCart 30公式サイト(外部)
最大30kg(デュアルバッテリー)の物資を輸送できる大型ドローン。貨物モードとウインチモードに対応

国土交通省:カテゴリーⅡ飛行(レベル3.5飛行)の許可・承認申請について(外部)
レベル3.5飛行制度の公式ガイドライン。申請要件や手続き方法を詳細に解説

内閣府防災情報ページ(外部)
国の防災政策や災害対応に関する情報を提供。地方自治体との連携事業も紹介

【参考記事】

ドローンのレベル3.5飛行とは?どこよりも分かりやすく解説します(外部)
レベル3.5飛行の制度概要と、レベル3飛行との違いを詳しく解説している

国土交通省:ドローンのレベル3.5飛行制度の新設について(外部)
レベル3.5飛行制度新設の背景と、デジタル技術活用による規制緩和を記載

カテゴリ―Ⅱ飛行(レベル3.5飛行)の許可・承認申請について(外部)
機上カメラの活用方法、運航条件の設定、必要書類などを詳細に説明している

【能登半島地震:復旧支援】ドローンで物資輸送(外部)
能登半島地震でのFlyCart30を使用した300kgの物資輸送実績を報告

令和6年能登半島地震におけるドローン関連5社の初期災害時支援活動について(外部)
JUIDA統括のもと、捜索、被災状況確認、物資輸送を実施した経緯と課題を報告

能登半島地震の災害対応におけるモビリティ活用 調査報告書(外部)
発災から民間ドローン飛行開始までに5日を要した課題や、今後の改善点を提示

能登半島地震の被災地でドローンでの医薬品配送を実施(外部)
輪島市での孤立地域へのドローン医薬品配送活動を詳細に報告している

【編集部後記】

この訓練で最も印象的だったのは、約70名の住民の方々が「救助される側」として参加し、ドローンからどう見えるかを体験できたことではないでしょうか。

災害時、私たちは救助を「待つ側」になるかもしれません。明るい服を着る、開けた場所に集まる、大きく手を振る—そんな小さな行動が、命を救う可能性を高めます。

あなたのお住まいの地域では、こうした実践的な防災訓練は行われているでしょうか。技術の進化は確かに素晴らしいものですが、それを活かすのは結局、私たち一人ひとりの備えと行動なのだと、この訓練は教えてくれているように思います。

投稿者アバター
Satsuki
テクノロジーと民主主義、自由、人権の交差点で記事を執筆しています。 データドリブンな分析が信条。具体的な数字と事実で、技術の影響を可視化します。 しかし、データだけでは語りません。技術開発者の倫理的ジレンマ、被害者の痛み、政策決定者の責任——それぞれの立場への想像力を持ちながら、常に「人間の尊厳」を軸に据えて執筆しています。 日々勉強中です。謙虚に学び続けながら、皆さんと一緒に、テクノロジーと人間の共進化の道を探っていきたいと思います。

読み込み中…
advertisements
読み込み中…