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H3ロケット打上げ失敗でみちびき5号機喪失、日本独自の測位システム構築に暗雲

[更新]2025年12月24日

H3ロケット打上げ失敗でみちびき5号機喪失、日本独自の測位システム構築に暗雲 - innovaTopia - (イノベトピア)

センチメートル級の精度で自動運転や災害対策を支える「みちびき」。その6機目となるはずだった衛星が、H3ロケット8号機の失敗により宇宙の藻屑と消えた。2026年3月に予定されていた7機体制の構築は、大幅な遅れが避けられない情勢だ。


宇宙航空研究開発機構(JAXA)は、2025年12月22日10時51分30秒に種子島宇宙センターからH3ロケット8号機による準天頂衛星システム「みちびき5号機」の打上げを行った。

第2段エンジン第2回燃焼が正常に立ち上がらず早期に停止したため、「みちびき5号機」を予定した軌道に投入できず、打上げは失敗したと発表した。 JAXAは、「みちびき5号機」に関係する関係者、地元関係者、国民に対し謝罪した。 現在、山川理事長を長とする対策本部を設置し、原因究明を実施しており、状況については随時公表するとしている。

From: 文献リンクH3ロケット8号機の打上げ失敗及び対策本部の設置

【編集部解説】

H3ロケット8号機の打上げ失敗は、日本の宇宙開発にとって大きな痛手です。H3は2023年3月のデビュー飛行で第2段エンジンの点火失敗により失敗した後、複数回連続で成功を収めていました。今回の失敗により、H3の打上げ実績は7回中5回成功、成功率は約71%となります。

失敗の原因は第2段エンジンの第2回燃焼時の異常にあります。一部報道によれば、第1段エンジン燃焼中に第2段の水素タンク圧力が低下し始め、その結果、第1段エンジンのカットオフが予定より27秒遅れました。また第2回点火も15秒遅れましたが、エンジンは正常に立ち上がらず早期に停止しました。

失われた「みちびき5号機」は、日本の準天頂衛星システムの6機目となるはずでした。このシステムは、アメリカのGPSを補完・補強し、センチメートル級の高精度測位を実現する日本独自の衛星測位インフラです。現在5機体制で運用されており、日本政府は2026年3月までに7機体制を構築し、みちびき単独での持続的な測位を可能にする計画でした。

7機体制が実現すれば、常に日本上空に少なくとも1機の衛星が滞在し、GPSに依存せずに測位サービスを提供できるようになります。これは安全保障上も重要な意味を持ちます。さらに、2030年代には11機体制への拡張が検討されており、システムの冗長性を高め、アジア・オセアニア地域全体でのサービス拡大が目指されています。

今回の失敗により、この計画は大幅に遅れる可能性があります。H3ロケットは前身のH-IIAロケットが約98%という極めて高い成功率を誇っていたため、その後継機として期待されていました。2023年のデビュー飛行では第2段エンジンの不具合により失敗を経験しましたが、その後の改修を経て複数回の連続成功を達成し、一定の信頼回復を果たしてきました。しかし、開発開始から12年を経た現在でも課題を抱えていることが明らかになりました。

影響は「みちびき」計画にとどまりません。H3ロケットは2026年に火星の衛星探査ミッション「MMX」の打上げが予定されており、打上げウィンドウは限られています。また、国際宇宙ステーションへの補給船「HTV-X」の2号機打上げも控えています。JAXAは年間少なくとも6回のH3打上げを目標としていますが、原因究明と対策には相当の時間を要するでしょう。

日本の宇宙輸送の自立性と信頼性が問われる局面です。山川理事長を長とする対策本部が設置され、徹底的な原因究明が進められています。

【用語解説】

H3ロケット
JAXAと三菱重工業が共同開発した日本の基幹ロケット。前身のH-IIA/H-IIBロケットの後継機として2013年から開発が始まり、2023年にデビュー。打上げコストの削減と柔軟性の向上を目指して設計された。全長63メートルの2段式ロケットで、第1段にLE-9エンジン、第2段にLE-5B-3エンジンを搭載する。

準天頂衛星システム(QZSS)
Quasi-Zenith Satellite Systemの略。日本が独自に構築する衛星測位システムで、愛称は「みちびき」。日本のほぼ真上(準天頂)を通る軌道を描く衛星を配置し、GPSを補完・補強する。センチメートル級の高精度測位を実現し、災害情報配信などの機能も持つ。

準天頂軌道
地球に対して8の字を描く傾斜軌道。この軌道上の衛星は、日本上空に1日約8時間滞在する。3機の衛星が交代で日本上空に位置することで、24時間常に少なくとも1機が天頂付近に存在する体制を構築できる。

静止軌道衛星
赤道上空約36,000キロメートルの高度で地球の自転と同じ速度で周回する衛星。地上から見ると常に同じ位置に静止しているように見える。みちびきシステムでは、準天頂軌道衛星3機に加え、静止軌道衛星も配置してカバレッジを拡大している。

テレメトリデータ
ロケットや衛星から地上局へ無線で送信される、機体の状態を示すデータ。エンジンの燃焼状態、タンクの圧力、温度、姿勢などの情報がリアルタイムで地上に送られ、飛行状況の監視や異常の検出に使用される。

H-IIAロケット
H3の前身となった日本の主力ロケット。2001年から2025年まで運用され、50機中49機成功という約98%の成功率を誇った。2025年6月29日の50号機打上げをもって退役し、その役割をH3ロケットに引き継いだ。

【参考リンク】

JAXA(宇宙航空研究開発機構)(外部)
日本の宇宙航空分野を担う国立研究開発法人。ロケット開発、人工衛星の運用、国際宇宙ステーションへの参加、宇宙科学研究など幅広い事業を展開している。

H3ロケット特設サイト(JAXA)(外部)
H3ロケットの概要、開発経緯、打上げ実績などを紹介するJAXAの公式ページ。技術的な詳細情報や最新のニュースを掲載している。

みちびき(準天頂衛星システム)公式サイト(外部)
内閣府が運営する準天頂衛星システムの公式サイト。みちびきの仕組み、提供サービス、利用方法、開発状況などの情報を総合的に提供している。

三菱重工業 宇宙事業(外部)
H3ロケットの開発・製造を担当する三菱重工業の宇宙事業部門。ロケット打上げサービスや衛星システムに関する情報を掲載している。

種子島宇宙センター(外部)
日本最大のロケット打上げ施設。施設見学や展示館の情報、アクセス方法などを案内している。

【参考動画】

【参考記事】

Japanese H3 rocket fails during launch of navigation satellite | Space.com(外部)
H3ロケット7回目の打上げが失敗に終わったことを報じる記事。第2段エンジンの異常により、みちびき5号機が予定軌道に到達できなかったことを詳述。

Japan’s H3 suffers second-stage anomaly, QZS-5 satellite lost – SpaceNews(外部)
H3ロケットの第2段に問題が発生し、みちびき5号機が失われたことを詳報。火星衛星探査ミッションMMXへの影響についても言及している。

Japan’s Flagship H3 Rocket Suffers Engine Bust, Fails to Deliver Satellite – Gizmodo(外部)
テレメトリデータから第2段の水素タンク圧力低下が判明したことを報じる。第1段エンジンのカットオフが予定より27秒遅れた詳細を伝える。

JAXA fails in third attempt to put Michibiki No. 5 satellite into orbit – The Japan Times(外部)
H3ロケットが種子島宇宙センターから打ち上げられたが、第2段ロケットエンジンが正常に始動せず失敗したことを報じる日本国内メディアの報道。

Japan’s new flagship H3 rocket fails to put geolocation satellite into orbit – ABC News(外部)
2023年3月のデビュー飛行に続く2度目の失敗であることを報じる。日本は現在、準天頂衛星システムとして5機の衛星を運用している。

【編集部後記】

日本の宇宙開発が岐路に立っています。H3ロケットは前身のH-IIAが築いた98%という驚異的な成功率の信頼を引き継ぐはずでした。しかし開発開始から12年、デビューから約3年が経過した今も、第2段エンジンという同じ箇所で課題を抱えています。

一方で、私たちの日常生活はすでに衛星測位に深く依存しています。スマートフォンの地図アプリ、カーナビ、配送の追跡。みちびきが目指すセンチメートル級の精度は、自動運転や災害対策など、未来社会の基盤となる技術です。みなさんは今回の失敗をどう受け止め、日本の宇宙開発にどのような未来を期待しますか。ご意見をお聞かせください。

投稿者アバター
omote
デザイン、ライティング、Web制作を行っています。AI分野と、ワクワクするような進化を遂げるロボティクス分野について関心を持っています。AIについては私自身子を持つ親として、技術や芸術、または精神面におけるAIと人との共存について、読者の皆さんと共に学び、考えていけたらと思っています。

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