フロリダ州クレルモン市議会は12月9日、Johns Lake Road沿いのWalmart SupercenterでのWing LLCによるドローン配送サービスを4対1で承認した。これによりフロリダ州初のWalmartドローン配送拠点が誕生する。
計画では駐車場に8フィートのフェンスで囲まれた2つの専用エリアを設け、1つは商品の自動積載用、もう1つはドローンの保管場所とする。ドローンは2.5ポンドまでの貨物を運び、地上23フィートからケーブルで商品を降ろす。
半径6マイル以内の顧客がアプリで配達場所を指定する。2026年半ばには積載量が2倍になる可能性がある。Walmartはすでにアトランタとダラス・フォートワースでドローン配送を実施している。Bryan Bain議員は景観への影響を懸念し反対票を投じた。
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Lake County home to first city in state to allow Walmart drone delivery
【編集部解説】
フロリダ州クレルモンで承認されたWalmartのドローン配送サービスは、単なる地域の利便性向上にとどまらず、米国小売業界におけるラストマイル配送の大きな転換点となる可能性を秘めています。
Wing LLCは、Googleの親会社Alphabetが所有するドローン配送専門企業です。2018年に設立され、2019年に米国初の商業ドローン配送サービスをバージニア州で開始しました。2023年からWalmartとの提携を開始し、これまでに15万回以上の配送実績を積み重ねてきました。
今回のクレルモン市議会の承認は、フロリダ州内では初めてのWalmartドローン配送拠点の認可となります。Walmartは2025年6月、フロリダ、ジョージア、ノースカロライナ、テキサス、アーカンソーの5州で100店舗にドローン配送を拡大する計画を発表しており、クレルモンはその先陣を切る形となりました。
配送の仕組みは非常に洗練されています。顧客はWingのアプリを通じて注文を行い、配達場所を指定します。ドローンは駐車場の専用エリアで自動的に荷物を積み込み、時速約65マイル(約105km/h)で飛行します。飛行高度は地上約150〜400フィート(約46〜120m)を維持し、目的地に到達するとホバリング状態からケーブルで荷物を地上約7m(23フィート)の高さから降ろします。着陸はせず、配送後は直ちに基地に戻ります。
積載量については、Wing公式サイトやWalmart公式発表では現行ドローンの積載量は2.5ポンド(約1.1kg)とされています。卵のパックや医薬品、軽量な食料品などに対応する重量です。そして、2024年1月にWingは5ポンド(約2.3kg)まで運べる新型ドローンを発表しており、元記事で言及されている「2026年半ばに積載量が2倍になる可能性」とはこの新型機のことを指していると考えられます。
配送範囲は店舗から半径6マイル(約9.7km)以内で、配送時間は平均19分以下です。これは従来の自動車配送と比べて圧倒的に速く、特に交通渋滞の多い都市部では大きなアドバンテージとなります。
ただし、課題も存在します。Bryan Bain議員が懸念を表明したように、8フィートのフェンスや保管用コンテナが景観に与える影響は無視できません。また、記事中でWingのスポークスマンが認めているように、国道27号線や50号線といった幹線道路を横断する連邦政府の許可がまだ得られていないという不確実性も残っています。
さらに、昨年クレルモンでドローンを撃墜した男性が逮捕された事例が示すように、公衆の理解と受容も重要な課題です。連邦航空局(FAA)はドローンを航空機と同等に扱うため、ドローンへの攻撃は航空機への攻撃と同じ重罪となります。
運用面では、ドローンは昼間のみ稼働し、騒音レベルは芝刈り機や走行中の車と同程度に抑えられています。また、カメラは配送精度を確保するためのものであり、高解像度ではないため、プライバシー侵害のリスクは低いとされています。
Walmartのドローン配送は、すでにテキサス州ダラス・フォートワース地域とジョージア州アトランタ地域で実施されています。ダラス・フォートワースでは18店舗から週に数千件の配送を行っています。
この技術が普及すれば、交通渋滞の緩和、CO2排出量の削減、緊急時の迅速な配送といった社会的メリットが期待できます。一方で、配送業務の雇用への影響や、空域の混雑といった新たな課題も生まれるでしょう。
クレルモンの承認は、フロリダ州における都市航空モビリティの新時代の幕開けとなる可能性があります。2026年初頭のサービス開始後、その成功事例が他の都市へと波及していくことが予想されます。
【用語解説】
BVLOS(Beyond Visual Line of Sight)
目視外飛行と呼ばれる、操縦者の視界外でドローンを飛行させる運用方式である。従来のドローン運用では操縦者が目視できる範囲内での飛行が基本だったが、BVLOSでは遠隔監視システムや自律飛行技術により、より広範囲での運用が可能となる。商業ドローン配送の実現には不可欠な技術である。
FAA(Federal Aviation Administration)
米国連邦航空局。米国における航空交通と航空機の安全を管理する連邦政府機関である。ドローンの商業運用に関しても、FAAが規制や認可を管轄している。
ラストマイル配送
物流における最終配送区間を指す。配送センターや店舗から最終消費者の手元に届くまでの区間で、物流コスト全体の中で最も高コストとなる部分である。ドローン配送はこのラストマイルの効率化を目指す技術として注目されている。
eVTOL(electric Vertical Take-Off and Landing)
電動垂直離着陸機。電動モーターで垂直に離着陸できる航空機の総称である。Wingのドローンは固定翼とマルチローターのハイブリッド構造を持ち、垂直離着陸と高速巡航飛行の両方が可能である。
【参考リンク】
Wing(外部)
Alphabet傘下のドローン配送企業。世界3大陸で35万回以上の配送実績を持つ。
Wing × Walmart ドローン配送(外部)
WingとWalmartのドローン配送に関する公式ページ。サービスエリアの確認が可能。
Walmart Corporate(外部)
米国最大手の小売企業Walmartの企業サイト。ドローン配送の最新情報を発信。
FAA(米国連邦航空局)(外部)
米国における航空交通の安全を管理する連邦政府機関。ドローン規制を管轄。
City of Clermont(外部)
フロリダ州クレルモン市の公式サイト。今回ドローン配送を承認した自治体。
【参考記事】
Wing and Walmart announce world’s largest drone delivery expansion(外部)
WingとWalmartによる100店舗への拡大計画に関する2025年6月の公式発表。
Walmart Takes Flight With Drone Delivery Expansion to Five New Cities(外部)
Walmart公式による5州でのドローン配送拡大発表。15万回以上の配送実績を報告。
Wing Unveils New Delivery Drone with Increased Payload Capacity(外部)
2024年1月のWing新型ドローン発表。積載量が2.5ポンドから5ポンドへ倍増。
Central Florida residents could soon get store deliveries by drone(外部)
Orlando Sentinelによるクレルモン市でのドローン配送承認に関する詳細報道。
Walmart drone delivery service moves forward in Clermont(外部)
WESH 2 Newsによるクレルモン市議会承認とJohns Lake Road店舗の運用計画報道。
Drone deliveries are headed to Central Florida(外部)
Click OrlandoによるOrlando市長のデモンストレーションと公衆教育の重要性報道。
Clermont set to be first city in the state to allow Walmart drones to deliver shopping(外部)
クレルモン Sunによる市議会での質疑応答とBryan Bain議員の反対理由詳細報道。
【編集部後記】
クレルモンでのドローン配送承認は、私たちの日常に大きな変化をもたらす可能性を秘めています。深夜に子供が急に熱を出したとき、30分以内に薬が届く未来。高齢者が重い荷物を持ち帰る必要がなくなる未来。そんな利便性の裏側には、景観への影響や雇用への懸念、プライバシーの問題など、さまざまな論点が存在します。Bain議員が述べたように「十分な議論がなされていない」という指摘は、技術の急速な進展と社会の受容のギャップを浮き彫りにしています。みなさんは、ドローンが空を飛び交う未来をどう捉えますか?利便性と引き換えに失うものはあるでしょうか?この技術が本当に人類の進化に貢献するのか、一緒に考えていきたいと思います。































