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Solanaがポスト量子セキュリティ実装、Project Elevenと協力しテストネット稼働に成功

Solanaがポスト量子セキュリティ実装、Project Elevenと協力しテストネット稼働に成功 - innovaTopia - (イノベトピア)

Project Elevenは2025年12月16日、Solana Foundationとのコラボレーションを発表した。このコラボレーションは、量子コンピューティングの脅威に対してSolanaエコシステムを強靭にすることに焦点を当てている。Project Elevenは完全な脅威評価を主導し、ポスト量子デジタル署名を使用したSolanaテストネットのプロトタイプを作成した。

Project Elevenは、将来の量子技術の進歩がSolanaのコアインフラストラクチャ、ユーザーウォレット、バリデータセキュリティ、長期的な暗号学的前提に与える影響について詳細なリスク分析を実施した。さらに、Solanaテストネット上で機能するポスト量子署名システムを展開し、エンドツーエンドの量子耐性トランザクションが実用的でスケーラブルであることを示した。

Project ElevenのCEOであるAlex Pruden氏は、Solanaにおけるポスト量子セキュリティが今日の技術で実現可能であると述べた。

From: 文献リンクProject Eleven to Advance Post-Quantum Security for the Solana Network

【編集部解説】

今回のSolanaとProject Elevenのコラボレーションは、ブロックチェーン業界全体が直面する「量子コンピュータ時代への備え」という課題に対する、極めて具体的な一歩と言えます。単なる研究発表ではなく、実際に動作するテストネット上でポスト量子デジタル署名を実装し、トランザクションが実用レベルで機能することを証明した点が重要です。

量子コンピュータがブロックチェーンに与える脅威は、もはや遠い未来の話ではありません。Ethereumの共同創設者であるVitalik Buterin氏は、予測プラットフォームMetaculusのデータを引用し、2030年までに量子コンピュータが現代の暗号技術を破る確率を約20%と見積もっています。中央値は2040年ですが、テールリスクとしての2028年から2030年という時間軸は、決して無視できません。

現在のブロックチェーンは、楕円曲線暗号(ECC)やRSAといった古典的な暗号方式に依存しています。Project Elevenは、Solanaの既存署名方式(Ed25519)を量子耐性のある方式(ML-DSA-44)へ置き換えた場合の影響を検証するため、Solanaクライアント(Agave)のフォークを用いた実験的テストネット実装を公開しています。十分な性能を持つ量子コンピュータが登場すれば、公開鍵から秘密鍵を逆算され、資金の盗難やバリデータの偽装といった深刻な攻撃が可能になります。

このリスクに対し、米国NISTはポスト量子暗号(PQC)の連邦標準として、FIPS 203/204/205を承認・公開している。デジタル署名については、FIPS 204(ML-DSA)とFIPS 205(SLH-DSA)が該当します。FIPS 203(ML-KEM)は鍵のカプセル化、FIPS 204(ML-DSA)とFIPS 205(SLH-DSA)はデジタル署名に関する規格で、いずれも格子問題やハッシュ関数といった、量子コンピュータでも解読困難な数学的問題を基盤としています。

Cloudflareの比較テストによると、FIPS 204はSolanaが使用するEd25519と比べて、署名生成コストが約5倍高い一方、検証速度は約2倍速いという結果が出ています。つまり、ポスト量子暗号は計算負荷が高く、高速性を売りにするSolanaのようなブロックチェーンにとって、パフォーマンスとのトレードオフが課題でした。

今回のテストネット実装が示したのは、このトレードオフが技術的に克服可能であるという事実です。Project ElevenのCEO、Alex Pruden氏の言葉を借りれば、「Solanaは量子コンピュータが問題になるまで待たなかった」のです。早期に投資し、困難な問いを立て、実行可能な対策を今日のうちに講じたことが、この取り組みの本質です。

一方で、ブロックチェーン業界全体を見渡すと、対応は一様ではありません。EthereumはVitalik氏の主導で量子耐性をロードマップに組み込んでいますが、Bitcoinのガバナンス構造では、量子耐性アドレスへの資金移行について合意形成が難航する可能性が指摘されています。Cardanoの創設者Charles Hoskinson氏は量子リスクを「過大評価されている」と発言する一方、業界の多くは「今すぐ移行すべき」という切迫感を共有しつつあります。

ポスト量子暗号への移行には、単なる技術実装以上の課題があります。既存のウォレット、バリデータノード、スマートコントラクト、そしてエコシステム全体を調整しながら、ユーザー体験を損なわずに移行を完了させる必要があります。これは数年を要する大規模な作業であり、分散型ネットワークにおけるコンセンサス形成の難しさを考えれば、今から準備を始めても決して早すぎることはありません。

専門家が警告する「Harvest Now, Decrypt Later(今収集して、後で解読する)」攻撃も見過ごせません。攻撃者は現在のブロックチェーンデータを収集し、将来の量子コンピュータで解読することができます。つまり、量子コンピュータが実用化される前から、データは既に危険にさらされているのです。

Solanaの今回の取り組みは、こうしたリスクに対する「防御的投資」の好例です。テストネットでの成功は、本番ネットワークへの移行可能性を示し、他のブロックチェーンプロジェクトにとっても重要な先例となります。Project Elevenは今後も複数のプロトコルやステークホルダーと協力し、移行パス、標準化、ポスト量子プリミティブの採用を支援していく予定です。

ブロックチェーンの本質は「信頼」です。その信頼を支える暗号技術が揺らげば、数兆ドル規模のデジタル資産エコシステム全体が危機に瀕します。Solanaの今回の発表は、未来への備えが既に始まっていることを示す、重要なシグナルなのです。

【用語解説】

ポスト量子暗号(Post-Quantum Cryptography / PQC)
量子コンピュータによる攻撃に耐性を持つように設計された暗号技術の総称。従来の暗号方式(RSAや楕円曲線暗号など)は、十分な性能を持つ量子コンピュータによって破られる可能性があるため、格子問題やハッシュ関数など、量子コンピュータでも解読が困難な数学的問題を基盤とした新しい暗号方式が開発されている。

量子コンピュータ(Quantum Computer)
量子力学の原理を利用して計算を行うコンピュータ。従来のコンピュータが0か1のビットで計算するのに対し、量子コンピュータは0と1を同時に表現できる量子ビット(qubit)を使用する。特定の数学的問題を従来のコンピュータより圧倒的に高速に解ける可能性があり、現在のブロックチェーンの暗号技術を脅かす存在として認識されている。

楕円曲線暗号(ECC / Elliptic Curve Cryptography)
楕円曲線上の点の演算を利用した公開鍵暗号方式。BitcoinやEthereumなど、多くのブロックチェーンで採用されている。計算効率が高く鍵のサイズが小さいという利点があるが、Shorのアルゴリズムを実行できる量子コンピュータによって解読される可能性が指摘されている。

Ed25519
楕円曲線暗号の一種で、Solanaが現在使用しているデジタル署名方式。高速で安全性が高いとされているが、量子コンピュータには脆弱である。

テストネット(Testnet)
本番環境(メインネット)に実装する前に、新しい機能や技術を試験的に運用するためのネットワーク環境。実際の価値を持たないトークンを使用して実験が行われる。

バリデータ(Validator)
ブロックチェーンネットワークにおいて、トランザクションの検証やブロックの生成を行うノード。ネットワークのセキュリティと整合性を維持する重要な役割を担う。

FIPS(Federal Information Processing Standards)
米国連邦情報処理規格。NISTが策定する、米国政府機関で使用される情報技術に関する標準規格。FIPS 203、204、205はポスト量子暗号に関する規格。

ML-KEM(Module-Lattice-Based Key-Encapsulation Mechanism)
FIPS 203で規格化された、格子問題に基づく鍵カプセル化メカニズム。元々はCRYSTALS-Kyberと呼ばれていたアルゴリズムで、量子耐性を持つ暗号化に使用される。

ML-DSA(Module-Lattice-Based Digital Signature Algorithm)
FIPS 204で規格化された、格子問題に基づくデジタル署名アルゴリズム。元々はCRYSTALS-Dilithiumと呼ばれていた。

SLH-DSA(Stateless Hash-Based Digital Signature Algorithm)
FIPS 205で規格化された、ハッシュ関数に基づくデジタル署名アルゴリズム。元々はSPHINCS+と呼ばれていた。ML-DSAとは異なる数学的アプローチを採用しており、バックアップ手段として位置づけられている。

Harvest Now, Decrypt Later攻撃
攻撃者が現在暗号化されたデータを収集しておき、将来的に量子コンピュータが実用化された際にそのデータを解読する攻撃手法。この脅威により、量子コンピュータが実用化される前から対策が必要とされている。

Shorのアルゴリズム(Shor’s Algorithm)
1994年にピーター・ショアが発表した量子アルゴリズム。大きな整数の素因数分解や離散対数問題を多項式時間で解くことができるため、RSAや楕円曲線暗号といった現代の暗号方式を破ることが可能とされている。

【参考リンク】

Project Eleven(外部)
ポスト量子時代のための強靭なインフラストラクチャとツールを構築する企業。デジタル資産の量子セキュリティと移行の業界リーダー。

Solana Foundation(外部)
高速かつスケーラブルなブロックチェーンプラットフォームSolanaの開発と普及を推進する財団。秒間数千件のトランザクション処理が可能。

NIST(National Institute of Standards and Technology)(外部)
米国国立標準技術研究所。ポスト量子暗号標準化プロジェクトを主導し、2024年8月にFIPS 203、204、205を公開。

NIST Post-Quantum Cryptography Standardization(外部)
NISTのポスト量子暗号標準化プロジェクトの公式ページ。標準化されたアルゴリズムや関連文書など包括的な情報を提供。

Ethereum Foundation(外部)
スマートコントラクト機能を備えた分散型ブロックチェーンプラットフォームEthereumの開発を支援する組織。

Metaculus(外部)
専門家や一般ユーザーが将来の出来事について予測を行うオンライン予測プラットフォーム。量子コンピュータリスクの確率予測を公開。

【参考記事】

Solana tests quantum-resistant transactions in new Project Eleven pilot(外部)
テストネット実装の詳細とFIPS 204の性能比較データを報告。署名コストが約5倍、検証速度が約2倍という具体的数値を紹介している。

Post-Quantum Cryptography FIPS Approved | CSRC(外部)
NISTが2024年8月に公開した3つのポスト量子暗号標準(FIPS 203、204、205)の公式発表。各標準の技術的詳細を解説。

Vitalik Buterin Warns 20% Quantum Risk by 2030(外部)
Ethereum共同創設者Vitalik Buterinの2030年までに20%という量子リスク予測を詳しく解説。業界内の多様な見解も紹介。

Quantum Computing Blockchain Threat: 2025 Security Guide(外部)
量子コンピュータの脅威を包括的に解説。約665万BTC(7450億ドル相当)が量子攻撃に脆弱との指摘や具体的な進展を紹介。

NIST FIPS 203, 204, 205 Finalized | PQC Algorithms | CSA(外部)
Cloud Security AllianceによるNIST標準化の意義解説。暗号学的に関連する量子コンピュータが5〜10年以内に現実になる可能性を指摘。

Solana Runs Quantum-Resistant Signatures on Testnet(外部)
Solanaのテストネット実装がエンドツーエンドで動作する実用的なプロトタイプであることを強調。実用的なロードマップを提供している点を評価。

Vitalik Buterin on Quantum Computing and Ethereum Security(外部)
Vitalik Buterinの量子コンピュータ警告を詳細分析。2028年の米国大統領選挙前に量子攻撃が可能になる可能性や緊急時対応計画を解説。

【編集部後記】 

量子コンピュータの脅威は、もはや遠い未来の話ではありません。Vitalik Buterin氏が指摘する「2030年までに20%の確率」という数字は、私たちが保有するデジタル資産の安全性が、思いのほか短い時間軸で試されることを意味しています。

Solanaの今回の取り組みは、「備えあれば憂いなし」を体現する好例です。みなさんが利用しているブロックチェーンやウォレットは、量子耐性への準備を始めているでしょうか。各プロジェクトのロードマップを確認してみることで、投資先の長期的な安全性を見極める新しい視点が得られるかもしれません。

未来を見据えた技術への投資こそが、デジタル資産の真の価値を守る鍵となるのではないでしょうか。

投稿者アバター
TaTsu
『デジタルの窓口』代表。名前の通り、テクノロジーに関するあらゆる相談の”最初の窓口”になることが私の役割です。未来技術がもたらす「期待」と、情報セキュリティという「不安」の両方に寄り添い、誰もが安心して新しい一歩を踏み出せるような道しるべを発信します。 ブロックチェーンやスペーステクノロジーといったワクワクする未来の話から、サイバー攻撃から身を守る実践的な知識まで、幅広くカバー。ハイブリッド異業種交流会『クロストーク』のファウンダーとしての顔も持つ。未来を語り合う場を創っていきたいです。

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