ソフトバンクは、OpenAIへの225億ドルの資金提供を年末までに確保する必要がある。これについてロイター通信は2025年12月22日、ソフトバンクCEOの孫正義氏がArm Holdingsへの出資持分を担保とした証拠金ローンなど、いくつかの手段を利用できると報じている。
ソフトバンクは、約1年前にホワイトハウスで発表されたOpenAIの5000億ドル規模のStargateデータセンター構想における主要な資金提供者の1つである。このプロジェクトにはOracleとアブダビの投資会社MGXも参加している。OpenAIは10月に営利企業への転換を完了し、ソフトバンクが資金を提供する条件が整った。
ソフトバンクはArm Holdingsの株式を担保に約115億ドルを借り入れ可能で、T-Mobileの4パーセントの株式(約110億ドル相当)と9月末時点で約270億ドルの現金も保有している。孫氏は現在、5000万ドルを超える資金提供について個人的に審査を行っている。Stargateの旗艦施設はテキサス州アビリーンで今年初めに部分的に稼働を開始した。
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SoftBank scrambling to come up with $22.5B in OpenAI funding before New Year
【編集部解説】
ソフトバンクの孫正義氏がOpenAIへの225億ドル(約3兆3750億円、1ドル=150円換算)の資金提供を年末までに完了させようと奔走している状況は、AI基盤投資の実態を象徴的に示しています。この事案は単なる企業間の資金調達というより、AI時代のインフラ整備における資本の論理と地政学的な思惑が複雑に絡み合った構図といえます。
今回の資金調達の背景には、OpenAIが2025年10月に営利法人への転換を完了したことがあります。ソフトバンクは2025年4月に総額300億ドルの投資を約束しましたが、そのうち100億ドルは同月に提供済みで、残る225億ドルの支払いはOpenAIの営利転換が条件となっていました。契約上、この残額を2025年末までに支払う必要があり、ソフトバンクは複数の資金調達手段を検討しています。
具体的には、Arm Holdingsの株式を担保とした証拠金ローン約115億ドル、T-Mobile株式の売却(約110億ドル相当を保有)、そして9月末時点で保有していた現金約272億ドル(約42兆円)が選択肢となります。孫氏はすでにNvidiaの全株式58億ドル相当を売却し、T-Mobile株式も48億ドル分を手放すなど、資産の流動化を進めています。
注目すべきは、OpenAIの企業価値の急上昇です。ソフトバンクが投資を決めた2025年4月時点では3000億ドルの評価額でしたが、現在は7000~9000億ドル規模まで膨らんでいるとの報道があります。この評価額が実現すれば、ソフトバンクは投資額に対して3倍近い含み益を得ることになり、孫氏が資金調達に全力を注ぐ理由もここにあります。
一方で、OpenAI側も資金を緊急に必要としています。サム・アルトマンCEOは、社内に対して事業環境が極めて厳しい局面にあるとの認識を示しており、GoogleのGeminiとの競争激化を受けて、ChatGPTの性能改善や計算基盤への投資を急ぐ姿勢を明らかにしています。OpenAIは2025年末までに年間売上200億ドルに達する見込みですが、同時に80億ドルの損失も予想されており、膨大なコンピューティングコストが経営を圧迫しています。
このOpenAI資金は、5000億ドル規模のStargateプロジェクトの一環です。Stargateは2025年1月にトランプ大統領が発表したAIインフラ構想で、OpenAI、ソフトバンク、Oracle、アブダビのMGXが主要出資者となっています。米国内に10ギガワット規模のAIデータセンター群を建設し、中国との技術競争で優位性を確保する国家的プロジェクトとして位置づけられています。
しかし、Stargateプロジェクト自体にも課題があります。2025年1月の発表直後、テスラCEOのイーロン・マスク氏は「彼らは実際には資金を持っていない」と疑問を呈しました。その後、ソフトバンクとOpenAIの間でデータセンター建設の場所や規模をめぐる意見の相違も報じられています。
ソフトバンク内部でも方針転換が進んでいます。孫氏はVision Fundでの他の投資を大幅に縮小し、5000万ドル以上の案件はすべて自身の承認を必要とする体制に変更しました。また、決済アプリPayPayのIPOは当初2025年12月予定でしたが、米国政府機関閉鎖の影響で2026年第1四半期に延期されています。このIPOでは200億ドル以上の資金調達が見込まれており、実現すればソフトバンクの資金繰りに余裕が生まれます。
この事案が示唆するのは、AI開発における資本集約性の高まりです。アルトマンCEOは30ギガワットのコンピューティング能力構築に1兆4000億ドルを投じる計画を示しており、毎週1ギガワットを追加する目標を掲げています。1ギガワットあたりの資本コストは400億ドル以上とされ、AI開発はエネルギーや通信インフラと同様の巨額投資が必要な領域になっています。
テック企業各社も同様の投資を進めており、MetaやMicrosoftも数千億ドル規模のデータセンター建設を計画しています。こうした動きは「AIバブル」への懸念も引き起こしており、投資に見合うリターンが得られなかった場合の影響が注目されています。
【用語解説】
Stargate(スターゲート)プロジェクト
OpenAI、ソフトバンク、Oracle、MGXが主導する総額5000億ドル規模のAIインフラ構想。2025年1月にトランプ大統領が発表し、米国内に10ギガワット規模のAIデータセンター群を建設することで、中国との技術競争において米国の優位性を確保することを目的としている。最初の1000億ドルは即座に展開され、残りは2029年までに段階的に投資される計画。
コンピュートマージン(compute margin)
AIモデルを運用する際の収益性を示す指標。収益から計算コスト(GPU使用料、電力費など)を差し引いた利益率。OpenAIは2025年10月に70%のコンピュートマージンを達成し、効率的な運用体制を構築している。
Vision Fund(ビジョンファンド)
ソフトバンクが運営する世界最大級のテクノロジー投資ファンド。過去には配車サービスのUberやWeWorkなどに大規模投資を行ってきたが、現在は孫正義氏がOpenAIへの投資に注力するため、5000万ドル以上の新規案件はすべて孫氏の承認が必要となっている。
【参考リンク】
OpenAI 公式サイト(外部)
ChatGPTを開発したAI研究組織の公式サイト。Stargateプロジェクトの発表や最新のAIモデル情報を提供。
SoftBank Group 公式サイト(外部)
ソフトバンクグループの企業情報、投資戦略、孫正義氏のAI投資戦略やVision Fundの情報を掲載。
Oracle 公式サイト(外部)
Stargateプロジェクトでデータセンターインフラを提供。クラウドサービスやAIインフラに関する情報。
Arm Holdings 公式サイト(外部)
ソフトバンクが主要株主を務める英国の半導体設計企業。AI時代の基盤技術を支えるチップアーキテクチャを提供。
MGX(エムジーエックス)公式サイト(外部)
アブダビを拠点とする投資会社で、Stargateプロジェクトの主要出資者。AI、テクノロジーへの投資を専門とする。
【参考記事】
SoftBank races to fulfill $22.5 billion funding commitment to OpenAI by year-end(外部)
Yahoo Finance / Reuters、2025年12月19日。Nvidia株58億ドル全額とT-Mobile株48億ドル売却を報道。
SoftBank Offloads Nvidia, T-Mobile Stock to Back $22.5 Billion OpenAI Investment(外部)
TipRanks、2025年12月21日。Arm株担保ローン115億ドル、現金272億ドルなど資金調達手段を詳述。
OpenAI Margins Soar to 70% as SoftBank Rushes to Fund $22.5 Billion Bet(外部)
TipRanks、2025年12月22日。OpenAIのコンピュートマージン70%達成、年間売上200億ドルを報道。
SoftBank rushes to raise $22.5B to meet OpenAI funding deadline as AI compute costs surge(外部)
Tech Startups、2025年12月22日。投資総額300億ドル、1ギガワット400億ドル超のコストを詳述。
OpenAI announces five more US Stargate data centers with Oracle and SoftBank(外部)
DCD、2025年9月24日。5つの新規データセンター建設発表、7ギガワット容量確保の計画を報道。
What to Know About ‘Stargate,’ OpenAI’s New Venture Announced by Trump(外部)
TIME、2025年1月22日。イーロン・マスクの批判、OpenAIとMicrosoftの契約変更を報道。
【編集部後記】
AI開発における資本の論理は、技術そのものと同じくらい重要な要素になってきています。ソフトバンクの巨額投資は成功するのでしょうか。それとも、イーロン・マスク氏が指摘したように、資金面での課題が顕在化するのでしょうか。
OpenAIの企業価値が急上昇している現状を、みなさんはどう見るでしょうか。これは技術革新の正当な評価なのか、それとも過熱した期待によるバブルの兆候なのか。AI時代のインフラ投資がどこに向かうのか、これからも注視していきたいと思います。みなさんのご意見もぜひお聞かせください。































