爆発の先にあるもの:LandSpace ZhuQue-3と再使用ロケット競争の現在地

[更新]2025年12月5日

爆発の先にあるもの:LandSpace ZhuQue-3と再使用ロケット競争の現在地 - innovaTopia - (イノベトピア)

中国の民間企業LandSpaceの再使用型ロケットZhuQue-3が2025年12月3日に打ち上げられ、軌道到達に成功した一方で、第1段ブースターの着陸には失敗したと報じられている。

ZhuQue-3は2段式ロケットであり、第1段を回収する前提で18トン超のペイロード能力を持つとされ、第1段は9基のTianque-12Aエンジンで推進する設計である。機体にはステンレス鋼が用いられ、メタンと液体酸素を推進剤とする構成が採用されている。

今回の飛行では、第1段と第2段の分離やフェアリングの分離、第2段Tianque-15Aエンジンの再点火が実施され、衛星を軌道に投入するミッション自体は成功したとされる。着陸フェーズでは、第1段が再点火後に「anomaly」が発生し、着陸パッド近傍で火球となって破壊された様子が各種動画でも確認されている。

From: 文献リンクChina’s reusable rocket makes it to orbit, fails landing

【編集部解説】

ZhuQue-3の初飛行は、「軌道到達の成功」と「第1段回収の失敗」が同時に起きたミッションとして報じられています。複数の専門メディアや動画を踏まえると、ブースターは着陸パッド近傍まで到達しており、制御不能な大失敗というよりも、再使用技術の最終局面での不具合として位置づけるほうが実態に近いように思います。

今回象徴的なのは、中国の民間企業であるLandSpaceが、9基エンジン構成やメタン推進、垂直着陸など、Falcon 9を想起させる再使用アーキテクチャに本格的に踏み込んできた点です。ZhuQue-3はステンレス鋼構造とメタン・液体酸素の組み合わせにより、将来的な多回数再使用と18トン超のペイロード能力を両立しようとしており、単発の打ち上げではなく衛星コンステレーションを前提にした輸送インフラを狙っていることがうかがえます。

再使用ロケットは、一度の着陸失敗だけで評価が決まる技術ではありません。SpaceXもFalcon 9初期の試験で何度も着陸に失敗し、そのたびにデータを蓄積してきた経緯があり、今回のZhuQue-3も同様に「爆発込みの学習フェーズ」に入ったと見てよさそうです。着陸パッド近傍での火球はセンセーショナルですが、そこまで到達したという事実は、軌道ロケットとしての完成度が一定水準に達していることの裏返しでもあると感じます。

グローバルに見ると、2025年11月にはBlue OriginのNew GlennがNASAのESCAPADEミッションを打ち上げ、ブースターを初めて着陸させたと公式に発表しています。また欧州宇宙機関(ESA)はスウェーデンの発射場で再使用実証機Themisの初号機を発射台に設置し、地上試験フェーズへ移行するなど、米・欧・中国を含む複数プレイヤーが再使用技術を前提としたロケット開発へシフトしています。かつては例外的だった「ブースターの帰還」が、世界的に「やって当然の目標」へ変わりつつあることが感じられます。

気になるのは、この技術が「打ち上げコストを下げる」だけで終わらない点です。再使用が前提になれば、衛星や宇宙機の開発サイクルはさらに短くなり、地球観測や通信のコンステレーションが一層高密度に張り巡らされていきます。その結果として、気候観測や災害監視、グローバルな通信サービスが高度化していく一方で、宇宙ごみの増加や上空からの監視強化といった新たなリスクも現実味を帯びてくるはずです。

今回のZhuQue-3のニュースは、「中国のロケットが爆発した」という一過性の話題ではなく、「宇宙空間がどんなインフラで満たされていくのか」という長期的な変化のひとコマとして眺めると、違った輪郭が見えてきます。打ち上げと着陸、そのどちらの動画を見ても、そこにあるのは単なるショーではなく、数年から十数年スパンの宇宙経済の地図を書き換えるための実験だと感じます。

【用語解説】

ZhuQue-3(朱雀3)
中国の民間企業LandSpaceが開発したメタン・液体酸素推進の2段式再使用ロケットで、低軌道に約18トン超のペイロードを投入可能とされる。

コンステレーション
多数の小型衛星を一定の配置で運用し、一体のシステムとして通信や地球観測を行う衛星群の構成を指す。

【参考リンク】

LandSpace(外部)
中国の民間宇宙企業でZhuQueシリーズを開発し、メタン推進の再使用ロケットZhuQue-3の打ち上げを行っている。

SpaceX(外部)
アメリカの宇宙企業でFalcon 9やStarshipを開発し、再使用ロケットとStarlink衛星コンステレーションを事業として展開している。

Blue Origin(外部)
New ShepardやNew Glennなどの再使用ロケットを開発し、New Glennブースターの着陸成功を発表しているアメリカの宇宙企業である。

European Space Agency (ESA)(外部)
欧州各国が参加する政府間宇宙機関で、将来の再使用ロケット技術の実証機Themisなどを通じて新たな宇宙輸送システムを模索している。

New Glenn launches NASA’s ESCAPADE, lands fully reusable booster(外部)
Blue OriginがNew GlennによるNASA ESCAPADEミッションの打ち上げとブースター着陸成功の概要を伝える公式リリースである。

【参考動画】

【参考記事】

A Chinese reusable booster explodes in historic first orbital test – CNN(外部)
ZhuQue-3の初軌道到達と着陸失敗を報じ、中国民間企業の再使用ロケット参入の意義や爆発映像、メタン推進の背景を整理している。

China’s LandSpace fails to complete reusable rocket test – Reuters(外部)
LandSpaceの再使用試験が未完に終わった経緯を取り上げ、軌道到達の成功、第1段異常の発生、安全面や企業コメントなど事実関係を中心に報じている。

A spectacular explosion shows China is close to obtaining reusable rockets – Ars Technica(外部)
派手な爆発シーンを紹介しつつ、Falcon 9初期の失敗と比較し、LandSpaceが再使用技術の最前線に近づきつつある点を分析している。

China pushing for reusability milestone with Zhuque-3 launch and landing – NASASpaceflight(外部)
ZhuQue-3のエンジン仕様や再使用設計、着陸プロファイルの詳細を技術的に解説し、中国の再使用戦略の中で今回の試験が占める位置を整理している。

【編集部後記】

失敗の瞬間、それを次の一歩に向けた成果のひとつとして受け取れるかどうか。ZhuQue-3の挑戦は、中国の民間ロケットが再使用という新しい当たり前に踏み込むプロセスを可視化しましたが、その「学習曲線」は決して中国や米国だけのものではありません。日本でもHONDAが小型の実験機で垂直離着陸に成功し、数百メートル級のホップ試験から再使用ブースター技術の入り口に立ちつつあります。

こうした動きを、自分たちの日常とは無関係な“宇宙ショー”として眺めるのか、それとも数年から十数年先のインフラ整備の前触れとして捉えるのかで、見えてくる風景は大きく変わります。宇宙輸送が今よりもう少し「当たり前のインフラ」になったとき、日本発の技術も含めて、どんなサービスや体験が生まれていてほしいか――ZhuQue-3やNew Glenn、そしてHONDAの小さなホップ試験をきっかけに、読者一人ひとりの仕事や暮らしの延長線上のテーマとして、一緒に考えていければと思います。

投稿者アバター
omote
デザイン、ライティング、Web制作を行っています。AI分野と、ワクワクするような進化を遂げるロボティクス分野について関心を持っています。AIについては私自身子を持つ親として、技術や芸術、または精神面におけるAIと人との共存について、読者の皆さんと共に学び、考えていけたらと思っています。

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