Adobeは2025年12月16日、AI動画生成ツール「Adobe Firefly」の大幅なアップデートを発表した。新機能として、RunwayのAlephモデルを使用した「Prompt to Edit」コントロールが追加され、生成済みの動画クリップに対してテキスト指示による精密な編集が可能になった。また、参考動画をアップロードすることでカメラモーションを再現できる機能も実装された。動画アップスケーリングでは、Topaz Astraモデルが「Firefly Boards」に統合され、映像を1080pまたは4Kに変換できる。
画像生成では、Black Forest LabsのFLUX.2モデルが利用可能になり、最大4つの参考画像をサポートする。ブラウザベースの「Firefly video editor」は完全ベータ版として公開され、タイムラインまたはテキストによる編集が選択できる。期間限定で、Firefly Pro、Firefly Premium、7,000クレジット、50,000クレジットプランの利用者を対象に、2026年1月15日まで画像および動画の無制限生成が提供される。
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Adobe Firefly improves AI video creation with new tools, new models and unlimited generations
【編集部解説】
今回のAdobeのアップデートは、AI動画生成における「スロットマシン問題」の解決を目指す重要な転換点となります。これまでのAI動画生成では、望む映像の90%は素晴らしいのに、残り10%に問題があると全体を再生成しなければならず、良かった部分まで失ってしまうというジレンマがありました。
「Prompt to Edit」機能は、RunwayのAlephモデルを活用することで、この根本的な課題を解決します。Alephは2025年7月にRunwayが発表した最先端のインコンテキスト動画モデルで、既存の映像に対してオブジェクトの追加・削除、カメラアングルの変更、ライティングの調整など、多様な編集作業をテキストプロンプトで実行できます。従来は映像全体を再生成するしかなかった状況から、「既存のクリップ内で直接編集する」というパラダイムシフトが実現したのです。
カメラモーション制御機能も見逃せません。参照映像をアップロードすることで、AIに対して「このようなカメラワークを再現してほしい」と具体的に指示できるようになりました。映画的なドリーインやトラッキングショットなど、意図したカメラの動きを正確に指定できることは、クリエイターの表現の幅を大きく広げます。
Topaz Astraによる動画アップスケーリングは、既存コンテンツの価値を再発見させる機能です。低解像度の古いアーカイブ映像や、品質が低い素材を1080pまたは4Kに変換できるため、過去の資産を現代のコンテンツ制作で再活用できます。
Black Forest LabsのFLUX.2モデルの統合も注目に値します。最大4つの参照画像をサポートし、高度なテキストレンダリング機能を持つこのモデルは、フォトリアリスティックな画像生成において業界最高水準の品質を提供します。
ブラウザベースの「Firefly video editor」は、AI生成クリップと実写映像、音楽を統合するワークスペースとして機能します。タイムラインによる精密な編集と、トランスクリプトのテキスト編集による直感的な編集の両方をサポートしており、クリエイターは作業スタイルに応じて選択できます。
1月15日までの期間限定で提供される無制限生成は、有料プラン加入者にとって新機能を試す絶好の機会となるでしょう。この施策は、OpenAIのSoraやGoogleのVeoといった競合サービスに対するAdobeの戦略的な対応とも言えます。
ただし、留意すべき点もあります。AIによる動画編集の民主化は、ディープフェイクやミスインフォメーションの拡散リスクを伴います。Adobeは商業利用に安全なライセンス済みデータでモデルを訓練し、コンテンツクレデンシャルを通じてコンテンツの出所を追跡できる仕組みを提供していますが、こうした倫理的配慮は今後ますます重要になっていくはずです。
長期的には、AI動画生成ツールがクリエイティブ産業の労働市場に与える影響も注視する必要があります。一方で制作の効率化と表現の民主化を実現しながら、他方で専門技術を持つプロフェッショナルの役割がどう変容していくのか、業界全体での議論が求められています。
【用語解説】
Prompt to Edit
テキストプロンプト(指示文)を使用して、既存の動画クリップに対して部分的な編集を加える機能。オブジェクトの削除、背景の置き換え、ライティングの変更などを、動画全体を再生成することなく実行できる。
インコンテキスト動画モデル
既存の動画コンテンツの文脈(コンテキスト)を理解し、シーンの整合性を保ちながら編集や変更を行うAIモデルのこと。ライティング、空間配置、オブジェクト間の関係性を分析してから修正を加えるため、視覚的に自然な結果が得られる。
アップスケーリング
低解像度の映像や画像を、AIを使用してより高解像度(1080pや4Kなど)に変換する技術。単純な拡大ではなく、ディテールやシャープネスを復元・強化する。
カメラモーション参照
望むカメラの動き(ドリーイン、パン、ティルトなど)を示す参照動画をアップロードすることで、AI生成動画に同様のカメラワークを適用させる機能。
ジェネレーティブAI(生成AI)
テキスト、画像、動画、音声などのコンテンツを、学習データに基づいて新たに生成するAI技術の総称。
商業利用に安全なモデル
著作権で保護されたコンテンツやライセンスのない素材を使用せず、適切にライセンスされたデータのみで訓練されたAIモデル。商業プロジェクトでの使用時に法的リスクが低い。
コンテンツクレデンシャル
デジタルコンテンツの出所、作成者、編集履歴などを記録・追跡するための技術的な仕組み。Adobeが推進するContent Authenticity Initiative(CAI)の一環。
【参考リンク】
Adobe Firefly(外部)
Adobeが提供するAI画像・動画生成プラットフォーム。商業利用に安全なモデルを使用。
Runway(外部)
AI動画生成・編集ツールを提供する企業。Gen-4やAlephモデルを開発。
Topaz Labs(外部)
画像・動画のアップスケーリングとAI強化ツールを専門とする企業。
Black Forest Labs(外部)
FLUX画像生成モデルを開発するAI企業。フォトリアリスティックな画像生成で高評価。
Adobe Premiere Pro(外部)
Adobeのプロフェッショナル向け動画編集ソフトウェア。業界標準。
【参考記事】
Adobe Firefly now supports prompt-based video editing, adds more third-party models | TechCrunch(外部)
RunwayのAlephモデルを使用した動画編集機能と無制限生成プロモーションを報道。
Adobe Firefly AI Video: How The New Update Fixes “Slot Machine” Chaos (2025) | Feisworld(外部)
AI動画生成の「スロットマシン問題」をこのアップデートがどう解決するかを解説。
Firefly’s generative video is no longer just about the prompts | Digital Camera World(外部)
Firefly video editorの機能とタイムライン・テキスト編集の両対応を詳述。
Adobe Firefly Update Brings Text-Based Video Editing and 4K Upscaling | WebProNews(外部)
Prompt to Edit機能の技術的詳細とライセンス済みデータ使用の重要性を解説。
Adobe Firefly adds AI video features most generators lack | Tom’s Guide(外部)
従来の課題とPrompt to Editによる解決、Adobeの協働ビジョンを報道。
Introducing Runway Aleph | Runway Research(外部)
Runway公式のAlephモデル発表記事。マルチタスク視覚生成機能を説明。
【編集部後記】
AI動画生成ツールを使ったことがある方なら、「あと少しだけ直せたら完璧なのに」というもどかしさを経験されたことがあるのではないでしょうか。今回のアップデートは、そんなクリエイターの声に応える大きな一歩です。皆さんは、AIが「生成する道具」から「共に作り上げるパートナー」へと進化していくこの流れを、どう感じられますか?無制限生成の期間中に試してみたい表現や、実際の制作現場でどう活用できそうか、ぜひお聞かせください。































