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Sam Altman率いるTools for Humanity、Worldアプリをスーパーアプリ化 ― 虹彩認証・暗号化チャット・DeFi利回りを統合

[更新]2025年12月16日

Sam Altman率いるTools for Humanity、Worldアプリをスーパーアプリ化 ― 虹彩認証・暗号化チャット・DeFi利回りを統合 - innovaTopia - (イノベトピア)

OpenAIのCEOであるサム・アルトマンが共同創業したTools for Humanityは、Worldアプリをスーパーアプリモデルへ拡張する新機能を発表した。共同創業者のアルトマンとアレックス・ブラニアがサンフランシスコで木曜日に発表を行った。新機能にはエンドツーエンド暗号化を備えたWorld Chatが含まれ、検証済みと未検証のWorld IDアカウントを区別し、チャット内でデジタル資産の送受信が可能となる。

アプリ内では予測市場、ゲーム、金融ツールなどのサードパーティミニアプリが動作する。ステーブルコインのサポートはUSDC、EURC、ラテンアメリカのペソ連動トークンに拡大された。DeFiプロトコルMorphoを利用した利回り商品では、Worldcoin保有に対して最大18%、USDCに対して最大15%のレートを提供する。アルゼンチンでは100万以上の加盟店でQRコード決済が可能になる。

米国、日本を含む18カ国でBridgeを利用した米ドル仮想口座が追加され、給与受取やUSDC利用が可能となった。

From: 文献リンクTools for Humanity expands World app toward super-app model

【編集部解説】

今回のWorldアプリのスーパーアプリ化は、単なる機能追加以上の意味を持っています。これは「AIが人間を模倣する時代に、人間であることをどう証明するか」という根本的な課題への回答なのです。

サム・アルトマン自身がOpenAIのCEOとしてAI開発の最前線にいるからこそ、この取り組みには重層的な意味があります。AI生成コンテンツが氾濫する中で、デジタル空間における「人間性の証明」は、もはや理論上の課題ではなく、現実的な必要性となっています。

World IDの虹彩認証という仕組みは、技術的には非常に堅牢です。虹彩パターンは指紋や顔よりも複雑で変化しにくく、一度の認証で終わるため、毎回の生体情報送信は不要です。しかし、約2000万人という現在の検証済みユーザー数は、アルトマンが目指す10億人という目標に対してはまだ序章に過ぎません。

プライバシーの観点からは、複雑な状況が存在します。スペイン、ポルトガル、ケニア、フィリピンなどで規制当局が懸念を表明し、一部では一時的な禁止措置も取られました。2024年5月にはGDPR対応としてセキュアマルチパーティ計算方式に移行し、虹彩コードの削除も可能になりましたが、「生体情報を一企業に預ける」という根本的な不安は残ります。

今回のスーパーアプリ化で注目すべきは、DeFiプロトコルMorphoを活用した利回り商品です。Worldcoin保有で最大18%、USDCで最大15%という高利回りは、従来の銀行システムでは考えられない数字です。これは金融包摂という観点で、銀行口座を持たない17億人へのアクセスを目指すものですが、同時にボラティリティリスクや規制の不確実性も伴います。

アルゼンチンで100万以上の加盟店でのQRコード決済が可能になった点も重要です。インフレに苦しむ国々では、ドル連動ステーブルコインは実質的な価値保存手段となります。これはテクノロジーが社会課題の解決に直結する好例です。

興味深いのは、イーロン・マスクのXやCoinbaseのBase appなど、西洋企業がこぞってスーパーアプリモデルを目指している点です。WeChatのような統合型プラットフォームは、アジアでは成功していますが、西洋では文化的・規制的障壁が存在します。利用者がすでに複数のアプリに慣れ親しんでおり、金融規制も厳格です。

Worldアプリの戦略は、ブロックチェーンとAI時代に特化した「第三の道」を模索しているように見えます。デジタルIDという基盤レイヤーの上に、金融、メッセージング、ミニアプリを統合することで、Web3ネイティブなスーパーアプリを構築しようとしています。

最大の課題は、信頼の獲得です。生体情報の収集、中央集権的なデータ管理、プライバシーに関する懸念——これらはすべて、ユーザーが「このプラットフォームを信頼できるか」という問いに帰結します。技術的な優位性だけでは不十分で、透明性のある運営と、ユーザーのデータ主権の保証が不可欠です。

発表時点で月間アクティブユーザーは約4000万人、検証済みWorld IDは約2000万人に達しています。これが今後どのように成長するかが、このプロジェクトの成否を左右するでしょう。AIと人間が共存する未来において、「証明可能な人間性」がどのような価値を持つのか、その実験が今、始まっています。

【用語解説】

スーパーアプリ(Super App)
メッセージング、決済、EC、金融サービスなど、複数の機能を単一のプラットフォームに統合したアプリケーション。アジアのWeChatが代表例で、ユーザーはアプリを切り替えることなく日常生活のあらゆる活動を完結できる。

World ID
Tools for Humanityが開発するデジタルID検証システム。Orbと呼ばれる専用デバイスで虹彩スキャンを行い、ユーザーが実在する唯一無二の人間であることを証明する。AI生成コンテンツが氾濫する時代における「人間性の証明」を目的とする。

Orb(オーブ)
World IDの検証に使用される球体型の生体認証デバイス。虹彩パターンを撮影し、暗号化されたデジタルコードに変換する。2024年10月にはNvidia製ハードウェアを搭載した新世代Orbが発表され、処理能力が3倍に向上した。

エンドツーエンド暗号化(E2E暗号化)
送信者と受信者以外が通信内容を読み取れないようにする暗号化技術。World ChatではXMTPプロトコルを使用し、Signalと同等以上のセキュリティレベルを実現している。

ステーブルコイン
法定通貨や金などの資産に価値が連動するよう設計された暗号資産。USDCは米ドルに、EURCはユーロに連動しており、価格変動が少ないため決済手段として利用しやすい。

DeFi(分散型金融)
ブロックチェーン技術を活用し、従来の金融仲介者を介さずに金融サービスを提供する仕組み。MorphoはDeFiプロトコルの一つで、資金の貸し借りによる利回り商品を提供する。

ミニアプリ(Mini Apps)
スーパーアプリ内で動作する軽量なサードパーティアプリケーション。ダウンロード不要で、メインアプリの中で予測市場、ゲーム、金融ツールなどの機能を利用できる。

GDPR(一般データ保護規則)
EU圏内の個人データ保護を目的とした規則。Worldは2024年5月にセキュアマルチパーティ計算方式を導入し、GDPR対応を強化した。

金融包摂(Financial Inclusion)
銀行口座を持たない人々に金融サービスへのアクセスを提供する取り組み。世界には約17億人の銀行口座を持たない成人がおり、Worldアプリはこの層へのアクセスを目指している。

Bridge
米ドル仮想口座を提供するプラットフォーム。Worldアプリでは18カ国でBridgeを活用し、給与受取や銀行からの入金、USDC利用を可能にしている。

【参考リンク】

Tools for Humanity 公式サイト(外部)
サム・アルトマンとアレックス・ブラニアが共同創業したテクノロジー企業でWorld NetworkとWorld Appの開発・運営を主導している

World 公式サイト(外部)
旧WorldcoinプロジェクトのサイトでWorld IDの仕組みやOrbによる検証プロセスの詳細情報を提供

World App(外部)
月間約4000万人が利用するデジタルウォレット兼スーパーアプリでメッセージングや400以上のミニアプリにアクセス可能

Morpho(外部)
効率的な貸付市場を提供するDeFiプロトコルでWorldアプリではWLDやUSDCの利回り商品を提供

OpenAI(外部)
Sam AltmanがCEOを務めるAI研究開発企業でChatGPTやGPT-4などの大規模言語モデルを開発

Coinbase(外部)
米国最大級の暗号資産取引所でWalletをBase appにリブランディングしスーパーアプリ化を推進中

【参考記事】

World launches its ‘super app,’ including crypto pay and encrypted chat features | TechCrunch(外部)
Worldのスーパーアプリ発表の詳細でアルトマンの10億人目標と現在2000万人未満の実績やOrb Minisの開発について報じている

The New World App: Encrypted Chat and Global Payments for Everyone | Business Wire(外部)
Tools for Humanityの公式プレスリリースで月間4000万ユーザーと2000万検証済みIDという具体的数字を公表

What is the World’s Orb, and how does it protect your personal data? | Cointelegraph(外部)
Orbの技術仕様を解説し2024年10月の新世代Orbは部品数30%削減で処理能力3倍向上と報告している

15 Most Popular Super Apps in the World in 2024(外部)
世界のスーパーアプリを分析しWeChatは13億ユーザーで東南アジアでは70%以上が銀行口座なしと報告

Worldcoin’s Orb Scans Your Iris—But at What Cost? | Identity.com(外部)
Worldの倫理的課題を検証しスペインの一時禁止措置やアルゼンチンの高額罰金などを指摘している

WeChat ecosystem: An overview of China’s digital super app | Media Scope Group(外部)
WeChatの詳細分析で13.85億ユーザーとWeChat Payが2023年に4兆人民元処理し市場74%占有と報告

【編集部後記】

AIが人間を模倣する時代に、私たちは「人間である」ことをどう証明すればいいのでしょうか。Worldアプリが提示するのは、生体認証による解決策です。しかし同時に、プライバシーと利便性のトレードオフという古くて新しい問いも投げかけています。

虹彩スキャンによる本人確認は、確かに強力です。でも、その情報を誰に、どのように預けるべきなのか。スーパーアプリという便利さの裏側で、私たちは何を手放し、何を得るのか。みなさんなら、このトレードオフをどう考えますか。ぜひコメントで意見を聞かせてください。

投稿者アバター
TaTsu
『デジタルの窓口』代表。名前の通り、テクノロジーに関するあらゆる相談の”最初の窓口”になることが私の役割です。未来技術がもたらす「期待」と、情報セキュリティという「不安」の両方に寄り添い、誰もが安心して新しい一歩を踏み出せるような道しるべを発信します。 ブロックチェーンやスペーステクノロジーといったワクワクする未来の話から、サイバー攻撃から身を守る実践的な知識まで、幅広くカバー。ハイブリッド異業種交流会『クロストーク』のファウンダーとしての顔も持つ。未来を語り合う場を創っていきたいです。

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