xAIは2025年12月17日、Grokボイスエージェント APIを発表した。このAPIは数十の言語に対応し、ツール呼び出しやリアルタイムデータ検索が可能な音声エージェントの構築を可能にする。モバイルアプリやテスラ車両で使用されているものと同じスタックで構築されている。
Grokボイスエージェント APIはBig Bench Audioで第1位を獲得し、平均の初回オーディオ応答時間は1秒未満で、最も近い競合の約5倍の速さである。価格は接続時間1分あたり0.05ドルの定額制で、Deepgram AIの0.08ドル、ElevenLabs Agentsの0.088ドル、OpenAI Realtime APIの0.1ドル、Bland AIの0.14ドルと比較して業界最安値となる。
OpenAI Realtime APIとのブラインド人間評価では、ロシア語で85.4%、スペイン語で67.2%、ベトナム語で66.7%の勝率を記録した。APIはOpenAI Realtime API仕様と互換性があり、xAI LiveKitプラグイン経由でも利用可能である。今後数週間でスタンドアロンのテキスト読み上げおよび音声テキスト変換エンドポイントをリリースする予定である。
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Grok Voice Agent API | xAI
【編集部解説】
xAIがGrokボイスエージェント APIを発表したこのタイミングは、音声AI市場において極めて重要な意味を持ちます。2025年12月現在、OpenAIやグーグル、アマゾンといった大手テクノロジー企業が音声エージェント市場で激しい競争を繰り広げており、xAIはこの発表によって本格的にこの市場に参入したことになります。
この技術の最大の特徴は、音声スタック全体を社内で構築している点です。音声活動検出、トークナイザー、オーディオモデルのすべてを一から開発することで、他社が外部のコンポーネントを組み合わせる従来のパイプライン方式と比較して、レイテンシーと品質の両面で優位性を確保しています。
価格設定についても注目に値します。接続時間1分あたり0.05ドルという定額制は、競合他社と比較して明確な優位性があります。特にOpenAIのRealtime APIは入力トークンと出力トークンで課金されるため、実際の運用では1分あたり0.1ドルを超えることが多く、Grokの半額以下となります。これは開発者にとって予算の見通しを立てやすく、大規模な展開を検討する際の大きなメリットとなるでしょう。
Big Bench Audioでの第1位という評価は、単なるマーケティング主張ではありません。このベンチマークはArtificial Analysisによって独立検証されており、音声エージェントの推論能力を測定する業界標準の指標として認識されています。平均の初回オーディオ応答時間が1秒未満という数値は、リアルタイムの会話体験において決定的な差を生み出します。
多言語対応も重要な要素です。数十の言語をネイティブレベルで話し、会話の途中で言語を切り替えられる機能は、グローバル展開を目指す企業にとって不可欠な機能です。特にロシア語での勝率85.4%、スペイン語での67.2%という数値は、非英語圏での優位性を示しています。ただし、ブラインド人間評価の結果を詳しく見ると、日本語においてはOpenAI Realtime APIの方が優位(49.5%対34.2%)という結果も出ています。言語によって得意・不得意があることは、開発者がターゲット市場を考慮する際の重要な判断材料となるでしょう。
テスラとの協業は、この技術の実用性を証明する重要な事例です。何百万台もの車両で既に稼働しているという実績は、開発者に対して技術の成熟度と信頼性を示すものです。車両のステータスへのアクセス、ナビゲーション制御、リアルタイム検索などの機能統合は、他の産業分野への応用可能性を示唆しています。
ただし、いくつかの留意点も存在します。現時点では音声からテキストへの変換、テキストから音声への変換の単独エンドポイントは提供されておらず、今後数週間でのリリースが予定されています。また、OpenAI Realtime API仕様との互換性は開発者にとって移行を容易にしますが、同時にxAI独自の差別化要素については今後の展開を見守る必要があります。
この発表は、音声AIインターフェースが単なるテキスト入力の代替ではなく、人間とコンピューターの相互作用における新たな標準となりつつあることを示しています。カスタマーサポート、医療、法律、金融といった専門分野での活用が期待されており、業界全体の変革を加速させる可能性を秘めています。
【用語解説】
Big Bench Audio
音声言語モデルの推論能力を評価するためのベンチマークデータセット。Artificial Analysisが開発し、Big Bench Hardから選ばれた1,000の音声質問で構成される。論理的推論、ナビゲーション、物体カウント、ブール論理などのカテゴリーで音声エージェントの複雑な問題解決能力を測定する。
音声活動検出(VAD)
音声信号から人間の発話区間を自動的に検出する技術。音声エージェントが「いつユーザーが話し始めたか」「いつ話し終わったか」を判断するために不可欠な基盤技術である。
トークナイザー
テキストや音声を、AIモデルが処理できる小さな単位(トークン)に分割する技術。音声処理においては、音声データを意味のある単位に分解し、モデルが効率的に処理できる形式に変換する。
レイテンシー
ユーザーの入力から応答が返ってくるまでの遅延時間。音声エージェントにおいては、初回オーディオ応答時間(Time to First Audio)が重要な指標となる。1秒未満であれば自然な会話体験が可能とされる。
OpenAI Realtime API
OpenAIが提供する音声対話用のAPI。音声入力から音声出力まで単一のモデルで処理する方式を採用しており、従来の音声認識、テキスト処理、音声合成を組み合わせるパイプライン方式と異なる。
LiveKit
リアルタイムの音声・映像通信を実現するためのオープンソースプラットフォーム。WebRTCベースで、音声エージェントやビデオ会議アプリケーションの構築に使用される。
ブラインド人間評価
評価者がどのモデルの出力かを知らされずに音声品質を評価する手法。発音、アクセント、韻律などの軸で客観的な比較を行うために用いられる。
韻律(プロソディ)
発話における抑揚、リズム、強勢、イントネーションなどの音声的特徴。自然な会話において感情や意図を伝えるために重要な要素である。
【参考リンク】
xAI公式サイト(外部)
イーロン・マスクが設立したAI企業xAIの公式ウェブサイト。Grokモデルの開発や音声エージェントAPIなどの製品情報を提供。
Grok Voice Agent API ドキュメント(外部)
xAIが提供するGrok Voice Agent APIの公式技術ドキュメント。WebSocket接続による音声対話の実装方法を掲載。
xAI API コンソール(外部)
開発者向けのxAI APIプラットフォーム。APIキーの作成、モデルの比較、使用量の追跡機能を提供している。
OpenAI Realtime API(外部)
OpenAIの音声対話用API。gpt-realtimeモデルを使用し音声入力から音声出力まで単一モデルで処理する。
Artificial Analysis(外部)
AIモデルの性能を独立的に評価・比較する第三者機関。Big Bench Audioベンチマークを開発している。
LiveKit公式サイト(外部)
リアルタイム音声・映像通信のためのオープンソースプラットフォーム。WebRTCベースで構築されている。
テスラ公式サイト(外部)
電気自動車メーカーのテスラ。Grok Voice Agent APIの設計パートナーとして何百万台もの車両に搭載。
ElevenLabs(外部)
AI音声生成プラットフォームを提供する企業。Text-to-Speech、音声クローニングなどのサービスを展開。
Deepgram(外部)
音声認識と音声理解に特化したAIプラットフォーム。リアルタイム音声文字起こしAPIを提供している。
【参考記事】
Evaluating Audio Reasoning with Big Bench Audio(外部)
Artificial AnalysisによるBig Bench Audioベンチマークの解説。1,000の音声質問で構成され4カテゴリーで評価を行う。
Introducing Amazon Nova 2 Sonic(外部)
アマゾンによるNova 2 Sonicモデルの発表。ポリグロット音声により単一の音声で複数言語を話せることを説明。
Comparing ElevenLabs Conversational AI and OpenAI Realtime API(外部)
ElevenLabsによる自社とOpenAIの比較記事。OpenAI Realtime APIの価格が約0.06ドル/分であることを示している。
Grok Voice Agent API Documentation(外部)
xAIの公式技術ドキュメント。100以上の言語に対応し企業向けユースケースに最適化されていることを説明。
x.ai Unveils Grok Voice Agent API for Developers(外部)
xAIのGrok Voice Agent API発表を報じる記事。テスラが設計パートナーとして重要な役割を果たしたことを報告。
【編集部後記】
音声AIの世界は、まさに今、大きな転換点を迎えています。xAIの参入により、価格競争と技術革新が加速し、私たちが日常的に音声エージェントを使う未来が一気に近づいてきました。
皆さんは、どのような場面で音声AIを活用してみたいと思いますか? カスタマーサポート、社内ヘルプデスク、あるいはもっと創造的な用途でしょうか。今回の発表で注目すべきは、単なる技術の進化だけでなく、開発者にとって手が届きやすい価格帯になったことです。これまで大企業にしか実現できなかった高品質な音声対話が、中小企業やスタートアップでも導入可能になりつつあります。
ただし、言語ごとの性能差にも注目が必要です。日本市場での展開を考える際には、日本語での性能評価も重要な判断材料となるでしょう。この技術の民主化が、どのような新しいサービスを生み出すのか、一緒に見守っていきましょう。































