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ブータン、1万ビットコイン(約1500億円)を「マインドフルネス・シティ」開発に投入─売却せず長期保有で国民全員が受益者に

ブータン、1万ビットコイン(約1500億円)を「マインドフルネス・シティ」開発に投入──売却せず長期保有で国民全員が受益者に - innovaTopia - (イノベトピア)

ブータン王国は、特別行政区であるゲレフ・マインドフルネス・シティ(GMC)の建設資金として、保有するビットコインから1万枚を活用すると12月17日に発表した。GMCはブータン南部のゲレフに位置し、2024年に立ち上げられた新しい経済拠点である。金融、観光、グリーンエネルギー、テクノロジー、ヘルスケア、農業などの企業誘致を目的とし、暗号資産およびフィンテック企業に規制上の柔軟性を提供する。

ブータンは約1万1286ビットコインを保有しており、その価値は9億8600万ドルを超え、国別では5番目に大きな保有国である。ジグミ・ケサル・ナムゲル・ワンチュク国王は、79万6682人を超える全人口がGMCから恩恵を受けることを目標としている。GMCは今後20年間にわたって段階的に建設される予定である。

From: 文献リンクBhutan pledges 10K Bitcoin to develop its ‘mindfulness city’

【編集部解説】

今回ブータンが発表した1万ビットコインの投入は、単なる投資や投機ではなく、国家戦略としてのデジタル資産活用の新たな形を示しています。現在ビットコインの価格は1枚あたり約8万6000ドルから9万ドル前後で推移しており、1万枚の価値は約8億6000万ドルから10億ドル(約1290億円から1500億円、1ドル150円換算)に達します。

ブータンの現在の保有総額については、情報源によって数値に差異があります。本記事の元となったCointelegraphはBitboのデータを引用し、約1万1286ビットコイン(約9億8600万ドル超)で世界第5位としていますが、同日に発表された複数の他メディア(Decrypt、Coinotagなど)はArkham Intelligenceのデータを引用し、約5984ビットコイン(約5億2200万ドル超)で世界第7位としています。この差異は、追跡可能なウォレットの範囲、集計時期、2024年11月の大規模売却などの影響によるものと考えられます。いずれにせよ、ブータンは政府として世界有数のビットコイン保有国であることに変わりはありません。

注目すべきは、ブータンが「ビットコインを売却しない」と明言している点です。多くの国が法執行機関による押収資産としてビットコインを保有し、価格上昇時に売却する傾向にある中、ブータンは担保化、利回り戦略、長期保有といった手法で資産価値を保全しながら開発資金を生み出そうとしています。これは、ビットコインを投機対象ではなく、国家の戦略的資産として位置づける新しいアプローチです。

ブータンのビットコイン戦略の基盤にあるのは、豊富な水力発電資源です。2019年から国営投資会社Druk Holding & Investmentsを通じてビットコインマイニングを開始し、国内需要を超える余剰の再生可能エネルギーをビットコインに変換してきました。2023年にはBitdeer Technologies Groupと提携し、マイニング能力を600メガワットまで拡大する計画を進めています。ブータンのビットコイン保有額は同国GDPの約40%に相当する規模となっており、小国にとって極めて重要な国家資産となっています。

GMCは単なる経済特区ではなく、ブータンの「国民総幸福量」という独自の価値観をデジタル時代に適応させる実験場と言えます。国土の約10%を占めるこの地域では、ビットコイン、イーサリアム、BNBを戦略的準備資産として指定し、Binance Payを通じた暗号資産決済を観光業や商店で導入しています。さらに、イーサリアム上に構築された国民デジタルID(約80万人分)や、ソラナ上で発行された金担保デジタルトークンTERなど、ブロックチェーン技術を社会インフラに組み込む取り組みを進めています。

ワンチュク国王が「GMCを企業と考え、土地所有者を株主と考えてほしい」と述べたように、この計画の核心には富の再分配という思想があります。国有地が大部分を占めるブータンでは、全国民がGMCの「株主」として経済成長の恩恵を共有する新しい土地政策を策定中です。これは、テクノロジーの進化がもたらす経済的利益を、一部の企業や投資家だけでなく国民全体で分かち合うという、極めて先進的な試みです。

一方で、課題も存在します。ブータンのGDPは約30億ドル(約4500億円)であり、今回の1万ビットコインは国家経済の約3分の1に相当する規模です。ビットコインの価格変動リスクをどのように管理するか、また担保化や利回り戦略の具体的な実施方法については、今後数カ月以内に決定されるとされています。2024年11月や2025年7月にはビットコイン価格の上昇時に数億ドル規模の売却を行った実績もあり、完全な長期保有が維持されるかどうかは注視が必要です。

今回の発表は、人口80万人弱の小国が、再生可能エネルギーとデジタル資産を組み合わせることで、若者の国外流出を防ぎ、持続可能な経済成長を実現しようとする壮大な実験の始まりです。20年間にわたって段階的に建設されるGMCが、南アジアと東南アジアを結ぶ経済回廊として機能し、「マインドフルネスに基づく経済ハブ」という新しいモデルを世界に示すことができるのか、その行方が注目されます。

【用語解説】

ゲレフ・マインドフルネス・シティ(GMC)
ブータン南部のゲレフに建設中の特別行政区。国土の約10%(約1544平方マイル)を占め、金融、観光、グリーンエネルギー、テクノロジー、ヘルスケア、農業などの分野で企業を誘致する経済特区として2024年に立ち上げられた。暗号資産およびフィンテック企業に規制上の柔軟性を提供し、南アジアと東南アジアを結ぶ経済回廊として機能することを目指している。

ビットコインマイニング
ビットコインのネットワークを維持するために、高性能なコンピューターで複雑な計算問題を解く作業。成功した参加者には報酬としてビットコインが支払われる。ブータンは豊富な水力発電による余剰電力を活用し、2019年から国家主導でマイニング事業を展開している。

Druk Holding & Investments(DHI)
ブータン王国の国営投資会社。ソブリン・ウェルス・ファンドとして機能し、ブータンのビットコインマイニング事業や暗号資産保有を管理している。GMCの開発プロジェクトの中心的な役割を担う。

担保化(Collateralization)
保有するビットコインを売却せずに、担保として提供することで資金を調達する手法。ビットコインの価格上昇による将来的な利益を維持しながら、開発資金を確保できる。

TER
ブータンが発行した物理的な金に裏付けられたデジタルトークン。ソラナブロックチェーン上で展開され、DK Bankが独占販売を行う。政府保証による金担保トークンとして、ブータンのデジタル資産戦略の一環を担う。

国民デジタルID(National Digital Identity)
ブータンがイーサリアムブロックチェーン上に構築した国民向けデジタル身分証明システム。約80万人の市民が安全に身元確認を行い、公共サービスにアクセスできる。2025年第1四半期までに完全移行予定。

ゾンカク(Dzongkhag)
ブータンにおける行政区画の単位。県に相当する地方自治体で、全国に20のゾンカクが存在する。国王はすべてのゾンカクの住民がGMCの成功を共有すると述べている。

国民総幸福量(Gross National Happiness)
ブータンが1970年代から採用している独自の発展指標。経済成長だけでなく、文化の保全、環境保護、良い統治を重視する概念。GMCはこの価値観をデジタル時代に適応させる試みと位置づけられている。

【参考リンク】

Gelephu Mindfulness City 公式サイト(外部)
マスタープラン、法的枠組み、ビットコイン開発誓約の全文、プロジェクトのビジョンと進捗状況を掲載

Bitdeer Technologies Group(外部)
ブータンと提携し600メガワット規模のマイニング施設拡張プロジェクトを推進するナスダック上場企業

Arkham Intelligence(外部)
政府や企業のビットコイン保有状況を追跡・公開するブロックチェーン分析プラットフォーム

Cumberland DRW(外部)
2025年12月にブータンと覚書を締結しGMCのビットコイン準備資産管理を支援するデジタル資産企業

【参考記事】

Bhutan Pledges 10,000 Bitcoin Worth $1B to Fund Mindfulness City(外部)
ビットコインを売却せず担保化や利回り戦略で資金調達する方針。Arkham Intelligenceのデータで世界第7位の政府保有国

Bhutan Pledges $1 Billion in Bitcoin to Build ‘Mindfulness City’ Without Selling Reserves(外部)
ワンチュク国王が若者雇用と国家繁栄への世代的投資と位置づけ。ビットコイン保有額がGDPの約40%に相当

BHUTAN UNVEILS LANDMARK 10,000 BITCOIN DEVELOPMENT PLEDGE(外部)
2019年から再生可能な水力発電でマイニングを実施。約80万人の市民向けブロックチェーンベースの国民デジタルIDシステムも展開

Bhutan commits up to 10,000 bitcoin to back new mindfulness-based economic hub(外部)
投機的保有ではなく戦略的国家資産として位置づけ。最終決定は今後数カ月以内に発表予定

Bhutan Allocates 10,000 BTC to Build a ‘Mindfulness City’(外部)
優先事項は資本とその購買力を将来世代のために保全すること。80万人の市民向けデジタルIDシステムとTERトークンも導入済み

Bhutan pledges $1bn cryptocurrency for ‘mindfulness’ city(外部)
カーボンネガティブのブータンは水力発電プロジェクトを積極的に推進しインドへの電力輸出で収益を獲得

Royal Government of Bhutan BTC Holdings – Arkham Intelligence(外部)
Arkham Intelligenceの調査で1万3000ビットコイン以上を保有と判明。Bitdeerと提携し600メガワットまでマイニング能力拡大を目標

【編集部後記】

ブータンの取り組みは、テクノロジーと人間の幸福をどう両立させるかという問いに、一つの答えを示しているように感じます。人口80万人の小国が、ビットコインという変動の大きい資産を国家戦略の中心に据え、しかも「売却しない」と宣言する。この大胆さの背景には、短期的な利益よりも長期的な国民の繁栄を重視する姿勢があります。

みなさんは、自分の住む国や地域が、もしブータンのようにデジタル資産を活用するとしたら、どんな未来を描いてほしいと思いますか?そして、テクノロジーがもたらす富を「全員で分かち合う」という理想は、本当に実現可能なのでしょうか。ぜひ、ご自身の考えを巡らせていただければと思います。

投稿者アバター
TaTsu
『デジタルの窓口』代表。名前の通り、テクノロジーに関するあらゆる相談の”最初の窓口”になることが私の役割です。未来技術がもたらす「期待」と、情報セキュリティという「不安」の両方に寄り添い、誰もが安心して新しい一歩を踏み出せるような道しるべを発信します。 ブロックチェーンやスペーステクノロジーといったワクワクする未来の話から、サイバー攻撃から身を守る実践的な知識まで、幅広くカバー。ハイブリッド異業種交流会『クロストーク』のファウンダーとしての顔も持つ。未来を語り合う場を創っていきたいです。

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